今日の対戦相手である
何故一人ではなく三人なのか。それは、私を真ん中として左右に座っている
傍から見たら両手に花なこの状況は、羨ましがられる状況には変わりないのだが、私にとっては既に見慣れた日常であり、最初の頃は驚きもしたが、二人が居るこの状況に慣れた今となっては
そんな二人を横目に、今日のデュエルログを見返しながら反省会を始める。ログを見返していけばデュエルの流れ的には此方が主導権を握っていたのは確かなのだが、ログの中でどうしても気になる点があり、その点を何度か見返した後にため息をつく。
「やっぱり、何度ログを見返しても彼処で唯一手札に握ってた誘発を切ったのは早計だったなって思わざるを得ないなぁ……」
『そうだねぇ……そのせいでその後の展開を許してたし』
『まぁでも、今日のヴァイオレットの相手……えーと、サードアース? だっけ? 其奴の手札的に彼処しか誘発を切るタイミング無かったし、結果的には勝てたから良いんじゃない?』
「うーん、そうかなぁ……突き詰めれば、唯一握ってた誘発の切り所は他にもあった気がしてならないんだよね。それに、デュエル中は兎も角第三者目線だからこそ、こうしてアレコレ言えるのもあるし」
『『それなぁ〜』』
私の左右に座り、共に反省会を行っている半透明の女性二人の正体は精霊界と呼ばれる異世界の裏社会に存在する非合法のエージェント達のランキング、通称ワールドエージェントランキングに彗星のごとく現れた盗み専門の凄腕コンビである『
『カワイイ』を極める為に魔界からやって来た、天使のような小悪魔コンビ……という設定で活動している大人気ストリーマーの『
◇◇◇
私と二人との出会いは、私がまだカリスマデュエリストの道を歩む前……所謂エンジョイ勢だった頃まで遡る。その日もデュエルを楽しむ為にログインし、自ら考えたコンボを試すべくのんびりと楽しんでた時。
(ん……あれ? 仮装空間なのに風が吹いてる?)
一体何故、と考えるよりも先にその答えが姿を見せる。かつてLINK VRAINSに吹き荒れていたとされる、データストームと呼ばれるデータの嵐。それが突如発生し、此方に向かって来ていたからだ。万が一にも巻き込まれ、それによって怪我でもしたら現実世界の己の肉体に何らかのフィードバックが襲いかかる為、それを視界に捉えた他の人達は我先にとログアウトしていく。
周りに気を取られていたせいでそれに気づくのにワンテンポ遅れ、慌ててログアウトしようとデュエルディスクを操作しようとしたが、時すでに遅し、といった感じで眼前に迫り来るデータストームから逃げられず、私はそのままデータストームが巻き起こす風に身体を浮かせられ、そして巻き込まれた。
(嗚呼……もう少し早く、気づければなぁ)
仮装空間で活動する為の仮の肉体とはいえ、肉体が傷つけば現実世界の肉体にも影響が出る。その上データストームの渦中に居るとなれば話は別であり、この後は想像も出来ない悲惨な目に遭う事が確定してしまっている。
逃れようの無い今の状況に明確な『死』が身体を支配し、走馬灯が脳裏を過ぎっていく。こうなってしまってはもう助かる道筋は残されていないだろうと、半ば諦めたように目を瞑る。
だが、そこで一つ、ある変化が起きていた。力無く投げ出した四肢の内、右手がいつの間にかデータストームの風の中へ突っ込んでいたのだ。痛みは無く、まるで現実世界と同じように風を切っているような感覚だった。
吹き荒れる嵐の轟音の中、小さいながらも何故か鋭く聞こえてきた風を切る音に意識を取り戻して其方に顔を向ければ、右手に何かが集まりかけている光景が目に入る。右手に集まりかけていた光のようなものは、次第に
「……え? 何、コレ? カード……? 」
それを見た私が呟けたのはその一言だけ。突拍子もない出来事のお陰で投げ出したばかりの意識が戻りかけていた所で運悪くデータストームが吹き止み、そのままの勢いで宙に投げ出された後、まともな受け身も取れずに地面に強く激突したせいで再び闇の奥底へと沈む事になる。
その後、どれくらい時間が経過したかは分からないが、自力でなんとか意識を取り戻した後にLINK VRAINSからログアウト出来た私は、アバターの損傷がもたらしたフィードバックによる全身を襲う激痛に苦しみながらも、あの時の出来事が本当なのかどうかを調べ始めた。そして分かった事が
「───えっ? な、何これ!? コレ、私が使ってたデッキじゃない!! ほぼ全て別物になってる……何でぇぇぇぇぇ!? うぅ……結構高かったのにぃぃぃ……」
一つ目は、LINK VRAINSにログインする前に使っていた、自分で考えて構築した自慢のデッキが全くの別物に変わっていた事だ。SOLテクノロジー社が提供しているデータカードなら何らかの要因で別のデータに書き換わる、といった可能性は無きにしも
そして、変化していたのはメインデッキだけではなく
物理カードだけで構成されていたメインデッキが変わっていたのだから、それと同じ物理カードで構成されているEXデッキにも何かしらの変化が起きているという事に関しては直ぐに辿り着けたのだが、それでも入れた覚えの無いカードが我が物顔で入っているのはちょっとしたホラーである。
次に、二つ目と三つ目だが……それは私がデッキに入れた記憶が無い
一旦何がどうなっているのか、とデュエルディスクから変化してしまったデッキとEXデッキを取り外し、一枚一枚机の上に並べていた際に手に取ったのが入れた覚えの無い謎の青い枠のカード。文字は掠れて読めず、イラストも無い事を除けばごく普通のカードだ。
それを手に取ってまじまじと見つめつつ『コレも知らない奴だ。イラストが無いけど一体なんだろコレ……?』と思いつつ首を傾げていたら、何の前触れも無く突然そのカードの何も描かれていないイラストの部分が光始め、瞬く間にその光は私の視界全てを覆い尽くす。
そうして、激しく光り続けていた光は次第に落ち着き、視界も元に戻った頃、手にしていたカードにそれぞれイラストが浮き出ている事に気づく。浮き出てきたイラストは双方とも怪盗っぽい服装を身に纏った女性である。そして
「うぅ、めっちゃ眩しかった……一体なんだったのさっきの光───って、あれ? コレ、見間違いじゃなければさっきのカード、だよね? 文字が読めるようになってるし、イラストも浮き出てる。ってか、なんか増えてない? まぁ、増えた事は一旦置いとくとして……えーと、Evil★Twinって読むんだよね、多分。それでこっちが『キスキル』で、こっちが『リィラ』か……」
頭の片隅でこんなの入れた覚え無いな、とカードとにらめっこしつつブツブツと独り言を呟いていると、途端に何者かの気配を感じた。既に親元を離れて一人で暮らしている為、自身以外に人は居ない筈なのに何故、と一旦カードから視線を外して辺りを見回す。
然し、幾ら辺りを見渡しても何者かが居るという気配を感じるだけで誰かが居る、という事は無く、気の所為だと思う事にしようと先程机の上に広げていた自分の物では無くなってしまったデッキを片付けていた時。
『『───ねぇねぇ、そこの人。私達の事、探してたんじゃないの?』』
「……え? 誰?」
突然声が聞こえてきた。声色からして女性だと思うのだが、あまりにも突然の出来事に困惑を隠せない。一体何処から、と改めて周囲を見回すと、半透明の女性二人が姿を見せる。
片方はピンクの髪の女性、もう片方は青髪の女性。此方に向けて手を振るピンクの髪の女性とその後ろに居る青髪の女性二人を見て幽霊だと勘違いした私は声を上げる事無く白目を剥いてその場に倒れ込んだ。
『やっほー♪ 声に反応したって事は私達の姿は見えてるって事でOK───って、アレ? もしもーし? おーい? 聞こえてるー? ねぇなんか反応してよ〜! これじゃあわざわざ姿を見せた意味無いじゃん!?』
『……キスキル。一生懸命話しかけてる所悪いけど、その人多分私達を幽霊か何かと勘違いしたのか気絶してると思う。白目剥いてるし』
『……え? あ、ホントだ。どうしよリィラ、この人無理矢理にでも起こした方が良いかなぁ!? せっかく
『だとしても無理矢理は辞めといた方が良いよ、キスキル。時間が経てばその人も勝手に起きるだろうし、そしたらもう一度話しかければ良いだけでしょ』
『あー……うん、それもそうだよね♪ んじゃこの人が起きるまで待ってよっと♪』
気絶した私を余所目にそんな会話をしていた半透明の女性二人は、私が意識を取り戻すまでアレコレ会話をしていた。そんな事もいざ知らず、暫くして気絶から復帰した私は先程目の前に現れた半透明の女性二人──キスキルとリィラ──を見てまた気を失いそうになるもののなんとか耐える。
また気絶してしまうのか、と冷静を装いつつも内心ヒヤヒヤしていたキスキルとリィラの二人もなんとか耐えた私を『おぉー』といった表情で見ていた。そうして、私を含めた三人は漸く本題へと移る。
「えーと、先ずは自己紹介だよね。私は天羽椿希、エンジョイ勢だけど一応デュエリスト。よろしく。それで、状況整理がしたいんだけど……急に現れた貴女達は一体何者なの? なんか身体透けてるし、最初は幽霊かと思ったけど、幽霊にしては自我があるっぽいから多分そうじゃないだろうし……」
『貴女は椿希って言うのね? 私はキスキル。それで、私の隣に居るのは相棒のリィラ。よろしくね♪』
『ん、よろしく。椿希』
「キスキルに、リィラ……? あっ、それってもしかして!?」
二人の名前を聞いて何か思い当たる節があり、二人が姿を現した切っ掛けであろう二枚のカードを見やる。そこには目の前に居る二人と全くの同一人物が描かれていた。それを二人に見せると、二人揃って『そうそれ!』とでも言いたげな表情を見せていた。
「貴女達は今私が持っているカードと同姓同名の同一人物、って事は……?」
『お察しの通り、私達は精霊界……って、いきなりそんな事言ってもピンと来ないか。簡単に言えば私達は異世界からの来訪者で、貴女の持ってるそのカードを通じてこっちに来たってワケ』
「こ、コレを通じて? それって一体どゆこと?」
『私達が描かれてるそのカードは、遠く離れた見知らぬ世界を見る事が出来る『窓』であり、私達の住む世界と貴女が暮らしている世界を繋いでいる『扉』のようなものと捉えていいわ』
「『窓』であり『扉』のようなものがこのカードなんだ……」
二人の掻い摘んだ説明を聞き、改めてカードに視線を落とす。実際、何の変哲もないこのカード自体がそんな重要な役割を果たしていたという事実を飲み込むまで時間はかかった。
偶然発生したデータストームに巻き込まれ、その渦中にて偶然に偶然を重ね、まさに奇跡と言っても差し支えない出来事を経験した上で手にした、Evil★Twinの二人が描かれた二枚のカード。
それ等の名前、テキスト、絵柄が浮き出たのが切っ掛けとなって邂逅する事となった、カードのイラストと全くの同一人物であり、異世界からの来訪者だというEvil★Twinの二人。これがあのカードを手にした時に起きた二つ目と三つ目の出来事である。
四苦八苦しつつも漸くその事実を含めて全て飲み込めた時には既に陽は昇り始めており、慌てて時刻と日付を確認した私は一先ずホッとため息をつく。日付が指し示す曜日は社会人や学生なら憂鬱になる月曜ではあるものの、暦的には祝日を示している。日を跨いでしまったとはいえ今日も休日だからだ。
突然慌てたかと思えば何やら安堵している素振りを見せた私を見ていたキスキルとリィラはお互いに顔を見合わせた後に漫画やアニメでよく見る頭に疑問符を浮かべながら首を傾げている。厳密に言うと二人の頭に疑問符は浮かんではいないのだが、何故か浮かんでいるように見えた。
『……ねぇ、なんか慌ただしくしてたけど大丈夫?』
「───えっ? あ、大丈夫大丈夫。それで、話の続きなんだけど……」
初対面の二人に要らぬ心配をかけてしまった、と心の中で反省しつつ、話の続きを促す。そうして、お互いの知りうる事を色々擦り合わせると、分かった事が三つあった。
まず一つ目は、キスキルとリィラの二人は精霊界と呼ばれる異世界の住人であり、私達の世界では『デュエルモンスターズの精霊』と呼ばれる存在でもあるらしい。
二人はLive☆Twinという大人気ストリーマーとして活動しつつ、精霊界に於ける盗みを専門とする凄腕の非合法フリーエージェントコンビとの事。それを聞いてエージェントなのに盗み専門なのか、といった素朴な疑問が脳裏に浮かんだが、一旦は頭の片隅に追いやる事にした。
話を戻して、精霊とは現在より昔、それこそデュエルモンスターズ発祥当時から今まで続いてこれからも続いていくであろう長い長い歴史の中でデュエルモンスターズと共に存在していたようで、中には私のように精霊の姿や声を認識出来る者が一定数居たとの事。
とはいえ、それに関しては物心ついた時からデュエルモンスターズのモンスターの姿はぼんやりと見えていたし声も聞こえてはいた。今回、二人の姿や声がハッキリと見えたり聞こえたのは初めてだった為、耐えきれずに気絶してしまったが。
そして二つ目だが、データストームの渦中で私が手にした二人の怪盗としての姿が描かれているカードはキスキル曰く『精霊憑き』のカードとなるらしく、デッキに入れてるだけで二人と意思疎通を図る事が可能となるだけでなく、人間精霊関係なく持ち合わせているであろう運命力とやらを高める事によってここぞという場面で目当てのカードを引き当てる事が可能になるらしい。
但し、逆転の一手となる目当てのカードを引き当てる力……敢えて名付けるなら『ディスティニードロー』とでもいうべき強大な力はそう何度もポンポン発動する力ではない。その上、その力を使うには私とキスキル、リィラの三人の思いが完全に
然し、そんな力を発現したり二人と意思疎通を図る事も出来るのなら私は勿論二人にも色々危険が及ぶのでは、と思ったのだが、それに関しては心配しなくても良いらしい。私のように二人の姿や声を認識出来る……即ち精霊の存在を認識出来る者以外が精霊憑きのカードを所持した所で意味を成さないようだ。
仮に、私から精霊憑きのカードを奪った人物が私と同じように精霊の存在を認識出来る者だとしても、二人から見たその人物の心象は紛れもなく最悪だろうし、その人物が二人を無理矢理従わせて力を使おうと企んだりしようとしても力を貸したりする事は決して無いと二人は断言している為、心配しなくても大丈夫そうだ。
そして、最後に三つ目。個人的には三つ目の方が一番重要だったりする。LINK VRAINSからログアウトした後、一部を除いて全くの別物に生まれ変わってしまった私のデッキは、話を聞く限りだと二人の仕業で変化してしまったらしい。精霊の持つ精霊パゥワーとやらで私のデッキのほぼ全てを自分達の力を遺憾無く発揮出来るデッキに書き換えたというのだ。
だが、話を聞く限りだと二人は此方の世界に来る事が目的だった為、決闘者の魂とも呼べるデッキまで書き換えるつもりは無かったそうだ。そうなってしまった原因としては、私がデータストームの渦中にて二人のカードを手にした時、此方の世界と精霊界が繋がった影響で精霊の力の一端が二人より先に私のデッキへ流れ込んでしまったのが原因だそう。故意や意図的にやった訳ではないのは確かだ。
精霊となれば自身の力を用いてそんな事まで出来るのか、という感心よりも出来れば人のデッキを書き換えるような真似はしないで欲しかったという落胆の思いが強かったが、既にやられた後だった為そこは諦めるしかないのは言うまでもない。
そこまで話をした所で腹の虫が空腹を訴え始めた為、一旦話を切って朝食を摂りつつ今日はどうするか悩みを募らせていた。今日は祝日の為、昨日のようにLINK VRAINSにログインしてもいいのだが、データストームに巻き込まれた後のフィードバックによる痛みが尾を引いている。痛みは少しずつ引きつつあるものの、依然として続いていた。
一応痛み止めを飲んでるとはいえ、万全の調子では無いのは誰がどう見ても明白な為、一先ず調子が戻るまではLINK VRAINSにログインするのを控える代わりにもう一人の自分……アバターの損傷箇所の修復作業も兼ねたメイキングに取り掛かる事に。
メイキングと言いつつも私はただ単にデュエル出来たら良いだけのエンジョイ勢だった為、LINK VRAINSにログインする際の自身のアバターは最初からある程度用意されているプリセットの中の一つを選び、その見た目を多少弄っただけ。強いて言えば髪型と髪色を変えたくらいで他はデフォルトの見た目だ。
カリスマデュエリスト達や他のデュエリスト達など、LINK VRAINSにログインしている人達は個人の個性が溢れる見た目にしている人が大多数だが、私にはそういった拘りはなかった為、ほぼデフォルトのままのアバターである。
そんなこんなで簡単な修復作業は終わった為、次は髪型や髪色をどうするか悩んでいたら、後ろからキスキルとリィラが覗き込んできた事に気づく。
「……あれ、二人ともどうしたの?」
『ねぇねぇ椿希。それってもしかして、貴女のアバターで合ってる? さっき言ってたLINK VRAINS? って場所にログインする時の』
「え? まぁ、一応……私もLINK VRAINSに大勢居るデュエリストの端くれだけど、カリスマデュエリストじゃないし……見た目に拘る理由も無いからアバターは髪型と髪色以外はあまり弄らなくて良いかなって思って」
『ん〜……なんか可愛くないわね……』
「あ、あはは……髪型や髪色を弄ってるとはいえ、ほぼデフォルトの見た目だからね……」
私がLINK VRAINSにログインする際のアバターを見た二人はそんな事を呟く。二人にとって『カワイイ』ことは重要な事であり、『カワイイ』ものに目が無いとは聞いていた。女性ならまず嫌いな人は居ないであろう宝石が良い例だ。
それ故に二人は『カワイイ』ものを中心に、各地の諜報機関から自分達へ繋がる秘密のパスワードを知る者から出される依頼を受けているそう。何故『カワイイ』ものが良いのかと聞いた所、『そっちの方がモチベーションが上がるからね♪』との事。
確かにモチベーションは重要だなと内心感心しつつもアバターの姿をどうするか考えていれば、リィラがコレはどう? と何処から取り出したのか、いつの間に手に持っていたタブレットを操作し、私に見せてくる。そこには怪盗服を華麗に着こなす赤髪の女性のイラストがあった。
「……ん? リィラ、コレって何?」
『椿希のアバター、新しくするならこういうのはどうかなって。巻き込んだ形にはなっちゃったけど、椿希は正真正銘Evil★Twinのデュエリストになったんだし、それならアバターも怪盗っぽくしたらどうかなって思ったの。まぁ、コレってキスキルが描いてたイラストそのまんまなんだけど』
『そうそう♪ さっすがリィラ、良く分かって───って、リィラぁ!? 人がこっそり描いてたイラストを勝手に見せるのは流石にどうかと思うんだけどぉ!?』
『
『う"っ……自業自得すぎるし、そこを突かれると痛い……ま、まぁいいや。どの道お詫びも兼ねた提案として出す気ではいたからその手間が省けたって事にしとく。それよりも椿希、イメチェンも兼ねていっその事こっちに変えちゃうってのはどう? リィラも言ってたけど、私もこっちの方が断然良いと思うんだ〜♪』
「え、と……すっごく魅力的なのは分かるんだけど、ちょっとだけ考えさせてね?」
二人からそう言われ、リィラの持つタブレットを借りてそこに映し出されている、キスキルが描いた怪盗服を着こなす赤髪の女性のイラストをもう一度見てみる。確かに、今まで使っていた良くも悪くも目立つことの無いアバターから気分を一新するには持ってこいなのは間違いない。
キスキルとリィラ、二人から出されたもう一人の自分の新しい姿をどうすべきか少し考えた後、私は二人の提案を受け入れる事にした。髪型や髪色だけを変えるだけの簡単な変更とは違って全身を変える大掛かりなものともなれば最初から作り直した方が速い為、善は急げとその作業に取り掛かる事に。
そうして、痛みに耐えつつ作業を行い、陽が完全に登りきる頃にはフィードバックによる痛みも大分マシにはなっていた為、二人の力を借りながら開始したアバターの構築作業は着々と進む。そうして、自分だけの新しいアバターが完成した頃には既に陽が沈み掛けていた。
「で、出来たぁ〜……」
『『お疲れ様〜』』
「二人とも手伝ってくれてありがとね〜……」
二人からの労いの言葉に返答しつつ、背もたれに寄りかかって大きく息を吐く。昼食も摂らずぶっ続けでやっていた為か、終わった頃にすっからかんとなった空腹を訴え始める腹の虫。それを落ち着かせる為に手頃なもの……栄養バーを幾つか食べてから時間を確認する。
時間は既に夜遅い。昨日から一睡もせず、突然現れた二人の話を聞き、それから痛みに耐えつつほぼ一日を費やしてアバターの構築作業に追われていた結果である。
時間を確認し終え、雑に空腹を満たしたと同時に眠気が一挙に襲い来る。一日寝てないだけでも眠気というのはより強く襲ってくるものだ。眠気に身を任せてそのまま眠りにつきたかったのだが、明日は平日という事を失念していた為か、眠気に抗う。
平日という事はつまり、学生及び社会人が絶望する日でもある。抗いようの無い現実から目を背けたかったが背く訳にもいかず、私は怒濤の如く押し寄せる眠気に必死に耐えつつ風呂に入ってから寝る事に決めた。
『椿希、今日はもう寝るの?』
「あ、うん。昨日から寝てないのもあるし、ちょっと疲れちゃってね……」
『そっか。それじゃあ私達も寝ようかな。おやすみ、椿希』
「ん、おやすみ」
風呂から上がり、お気に入りの寝間着に着替えて寝ようとした所でリィラから声をかけられる。精霊も寝るんだ、と頭の片隅で考えつつ、二人と寝る前の挨拶を交わしてから横になれば、心身共に疲れているのに加え、十分に温まった事も相まってかすぐに夢の世界へと旅立つ。
横になってからすぐに寝息を立てた、精霊界からこの世界に繋がるカードを手にしてくれた
尚、翌日の朝に目覚まし時計のアラームを時計ごと叩き壊す勢いで止めた後、ゆっくりと椿希が起きた時にキスキルとリィラの二人が自分の左右で寝ている事に気づいて軽い悲鳴を上げたのは言うまでもない。
◇◇◇
───二人とのそんな出会いがあった日から幾日か経過した後、私は一念発起してエンジョイ勢からガチ勢ことカリスマデュエリストの道を歩む事を決めた。
せっかくだからとアバター名も最初に登録してから今まで変えること無く使っていた『
そうして始まった、新人カリスマデュエリスト『ヴァイオレット』としてのデビュー戦。記念すべきデビュー戦でマッチングした古参のカリスマデュエリストは、此方が新人だからという理由なのかは定かではないが、明らかに手を抜いたやる気の無い戦い方……所謂舐めプをしている事には、デュエルが始まって少し経った頃に感じた違和感の正体と共に気づいた。
対戦相手と本気でデュエルをしない、決闘者の風上にも置けない相手に私は勿論、キスキルとリィラも腹を立てていたが、逆に此方の実力を目の前の決闘者には勿論、中継を通して見ている人達に示す絶好の機会と捉えた私は
此方を舐めてかかったせいで華麗に後攻ワンキルを決められ、何が起きたのか分からずに放心状態の相手を余所目に、今後の活動に多大な影響を及ぼす大事な一戦をワンキルの勝利で飾ってからは一挙に注目を浴びる事になったのは言うまでもない。
(あの時は手札が良かったし、そのお陰でデッキがブン回りしたのもあるけど……二人の精霊パワーで生まれ変わった今のデッキって、先行後攻関係なく容易にワンキル出来るパワーはあるんだよね。今日の対戦相手のように全力で向かってくるデュエリスト以外には程々にしておかなきゃ駄目だ。
今日のデュエルログを見ながらふと、デビュー戦の事を思い出しつつ考え事をしていたせいでボーッとしていた事に気づいたのか、キスキルが声を掛けてくる。
『……ん? 椿希、ボーッとしてどうしたの?』
「えっ? 嗚呼、ごめん。デビュー戦の事をふと思い出してただけだよ」
『あ〜……あのやる気の無いデュエリストとの一戦ねぇ。ま、仮に彼奴が本気を出してたとしても椿希の敵じゃなかったと私は思うけどね♪』
「それに関しては私が新人のカリスマデュエリストだからと舐めてかかってくれててありがとう、って思うべきかな……? あの人も曲がりなりにもカリスマデュエリストだった訳だし」
『そう言いつつ、後攻ワンキル決めたのに?』
「あの時は無我夢中でやっちゃったというか、極限まで集中してた故の賜物というか、ね……相手には申し訳ない事をしたと思ってるよ」
そんなこんなで無事にデビュー戦を終え、それからは学業に活動にと多忙な毎日を送るそんな中、今日の一戦後の反省会も終えた私とキスキル、リィラの三人は明日に備えて一旦寝る事に。
だが、この時の三人は未だ知らない。天羽椿希ことヴァイオレットのカリスマデュエリストとしての活動の裏で、巷でLINK VRAINSを騒がせているとある組織が活動を開始し、それを追う
◇◇◇
───Den-City某所にある、移動屋台式のホットドック屋「
彼と会話を交わすのは、青を基調とした髪色に前髪の一部がやたらと尖っており、頭に板を張り付けたような髪型に加え、前髪の一部はマゼンタ色のメッシュが入っている、ある意味インパクトのある独特な髪型が特徴的な人物だった。何処かの学校指定の制服を着ている為、その人物は学生だと思われる。
草薙翔一と独特な髪型が特徴の人物の二人はCafe Nagiの店内に備え付けられている大型のディスプレイモニターとキーボードを前に、黙々とキーボードを叩きながら時折会話を交わしていた。
「……なぁ、
翔一に『遊作』と呼ばれた、独特な髪型が特徴の人物……
「……草薙さんは、以前Aiが言っていた事を覚えているか?」
「Aiが言ってた事……? 嗚呼、今から数日前くらいにサイバース族の気配がどうたらこうたらとやけに慌ててた事か。遊作もその時は急かされるままに渋々ログインしてたが……それが一体どうしたんだ?」
「……俺は彼奴の戯言を一から十まで信用した訳じゃない。だが、彼奴が言うにはあの時感じ取った気配は間違いなくサイバース族のものだったらしい。然し、俺がそこに辿り着いた時にはもう、サイバース族の気配は消えたと言っている」
「だがな遊作、彼奴の山勘でLINK VRAINSの下層部まで行ったにも関わらず、そこはもぬけの殻だったんだろ? だったら、気配を感じたっていうのもただの気の所為だったんじゃないか?」
翔一の言うこともご尤もである。だが、Aiが告げた事を完全に否定は出来ないと言わんばかりに遊作は軽く頭を振り、
「いや、最初は俺もいつもの下らない戯言だと片付けようと思ったんだが……既に誰かの手に渡った後の筈だと彼奴はあの時からずっと言い続けている。それに、ここ数日の間、捜索を続ける中で彼奴の言う『新たに現れたと思われるサイバース族は誰かの手に渡った』という事を裏付ける事が出来る証拠を三つ、見つける事が出来た」
そう言いつつ、遊作は独自に調べた事柄を事細かにまとめたデータを共有しつつ翔一の目の前に三本指を立て、一本ずつ折りたたみながらその証拠の内容を一つずつ説明していく。
「一つ。あれから数日が経過したが、彼奴の言う通り確かにサイバース族の気配は断続的にだがLINK VRAINSに現れている。コレに関しては彼奴が気配を察知する度に反応してる為間違い無い筈だ。彼奴が気配を感知する時間帯は夕方から夜にかけて一番多い事も分かっている」
「誰かの手に渡ったと思われるサイバースの気配は夕方から夜にかけて一番多くAiの奴が察知している……か」
「二つ。まるでそれに呼応するかのように、サイバース族の気配を感じた日の翌日からハノイの騎士と思しき存在が活発化しているらしい。昼夜問わず目撃情報が目に見えて増えている。奴等の狙いは俺のデュエルディスクに捕らえている彼奴の奪還が最優先事項の筈だが、恐らく例のサイバース族の捜索も含まれている筈だ」
「今まで何処に居るのか分からなかった、神出鬼没だった奴等の目撃情報が増えてきている……それも昼夜問わずと来たか。きな臭い事は確かだな……」
「そして三つ。彼奴が言っていた俺以外のサイバース族の使い手と思われる人物だが……Den-Cityに居るかは分からないが、少なくともLINK VRAINSに居る事は確かだ。逆にそうでなければ先に話した二つの証拠が嘘になる」
「ふむ、なるほどな……Den-City及びLINK VRAINSに居ると思われる、遊作以外にサイバース族を持っていると思われる謎の人物が誰かを突き止めれば、直接では無いにしろ間接的に奴らに……ハノイの騎士に繋がる切っ掛けになるかもしれない。遊作はそう言いたいんだな?」
「嗚呼。だが、俺の力だけでは先に上げた三つの証拠を見つけるだけで精一杯だった。ハノイの騎士は兎も角、サイバース族を持っていると思われる人物の尻尾を掴む事が出来ていない。正直言うとこれ以上捜索しても手詰まり感はあるが、引き続き捜索はしてみるつもりだ」
「遊作でもお手上げと来たか……よし、それに関しては俺の方でも調べてみる。何か分かったらその都度教えるよ」
「ありがとう、草薙さん」
遊作は翔一に感謝の言葉を述べた後、今日はもう遅い時間帯の為に翔一と別れて自宅へと戻る。翔一の元を訪れる前に机の上に置いておいたデュエルディスクに耳を傾ければ、微かに寝息が聞こえてくる。
プログラムで構成されている存在の癖に人間のように寝たりするのか、とふと考えた後に思考を打ち切る。その後、遊作も寝る前の準備を行い、明日に備えて眠りについた。然し、この時の遊作とAi、そして草薙翔一はまだ知る由もない。
彼等とハノイの騎士、双方が追いかけている人物は
あけましておめでとうございます(激遅民)
色々書いてる内にめちゃくちゃ長くなって、2024年内に投稿出来なかったです(´・ω・`)
そして今回も主人公のデュエル描写は無し。スマネェ……
多分次回こそは書ける筈。てかめっちゃ書きたい←
後、キスキルとリィラの口調は完全に私の妄想です、はい。解釈違いがあるかもですが、ご容赦をば()
この話を書いてる間にOCGの方でEvil★Twinにも新規が来て大歓喜してました← 勿論こちらの方でも出しますヨ。
それでは、お読み下さりありがとうございました。
また次回(・ω・)ノシ