とある原子崩し(偽)の英雄学園   作:NEAR LIGHT

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三十一話 いつか刺されそうな男

 

 

 

一回戦第二試合、瀬呂vs轟の試合。

 

この試合、結論から言えば轟の圧勝であった。

 

試合開始の合図から、瀬呂は肘からの高速テープ射出で轟を拘束しつつ、地面から離して氷結の即効力を失わせ場外へと投げ飛ばす速攻戦術。

 

()()()()ならば何も出来ずステージ外に投げ出されて辛酸を舐め回すシンプルながら強力な戦法、このルールで瀬呂の取れるベストだった。

 

 

瀬呂に落ち度は無い。仮に敗因があるとするならば、轟が()()()()では無かったことだ。

 

 

「ハハッ……こりゃすげぇな」

 

「能力の出力上限にまだ上があるとは思っていたけど…………まさかここまでとはね」

 

 

私達の目の前にあるのは氷壁、それもただの氷壁では無い。

 

12万人を収容出来る雄英が誇る大スタジアムをも越える高さと、それに伴う圧倒的な大質量を備えた大氷壁である。

 

「緑谷、お前あんなのと戦うのかよ………」

 

「うん…正直言って想定外だ。轟君の個性ここまで強力なだなんて………でも、苦戦するだろうけど、勝機は確実にあるよ」

 

顔を青くしてドン引きながら言う上鳴に、緑谷も深刻そうな表情で顎に手を当てながら答える。

 

私と上鳴の後ろに座っているからこそ見えた緑谷の目、その目は自分の勝利を明確にイメージし闘志を燃やす人間の目であった。

 

私はそんな人間が好きだ。

 

強かろうと弱かろうと、その精神的な強度と輝きは眩く人を照らす。そして譲れない意志を持つ者同士がぶつかるのを見るのはもっと好きだ、この場合は緑谷vs轟である。

 

「ふーん、面白くなりそうね…」

 

「なんか言ったか?」

 

「何でも無いわよ。それより人の心配してる場合?次はアンタの試合なのよ」

 

「あっそうだ!いけねいけね、みんな!俺の勇姿をしかと目に焼き付けてくれよな!

 

あと葉隠!」

 

「ふぇ!?」

 

「応援頼むぜ、それじゃ!」

 

突然の呼び掛けに抜けた声を出す葉隠。

 

何故か、葉隠にだけ名指しで応援を頼んだ行った上鳴。

 

一言二言を伝えて足早に階下に向かって行くそんな上鳴を見て、皆一様に思い口にする。

 

「軽いな」

 

「葉隠君にだけ名指しだったぞ。あれにはどんな意図が…」

 

「ケロ、それを言うのは野暮よ飯田ちゃん」

 

「クソボケアホ野郎…!」

 

思ったより一様じゃなかった。

 

上鳴の奴、いい加減に気付いたのね。いやまあ、今まで葉隠がアピールしてて気付かなかったのがおかしいのだけれど。

 

「まっ、親友としては喜ばしいことね。おめでとうと言わせてちょうだい葉隠。葉隠…?」

 

返事が無く、言われた側の葉隠はというと…

 

「えへへっ〜!!」

 

表情は見えないけど物凄く幸せそうな雰囲気を醸し出していた。なんか服の動き的に両手を頬に当てて喜んでるのかしら。

 

うん、これは少し放っておきましょう。

 

「麦野ちゃん、上鳴くんって昔からああなの?」

 

「誠に残念ながらねぇ…昔からクラスの女子をピンポイントで無自覚に射抜いて行くもんだから、男からは敵、一部の女からも敵として扱われてたわね」

 

「うわぁ……四面楚歌やぁ」

 

麗日に返しつつ遠い昔の、まだ私が『メルトダウナー』を扱え切れ無かった頃を思い出しながら言う。

 

あれからお互いに成長した。目指す方向は同じでも明確には違う、それでもこの歳まで高め合って来た。

 

アイツはさっさと行ってしまって言えなかったし、本人も居ないけど、私は笑みを浮かべ小さく呟く。

 

「私と当たるまで、負けるんじゃないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side上鳴

 

 

皆へ挨拶した後、俺は遅れないように怪我もしないよう小走りで下のステージの入口に到着した。

 

さっき氷漬けにされた瀬呂とすれ違ったが、会場に響き渡ったドンマイコールに相当萎えたらしくシナシナになっていた。

 

安心しろ瀬呂、仇は取る。

 

「葉隠も、元気になってくれたら良いな」

 

第二競技で脱落してしまったせいか、頭をブンブン振ったりして様子がおかしいし、あんまり集中出来てなかった葉隠に俺は軽く声を掛けた。

 

葉隠の表情に気付けるのは俺だけだ。

 

他のみんなは気付いてないようだけど、廊下でも挙動不審でショックを受けていた様だし、今は俺に集中させて少しでも楽しんでくれたら良いんだが。

 

なにより葉隠は笑顔が似合う女の子だからな、なるべく笑っていて欲しい。

 

「それにしても、葉隠のことを考えてると無性にドキドキする気がする…………不整脈か?」

 

『さァ!一回戦第三試合、まず入場するのはこの男だァ!!』

 

「俺の出番………よっしゃ行くか!!」

 

両頬を叩いて気合いを入れ直し薄暗い通路の影から、日光と歓声降り注ぐステージへと一歩踏み出す。

 

『障害物競走、騎馬戦共に大立ち回りを見せたビリビリボォーイ!!上鳴電気ィ!!!』

 

入場時のマイク先生からの煽り文句に会場が大いに沸いた。

 

『対する相手はB組からの刺客!!キレイなアレには棘がある、塩崎茨ァ!!!』

 

「あの…申し立て失礼します。刺客とはどういうことでしょう?」

 

「え?」

 

「わたしくしはただ勝利を目指してここまで来ただけであり、試合相手を殺めるために来たわけではありません」

 

そこに引っかかったか…………優しい子なんだろうな、なんか凄く育ちが良さそうな感じするし、麦野から凶暴性と闘争本能を抜いたらああなるのか?

 

いやならねぇな……

 

「まぁまぁ、塩崎さん比喩だよ比喩。殺す気で行けって例えたんなんじゃないの?」

 

「比喩……ですか」

 

「そそ、君が聖女みたいで惹かれちまう。みたいな?マイク先生もこんなノリで言ったんだから許してやろうぜ?」

 

概念自体は知ってると思うけど、あんまり使ったこと無い天然タイプ?

 

天然ロングミステリアス系美人……メチャ可愛いくね?

 

「そんな……困り、ます。惹かれてしまうなんて…この場ではわたしくし達は敵同士、そんなことを言われてしまっては…」

 

「塩崎さん?」

 

『そこ!甘い雰囲気を醸し出さない!続きを見て見たいけど早く位置に付きなさい!!』

 

何故か紅くなっている塩崎に首を傾げながらも、早く試合がしたい気持ちもあるので大人しく所定の位置で試合開始の合図を待つ。

 

「塩崎さん、やる前に一つ」

 

「な、なんでしょう…?」

 

「比喩とは言ったけど………

 

俺の場合、マジに殺す気で来ないと勝てないよ」

 

『なんだか知らんがとにかくスタート!!』

 

傲りも油断も一切存在しない、障害物競走で高順位を取っていた彼女の確かな実力を疑っていない。

 

その上で俺は忠告する、殺す気で来いと。

 

「指向性放電5万ボルト!!」

 

拳銃に見立てて、突き出した指先から人を気絶させるには十分な電撃を放出する。

 

「いいえ…私は誓って殺意は抱きません!」

 

強固な意志を感じさせる瞳とは裏腹に、祈りを捧げるよう手を合わせ真反対に振り返る塩崎。

 

俺の感じる違和感などよそに、電撃は着弾した。

 

地面から生い茂る大量の『ツル』に。

 

「ツル…?地面から生えてるのか」

 

彼女の個性であろう大量の『ツル』。発動原理は分からないけど、電撃を無効化したのは電化製品の接地線(アース)と同じ理屈だろうな。

 

「ツルよ…彼の者を縛りなさい」

 

思案する俺を塩崎は待ってくれず、『ツル』は波よ山よとおびただしく襲い来る。

 

可愛い顔しておっそろしい個性だな、『帯電』してるだけの俺なら即殺だぞ。

 

「でも、特段攻略法は思い付かないな。ここは探り手に回るか」

 

迫るツルを電磁波で全方位カバーするレーダーで察知しながら、高電圧の電流を『ツル』に浴びせて様子を見る。

 

高電圧を喰らった『ツル』は他と比べて動きが鈍るな、操作は出来ても耐久性はあくまで普通の植物と変わらないのか。

 

『おおっと上鳴!塩崎のツルに防戦一方かぁ?』

 

「っと…危ねぇ!」

 

足元を狙ったを間一髪で回避したところで不意に止まる。

 

「上鳴さん、試合中ながら失礼します。

 

あなたの個性は『電気を操る』こと、ですがその身体能力はどこから来るものなのですか?」

 

「え、美人が俺のこと褒めてくれてる?嬉し!」

 

「ちゃ、茶化さないでください…!」

 

「どこからって言われても…」

 

『ツル』の山の向こうから飛んで来る質問の回答に困る。

 

少し迷い、馬鹿みたいな量が待機して視界を塞ぐ『ツル』を見てから、背後の客席に居る麦野に視線をやり、またすぐ塩崎さんの方へ向き直る。

 

「…親友のお陰、かな?詳しいことは俺に勝ったら教えるよ」

 

「なら、全力で勝たせていただきます」

 

『あのー、お二人さん。話し込むのは止めてくれない?流石に絵面的にも困るんだけど……』

 

『お前ら、お喋りしたいなら後にしろ。空気読め』

 

「安心しなよマイク先生と相澤先生、こっからは視聴者好みのエンタメ見られるからよォ!!」

 

本当の全力と言った様子で、今度は上からも大量の『ツル』が俺を拘束しようと襲い来る。

 

大きく後ろに飛んで粗方を回避、軌道変更に対応し俺を絡み取ろうした『ツル』、その束を両手で一つずつ鷲掴みにして()()()()

 

「……!!」

 

『こ、これはぁぁ!?一体どういうことだ、上鳴がツルを焼いたァ!!』

 

「さァて…反撃開始だ」

 

ギョッとしてツルごと硬直する塩崎さん、沸く観客とマイク先生、そして不適に笑う俺。

 

きっと、俺の表情は俺の憧れと似た顔をしているんだろう。たまに優しくて思慮深くて、そして強い俺の親友。

 

親友でもアイツと似た人相になるのは少し嫌だが、今はこの激情に任せて能力を使うだけだ。

 

「行くぞ塩崎さんッ!!」

 

塩崎さんがまた動き出す前に、右手を中心に超高電圧の電撃を纏わせ大きく薙ぎ払う。

 

その軌跡に沿って『ツル』も焼かれ植物としての体をなさなくなった。

 

「植物ってのは電気を通し易いもんだ、それに塩崎さんの『ツル』は水分豊富で高電圧にも弱いから助かったよ」

 

動きが全体的に鈍った『ツル』を右手で焼き切りながら、塩崎さんに向かって突き進む。

 

「応用出来てこその電撃使い(エレクトロマスター)

 

痺れさせるのだけが俺の得意技じゃないんだッ!!」

 

俺の右手には今、凄まじい電撃を渦巻かせて纏わせている。

 

具体的的には、植物の水分を沸騰させ焼き切り炭化させるレベルの人には絶対使えない電撃。

 

焼いて焼いて焼きまくる、能力の絶対量に物を言わせたゴリ押しに近い戦略だ。

 

「ま、まだ!!」

 

「……焦ったね」

 

防御の分の『ツル』を生え変わらせ攻撃に回そうとした一瞬、距離が近くなり焦った塩崎さんと、俺の目があったほんの一瞬だけで十分だ。

 

俺は速度と精密性を重視した電撃をノーモーションで打ち出し、それは一ミリの狂い無く塩崎さんに命中してその意識を奪い去る。

 

「…ぁッ!!?」

 

「おっとッ!」

 

電磁力ジャンプで弱々しく倒れる『ツル』を飛び越え、頭から倒れそうな塩崎さんをギリギリでキャッチする。

 

『勝負アリ!塩崎さん戦闘不能!

 

上鳴くん二回戦進出!!』

 

「しゃっぁ!!」

 

入場時よりもさらに大きな歓声が俺を包み込む。

 

『ツル』を焼くのはあくまでも陽動、本当の狙いは攻撃時に生まれる隙に電撃を撃ち込むこと。この策が思った通りに決まったのも嬉しいけど、今は塩崎さんも心配だ。

 

「んぅ、うーん…」

 

「あ、塩崎さん起きた、どこか痛むところは無い?」

 

そこまで高い電圧じゃなかったから異常は無いとは思う。でも、流石に華奢な女の子相手は気にしちまうよ……麦野みたいなゴリラは別として。

 

「私は…そうですか。負けてしまいましたか」

 

「うん…俺が言ったら嫌味に聞こえるけど、苦戦した。もし君が油断せずあと三、四倍のツルを使われてたら確実に負けてたよ」

 

「……ふふ、そんな量のツルは扱えません。先程ので全力です」

 

「そっか。それなら、塩崎さんのこれからの成長が楽しみだな!」

 

「あら、お言葉が上手ですね」

 

微笑みながら答えてくれる塩崎さんに俺も思わず笑顔になりながら返す。

 

『アンタら、私は大歓迎だけどこの衆人環視の中よくやるわね……』

 

そういや今の俺たちの体勢、ヒロインと主人公みたいな構図だけど大丈夫だろうか………

 

 




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試合中の麦野

序盤「イチャイチャしやがって」

中盤「イチャイチャ以下同文」

終盤「やるじゃない。でも以下同文」

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  • ギャグ要素多め シリアス少なめ
  • ギャグ少なめ シリアス多め
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