LINK-1のディールだけでも出したい(´・ω・`)
翌日。予め設定していた目覚ましのアラームより早く起きて出発前の準備を整えた私は、少し遅れて起きてきたキスキルとリィラの二人と軽く会話を交わした後に自宅を出発する。
太陽が出る前の時間帯に自宅を発った為、冷たい空気が外界に晒されている素肌をなぞっていく。それに伴って寒さが身体を震わせるが、太陽が出てくるまでの辛抱だと言い聞かせながら先を急ぐ事にした。
準備の際、『ヴァイオレット』として活動する時に使っている
(Evil★Twinのデッキは既に過ぎた事だから仕方ないにしても、こっちのデッキは無事で本当に良かったなぁ……)
そう考えつつ、サブデッキが様変わりしていなかったことに安堵を覚えていた。今手にしているこのデッキは普段はあまり使う事が無く、自宅にてメインデッキとは別に保管していたお陰なのか、キスキルとリィラの二人の精霊パゥワーで上書きされる事が無かったのだ。
二人との出会いの前に流れ込んで来た二人の精霊パゥワーの一端を受けてほぼ全てが書き換わってしまった、ある意味自分の運命を変える事になった今のデッキであるEvil★Twinのデッキの次に思い入れの深いデッキな為、そこはホッとしている。何を隠そうこのデッキはEvil★Twinのデッキを手にする前に使っていたデッキより使う頻度は少ないものの、ガチ寄りのデュエルをする時のみに使っていたデッキなのだ。
因みに、サブとはいえ調整に調整を重ねた結果、現在のデッキは戦闘破壊や効果破壊などの
悪魔族といえばキスキルとリィラも大人気ストリーマーとしての姿である
よくよく思い出してみればデュエルモンスターズの精霊とやらが見え始めるようになったのも、灰色の世界を過ごしていたある日、偶然手にした悪魔族モンスター……最早知らない人は居ないであろう
勿論、一枚だけとはいえほぼ奇跡に近い運命によって私の手元に来たと思われるクリボーのカードは、Evil★Twinのデッキには枠がカツカツすぎて入れる隙間が無い為、破械デッキの方に入れている。クリボーの持つ『手札から墓地に送る事で戦闘ダメージを一度だけ無効化する』効果には幾度となくピンチを救われている為、感謝してもしきれない。
(……よし、今日も帰ったらLINK VRAINSにログインしよっと。今月か来月辺りにはランキングの一桁台に行きたいし、頑張らなきゃ)
そんな事を考えながら、歩を進める。朝早くに出発したお陰か、学校には始業時間より大分余裕を持って到着していた。靴を履き替えて教室へ向かう最中、不意に後ろから声をかけられる。
その声に気づいて後ろを振り向けば、そこに居たのは落ち着いた栗色の髪を短く切り揃えた、私と同じ年頃の女性。学校指定の制服を着たその女性に突然声をかけられた事に驚きつつも、私は元気よくその女性の名前を呼んだ。
「あ、おはよ。葵」
「おはよう、椿希。貴女が朝早くに来たのは珍しいんじゃない? いつもギリギリの時間に来るのに」
「えぇ……珍しいって言い方は流石に無いと思うんだけど? これでも頑張ってるってのにぃ」
「今後も珍しいって言われたくないならまずは生活習慣を改善する事ね。少なくとも、偶に浮き出てる目の下のクマを消すくらいにはね?」
「あ、アハハ……葵って手厳しいなぁほんと……」
私が苦笑いを浮かべつつ、葵と呼んだ女性……
人見知りなのかどうかは定かではないが、彼女自ら進んで距離を置くような口調で話す為、学校では私やデュエル部の部員以外に他の人と話している光景が見られない。では何故、私
「そう言えば……ここの所絶好調? ねぇ、
「ちょっ!? 人前では勿論普段の会話でもそれは言わないってあの日に約束したよねぇ!?」
「……あら、そんな約束した?」
「嘘でしょ!? すっとぼけるつもりかなぁ!? 仮にそうだとしたら許さないよ私はぁ!?」
「冗談よ冗談。というか、前から思ってたけど……本当にからかいがいがあるわよね。
「……はぁ、冗談なら良いんだけどさぁ……って、あれ? あのさ葵。私の事、もしかしなくても簡単に騙せるチョロい奴って思ってる? ねぇ、そこの所どうなのさ」
抗議の視線を送りつつ、じぃっと睨みつけても何処吹く風、といった様子で『さぁね?』と葵は返す。何度やっても同じ反応しか返ってこない為、これ以上抗議しても意味の無い事だと分かってからはすぐにその視線を逸らし、ふくれっ面のままだった表情も元に戻す。
葵が呼んだ自称怪盗さんとは、紛れもなくLINK VRAINSに於ける私ことヴァイオレットの事。キスキルとリィラとの出会いを機にカリスマ決闘者に転身し、学業の傍ら秘密裏に活動していたのだが……ある日、運悪くそれを葵に知られてしまい、私の秘密であり弱味でもあるそれを握られてしまったのである。
ちなみに、私の秘密を葵に知られた切っ掛けはある時、学校に行く時はいつも持ってきていたサブデッキではなくEvil★Twinのデッキをうっかり学校に持ってきてしまい、それを葵に見つかってしまったが為。それに関する言い訳は後から幾らでも言えるのだが、その時は完全に気を抜いていたが為に起きた出来事。要するにやらかしである。
だが、怪我の功名とでも言うべきか、その際に偶然『ブルーエンジェルの正体は財前葵』という秘密を握る事が出来た。だが然し、そのせいで私と葵は表向きは友達、裏を返せばお互いに秘密を握り合う奇妙な関係となった。
「まぁ、いいや。それは兎も角、まさか葵があの『ブルーエンジェル』だったなんてね。偶然とはいえ、初めて知った時はホントに驚いたよ」
「……前も言ったけど、その事は他の人には秘密にしておいて。勿論、貴女がヴァイオレットって事は秘密にしてるし、貴女が私の正体をバラさない限りは私も貴女の秘密をバラさないから」
「モチ! 私と葵、お互いにカリスマ決闘者って事は
「……そう。それなら良いのだけど」
そんな事を話しつつ教室へと向かい、到着する前に葵とは一旦別れる。普段は一人がいいらしく、それに関しては過干渉しない事にしていた。以前、何をそこまで一人に拘るのだろうと不思議に思いもしたが、人には人の事情があるんだから土足で踏み込まない方が良いかと勝手に納得している。
葵が教室に入り、姿が見えなくなってから教室へ入る。自分の座席に荷物を置いてホームルーム前の準備をしていれば、誰かが見ているのか視線を感じる。その視線を追うように目線を向けると、カバを連想させる顔つきの人物が視界に入る。
此方が視線を向けた事に気づいたその人物は笑みを浮かべ、此方にやって来た。いつもなら何かと理由を付けて適当にあしらっていたが、今日は特に理由も無い為、あしらう事をせずに対応する事に。
「おっ? おはよう、天羽! 珍しいな、お前が朝早くに来るなんてよ。しかも眠たげにしてないし、こりゃ明日は嵐が来るか?」
「おはよ、島君。というか、珍しいとは何さ。葵にも同じ事言われたばっかりなんだけど……そんなに珍しい?」
「まぁ……うん。お前っていつもギリギリに来るし、何かと眠たげにしてるのが常だしさ。今日はそんな事無いから珍しいって思ってな」
「あー……うん。事実故に全部否定出来ないのが辛い。低血圧気味だからかは分かんないけど、朝に弱いんだよね……」
私が島君と呼んだその男性の名は
苦笑いを浮かべつつ島と話していれば、意気揚々と次の話題を出してくる。その話題とは勿論、とあるカリスマデュエリストについてだ。彼はどうやらプロアマ問わず様々なデュエリスト達が集うVR空間であるLINK VRAINSを神聖な場と捉えているらしく、デッキやデュエルディスクを持っているが、私や葵のようにLINK VRAINSにログインしない。
その代わりと言ってはなんだが、彼はLINK VRAINSで起こる様々な出来事には人一倍敏感であり、誰よりも早くLINK VRAINSに関する情報を集めてはこうして私や他のクラスメイトにも話しかけに来る。とはいえ、島君が私以外のクラスメイトと話している所を見かけた事はあまり無いが。
「あ、そうだ! それよりもさ、椿希は知ってるか? 最近人気が急上昇してるカリスマデュエリストをさ!」
「うん、知ってるよ。怪盗を自称するカリスマデュエリスト、ヴァイオレットでしょ? 何処もかしこもその話題で持ち切りだもんねぇ〜」
「そうそう! って、なんだ。お前も既に知ってたのか。まぁ、それもそうだよな。あのカリスマデュエリストの事はよく話題に上がるからなー。デビュー戦を華麗にワンキルで勝利した凄腕の新人! って大体的に持ち上げられてたのが懐かしいぜ……」
話の途中でついつい反射で島君の言うヴァイオレットの正体は目の前に居る私なんだけどなー、と思わず言いかけたが、その一言が喉から出る前になんとか飲み込んだ。自分から進んで正体を明かすような真似はしたくないし、仮にこの場で言ったとしても信じる訳ないだろうと思ったのもある。
そんな私の心境はいざ知らず、島君は
全体的に青を基調とした髪色に前髪の一部がやたらと尖っており、頭に板を張り付けたような髪型をしており、前髪の一部にマゼンタ色のメッシュが入っている、一度見れば絶対に忘れる事が無いであろう個性的な髪型の男性。
朝早い時間、それもホームルームが始まる前だというのに既に机に突っ伏した姿勢で寝ているのか、規則正しく背中が上下している。近くに行けば寝息が聞こえてくるのは確実だろう。
自分が言えた義理ではないが彼も寝る間を惜しんで何かをしていたのだろうか、と疑問に思いながら島君の話を聞いているとホームルームが始まる前の予鈴が鳴り響いた。
「ほら、予鈴鳴ったしそろそろホームルーム始まるよ島君。話なら後から幾らでも出来るからさ」
「あ、もうそんな時間? 本音を言えばまだまだ話し足りないけど、また怒られるのも嫌だしなー」
「そうそう。また怒られる前に座っといた方が良いよー。島君、いっつも怒られてるしさ。まぁ、理由はそれだけじゃないとは思うけど……怒られたくないでしょ?」
「それもそうだな……んじゃ、また休み時間にでも話に来るよ」
そう告げた後、担任が来る前に慌てて自席に座る島を見届けてから改めて寝ていると思われる男性の方へ視線を向けると、彼はいつの間にか起きていた。十中八九、先程の予鈴のタイミングで起きたのだろう。後ろから見ている為、表情までは分からないが、右手で目を擦っているのは見えた。
目覚めたばかりなのか眠たげにしている彼を他所目に、担任が来るまでに一限目の準備を済ませてからホームルームの開始を待つ。その間、バッグに仕舞っていたデュエルディスクに宛先不明の如何にも怪しげなメールが届いている事に気づくのは、まだ先の話。
◇◇◇
───六限目の終了を告げる予鈴が鳴り、その後のホームルームも終わる。クラスメイト達が続々と帰り支度をしている中で今日の用事に取り掛かるべく手早く帰り支度をしていた時。
ふと、何かに引っ張られるように顔を上げると、視界の隅でカバを連想させる人物である島ともう一人……俺より少し背丈が高く、ウェーブがかかった茶髪を赤のリボンでポニーテールに結んだ、真紅の瞳の女性の姿が映る。島と親しげに話すその女性は、島と別れた後に何処かへ行く用事があるらしく、足早にその場を後にしていった。
横目でチラリと見ただけでハッキリとは見ていないが、何処か見覚えがあるような無いような、そんな人物の事が少し気になった俺は今まさに何処かへ行こうとしていた島を呼び止める。
「島。ちょっといいか」
「……ん? なんだよ、お前か藤木。どうした? もしかして、今日こそはデュエル部に来るのかっ!?」
「いや、そうじゃない。お前に聞きたい事がある」
「なんだ、違うのかよ。全く、お前もデュエル部の一員なんだからさ、偶には部活にも顔出せよなー。んで、俺に聞きたい事って一体なんだよ?」
「さっきお前と話していた奴は一体誰なんだ?」
先程感じたばかりの素朴な疑問を島にぶつけると、島はまるで漫画のキャラのように目玉を飛び立たせる勢いで驚いていた。そんなに驚く事なのだろうか、と首を傾げる俺を他所目に島は慌てて話し始める。
「───え"っ!? おまっ、それ本気で言ってるのかよ!? はぁ……ったく、いい加減他のクラスメイトの顔と名前くらい覚えろよなー。そんなんだから俺以外に話せる奴が出来ないんだぜ、お前」
「……クラスメイト? 彼奴もそうなのか」
「嗚呼、そうだよ。さっき俺と話してたのは
「……嗚呼。俺にそんな記憶は無い」
呆れたように言い放つ島の言葉に賛同するかのように一つ頷けば、島は『マジかよ……』と頭を抱える素振りを見せる。そんなに落ち込む事なのだろうか、と疑問に思いつつ、島をその場に残して帰路へつく。
学校を出て草薙さんが経営している移動屋台式のホットドッグ屋『
(……天羽椿希。草薙さんの元に着いたらハノイの騎士と例のサイバース族についてLINK VRAINSにログインする前に奴について調べてみるか。もしかしたら、奴は───)
そんな事を考えつつ歩を進めていれば、学校を出て暫くしてから鞄から取り出して左腕に装着していたデュエルディスクにデュエルプログラムとして捕らえた目玉だけの存在となっている救世主元い、意志を持つAIである『
「……なんだ、Ai」
『なーなー、
「……春? 赤飯?
『お、おぉう……相変わらず辛辣だな、プレイメーカー様は。まぁいいや。それならさ、さっきからずっと考え事をしてるのは一体なんでだ?』
「……さぁな」
『おっと。誤魔化そうとしても無駄だぜ、プレイメーカー様。えーと……島、って言うんだっけか? あのカバみたいな奴。彼奴からある人物……天羽椿希だっけ? 其奴の名前を聞いてから考え事をし始めたって事は既に分かってるんだからな』
考え事をしていた理由を誤魔化す為に素っ気ない返答を返したが、プログラムで構成された存在であるAiにそう言われるとは思っていなかった為、虚を突かれたが為に一瞬顔を
確かに、島が言っていた同じクラスメイトである天羽椿希の名を聞いてから何処か引っ掛かる気がしてならなかった為、それについて深く考え込んでいたのは認めざるを得ない。
だが、Aiの言う『俺に春が訪れた』だの『今日はお赤飯』だのには一切該当しない。恐らく……いや十中八九恋愛事に関連するワードだと思うがそれは断じてない、と完全に否定しておいた上で念の為
「……話があるんだろう。だが、今は一分一秒が惜しい。手短に話せ、Ai」
『手短にって……まぁ、いいや。なぁに、今日もLINK VRAINSにログインするんだろ? それなら、夕方から夜にかけての時間帯にログインする事を勧めるぜ。アイちゃんはな』
「……それは一体どういう意味だ」
『ん? 嗚呼、その答えは既に手に入れてるぜ? プレイメーカー様はな』
「……答えは既に俺の手の内にある、か」
そう呟いた後、デュエルディスクを操作して以前草薙さんに見せた独自に調べた事柄をまとめた三つのデータの内、一つを開く。開いたデータには『Aiが察知した謎多きサイバース族の気配はあの日を境に断続的にだがLINK VRAINSに現れている。時間帯は夕方から夜にかけてが一番多い』と記載されていた。
「……そういう事か、Ai」
『おっ、その反応から察するに気付いたみたいだな? いやー、良かった良かった。もしコレでも分かんないとか言い始めたらまじでどうしようかヒヤヒヤしたぜ……』
それを見てAiが俺に言っていた『答えは既に手に入れている』という一言の真意を理解した俺は、まだまだ話し足りないといった様子のAiをいつものように『黙れ』の一言で黙らせてから先を急ぐ。
そうして、日も沈んだ時間にCafe Nagiに着いた俺は草薙さんに一言断りを入れて店内に設けられたLINK VRAINSログイン用のスペースに飛び込み、ダミーデッキではなくサイバースデッキをデュエルディスクにセットし、ログイン時の掛け声と共にLINK VRAINSにログインした。
現実世界から仮想VR空間であるLINK VRAINSに『プレイメーカー』としてログインした後、すぐさまDボードを呼び出して飛び乗り、LINK VRAINSの上空を疾走する。その道中、サポートに徹してくれている草薙さんから送られてきた座標を元に目的地へ向かう最中、Aiが叫ぶ。
『ん? この気配……間違いねぇ! プレイメーカー様、サイバースの気配だ!』
「───ッ! Ai、この先で間違いないんだな!」
俺の問いかけにAiは力強く頷く。それを合図にDボードをフルスロットルにし、速度を更に引き上げる。速度を上げればそれに伴って風を切る音が一層鋭くなるが、そんな事に気を取られる訳にもいかない。
(───待っていろ。サイバース族を持っていると思われるデュエリスト)
胸中でそう考えながら先を急ぐ。かのサイバース族を持っていると思われるデュエリストとの邂逅は、すぐそこに迫っていた。
◇◇◇
「───さぁ、これでトドメよ!
『いっくよー!』
『コレで、終わり……っ!』
私の指示を受けたキスキルとリィラの二人による同時攻撃により、今日の対戦相手であるデュエリストのLPがゼロになったブザー音と共にデュエルが終わる。
デュエル終了間際、ソリッドヴィジョンが解除される前に勝てた事に喜ぶキスキルとリィラの二人とハイタッチを交わしてから今日の対戦相手の元へ。そうして、一言二言会話を交わした後に相手がログアウトしていったのを見届けた後の事。
前回と比べてデュエリストランキングが上がった事を確かめながらそろそろスピードデュエルにも手を出してみようか、と考えていた時。デュエルディスクに『Here Come's New Challenger!!』の文面が表示された事に気づく。
(……あれ? 私、無意識に次の対戦相手の募集を掛けてたっけ? 今日のデュエルは確かさっきのデュエリストで最後だった気がするけど……まぁ、いいや。偶にはこういう事もあるでしょ)
不思議に思いつつ、挑戦状を突きつけたであろう挑戦者のデュエリストの姿を探せば、後ろから声を掛けられる。その方向へ向けば挑戦者と思しきデュエリストのアバターが見えたが、そのデュエリストのアバターは一言で言えば奇妙な姿だった。
顔の上半分を覆う、左右非対称の奇妙な
その人物を視界に捉えた時、とある噂が脳裏を過ぎる。ココ最近LINK VRAINSに『ハノイの騎士』と名乗る謎のハッカー集団が頻繁に出没しているという噂を。そして、今まさに私の目の前に居る其奴こそ紛れもなくハノイの騎士だと思われる。
噂と共にアバターの特徴も広まっていた為、そういったオカルト地味た噂をほぼ信用していない私は勿論、キスキルとリィラの二人もその事を知っていた。私に挑戦状を叩きつけたハノイの騎士と思しき人物はようやく
「……ようやくだ。ようやく見つけたぞ! サイバース族を扱う怪盗、ヴァイオレット!!」
「……貴方の言うサイバース族が何なのか、私は分からないけれど、その風貌から察するに私のファン……では無いわね? そうよね、最近LINK VRAINSで噂になっているハッカー集団『ハノイの騎士』の一員さん?」
「───ッ! フフフ……成程、流石だと言っておこう。我等ハノイの騎士の事を知っているのならば話は早い! いずれ、いや……否! 貴様は我等が目的としている崇高なる計画の障害になる!! 故に今!! この場で私が貴様を叩き潰してくれるわぁ!!」
「叩き潰す、ねぇ……出来るものならどうぞ? 生憎だけど、私はこんな所で、貴方のような全身白づくめに仮面を被った素性も分からない変な奴にやられる訳には行かないの」
見て分かる程に異様な程にテンションが高いハノイの騎士。現実とは異なる優れた存在としてのアバターを被ることでその役に人格を飲まれている為、そうなっているのだろうと心の中でうんざりしつつも、先のデュエルが終わったばかりで展開したままだったデュエルディスクを構え直す。
先のデュエルで使ったカード達を元のデッキが差し込んである位置に戻し、改めてハノイの騎士の方へ向き直ると、何やらブツブツ言いながら考え事をしているらしく、人並みの聴力だった私の耳にもその呟きは聞こえてきた。流石に独り言が大き過ぎる、と内心ツッコミを入れたのは言うまでもない。
「ここで奴を倒し、必ずやリボルバー様にお褒めいただくのだ……その為にはリボルバー様から授かったこのデッキで必ず奴を倒し、奴の持つサイバースをリボルバー様に献上すれば俺の将来は……フヒヒ……」
(リボルバー……? それに、聞き間違えじゃ無ければリボルバーって奴からデッキを授かったって言ってたっけ、此奴。ふぅん……リボルバーが誰かは知らないけど、
ハノイの騎士が呟いた『リボルバー』という十中八九誰かの名前であろう単語に妙な引っ掛かりを覚えつつも久々に全力でデュエルをする事を決める。ここの所全力で戦える機会が殆どなく、表には出さないもののフラストレーションが溜まりに溜まっていたのもある。
カリスマデュエリストたる者、ただデュエリストとしての強さだけを求められるものじゃない。デュエルを見てくれている人達へ喜ぶやハラハラ感などを届けるエンターテインメンターとしての側面も同時に求められる。
あの手この手を用いて相手の心を完膚なきまでにへし折り、捩じ伏せ、ただひたすらに勝利を奪い取る。無論、
それ故に、普段の活動では全力を以て迎え撃ってくれるデュエリスト以外に対してはかつてデュエルモンスターズにて最強と謳われた流派である、《サイバー・ドラゴン》を始めとしたサイバーと名の付く機械族モンスター群と≪サイバー・ドラゴン≫の融合体を使用し、『相手の心となって自分を見る』リスペクトデュエルを教義に掲げている『サイバー流』を参考にしたスタイルでデュエルをしている。
相手をリスペクトし、展開の妨害こそするものの必要以上に妨害をせずに全力を出させ、その上で勝つ。最初こそランキングを上げる事を目的としてただひたすらに勝利を求めていた為リスペクトデュエルをしていなかったが、カリスマデュエリストとしての活動を続ける中で何時しかそのスタイルが身に染みていた。
だが、今回は違う。久々にサイバー流が教義として掲げるリスペクトデュエルをすること無く100%中の100%、文字通りの全力を出せる事に加え、己の魂を乗せた己自身のデッキではなく他人から借り受けた借り物のデッキで挑戦状を叩きつけたハノイの騎士に多少……否。かなり苛立ちを覚えたのもある。
「貴方の言うハノイの崇高なる計画がなんなのかは知らないけれど、基本的に売られた喧嘩は買う事にしてるの。挑戦状を叩きつけたのは貴方だし、かと言って私に断る理由も無いしね。ほら、御託は良いからさっさとかかって来なさい? ハノイの騎士」
「ほっ……ほざくな怪盗如きがぁ!! 貴様が余裕こいていられるのも今の内だ!! リボルバー様から授かったこの最強たるデッキで完膚なきまでに叩き潰してくれる!!」
「───あのさ。主語が大き過ぎるのもそうだし、さっきも言ったけど……私を倒せると思ってるならやってみなさいよね。その借り物のデッキでさ」
聞こえているかどうかは分からないが、ハノイの騎士にボヤきを入れてみるものの、予想通り反応は返って来ない。改めて観察した結果、ここまでの話し方や振る舞い、言動などを鑑みるに『なりたい自分になれた反動で自分自身に酔っている』と断定していいだろう。それなら仕方ない、と思考を切り替える。
デュエリストがデュエルディスクを構え、向かい合って立てば後は言葉は要らない。言葉を交わす代わりにお互いが信頼を置く
だが、今回の場合は対戦相手であるハノイの騎士のデッキが己の魂を預ける己自身の魂のデッキではなく他者から借り受けた借り物のデッキに加え、そのデッキをまるで自分の力のように豪語し、啖呵を切れる事も不思議に思えて仕方ない。
とはいえ、他人から授かったとはいえ本人があれだけ『最強のデッキ』と豪語するくらいなのだからそのデッキを作り上げたと思われるリボルバーという人物も相当強いのだろうと思考の隅っこで考えつつ、明後日の方向に思考が向く前にデュエル開始を告げる一言をお互いに叫ぶ。
「「───
そうして、ハノイの騎士と名乗った、ここの所LINK VRAINSにて噂となっている謎のハッカー集団に属すると思われるデュエリストとの一戦が幕を開けた。
だが、この一戦を機に、LINK VRAINSの裏で暗躍するハッカー集団『ハノイの騎士』と因縁めいた縁が結ばれ、この出会いが今後待ち受けているであろう、LINK VRAINSに留まらず、Den-Cityにまで多大なる影響を及ぼす未曾有の大事件に巻き込まれる事になる事も、この時の私は知る由もない。
「───彼奴で間違いないんだな。Ai」
『嗚呼、彼奴からサイバースの気配を感じる。間違いないぜ、プレイメーカー様』
「……そうか。彼奴が、俺と同じサイバースの使い手か」
『それで、この後はどうすんだ? プレイメーカー様。彼奴、既にハノイの騎士とデュエルを開始しちまってるけど……』
「……俺は彼奴に聞きたい事がある。それに、ハノイの騎士とのデュエルを受けたのは俺ではなく彼奴だ。なら、デュエルが終わってからでも問題はない。今は傍観に徹する。それに、奴の
『それもそうだなー。アイちゃんも彼奴が持っているサイバースを何処で手に入れたのかすっごい気になるし。んじゃ、オラもプレイメーカー様と同じように傍観してますかねっと』
私とハノイの騎士のデュエルが始まってすぐの事。特殊なボディスーツを着用しており、黄と赤の二色の髪色に目は少し鋭く、体格は細身だがやや筋肉質な見た目のアバターのデュエリストが少し離れた場所にやって来ていた。
そのデュエリストは私と同じサイバース族の使い手であり、どういう訳か自らの肉体を喪って目玉だけの存在となっている意思持つ人工知能を連れているデュエリスト。
彼等との出会いが待っている事を知るのは、ハノイの騎士とのデュエルが終わった後だ。そして、彼等との出会いもまた、自身と周囲の人達、キスキルとリィラ達を取り巻く運命を大きく変える事になる。
漸く書ききれた……(´・ω・`)
次回で漸くオリ主のデュエルが書ける……
という訳で、今回もお読み下さりありがとうございました。
また次回(・ω・)ノシ