仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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111・お祭りの前編

 休日の朝の河原は穏やかに時間が過ぎていて、色んな人が思い思いに楽しんでいる。

 

「あー! ごめーん!!」

 俺の投げた野球ボールは狙いから大きく外れる。

「平気平気!」

 そう言って大暴投を追いかけるのは新井だ。

 

 キャッチボールをするのは初めてで、投げ方なんてものもわからなかった。

 

「投げるぞー!」

 俺はグラブを構える。新井の投げる球は俺のと違って綺麗に飛んできて、バスッ! っと俺のグラブに収まる。最初はちょっと怖かったけど、上手く捕れた時の感覚はなんだか気持ちいい。

 

「次はちゃんと投げるね……!」

 ボールを手に取り、新井の投げ方を真似ようとする。

「肩の力抜いていいぞー!」

「お、おう!」

「投げるっていうか、届ける感じでオッケー!」

「わ、わかったー!」

 

 投げるじゃなくて届ける……俺はボールを上手く投げようとするのをやめて、まずは新井の所にボールが届くようにイメージをする。えいっと投げたボールは放物線を描いて、ふわーっと新井の方に飛んでいった。それを新井は追いかけてキャッチする。

 

「良い感じ良い感じ!」

「そうなの?」

「初めてならこれでオッケー!」

 

 それからまた新井がボールを投げる。バシッとグラブで受け止める。気持ちいい。

 

「ちょっと休憩ー」

「新井をいっぱい走らせちゃったもんね……」

「初めてならそんなもんだって」

 

 先週に誘われて、今日は新井と俺のふたりきり。熊谷抜きなのがなんだかすごく珍しい。日影に入って水分補給をする。

 

「いやさー、実はな。俺、こっそり野球再開した系なんだよな」

「えっ!? そうなの!?」

「熊谷には秘密系なんだけどな!」

「熊谷が聞いたら喜ぶと思うのになー」

「でも、驚かせたい系でさ。マイナスも黙っててくれよなー?」

「それはもちろん!」

 

 熊谷が知った時の反応が俺も楽しみだ!

 

「いやさ、それでどうしてマイナスを呼んだかも話したくてさー」

「それは確かに。俺、野球の事は全然詳しくないしね」

 

 新井は少し、恥ずかしそうに顔に手をやる。

 

「実はさ、マイナスの声援を聞いて、いいなぁって俺、思ってさ」

「えっ!? 俺の声援!?」

「熊谷への本気の声援。隣で聞く事になったけど、それがなんかさー」

 

「将来とか考えたら野球やってる場合じゃないし、取捨選択って大事系じゃん。

 それで、野球は好きだけども応援とかでいいやってして、俺の頭で行ける一番良いB高校に入って。安定が良いよなぁって思ってた系なのよ。

 でも、熊谷の事を羨ましく思ってるのもある系でさ、ぶっちゃけ未練タラタラ。けどそのうち消えるって思いたかった。

 

 そんな時のマイナスの本気(マジ)の声援よ。

 

 羨ましいーってガチで思った。ついでに頭の中で妄想が膨らんでさ、抑えられないわけよ。熊谷と野球して、マイナスに応援してもらう場面。

 実現の為にめっちゃ忙しくなったけど、でもめっちゃ楽しくてさー」

 

「それでさ、俺の事も、応援してもらえないかなーって頼みたくってさ……」

 

「その……もちろん応援するよ!? 俺でよければ!! というか、そう思ってくれたなんて俺も嬉しい!」

「アハハ……マイナスならそう言ってくれるって思ったぜ。俺のスーパー私利私欲なのに」

「応援するの好きだから、それで喜んでもらえるなら何よりだよ!」

「そりゃ俺も同感!」

 

 ふたりで一緒に笑う。梅雨が明けた夏の日差しが清々しい。

 

「もうちょっとだけ、キャッチボールしないか?」

「俺、下手だけどいいの?」

「一緒に同じ事して時間を過ごすのが本命だから、上手い下手はどうでもいい系よ」

「……そっか!」

 

 それから俺の大暴投が何度も飛んだ。

 

 

 ――

 

 

「あのお面ひとつくださーい!」

「はーい」

 並べられたお面を取って男の子に渡す。ありがとう! と言って男の子は家族の所に戻り、お面を嬉しそうに見せる。

 

 お昼前に夏祭りの会場に来て、屋台の手伝いをしている。鷹田は隣のヨーヨー釣りの店番。鷹田の手腕もあるのか結構繁盛してる。

 お祭りに来るのっていつ以来だろうなぁー。夏は忙しい時期なうえ、ひとりで行くなんて事はもちろん無かった。移動中の車の中から眺める事はあったかな? 小学生の頃に縁日だっけかは参加した覚えはあるけど……

 

「おーい、ちょっと休憩してこーい」

「あ、はーい!」

 

 大人の人に促されて、鷹田と一緒に休憩をしにいく。テントの下にたくさんのテーブルが並べられて、ご飯を食べるのはもちろん、座って休むのにもちょうどいい場所だ。

 

「こっちこっちー!」

 

 見ると近藤さんが俺たちを呼んでいた。そっちにお邪魔する。そこには近藤さんのパパもいた。

 

「おつかれー、鷹坊にテル坊」

「ふたりともお疲れ様。ここにあるの適当に食べていいよ」

「うーっす。遠慮なくいただきまーす」

「どもー」

 

 焼きそば、お好み焼、ホットドッグや枝豆なんかもある。

 

「何か飲み物いる? 取ってくるよ」

「俺にはビール頼むわー」

「お父さんには聞いてないんだよね」

「そりゃないぜー」

「こんなに出来上がってるとミスズさんに大目玉を食らう事になるっすよー」

「あー、そりゃ勘弁だわ」

 

 近藤さんに飲み物を頼み、適当に目の前に並んでる物を食べ始める。なんか雰囲気もあっていつもと違う味わいがある気がする!

 

「お前らあれからどうよー仲良くやってかー?」

「まぁまぁっすかね。コイツはスッゲーバカなんで手ぇかかってしゃあねぇっすよ」

「うー、酷いこと言われてるのに反論できない……!」

「厄介ごともちょくちょく拾ってくるし、世話焼けるっすよマジで」

「いつも鷹田には助けられてます……マジメに」

「ハハッ! そりゃよかった!」

 近藤さんのパパは缶ビールをクイッとあおる。俺たちの話は半分しか聞いてなさそうー。

 

「まぁアレだ。男同士といやぁやっぱ酒呑んでこそだ。分けてやるからグイッといこうぜ!」

 そう言って缶ビールを俺たちの前にドンッと置く。えぇー!?

 

「あーダメっすよー。今は未成年飲酒はもちろん、無理に呑ませるのもヤバい世の中っすからー」

「ちょっとくらいならバレねえってー」

「い、いやぁ……ちゃんと大人になってから俺は頂く事にしようかと……」

「一口! 一口だけでいいから!」

 

 近藤さんのパパは良く言うなら素直に自由に生きている、悪く言うなら奔放でだらしない人だ……元バンドマンの魅力はなんだかんだあるけども、俺のパパみたいなキッチリした人からすると好きにはなれないんだろうなぁ……

 

 何とか宥めていると、俺たちの後ろから手が伸びてきて缶ビールを取っていく。

 

「ぷはー、やっぱり昼のうちに飲むビールは最高ねー」

「ケ゚、ゲゲッ……」

「で、アンタはよそ様の子になに酒勧めてんの?」

「いや、その……呑みたいだろうなって思って」

「今日これ以降の飲酒禁止ね」

「そ、そんなー!?」

 

 その女の人はそのまま近藤さんのパパの隣に座る。

 

「どもー、ミスズさんー」

「うちのバカ亭主がいつもゴメンねー」

「いやいや、いつもお世話になってますからー」

 

 この人が近藤さんのママかな? 容姿端麗で堂々とした立ち振る舞いがちゃんとした大人の人だって感じさせる。これ貰うね、と並んだ食べ物をつまんでいく。

 

「キミがマイナくん?」

「あっ、はい。近藤さんと鷹田にはいつもお世話になっています」

「こちらこそ。この間はこのバカのせいでゴメンねー」

「あ、いえいえ。むしろ俺が無理を頼んだせいで……」

「このバカがもっと大人の対応すべきだったのよ。コウイチくんもあの時はありがとうねー」

「いやー、俺も面倒見る立場で責任あるっつうのか、結果的には色々オーライだったんで全然問題ないっす」

 

 ホント、この間の事はみんなのおかげで一件落着だったから何も言えない……特に鷹田には感謝しかない。

 

「お待たせ。お母さんもお仕事おつかれさま」

「ん、ありがとうね。ユミ」

 近藤さんにお礼をしつつ、俺たちも飲み物を受け取る。

 

「そういえば、ユウくんとマナちゃんは?」

「ユウジくんは学校の友達と遊びに行ってるよ。マナちゃんも一緒」

「祭りの屋台なんてコスパ悪いのに、あいつらよく遊びに行けるなぁー」

「鷹田が現金過ぎるだけでしょ? 屋台で買うのも楽しいんだから」

「その時間は商売して、後で楽しめばいいだろー」

「あーもう! ホントに夢が無いんだから!」

 

 俺は金銭感覚に自信が無いから何とも言えないけど、鷹田の普段の様子からでも出費をなるべく抑えているのはわかる。でも、この雰囲気で何も買わないのは少しもったいないなーとも思う。

 

「ふふ、せっかくだしあなた達も少し遊んできたら?」

「えー、稼ぎたいんで大丈夫っすよー」

「お小遣いあげようと思ってたけど、じゃあいっか」

「なら仕方ないっすねー遊んできまーっす」

「鷹田アンタって奴はホント……」

 鷹田ってホント鷹田。

 

「なぁなぁ俺にも小遣い頼むよー」

「はいはい、来月ね」

「やったぜ! って今じゃないのかよっ!」

「ほら、じゃあ3人ともいってらっしゃい」

 

 ありがとうございます、とお礼をしてその場を離れる。

 

「まぁ……ああは言ったけど、別に鷹田の自由に使ってくれて構わないからね」

「けどコスパ悪いの買うのが楽しいんだろー?」

「あー、もう鷹田ってホント鷹田だよね!」

「うんうん、ホント鷹田って鷹田」

「仕方ねえなぁー、コスパ最悪に付き合ってやるよ」

 

 

 ――

 

 

「あの後ろに並んでるのは景品でも何でもなくて、当たるのはやっすいオモチャ」

「へー」

「射的の的には重りがついててコルクじゃ倒せねえんだよ」

「そうなんだ……」

「輪投げのピッタリ賞って物理的に絶対無理な設計になってんだよな」

「よく見るとそうなのかも……?」

「ルーレットも一番良いのが出ないように細工があって――」

「ねぇ鷹田?」

「なんだよ。マイナスに現実を教えてやってるのに」

「お祭りの楽しみ方ってそうじゃないでしょ!」

 

 色んな屋台を見て、鷹田が色々教えてくれるけども夢が無さ過ぎてしょんぼりしちゃうのは確かだ……

 

「だからマシな店を探すためにさー」

「結局全部にケチ付けるじゃない? 別に買いたくないなら買いたくないでいいけどさ……」

「いや、だから良さそうな所探してるだけで」

「じゃあ良い所見つけたら教えて。私は適当にひとりで行くから」

「あ、ちょっと待てって」

 

 近藤さんは聞かずに怒って行ってしまう。近藤さんひとりで大丈夫かなって心配はあるけども……俺が追いかけても仕方ない所があるよね……

 

「これだからなぁー」

「いや、俺もちゃんとはわかんないけどもさ……でも何も考えずに楽しみたかったんじゃないのかな……?」

「けどよー、金出すんだからリターン考えないとか有り得ないだろ」

 

 うーん……鷹田の言う事はわからなくもない。鷹田だし。

 

「そういえば……鷹田ってデートコンテストで最下位だったよね」

「ああん? あれは会長と渋谷が俺にいちゃもん付けただけで――」

「でも俺より下だったよね」

「だからなんだよ?」

 

「仕方ないから鷹田に教えてあげるかー」

「うわっ、うっぜ」




個人的にデートは静かな所が好きだったりします。

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