『さぁ!二回戦第三試合、さっきの試合は速攻終わったが!今回も速攻で終わりそうだゼェ!!』
『このルールじゃどちらにしろ決着は早い、注目すべきは勝つまでのプロセスだ』
先生二人のありがたーいお言葉を聞きながら、入場口の陰でストレッチをする。
緑谷と轟の試合、その結末は必殺技級の威力を持つ空冷膨張熱衝撃波(仮称)を吹っ切れた轟がぶっ放すことで、緑谷を真正面から捻じ伏せることで終結した。
緑谷は超パワーの代償として両手両足を粉砕骨折。
順当に行けば勝てるかもしれない試合。
それをあえて、轟の心に火種を起こして大火にし、自業自得とも言える敗因を作り出した訳を聞いてみたいのだが、わざわざ聞くのは野暮である。
麦野沈利はデリカシーある女なのだ。
『速攻で終わりそうだが、入場前口上はDJとしてしっかりやるぜェ!』
『DJとしてじゃなく、司会としてしっかりしてくれ』
『司会席から向かって左側。
一回戦では個性ダダ被りの中、気合と根性で勝利を掴み取ったタフボーイ、切島鋭児郎ォォ!!』
相手は切島、単純ながら強力な『硬化』の個性で防御力はそこらの戦車装甲などへでもないほどに頑丈だ。
さらに、私には及ぶほどではないが身体能力は並以上のものがある。
「サンドバックにしては、少し硬すぎるくらいね」
『対するは、一回戦を切島とは正反対の瞬殺。そして、全試合中ぶっちぎりの最速で試合を終わらせた一年のトップスピード少女、麦野沈利だぁァァ!!』
湧き上がる会場、振り注ぐ歓声、もう慣れたもので私はそれらを何の気なし受けつつステージに立つ。
「よう切島。アンタの試合、相当な接戦だったみたいだけど、負けた時に消耗してたを言い訳にするんじゃないわよ?」
「そんなこと言う訳ねぇだろ。俺もお前も、そんなみみっちいこと気にする質じゃない、だろ?」
「ハハッ!全くそうねぇ!」
なんとなく、切島の情に熱いところは、私の強さに向ける情熱と似通った部分があって好きだ。
体育祭前の特訓にも遅くまで付き合ってくれて、互いの実力も手の内も理解している。まあ、手の内と言っても切島はただ硬くなることだけなのだが。
「それにしても飯田に使ったアレなんなんだよ?ぜんぜっっん見え無かったし、すげぇ威力だったな!」
「ククッ!心配しなくても、今からその身で味わえるから楽しみになさい」
「だったら、真正面から存分に味わってやるぜ!」
「二人とも、準備は良い?」
「オッケーよ!始めるとしましょうか?」
「準備万端だ!熱い試合にしようぜ!!」
ミッドナイト先生に互いに準備完了を示し、試合開始の合図に備え構える。
『矛vs盾!二つ揃えば矛盾となるが、それは紙上だけの話ィ!今ここに至ってはどちらかがどちらかを勝り勝つ!果たしてどちらなのか、これは見ものだぞォ!!』
切島は、重心を限りなく下に落とし膝を広く開く。まるで相撲取りのような、鼻から防御しか考えて無いような構えだ。
「へッ!やってやろうじゃァないの!!」
切島のあの構えに私の闘争本能は昂ぶる。
初撃に対する防御しか頭に無いような構え、つまりはメルトドライブを打ってこいという挑発と同義。
そして、今の私の最大威力の蹴り技メルトドライブを耐えられると踏んだ上でのあの構えだ。
明らかに策があって突撃を誘っている。切島なりに策があっての行動、もしくは単に私への挑戦という意味合いかもしれない。
どちらにせよ、やる事は変わらない。
マイク先生の煽り文句通りに、私は矛として力を見せつけるだけだ。
「罠であろうとなんだろうと、私の矛がアンタの盾をことごとく上回ってやるわ」
『それじゃあ、スタァートッ!!!』
合図と同時、私は飯田戦の時と同様の構えと公式を使ったメルトドライブで、私自身の認識が追い付かない速度まで加速し周囲の景色を置いて行く。
「シィッ⋯!!」
「ッ⋯しゃぁぁ⋯!!!」
耐え切られた。
右脚から半身を伝って来る直撃の反動が私にそう教える。
単に『硬化』で固まっただけでは、私のメルトドライブの衝撃に耐え切れる訳がない。普通なら後ろの壁にすっ飛んで行く。
切島の強固に『硬化』した胸板に直撃した私の右脚から、視線を下へ滑らせると答えは導き出された。
「足の指を硬化して地面に固定したのか⋯!」
「正解ッ!」
切島は私の右脚を抱えるように掴むと、そのまま力任せに地面に叩き付ける。反動で即座に反撃出来ない私は、無すすべなく顔面から激突した。
激突したタイミングで両腕を使って地面を押し、足で拘束を払い少しばかり距離を取る。
ダメージはさほど無いけど、ファーストキスがコンクリとなんて、笑い話になんないわ。
「お前のあの大技、デカい反動があるんだろ。反動受けた状態で、コイツを避けれるか!!」
切島は足の指先を『硬化』で鋭角的な形にしグリップ力を上げて、素早く真っ直ぐに私に迫る。
「レッドガントレットッ!!!」
やはり、切島には策があった。
察するところ、『メルト・ドライブ』を誘い反動で私の機動力を下げ、そこを距離を離さず詰めまくって私を殴り倒すのだろう。
硬め上げた右拳が眼前に迫り直撃する寸前、私は『メルトダウナー』の軌跡を残し、切島の視界から外れる。
「ま。あえて受けて良かったんだけど、これ以上顔面に攻撃受けるのは絵面的にもよろしく無いからね」
「早いなっ!」
「ハッ!そりゃどうもッ!!」
反動を受けた右脚を庇いながら、メルトジェットの高速移動で距離を詰め掌底で横合いから顎を殴り付ける。グーパンで殴らないのは指を痛めないためだ。
「っ⋯!」
よろめいた切島の首元に加速させた後ろ回し蹴り。
常人が喰らえば全治一ヶ月レベルの打撃なのだが全身『硬化』で硬めた切島には効果は今一つ。
されど、これはまだ一発目だ。
「叩き潰してやんよォ!!」
次は蹴りを打ち込んだままの足先を支点にメルトジェットで、切島の体勢を強引に崩して弾き飛ばす。
「ばっ!?なっ!?なっ!?」
転がる切島の先に回り込んで下から加速し蹴り上げる。
「あーイッタ。流石に硬いわねッ!」
空中に飛び上がった切島の上に移動し、『硬化』を解除せず硬いままの腹に足を置き、上昇力を上回るメルトジェットで叩き落す。
咄嗟に私を見上げる切島と目が合った。
その目は、なぜあの大技を使って反動無しで動けているのか?と問うていた。
たしかに私は反動を受けた、でもそれは骨が折れるほどの反動では無い。
なぜなら、先のメルトドライブの公式に入力した数値は、飯田戦のものを80%として、今回は70%に設定したからだ。
飯田戦と同様なのは構えと公式だけであり、入力した数値は飯田戦より割り出した、骨を折らないギリギリの数値なのだ。
曖昧な感覚ではなく事実に基づく観測と演算で戦う、科学で個性を能力に昇華させた者の強みだ。
切島がステージに激突すると多量の破片が飛び上がり、その運動エネルギーの大きさを物語った。
『メルトダウナー』の支点を私の各部位に設定し、強烈な反動を圧倒的な推進力に転用するメルトジェット。
その威力が遺憾無く発揮される光景に鼻を鳴らしながらゆっくりと着地する。
『うわぁぁ!?試合開始から怒涛の攻撃が連続するぅ!
あまりに一方的だが、これ切島無事なのかぁ!?』
「くっそぉ!めちゃくちゃにやりやがってぇ!!」
破片と巻き上がった煙幕の中心地であるクレーターから這い出る切島
『健在!!熱い漢、切島鋭児郎は健在だァ!!』
「あらー、アンタって想像以上に丈夫ね。さっきので決まったと思ったのに」
「こ、根性あれば、あんな攻撃へでもねぇよ!お前こそ、俺を殴る蹴るばっかだと手足を痛めるぜ?」
「まあたしかに、ステゴロじゃちょっと痛いし⋯⋯少し、趣向を変えてみましょうか」
深い深呼吸と共に全身の力を一度抜いてから、瞳を閉ざして脳内で方程式を切り替える。
数秒後、これまでのメルトジェットの使用に適した高速戦闘特化から、左眼の観測能力を利用した格闘戦特化の演算方式へと移行した。
「ほら、今度はアンタの番よ。もうジェットで飛び回ったりしないから、安心して掛かってきなさい」
「ならお言葉に甘えさせて貰うぞ!」
私を殴ることに微塵も躊躇が無いような、手加減が一切無い拳に内心笑みを浮かべながら、表面上は無表情のままに拳をバックステップで避ける。
「側頭部」
深く踏み込んだ姿勢の切島が振るう拳は、私の頭が後ろに引けたことで空を切る。
「丹田」
体の中心を狙う攻撃は半身を引いて躱す。
対象の行動、軌道予測を左眼と組み合わせた演算で割り出し、適切な位置に移動し適切な速度で攻撃を加える。
速度と演算速度の暴力。
これを意識して、次々と切島の攻撃を捌く。
「くっ⋯!なら避けられねぇようにしてやる!!」
「右前腕部」
一気に前へ飛んで私の右腕を掴もうとする切島。伸ばす腕の手首と肘を逆に掴み取り握り込み。
力任せに、投げる。
「ふんッ!!!」
「だッ!?」
私の超人的な腕力でステージに叩きつけられ軽くめり込もうとも尚も『硬化』は解かれない。
相当な根性で個性を維持しているようね。これを破るのは少しばかり苦労しそう。
まあ問題ない、ただ硬くなるだけで衝撃はそのまま受けている。個性を維持することが出来なくなるまで、何度でも叩き付ければ良い。
「さァ、根性キメて覚悟なさい」
今度は倒れた切島の足首を掴んで持ち上げる。
『こ、これはァ!筋肉質でマッチョな切島、麦野に片手で持ち上げられたぁ!?』
「そぉれッ!!」
ジタバタと抵抗する切島を高く持ち上げ、いや高くそして大きく振り上げ、腕を支点にメルトジェットを使いながら振り下ろす。
まるで刀や棍棒のような、丈夫な武器を振り下ろすように、振り下ろし叩き付ける。
一度では終わらず、二度三度四度、繰り返すこと数十回の殴打はステージに作られたクレーターを深く広げた。
『こ、これは酷い⋯!オモチャのように扱われる切島!さっさと場外出してやれよ!?』
「あ、そうか」
マイク先生の指摘に思い出して手を止める。
いやはや、切島を真正面から叩き潰すことにムキになって忘れていたわ。場外負けとかあったわそういや。
「こ、この野郎⋯⋯俺の硬さを見せ付けるために場外に出さねぇだけだと思ってたのに⋯!!」
「え、いや!?もちろんよ、アンタの優秀さをアピールするために念入りに痛めつけてたのよ?」
「嘘つけぇ!!」
あっぶな、こいつ掴まれてる状態から蹴りで顔狙ってきたわよ。気合入ってるじゃないの。
今一度、切島を放り投げて距離を取る。
「割と楽しめたわ。礼として喰らって逝きなさい、本気のメルトドライブをねェ!!」
「行くの字がなんだがヤバい気がするが関係ねぇ⋯⋯!耐え切ってやる!!」
これまで以上の密度と精度で『硬化』を発動する切島、それに際して私もメルトドライブの演算を始める。
「照準演算カット、照準固定。
環境データより、逆放射式、逆制動式構築、完了。
続いて、エネルギー収束開始」
反動以外にもう一つ、メルトドライブにはデメリットがある。
事前演算を行えない戦闘中や、既に一度使ってしまった場合、周囲の環境データ再入力と照準演算を時間を掛けて行わない限り、「メルト・ドライブ」は早々使えない。
「40⋯50⋯60⋯70⋯⋯」
ある程度の決まった数値や公式は存在するとは言え、それでも状況によって五秒前後、無防備を晒すことになる。
膨大な演算の必要性により、発動までには溜めとも取れる演算が必要なのだ。
「80⋯90⋯95⋯100⋯⋯エネルギー収束率100%」
「メルト・ドライブ」の圧倒的威力に対した、相応のデメリットという訳だ。
「
周囲の景色を置いて行き、私の肉体をも砕く、最大威力のメルトドライブは正確に切島の正中線を捉える。
僅かな拮抗、切島の強靭な肉体と精神により生まれた異様なほどのタフネスは最大出力のメルトドライブと僅かに張り合った。
僅かに、だが。
「くたばりなァッ!!!」
クローとして肉体を固定していた地面ごと、爆裂的な推進力で浮き上がり、僅かな拮抗が終わりを告げる。
瞬間的に、そのまま切島は場外へと100%の推進力の恐るべき速度でステージの境界を飛び越え壁に深く深く、激突しめり込みんだ。
切島を強かどころじゃない威力で蹴り飛ばした私は、ブレーキとしてあらかじめ演算していたメルトジェットで逆噴射し勢いを止め、ステージ内に留まる。
「き、切島くん行動不能。三回戦進出、麦野さん!!」
「ふぅ⋯⋯久々に、スッキリする試合だったわ」
メルトドライブの余波や輻射で大いに削れ粉塵などが巻き上がるステージを、私は清々しい気分でステージを後にする。
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実は一つ前に上鳴vs芦戸の試合があったりします。
え、結果?
そりゃもう上鳴が電撃で秒殺よ秒殺。
電撃に対して対抗策が無い奴が上鳴の相手なんてしたら、超人的感覚でもない限り大概の奴は秒殺よ。
どれが好き?
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ギャグ要素多め シリアス少なめ
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ギャグ少なめ シリアス多め
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どっちも同じくらい