Interview with The Bull 作:h995
アメリカ合衆国フロリダ州。この地で畜産業を営む牧場の一つが、今回取材する元競走ウマ娘の住んでいる場所である。牧場としてはそれなりの規模で街から離れている事もあって、とてものどかな雰囲気を感じられる。予めアポイントメントを取っていた事で、約束の時間の五分ほど前に牧場の入り口に到着。そうして暫く待つと、麦わら帽子を被った一人のウマ娘が出迎えてくれた。
成人のウマ娘は実際の年齢より若く見られる事が多い。年齢は二十八歳と聞いている彼女もまたその例に漏れず、傍目からは二十歳前後にしか見えない。おそらくは牧場で作業していた途中だったのだろう、半袖の白いTシャツに青地のオーバーオールという牧場でよく見られる格好で右手にはピッチフォークを持っていた。
身長はだいたい170cm半ばと日本であればかなりの高身長であるものの、ここアメリカでは平均よりやや高めと言ったところだろう。昔の名残なのか、やや胴が太いものの弛みの様なものは一切見えず、またしっかりとメリハリのある体形であった為に同じ女性として少し羨ましいと思ってしまった。
麦わら帽子で頭部こそ隠れてしまっているものの、胸の辺りまで届きそうな長さで全体的にウェーブのかかった葦毛を首の所で一括りに纏めており、角の立派な牡牛の頭部を象った耳飾りを右耳に着けている。顔は欧米系に多く見られる彫りの深い目鼻立ちをしており、やや垂れ気味で優しい印象を与える目のお陰で朗らかな笑顔が良く似合っていた。
そして、一番特徴的だったのは、真っ直ぐこちらを見つめてくるコバルトブルーの円らな瞳。その色合いの美しさから思わず見入ってしまい、すぐに慌てて謝罪する事になってしまった。すると、彼女は僅かに苦笑いを浮かべながら自分の目について語り始めた。
幼い頃に両親とは目の色が異なる事から自分は本当の子供じゃないと思い悩んでしまい、そのまま一人で落ち込んでいたところに彼女の祖母から「お前の目の色は、心の中に広がる晴れ渡った青空から出てきた色なんだよ。だから、けしておかしなことじゃないし、お前は確かにあの二人の子供さ。グランマであるあたしが保証する」と言ってもらえた事で思い悩む事がなくなり、今では一番の自慢なのだという。
初めて顔を合わせた上にかなり失礼な事を仕出かした日本人の記者に対してこの様に気さくな対応をしてくれた彼女こそが、今回の取材対象となる元競走ウマ娘である。
スタートから誰よりも速く先頭を駆け続けて、直線で追いすがる相手を更に突き放していくという豪快なレースぶりから「ザ・ブル」の愛称で親しまれ、アメリカレース界に燦然たる業績を遺した名ウマ娘の一人である。
その様なホーリーブル氏もレースから引退してニューヨーク州のトレセン学園を卒業してから故郷の州立大学に進学、主に牧場経営に関係する学問を修めた後は実家である牧場の仕事を手伝う事になり、現在は両親から牧場の経営を引き継ぎ始めているのだという。
ホーリーブル氏の様にレースから引退した後もこうして順調に人生を歩んでいる元競走ウマ娘が多い一方、かつての日々に心を囚われて身を持ち崩してしまう元競走ウマ娘も決して少なくはない。今回の取材では競走ウマ娘から一般的な進路へとスムーズに移行できたホーリーブル氏から競走ウマ娘の引退後について少しでも話を聞ければと思っている。
そうして牧場内にあるホーリーブル氏の自宅に案内された後、リビングをお借りする許可をホーリーブル氏とそのご両親に頂いてから今回のインタビューを開始した。