こ、これ?あそこの屋台で買ったクレープだけど何か文句あんの!?

ラブちゃんに助けてもらった狼男がご飯を奢るまでの話。
※タイトルのシーンは本編中にございません。

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うへ〜
まだラブのこと深掘りされてないから書くの難しいよ〜
ちなみにタイトルのシーンは無いよ〜
一本釣りだね〜


私たちはジャブジャブヘルメット団!はふっ!食べ終わるまで待ちなさい!

 ブラックマーケットの大通りを、とにかく走る。

 心臓は限界を訴えるかのように大きな鼓動を続けているし、肩で息をしなければ肺に空気が入っていかないくらいに呼吸が苦しい。

 

「──ハッハッ、ッグ……ハッ」

 

 後ろからは大量の足音がいつまでも付き纏ってくる。耳障りな金属音と、地面を蹴り出す音が無数に聞こえる。

 そんな聴覚からの情報がまた俺を焦らせ、また一つ呼吸がしにくくなる。

 

 

 苦しい。

 

 

 ……どうしてこんなことに。

 

 

 知らない世界で狼男になっていたことに気づいた時は、心から絶望していた。

 外を歩けば銃火器が飛び交い、爆発音が定期的に響き渡る。そんな世界で生きていけるか不安で仕方がなかった。

 でも、流れ弾が当たってすぐに気がついた。

 

 この世界、意外と銃で撃たれても死なない。

 

 いや、自分で言ってて何を言っているのかわからないが。

 

 そこからは別に何も困ることはなかった。元々俺が働いていた企業があったようで、しかもそれは最大手軍需企業のカゼヤマ社。

 元々の記憶が無くなった旨を伝えたら、なんと手厚くフォローをしてくれるほどの余裕があるようで。

 そんなことある?と思ったが、バブル的な状態なのだろうか。

 

 何はともあれラッキー。

 改めて研修を受けながら、今は事務員として仕事をしているところだ。

 ちなみにカゼヤマ社は超ホワイト。8時出社17時退勤。残業なし。素晴らしい。

 

 唯一悲しいことがあるとしたら、友達がいないことだろうか。

 会社帰りに飲みに行く友達もいなければ、帰って通話繋いでゲームをやる友人もいない。

 たまに寂しくなることもあるが、まあ、それはそれだ。誤魔化しながら生きている。

 

 脱線したが、そんなこんなで、今。

 

 きっかけは些細なショートカットからだった。

 仕事帰り、最寄りの駅の裏手にある近道を通って帰ろうとした俺は。

 

『これが取引先のリストです』

『確かに』

 

 裏路地で闇取引現場を見てしまったのだ。

 

 捕まったら間違いなくヤバそうな見た目すぎて、焦って引き返そうとしたら後ろの段差につまづいてしまい、そのまま捕縛。

 

 あれよあれよという間に誘拐され、もう終わったかと思ったその時。

 

『──あ、あれが現金輸送車ね!ムツキ、やっちゃいなさい!』

『はーいアルちゃん!』

 

 謎の爆発に巻き込まれ、車が横転した。ダイジェスト風に送っているが、あまりにも激動すぎる。

 何はともあれ、爆発で車から吹き飛ばされたおかげで逃げ出す事に成功した俺は、今も絶賛ブラックマーケットの真ん中で全力逃走をかましているわけである。

 

「ハッ……もう……!げん、ッかい」

 

 頭が霞む。視界がぼやける。脚の感覚がなくなり、次どちらの足を出せば良いのかすらわからなくなってきた。

 と、とにかくあそこの角を曲がって。

 

 曲がって?

 

 ここで?

 

 あれ、目の前のあそこの店で曲がるんだっけ?

 

 思考が追いつかない。

 

「ちょっ!?」

 

 脚がもつれて、盛大に何かに突っ込んでしまった気がする。頭から行ったから、頭蓋骨に相当なダメージを感じる。気絶しそうだ。

 

「た、隊長?」

「わかんないけどとりあえず静かに!ぬ、布は……!」

 

 もう、ここでおしまいか。何かものをかけられたような気がするが、もはや気にならない。

 友人に心配かけちゃうかな……って、この世界にはあいつはいないか。

 

 よく考えたら、この世界には友達一人もいなかったな。

 

「ブルーシートかけると死人みたいですね」

「で、でもこれ以外に特にやれることも」

 

 ああ、どうか……神様がいるのなら……次の人生は前の平和な世界にしてください……。

 

「おい、そこの嬢ちゃん。ここら辺で狼男見てないか?」

「……うぇっ!?い、いや見てないけど!?本当よ!……あっ、そ、そうそう!あっちの方に走って行った気がしなくもないわよ!早く走らないと!ほら!」

 

 

 

 微睡の中で、徐々に意識が覚醒していくのを感じる。

 身体が鉛になったかのように重たく、動き出すのが億劫で仕方がない。

 正直このままもう一度眠ってしまいたい。

 

 よく考えれば、この世界に転移してからというものなかなか眠れていなかった。

 銃撃戦が日常茶飯事であるこの世界で無知は罪だろうと考えた俺は、世の中の常識をひたすらに詰め込むことにしたからだ。

 

 仕事もある中で世の中のことを一から覚え直すというのはなかなかに酷だったが、どうにか睡眠時間を削って知識を入れていた。

 勿論、不安で眠れないというのもあったが。

 

 ……ところで、眠る前の記憶が思い出せない。不摂生が祟って気絶でもしてしまったのだろうか。

 確か眠る前はブラックマーケットで機械兵に追われていて──

 

「まずッあ゛い゛た゛ァ゛ッ!?

「うわっ!?びっくりしたぁ!」

 

 勢いよく起きあがろうとしたら身体の節々が悲鳴を上げた。信じられないくらい痛い。

 再度地面に臥し、いや臥すというか蹲って痛みに堪える。

 そ、そうだった。俺は黒ずくめの男たちに拘束され、気づいたら拉致られていたのだ。

 

「び、びっくりさせないでよ……隊長ー!こいつ起きましたー!」

 

 どうにか体を横に傾けて状況を見る。

 今立ち上がって誰かを呼びに行ったのは一兵卒の子なのだろうか。

 誰かに対して隊長と呼んでいることから、おそらくは何かしらの組織の人間なのだろう。

 追われていた機械兵とは少し雰囲気が違うでもないが、もしかしたら同じグループの人間なのかもしれない。

 もはや俺にできることはないが、一応警戒しないといけないか。

 

 さて、改めて冷静に考えてみると、意外となんとかなるのかもしれない。何故なら殺されていないからだ。

 特に尋問の必要も無い俺が口封じされるとしたら、普通に即殺だろう。

 その点こうやって起きるまで待ってくれて、かつ拘束すらされていない状況は異質ですらある。

 

 遠目から先ほどの少女を見る。

 茶髪をお団子状に纏めている彼女は、頭にヘイローが浮かんでいることがわかる。

 なるほど、「生徒」ってやつか。

 

 俺自身もよくわかっていないのだが、この世界には「生徒」という存在が居る。

 この物騒な世界で学校に通って、勉学を行い、いずれは卒業してしまう存在。

 

 来たばかりで俺もよくわからないが、一つ俺からしてびっくりしたのが、生徒の外見的特徴である。

 基本的にここで生きている我々人間は、「動物」だったり、「機械」だったりと、地球で言うところの人間そのものではないのが一般的なのだが、「生徒」に関しては地球と同じなのだ。

 

 もう一つ変なところがあって、頭の上に光輪が浮いているのだ。天使……なのか?とも思ったのだが、別に翼があるわけでもなく、宙に浮いているわけでもない。

 ともなれば、こいつは一体なんなのだろうか。……わかりきっていたことだが、もう俺が知っている人間はこの世には存在しないのだと改めて思い知った。

 

 ちなみにキリスト教もこの世界では見かけたことがない。

 まあ宗教形態が違うのは当たり前か?と思っていたら、エデン条約なる物の特集で『公会議』なんてワードが出てきたから考えるのをやめた。狂う。

 

 そして最後、1番の意味わからんポイント。それが「女」しかいないというところ。いくら街中を探しても、ネットで情報を検索しても、男の生徒が存在しないのだ。え、じゃあ生徒と我々獣人が子をなすのが一般的なのか?でももはや同じ種別にも思えないような……そこまで考えて、一旦このことは置いておくことにした。頭がおかしくなりそうなので。

 

 ……もしかして、この世界って元々は百合ゲーなのではないだろうか。ボブは怪しんだ。

 

「あんた、身体は?」

 

 横になったままボケっとしていたら、目の前にいつの間にか居た少女がしゃがみ込んで顔を覗いてくる。強気なスケバンって感じの子だ。なおロングスカートなのでパンツは見えなかった。

 

「割と身体はバキバキですけど、動けなくはないですね」

 

 ゆっくり身体を持ち上げる。やはり強打した左半身は打ち身になっているようで、尋常じゃない痛みだ。

 少し悶えながら起きあがろうとすると、目の前の少女が俺の身体を抑え込んできた。ちょっと痛い。

 

「無茶しないで。相当な勢いで壁に激突したんだから、かなり身体にきてるはずなのよ」

「それは……すみません、ありがとうございます」

 

 だからそこに手を当てるのはやめてください。痛みが洒落になってないかも。

 訴えかけると慌てて手を離してくれた。さては結構良い子だな?

 

 さて、横になったまま辺りを見回す。

 

 ここはどこだろう。

 よくわからない廃墟の部屋の中のようだけど、俺はまだブラックマーケットに居るのだろうか。

 

 外からは光が差し込んでいる。

 ちゃんと光が差す場所にいるということは、思ったより立地が良いみたいだが……ってちょっと待てよ。

 ポケットを探ってスマートフォンを取り出すと、そこに表示されている時刻はすでに正午を回っていた。そして無数の着信履歴。

 

「うげえ……」

「どうしたのよ」

「いや、職場から鬼電が。ちょっと失礼しますね」

 

 結論から言えば、普通に心配された。

 やはりこの乱世、当たり前に発生する事故なのだろう。

 今の自分にできる仕事なんてたかが知れていることもあり、お休みということにしてもらった。

 

「あんた、結構良いところで働いてるのね」

 

 通話を終えたところで、目の前の赤髪の少女が目を丸くして呟く。

 ああ、携帯から漏れ聞こえてたのかな。あんまりこの場で話さないほうが良かっただろうか。

 

 そういえば今の自分は身柄を確保されているのだった。

 なんというか、最初の少女からして緊張感がなくて忘れていた。命乞いとかしといた方が良いか?

 

「……ごめんなさい。なんでもやるので、命だけは許してくれませんか?」

「いやなんでそうなるのよ!」

「ですよね」

「ですよねってそれはそれで何!?」

 

 もっと目が丸くなってしまった。この子反応が良くて可愛いな。

 

 やいのやいの騒いでたらさっきのお団子娘と新しくフルフェイスヘルメットを被った子がやってきた。

 目線で会釈しつつ、自分の状況を説明することにする。

 

「いや、なんというか。実はその、がっつり人から逃げている身分でして」

「ああ、あの傭兵のこと?」

「災難だったわね。大丈夫、上手くはぐらかしといたから!」

 

 ビシッ、と決めポーズ。よくわからないが、この子たちがどうやら上手く撒いてくれたようだ。

 

「いやあ傑作でしたね、隊長。普段してやられてる中、ああも裏をかけると爽快感が……!」

「私らのホバークラフトにもカイザーに目をつけられてからろくに戻れてないですし、良い憂さ晴らしになりましたね」

「ふふ、ざまーみろって感じよ!」

 

 うーん、嬉しそうでなにより。

 

 彼女たちのちょっとした仕返しはともかく。

 俺の身を守ってくれたのには変わりないようなので、改めて腰を曲げて感謝する。寝っ転がりながらで大変恐縮ではあるが。

 

「気にしないで、うちらもあいつらの陰湿さは理解してるから。……てかそれよりそのキモいうねうねやめて」

「い、芋虫みたい……ふっ」

 

 感謝が足りないようである。さらにくねくねしてみると、打ち身の部分を赤髪の子にツンツンされた。俺の負けである。

 

 

 

 さて、それからというもの、俺はしばらく横になって色々情報交換を進めていた。

 この赤髪の子は河駒風ラブ、と言うらしい。お団子の子は月見里ノエル、ヘルメットの子は躑躅森ティアラ。……個性的な名前で覚えやすいね!

 

 彼女たちは3人でジャブジャブヘルメット団なるものを結成している。ヘルメット団というのはいわゆる族みたいな感じ。つまりはジャブジャブ組的な感じなのかな。

 元々はアビドス自治区にあるリゾート地周辺のホバークラフトに縄張りを持っていたらしいのだが、曰くカイザーからの依頼に派手に失敗し、以降目をつけられているようだ。

 

『つまり、盛大に仕事ミスった感じなんですか?』

『ち、ちが……!あれは巧妙な罠よ!私たちの目をもってしてもまさかアビドスの奴らが入ってるなんて思わないじゃない……ね、あんた達!』

『あれは敵ながらやべーって感じですね!まさか覆面を被ることでうちらを欺くとは……』

『そ、そうですか』

 

 どうやら彼女達は相手が悪かったことにしたいみたいだ。ここは変な話になる前に終わらせておこう。

 とまあそんな状態だから、食い扶持には相当困っているらしい。

 

「そんなんだからすっからかんで。さっき自販機漁りしてたんだけど、300円くらいしかなくて」

「350円ね」

「端金すぎますね」

 

 まるで今から豪雨でも降るかのような曇天模様って顔である。俺の母さんが作り終わった炒飯を丸ごとひっくり返した時の顔を思い出した。

 

 ……この少女達をそのまま放っておくのも可哀想か。

 幸い俺は元々散財趣味も無かったようで、お金はそこそこ貯まっている。

 少女達に誠意を示す分には十分足りる額はすぐに出しても問題ないだろう。

 

「あー、ちょっと口座から下ろさないといけないので少しお待ちいただきたいのですが、後で謝礼を渡させてください」

「「「マジ!?」」」

 

 うわ、曇天模様の雲の切れ間から虹色の光が差してきた。思わず眩しくて目を背ける。

 本当に困ってたんだろうな……。

 

 勿論、と再度頷けば手を繋いだままはしゃぎ始める彼女たち。目の前で美少女メリーゴーランドが運転開始された。ところで節制生活を送ってきたみたいだけど、君たちそんな動き回って大丈夫?

 

「もう今日は自販機漁り無しよ!」

「これでうちら、今日はコンビニの裏手に捨てられた廃棄弁当を食べなくて済むんですね!」

「久しぶりにまともなご飯、楽しみですね!」

 

 うわあ、これが育ち盛りの少女の生活か?これには俺も思わず顔を顰めてしまう。

 いくら何でもそんな食生活じゃ身体がボロボロになってしまうだろう。何か、救いはないのだろうか。

 

 前の世界では児童養護施設とか、そういうのがあったような気がする。でもここにはないのだろう。

 そして裏の社会のバイトをしようにも、カイザーから目をつけられている始末。なるほど、これは確かにきつい。

 

 目の前で喜んでいた少女達は一通りはしゃいで落ち着いたらしい。隊長の河駒風さんが神妙な顔つきでこちらをじっと見つめてくる。

 

「あんたマジで良い奴ね……言っちゃ悪いけど、うちらみたいな不良生徒にこんな優しく接してくれる変な奴中々いないわよ」

 

 そうは言われてもな。

 

「そんなもんですかね。ちゃんとあなた方は命の恩人なので、そりゃ謝礼くらいさせてくれないと」

 

 ポリポリと、頬を掻く隊長さん。目線は少し逸らして、顔はほのかに赤い。

 

 この子たち、心配になるくらい純粋だ。本当に悪いことしてるの?全然そんな感じしないけど。

 

「な、なんかむず痒いわね」

「まあまあ、貰えるものは貰っておきましょうよ隊長」

「はい、是非貰っていただけると嬉しいです」

 

 とは言え、あんまり無責任に未成年の子に肩入れするのも難しい話なわけで。この世界の常識も知らない俺が、気づかぬまま変なことをするのは避けなければいけない。

 

 俺は救世主にはなれない。なれないし、ならない。

 

 俺は少し複雑な感情を心のうちに潜め、曖昧な笑みを浮かべた。

 彼女たちより少しだけ長く生きている、大人の技術である。

 

 

 

 そんなこんなで謝礼を渡すためにブラックマーケットをコソコソと抜け出し、D.U.近郊まで出歩いてきた我々。

 キヴォトスの中でもかなり人が多いエリアであるこの場所だが、実は最近発生した異常現象により街の一部が破壊されていたのだとか。全然そんな気がしないよ。もはや考えらんないね。

 ちなみに損害の理由は巨大怪獣と巨大ロボットの戦闘によるものらしい。どんな世界観なんだ?

 

 ところで繁華街ともすれば、様々なお店がそこらかしこに立ち並ぶ。

 例えばなんてことないコンビニだったり、服屋だったり、この世界では良くある銃火器専門店だったり。

 やっぱり色んなお店が立ち並ぶのは壮観というか、テンションが上がるわけだが、それは俺みたいなおっさんよりもモロに影響を受ける奴らがいる。

 

「隊長、この服絶対似合いますって!」

「え、ええ……?でもうち的にはこういう」

「またオーバーサイズジャケットですか?そのコーデも隊長らしくていいですけど」

「折角スタイルいいんですし、たまにはこういうシースルーコーデも着てみてくださいよ!」

「趣味じゃないのよ!そういうあんた達が着なさい!」

「「えー」」

 

 俺は、どうしてここにいるんだ?

 

「ほら、オオカミ的にも見たいよなー?」

「……あの、帰って良い?」

 

 ぼそっとこぼすと、部下の子が眉をひそめ、こちらをジトっとした目つきで見てくる。

 

「うわ、話逸らしましたよこいつ!隊長!これは許せませんね!」

「あんた達の方が許せないわよ!!」

「あいだだだだだまってまって!!!」

 

 ここで河駒風さんのチョークスリーパーが炸裂。お団子娘もこれには堪らずギブと言ったところか。

 

「はあ、とりあえず行くわよ。服見るのも楽しいけど、これ以上オオカミを付き合わせるわけにはいかないし」

「あー、いえお気になさらず。俺は空気になってますので」

「……いいから従って」

「はい」

 

 無理やり部下たちを連れ出して、メインストリートに戻る。

 ウインドウショッピングというものはいつの時代もあるもので、やっぱり学生の頃は特に楽しいよな、なんて思ったりするものだ。

 それゆえにこんなおっさんが少女に混ざっているとこう、疎外感がね。

 

 前を歩く少女達を視界に捉えながら、動物やロボット、そして生徒で溢れかえる街を歩き続ける。

 ふわりと、何やら香ばしい匂いが漂ってくるのを感じた。

 これはクレープだろうか?良い匂いだ。

 バターと小麦粉の焼ける幸せの香りが、やけに鼻をくすぐる。……あ、そういえばまだ飯食ってないのか。色々あったせいで忘れていたな。

 いやはや空きっ腹にこの匂いは酷というものだ。うっかり気を取られて立ち止まっていたが、前のヘルメット団の子たちに離されてはいけない。

 

 気を取り直して歩こうとしたところで気がついた。そういえば前の子達も止まっている。

 

「あれ、どうしたんで──」

 

 くるる、と虫の鳴き声がした。重なって、三匹くらいいた気がする。

 目の前の少女たちが一斉にお腹を抑える。いや、もう遅いって。

 

 まあ、俺もお腹空いてるしな。

 三つ分のヘルメットに近づいて、わざとらしいかもしれないが咳払いを一つ。

 

「……ところで。助けてくれたお礼の先払いとして、飯を奢らせてくれません?俺、腹減っちゃって」

 

 

 

 諸君らは、クレープと言ったら何を頼むだろうか。

 

 元の世界ではフランスから20世紀後半に伝来したと言われるスイーツだが、日本人としては小麦粉で作った生地で具材を巻く形が一般的だろう。

 だが実のところ、本場フランスのクレープは巻かずに食べるらしい。詳しくは調べてもらえればわかるかと思うが、上品な皿の上に皮が数枚、さらにその上にクランベリーソースだったり生クリームだったりを乗せるような、まるでパンケーキのような食べ方をするのだとか。

 

「た、隊長!どれにすれば!」

 

 そんな日本独自の文化にすら発展しつつあるクレープだが、この世界でもクレープは日本の手持ちパフェ式のようだ。

 そこでまた問題になるのがトッピング問題である。

 

「たじろがないの!……アイス二つにしちゃおうかしら」

 

 多種多様なトッピングは消費者に選択の多様性を与える。しかし、選択の自由は時として人間を苦しみに陥れてしまうものだ。

 例えばオープンワールドのゲームで、ありとあらゆる可能性が提示される故に何も行動できなくなってしまったり。

 例えば牛丼チェーン店で、ねぎポン酢牛丼とまぐろのたたき丼どちらも食べたくなってしまったり。

 例えば旅行先で、水族館と南極調査船と海洋博物館を全て見て回る時間が無く、どれかを捨てるという苦渋の決断を迫られたり。

 つまるところ、選べる自由は選ばされる不自由であるわけだ。

 

「あの、これ本当に好きに選んでいいの……?」

「はい、そうです。あ、金はマジで気にしないでください。この程度なら余裕なんで」

 

 どうやら彼女たち、クレープを食べたことがないらしい。それは勿体無いと、全員分奢るから食べようという話になったわけだが……。

 

 お団子こと月見里さんはわたわたと慌て、ヘルメットこと躑躅森さんはちょっと引け目がちに訪ねてくる。

 河駒風さんは真剣にメニューと睨めっこしているようで、絶対に後悔したくないという意気込みが伝わってきた。

 

 いや、わかるわー。

 

 最初のクレープってさ、めっちゃ難しいんだよな。色々種類あるけど、どの組み合わせが一番良いのかとか悩む。結局大体はいちごバナナチョコクリームとかがNo.1って書かれてるんだけど、どう考えてもスペシャルの方が良いと思っちゃってな。だってアイスついてるし。

 しかも今は丁度腹ペコだ。そんな時に目につくのはやっぱりおかずクレープだろう。ツナピザチーズ、食べたことない人は人生損してるので一度食べてみてほしい。

 

「よ、よし決めたわ!うちはバナナチョコスペシャルのショコラアイス乗せ!」

「シ、シナモンアップルスペシャルにする!」

「私はいちごチョコクリームにしようかな?アイスお腹壊しちゃうんだよね」

「了解、じゃあちょっと待っててくださいね」

 

 さて、みんな注文決まったらしいし店員さんにオーダーするか。

 あ、俺の分はツナピザチーズとあずきクリームで。

 

「「「ちょっと待て!!!」」」

 

 なになになになに!?!?

 

 え?2つはズルい?だって君ら一つしか食べれないのかなと思って……いやそんな発想にならない?犯罪者の思考?サイコパス特有のイカれ回路やめろ?そこまで言うことないでしょ。

 

「じゃあほら、もう一つ選んでくださいよ」

「……うっ、それはほら、そこまでは食べられないかもだし」

「お、横暴だ!そっちが胃袋大きいからって!」

「そうだそうだ!」

 

 なんだこの子たち……。

 

「じゃあほら。3人で一つ頼んで、分け合って食べればいいんじゃないか?」

「天才?」

「天才だ」

「天才すぎる」

 

 なんだこの子たち……。

 

 とりあえず追加でもう一つツナピザチーズを頼んで、待ち時間。

 

「……なんか、生地の量少なくない?」

「あれ小麦粉だから結構膨張するんですよね。あと意外と伸ばすと気にならないですよ」

「ふーん……本当だ。思ったよりしっかり生地になるんだな」

 

「生クリームの威圧感、すごいな」

「まあほぼ生クリームを食べるみたいなものですからね」

「アイス二個乗せると……」

「な、なかなかやるわね」

「何と戦ってんですか隊長」

 

「ツナピザチーズ、意外とぺったんこね」

「意外と食べれちゃうんですよ」

「もう一個頼んどけばよかったかな」

「食べれそうならまた頼んでいいですよ」

「「「やったー!」」」

 

 そうこうしているうちにできたクレープを渡すと、彼女たちは一目散に食いついた。

 

「美味しいわ!」

「か、感動っす隊長!」

「久しぶりにこんな美味しいものにありつけたー!」

 

 うん。

 

 なんというか、この真っ先に湧いてきた感情をどう形容すれば良いのだろう。

 勿論喜怒哀楽で言えば喜に属する感情なのは間違いないのだが。

 「花が咲く」という形容詞がこれほどまで似合う光景があるだろうか。満面の笑顔に、思わず笑いがこぼれてしまう。

 

 思えば、彼女たちのことを姪っ子感覚で見ているような気もする。どこか微笑ましくて、彼女たちの嬉しそうな笑顔を見るとこちらまで嬉しくなってしまうような感覚が少し懐かしい。

 

 河駒風さんが、不服そうな表情でこちらをジロリと睨んでくる。

 

「……何よ。そんなに滑稽?」

「いや、そうじゃないです。喜んでもらえてよかったなと思って」

 

 ほら、と頬を指差し、クリームがついていることを伝えると、顔が途端に茹で上がっていく。

 恥ずかしげな表情をして、すぐさま指で擦りとってペロリと舐めた。本当に美味しい、とポツリとつぶやいた彼女。隣ではお団子ちゃんとヘルメットちゃんも勢いよくパクパクと食べている。

 

「ほら、ツナピザチーズもありますよ」

「あっ、そうだった!一番は隊長ですよね?」

「真ん中の一番美味しそうなところ、パクッとどうぞ!」

「え、いいの?じゃあ遠慮なく……美味しい!」

 

 こんな過酷な環境に身を置かれた少女。苦しい世界、苦しい状況の中でも、純粋に今を生きて、そして偶然にしろ人を助けて。

 そんな彼女に、どうか福音を。そう願ってしまうのは当たり前だと俺は思う。

 

「ほら、あんた達も食べなさい。口開けて」

「あむ。うまっ、クリームチーズの濃厚さと、ツナの引き締まり感が丁度良いっていうか……」

「あんた食レポできるのね」

 

 話を聞く限り、もしかしたら過去にとんでもないやらかしをしてしまったのかもしれない。たくさんの人に迷惑をかけたのかもしれない。

 でも、それでも今の彼女達はあんまりじゃないだろうか。

 どこかこの世の不条理を感じてしまう。

 

「あっ、もうなくなっちゃった」

「でも意外と満足かも」

 

 それでも俺は彼女の救世主にはなれない。そんな烏滸がましいことはできない。

 

 ……ただまあ、よく考えたら俺にはこの世界の友人はいない。かつて馬鹿騒ぎして酒を飲み明かした親友もいなければ、生まれてから家を出るまでずっと一緒だった親も、この世界にはいない。

 

 つまり、俺には友人がいなくて、友人が欲しいと思う気持ちはあるわけだから。

 

 たまにこうやって。

 

「……そういえばこういう屋台商品って食べたことあるんですか?お好み焼きとか」

「無いわよ」

「冷凍しか食べたことないな」

 

 知り合いとして、ご飯に行くくらいなら許してもらえないだろうか。

 

「興味あるなら、今度どうですか?」

 

 彼女たちは目を輝かせてこう言った。

 

「「「行く!」」」

 

 

 

 そうして彼女たち、ジャブジャブヘルメット団との出会いは終わった。勿論帰りに次の予定を立てるため、連絡先も交換した。

 今まで一人も友達欄に存在しなかったモモトークに、新しく3人追加されたのだ。少し嬉しい。

 

 さて、明日の仕事の支度をして、風呂に入り、布団に入ろうかな、というところでふと気がついたことがある。

 

「謝礼、渡してないわ」

 

 モモトークから着信音が鳴り響く。

 この世界では初めて聞いた音だった。




続きはそこのあなたに任せます。俺は読み専なので。書くにしてもずっと手元で眠らせ続けているナギサ様の小説の方を書き上げたいので。

カイザー周りとの因縁とか、ラブたちの現状とかは、詳しく描写されていないのでかなりの独自展開になってしまったかもしれないです。
まあ連載中作品の二次創作なんてそんなもんですよね。既存のアビドス二次とか、ちょっと3章で開示された情報多すぎてかなり大変そうだなと思ってました。それでもあの作品の良さは消えないわけですから、きっとこの作品も大丈夫だと信じたいですね。
もしかしたらそのうち齟齬が出てしまうかもしれないのですが、そこはご愛嬌ということで。

ちなみにラブちゃんのことはあまり知らないんですが、今回の後日談イベントでかなり好きになってしまった。解釈違いあったらごめんなさい。ただし餌付け概念は流行ってください。

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