Interview with The Bull 作:h995
ホーリーブル氏がまるでおどける様にそう言ってみせたところで、今回のインタビューは終了となった。私が取材用の機材を片付け終えてこの場を出立する際、長時間に渡るインタビューで少なからず疲れているにも関わらず、ホーリーブル氏は笑顔で私を見送ってくれた。その温かい心遣いに感謝しつつ取材現場であった牧場を離れていく中、偉大な競走ウマ娘の一人としてアメリカレース界の歴史に燦然たる業績を遺したホーリーブル氏の凄さはこうした所にあるのだと私は思った。
ホーリーブル氏は確かに輝かしい戦績を残してはいるものの、けして負けなかった訳ではない。むしろ、現役の時に二度負けた際はどちらも酷い有様で、ケンタッキーダービーに至っては逃げウマ娘でありながらスタートで大きく出遅れた末に一着との着差が十八馬身以上という通常であればトラウマになってもけして不思議ではない程の惨敗をしている。そして、最後は故障による競争中止の後に志半ばでレースそのものからの完全引退を余儀なくされている。
しかし、ホーリーブル氏はそういった惨敗を余り長くは引き摺らずに次に繋げようとする。この切り替えの早さと上手さが、ファウンテンオブユースステークスで惨敗した後のフロリダダービーとケンタッキーダービーで惨敗した後のメトロポリタンハンデキャップにおける圧勝に繋がった。実際にホーリーブル氏と接してその人柄に触れた後では、特にそう思う。しかも、突然のケガによるレースからの完全引退の後に当初予定していたであろう進路を即座に変更、更にそれを実行に移して見事完遂した点を見るに、この切り替えの早さと上手さは単に競走ウマ娘としてだけに留まらず、ただのウマ娘として、あるいは一人の女性としての強さにも繋がっているようにも思えてくる。
その賜物であろうか、ホーリーブル氏が引退して五年後にブリーダーズカップジュベナイルを制したマッチョウノや十年後となる今年のケンタッキーダービーを制したジャコモは、尊敬するウマ娘としてホーリーブル氏の名前を挙げている。しかし、それは単にレース映像からでもはっきりと解る圧倒的な強さだけでなく、幼い頃に実際にホーリーブル氏の実家である牧場を訪ねて直接話をした事で尊敬に値する人だと心から思ったからだという。インタビューの最後の方でレースを引退した後の競走ウマ娘の在り方について自らを例に挙げて語った事を踏まえても十分に納得のいく理由だと私は思う。
だからであろうか、どちらも勝ったレースが尊敬対象には縁のなかったレースであり、まるで尊敬するホーリーブル氏の無念を彼女達が晴らしたかのように思えて何処か痛快な気分になってしまう。これらもある意味、切り替えの早さと上手さで次に繋げようとするホーリーブル氏の在り方があってこそと言えるかもしれない。
最後に、別れ際にホーリーブル氏が私にかけてきたこの言葉を以てこの筆を置く事にする。この言葉に少しでも何かを感じて頂けたら、今回のインタビュアーである私としても幸いである。
「私自身もそうだったけど、競走ウマ娘は走っている時こそレースで勝つ事に全てを懸けているけれど、そうでない時は普通の女の子をやっているのよ。今後、貴女が競争ウマ娘達と接する際にはそれを念頭に入れてもらえると、かつては競走ウマ娘の一人だった私としても嬉しいわ」
これにて本作品は完結です。最後までお読み頂き、本当に有難う御座いました。