モンスターが現れた終末世界で海賊やります 作:MIWA
2054年5月1日――突如として世界中に後にダンジョンと呼ばれる構造物が出現。その内部より発生したモンスターによって世界は滅びた。
人口は大きく減り、インフラは壊滅し、国家は機能を失った。
モンスターには現代兵器がほとんど通用せず『王』と呼ばれる上位種に至っては核兵器を受けて無傷だったとか。
モンスターに通用するのはダンジョンで得られる秘宝の力とスキルと呼ばれる頂上的な異能のみで、世界中ではそんな宝と力を得た人間が点々と集落規模の拠点を作って生存している。
とは言えそれは、『海賊』をやっている僕とはほとんど関係のない話だ。
◆
2054年5月1日。目が覚めてすぐにスマホを見ると時刻は13時24分と表示されていた。
同時に幾つものニュースサイト、動画投稿サイト、SNSなどで全く同じ事件が取り扱われていた。
【ダンジョン出現・モンスター発生・緊急避難命令・自分の命を守れ】
そんな危機感を煽るような文言が幾つも目に入ってくる。
しかも海外のサイトに行っても全く同じ状況が報道されていた。
そして目に映る倒壊した建物群を見て、僕はもう理解してしまった。
どうやら世界中で未曾有の大災害が発生している。
それにモンスターには近代兵器が効かないだとか、米国は核兵器まで使ったが生き残ったモンスターが居るだとか。
「なんだよこれ……」
僕の独り言は海のさざめきに掻き消されている。
そう、僕は今浜辺に居るのだ。
もっと言えば浜辺付近に停泊しているクルーザーの中にいる。
昨日はそう、僕は所属したサーフィンサークルの新入生歓迎会だった。
それで僕はまだ18だが、初めての酒を死ぬほど飲まされて完全に潰れた。
この高級クルーザーはそのサークルのOBが所有していたものらしい。
しかし、僕一人取り残されているところを見ると他の奴等は僕を置いて逃げて行ったのだろう。
水着の女の子に釣られて入るんじゃなかったこんなクソサークル。
まぁ知り合って数日だし、別に期待はしてない。
しかしこのままここに居て僕もモンスターに襲われた普通に死ぬ。
ここから見える街の様子を見てもこのニュースがドッキリや冗談の類ではないことは明らかだ。
今から避難所に逃げる?
というか逃げてどうなる?
核兵器も効かないような奴がいるのに軍とか自衛隊がどうにかできるのか?
もしどうにもできなかったら避難所って閉鎖環境で発生する極限状態での人間関係だ。暴力的な奴が仕切り出したりするのだろう。
そんなのに巻き込まれるなんてたまったものじゃない。
「はぁ……」
僕は溜息を付きながら足下を見る。
結構新しい船なのだろう。
傷も汚れもほとんどない。それに燃料も満タンだ。
まぁ、浴びるほど酒を飲んでいたしそれに船酔いまで加わると全員死ぬから昨日は海にはでなかったからな。
「よし、まだ電波は繋がってるな。地図アプリ開いてっと、ここらのスーパー……いやデパートとかホームセンターの方がいいか……」
急いでそれらの情報をスクショして保存する。
いつ電波が途絶えてもおかしくない状況だ。それにモンスターに遭遇する可能性もある。急がないとな。
衣服、食料、クルーザーの燃料、ソーラー充電器、歯ブラシ、後何が必要だ?
釣り竿欲しいな。それに料理道具も。コンロとかライターとか火を起こせる物も多めに欲しい。
そのほか色々と必要そうな物を拝借した車に乗せてクルーザーへと運び込む。
それでも食料はいずれ現地調達しなければならないだろうし、燃料だって底を尽くだろう。それにクルーザーのメンテナンスは僕には無理だ。
運転だけなら説明書見ながらなんとかできるかも……っていうかやるしかないけど……
それでも終末世界での問題に巻き込まれるくらいなら手頃な無人島にでもいって生活した方がマシだ。
「よし、後は歯ブラシセット30組を運ぶだけか」
車から最後の荷物をクルーザーへ運ぼうとした、そんな時にそいつは僕の前に現れた。
「グルルルルルルルルルルルルル!」
狼だ。けど普通のそれの数倍の大きさをしてる。
それに銀と緑が混ざったような色の体毛から電気みたいなものがバチバチと放出されてる。
絶対に普通の動物じゃない。
あれがモンスターか……
「あのさ、友好的にいかない? 缶詰上げるからさ!」
「ガラァ!」
あぁダメだ。言葉通じる類じゃない。
無理矢理女の子にお酒飲ませて口説こうとしてる先輩たちと同じタイプだ。
死にたくない。そう思いながらギュッと目を瞑る。
しかし、いつまで経っても身体に痛みが来ることはなかった。
そんなレベルに即死でもう天国にいるのかな、なんて思いながら恐る恐る目を開けると――時間が止まっていた。
いや、自分で見えてる景色にツッコミを入れたいのはやまやまだけどそうとしか表現できない。
大口を開けたカミナリオオカミは僕の鼻先に食らいつこうジャンプした状態で停止しているし、僕の身体も全く動かない。
と思ったら超スローで動いてる。
ちょっと待って、ってことは僕これから死ぬじゃん……
「や~~~~~~~」
やばどうしよう。って言いたかったのに声すらスローになってるらしい。
(ねぇ貴方……)
どうしようかと悩んでいると頭の中に声が響いた。
幻聴か……僕も疲れてるんだな……
(貴方ってば!)
(はい!)
ビックリした~急に大声出さないでよ。
っていうか、誰?
(こっちよこっち、右側!)
視界の端に移るその方向へ意識を向けると、確かにそこには何かが居た。
打ち上げられたクラゲみたいな……いや、よく見ると全然そんなんじゃない。
青いドレスを着た……小人……?
(君が僕に話しかけてるの?)
(そう。私はアイシア、水の大精霊……貴方にお願いがあって減速の魔法を使っているの)
げんそく……って『減速』って意味だよな。
ってことは僕の命を救ってくれてるのはこの小人ってことか……
(なんでも聞くよ、だからこの状況なんとかして欲しいんだけど……)
(じゃあ私と契約してくれる?)
(それって料金発生するかい?)
(お金は取らないわ。取るのは魔力。でも心配しないで、貴方の生命を脅かしたりはしないから)
それなら今の状況よりは随分マシだね。
(契約するよアイシアさん)
(ありがとう、それじゃあ貴方の名前を教えて)
(僕は、湖城……
(ありがとう。我が真名と貴方の真名に誓って、我等は契約を結ぶ)
そう頭の中に声が響いたその瞬間――オオカミの首が切れ落ちた。
「ごめんね、ルカ。少しグロテスクだったかしら?」
頭の中への声じゃない素の言葉で、彼女は僕の肩に乗りながらそう言った。
「でも貴方の魔力を借り受けられたことで私も力を少しだけ使えたわ」
「へぇ、ちなみに今のも魔法なの?」
「そうよ。今のはアクアブレイド。高水圧で物体を切断する魔法ね」
当たり前にそんなことを言った水の大精霊のアイシアさん……様を連れて、僕はクルーザーの中へ入る。
「あのさ、ちなみに僕について来ていいの? 自分の行きたい場所とかは?」
「いいわよ。でも強いて言えば、海が見える場所に居たいわ。こんなに綺麗な海は初めて見たから」
そう言いながらアイシアは輝くような青い瞳を海へ向けて煌めかせていた。
そうか、だったら僕の行動とは一致してる。
「じゃあ海へ出ようかアイシア。僕等の冒険を始めよう」
「えぇ、楽しそうね」