とある原子崩し(偽)の英雄学園   作:NEAR LIGHT

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三十二話 限界なんて、似合わない

 

 

「やるじゃない」

 

本日何度目かの感心で思わず声が漏れる。

 

なぜか、それはもちろん我が親友の上鳴が見事に逆転勝ちしてくれたからだ。

 

対戦相手の個性は無尽蔵に増殖を続ける『ツル』、初手の電撃を受けれたところを見るに上鳴への相性は抜群に良い。

 

不利対面、それをアイツは己のポテンシャルとちょっとの機転で覆して勝った。もっとスマートな勝ち方はあったにせよ、勝ちは勝ちだ。

 

賞賛の一つや二つ送ってやっても良いでしょう。

 

「やっぱり上鳴くん凄いな。植物を焼き切る程の電撃を出せるなんて、とんでもない許容量だな」

 

「でも、あれくらいやらないと超電磁砲(レールガン)なんて無茶苦茶なこと出来ないのかも。綺麗に逆転勝ちしちゃったし」

 

「逆転というのは少し違いますわ、上鳴さんはあくまでも敵の個性把握に務めただけ。先の試合、苦戦はあれど決して逆転でなく、応用力と地力で勝る上鳴さんの順当な勝利と言えます」

 

八百万が言いたいこと全部言ってくれたので満足しながらウンウンと頷く。

 

マイク先生も逆転と言っているが、逆転というほど上鳴は追い詰められてても無かったのに、上鳴の実力が足りず追い詰められた扱いをされるとモヤつくものだ。理解者が一人居るだけでも嬉しい。

 

さてモヤつくと言えば、絶賛私よりもモヤつきまくってる奴がここに一人……

 

「ねぇ麦野ちゃん。上鳴くんってなんでああなの…?」

 

「なんでってそりゃ…そういう性の元に生まれて来ちゃったから?」

 

背筋に奔る悪寒

 

「ねぇ麦野ちゃん。上鳴くんって無自覚に女の子引っ掛けまくって何がしたいの?」

 

「何がって……無自覚なんだから目的とか無いんじゃないの?」

 

額を流れる冷や汗

 

「……ねぇ、麦野ちゃん。麦のんって呼んで良い?」

 

「も、もちろんよ…!気軽に呼んでちょうだい!」

 

悪寒に冷や汗、USJで戦ったヴィランから感じたプレッシャーを今は葉隠から感じる。透明で表情見えない分、気配だけが強調されて更に私への重圧を掻き立てる。

 

わ、私をここまでビビらすなんてやるじゃない…!!

 

 

「うわぁぁ!!もういい!上鳴くんを殴って強引にでも分からせるッ!!」

 

「葉隠が怒りのあまり乱心した!?」

 

「いけません!押さえてください!?」

 

「はぁぁなぁぁせぇ!!!」

 

「アンタを殺して私も死ぬ」って言うんじゃなくて、殴って笑わせるってのがまた人の好さが出てるわね。

 

うん、なんか一周回って冷静になって来たわ。試合前の精神統一には丁度良いか。

 

「さて……行くとしますか」

 

ブチ切れた葉隠を取り押さえるみんなは横目に私は下の入場口に向かう。

 

一回戦目の相手は飯田。

 

個性は『エンジン』、脚部のエンジンで驚異的な加速力と駆動力を発揮する。

 

ただ単に足が速いだけじゃなく、『エンジン』で生み出したエネルギーが下半身全体に回って強化系並のパワーも生んでいる。

 

あの足で脳天を蹴られたら私でも少しは怯むだろう。

 

「でーも、真正面から迎え撃ってこその私……ってイタッ!」

 

「すまんな。む、君は…」

 

「アンタは…」

 

燃え盛る髭に、これまた顔を隠すように猛々しく燃える炎。そして私に尻もちを付かせる巨体。

 

「麦野沈利だったか」

 

「そういう貴方はエンデヴァー」

 

ここ最近話題に上がった、フレイムヒーローエンデヴァー。個性婚を仕組み奥さんを精神病院にぶち込み、轟の心をああも荒ませた元凶。

 

正直言って私に轟を救ってやりたいとか、そういう思いはあまり無い。部外者がなんと言おうと、あれは轟自身が乗り越えなければ真に救われない問題だ。

 

冷たいとも言われるかもしれない。でも私は自分の意見を曲げるつもりもないし、轟はきっと自分自身で乗り越えると信じてる。

 

ここは適当にやり過ごしてとっとと行きましょう。

 

「エンデヴァー…さん。息子さんから話は聞いてますよ、大層向上心に満ち溢れた方だと」

 

「君の活躍も見ていたぞ。機動力フィジカル共に並のプロヒーロー以上、将来有望だ」

 

「ど、どうも…」

 

「それだけにもったいないな、その個性では息子を超えることは出来ない」

 

「…は?」

 

なんだこの野郎。少し口きいただけで個性否定かァ?個性否定はダメだって中学の道徳で習わなかったのかよ。

 

いーぜテメェがそのつもりならこっちにも考えが…

 

「君の個性。肉体に直接作用する強化系でなく、空間や自身以外に作用する個性なのだろう?

 

ついさっき来たばかりでね。加速力についての説明は付かないが、あの電撃少年の電撃を弾いたところを見るに電気…それも電子に関係する個性だな」

 

「…よくご存知で」

 

「これでも勉強熱心なのでね」

 

こいつ、息子以外のこともちゃんと見てる。息子だけに興味深々かとも思ったけど、ここら辺は流石のナンバー2ヒーローって事ね。

 

「トーナメントは違うが、息子と当たることがあれば張り合えるようせいぜい頑張ってくれ。息子の格を落とさないためにもな」

 

「えぇご安心を。息子さんを張り倒す勢いでやってやりますよ」

 

「……覚えておけ、君にも()()は訪れる。引き時を見極められないのならば、この道を進むのは諦めろ。プロからの忠告だ」

 

そう言ってエンデヴァーは廊下の奥に消えて行き、私も()()という言葉が自身の内で乱反射するのを感じながら歩く。

 

「クソッ…!!」

 

入場直前、拳が廊下の壁に深くめり込み亀裂を走らせる。

 

「そんなこと……私が一番分かってんだよ」

 

『さァ!!ここで入場して来たのは今年の首席入学者!!』

 

この世界の人間は強力な個性に耐えれるよう肉体も相応の強度に成長する。

 

競走馬の足はガラスの足と呼ばれ、おおよその最高時速である70kmで走り続けると脚部が耐えきれずに多数の病気や怪我を起こしてしまい、結果的に全盛期はごく短い期間となる。

 

この場合の限界は肉体の限界だが、その限界が直接肉体に作用する強化系には存在しない。

 

しかし私は…

 

『なんでも溶かすビームと強靭なフィジカルで勝ち抜いて来たバイオレンスガール…』

 

「たく、ビームじゃねぇって何回言わせんだ……」

 

たしかに、私にはコンクリートを素手で叩き割れるパワーと耐久性はあるが、元の個性が『電子操作』のせいで、肉体性能はこれからどんどん追い抜かれて行くのだろう。

 

『電子操作』を工夫と科学で『メルトダウナー』まで引き上げた私には、矮小な個性であるが故の限度、私にとっての限界がある。

 

『メルトダウナー』の出力を上げ続ければ肉体が耐え切れない、そんな事は今でさえ実感している。

 

いつかは追い抜かれる。

 

いつかは来る限界。

 

いつか……いつか………

 

『麦野沈利だァァ!!!』

 

「……それがどうした」

 

私の個性は科学そのもの、科学が発展すれば私の個性も発展して行く。他には無い明確な強み、科学が私にはある。

 

科学に限界は無いなんて、そこまでの絵空事は言わない。それでも私一人の可能性を無限に等しく広げてくれる。

 

限界は敗北と同義じゃない。

 

ならばそれを証明しよう、私の能力をもって。

 

「あんなクソ野郎に私を否定されてたまるか。見てろよ、テメェがトップになる前に私がトップになって、吠え面かかせてやる」

 

予定変更だ。開発していた新技二つの内、一つをここで解禁しよう。手の内を晒すことになろうが関係ない、手の内の一つや二つ晒した上で勝つ、そうでもしなければ証明など出来やしない。

 

 

 

 

「麦野くん、ここまでお互い勝ち進んで来たんだ。応援してくらた方々に恥じない試合をしよう!!」

 

「相変わらず真面目ねぇ……まあ、そういうの嫌いじゃないわ。

 

……あと予め言っておく、これから私はアンタの出番を一切合切奪うことになる。ごめんなさい」

 

「はは!君が言うと、ただの自信過剰とは思えないな」

 

『スピード対スピード!!またも速攻で決着しそうな組み合わせだけど、見応えのある試合になりそうな気もするぞォ!!』

 

『どちらも機動力に秀でた個性、飯田には騎馬戦で見せた超加速。麦野は通常時からあの加速だ。たしかに真の意味で速攻勝負だな』

 

『イレイザーからのありがーたいお言葉も聞けたとこで、スタート!!!』

 

既に大部分の演算は完了している。

 

誰よりも秀でた私だけの強み。試合開始前から予め演算しておいた数値を、試合開始と同時に能力へ入力。

 

多少の誤差修正や照準は必要なものの、これにより最速の能力発動を可能とし、一寸の狂いも許さずに私は動ける。

 

そして、私が用意しておいた演算から繰り出される()()()は、USJの経験と反省からメルトジェットを発展させ、純粋な強化形態となった回避不能の必殺技。

 

「レシプ…」

 

粒機波形(メルト)原子融解炉(ドライブ)

 

 

 

それは全てを置いて行く淡翠の閃光。

 

 

 

 

 




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