仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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118・お仕事!ご飯!温泉!お布団!友達!先輩!全部最高!

「いいか? マジでよく聞けよ? これは冗談じゃなくて真剣に」

「お、おう」

 

 浴場の掃除の時に、鷹田によく言い聞かせられる。

 

「風呂場は事故を起こしやすいから、ちゃんとゴム靴履いたり、手袋やマスク付ける事」

「ゴム靴ヨシッ! 手袋ヨシッ! マスクヨシッ!」

「で、洗剤使う時は使う洗剤をよく確認する事。その洗剤は何性って書いてある?」

「えっと……中性……?」

「オッケ。だいたいの掃除は中性だけ使うから問題ねえけど、酸性や塩素系っていうのもある」

「へー」

「混ぜるな危険ってのは分かってるか?」

「んー……?」

 

 記憶を振り返る……見たことあるような無いような……

 

「混ざると毒ガスが出てくる洗剤があるんだよ」

「えっ、そうなの? 怖い」

「だから、使う前には絶対に確認な。そもそもお前に中性洗剤以外使わせるつもりねえけどよ」

「わ、わかった……!」

 

 気をつけないといけない事ってたくさんあるんだなぁ……鷹田が見てくれるから安心だけど、自分でもよく気をつけて事故が無いようにしよう……

 

「ふふ、貴方ってば、私よりしっかりしているかもしれないわね」

「いやぁ、こいつは本当にそそっかしいんで、これくらい言ってもまだ安心できねえっすよー」

「自覚があるので、本当に助かってます……」

「作業手順書には目を通したんすけど、一通り終わったら抜けが無いか確認お願いします」

「ええ、それじゃあふたりとも、お願いね」

「がんばります!」

 

 それからも鷹田に教わりながら浴場の掃除をする。

 俺ができたつもりでも、抜けを教えてくれたりコツを教えてくれたり。

 そのたびに鷹田はやれやれってするけど、教える立場の鷹田はすごい活き活きしてる。

 

「大変だけど、やっぱり掃除って気持ちいいね」

「わかりやすいって所も仕事としてやりやすくて助かるぜー」

「誰かが綺麗にしてくれてるから、みんなが気持ちよく使えてるんだって思うと掃除もはかど――うわっ!? 何!?」

「わりっ! ホースの水そっちに飛んじった!」

「ビックリしたー! 気をつけてよね!」

「わかってるってー」

「もうー……って、またっ!? やっぱりわざとでしょ!?」

「わりわり、たまたま――」

「あっ、ごめーん! ブラシの水飛んだね!」

「たまたまなら仕方ねえよな!」

「おう! たまたまだしね!」

 

 その後、俺たちはビッショビショになった。

 

 

 ――

 

 

 タオルや服を畳んだり、トイレを掃除したり、配膳を手伝ったり。外がやっと暗くなった頃に晩御飯で、もうお腹ペコペコだ!

 

「お疲れ様っす。先輩たちはどうでしたかー」

「荷物運んだり、部屋の掃除したりとかかな……フロントに少し立つ事もあったかな」

「なんだかんだそっちも忙しかったみたいっすねー」

「女将さんたちはもちろん、お客さんも良い人が多くてそのおかげで何とかだったなぁ」

 

 森夜先輩たちもバイト、良い感じにできてたみたいならなんだか嬉しいなぁー!

 まかないのご飯がすごくおいしい。おかずが無くてもご飯だけでいっぱい食べられそう。

 

「お疲れ、量は足りてるかい?」

「お疲れ様です、正直いくらでも食えそうでヤバいっす。美味すぎるのもあって」

「嬉しいねぇ。夜食におにぎりでも用意しておこうか」

「めっちゃ嬉しいっすけど、いいんすかー?」

「私もその歳頃はいくら食べても足りなかったからね」

「それなら甘えさせてもらいます、ありがとうございます!」

 

 すっごくすっごく美味しいです! ありがとうございます!

 

「そうそう、明日の早朝に仕入れに行くのだけど、よかったら2人ほど手伝ってくれないかな」

「ん、バイトなんで言われたら手伝うっすよ。もちろん」

「仕入れ、どんな事するか俺見てみたいです!」

「俺らは鷹田たちに任せる事にするかな」

「ありがとう。朝早いから、早くに眠るようにね」

「はい!」

 

 何をするのか全然想像できないけど、新しい事をするのはすごい楽しみだ!

 ご飯を食べ終えて、お皿洗いしたりなんだりして今日のお仕事が終わって、あてがわれた部屋のへみんなで戻る。

 

「このままお風呂に入ったら、グッスリ眠っちゃいそう」

「まぁそれがベターだな。朝も早いしよ」

「うん、だから俺、先にちょっと基礎練習だけしとくね」

「えっ、マイナス練習するのか……? 疲れてないか……?」

「もうむしろ、早く触りたくて触りたくて仕方なくって……」

 

 時間も見れば、のんびりしていると遅くなって迷惑になっちゃう! 持ってきていたバイオリンケースを取り、女将さんの所へ。許可を貰って外でバイオリンを用意する。

 

「そういえばお前、割とバイオリン持ってきてたよな。なんでかは知らねえけど」

「えへへ……色々あって」

 鷹田がなんだかんだついてきてくれる。エレキギターも持って。

 

 とりあえず、いつものロングトーン。

 うん! 舞い上がり過ぎてる! 深呼吸して、気持ちを落ち着かせて、一番良い音に調整調整……

 一通りヨシッ! それから音階練習。この楽しい気持ちを、好きに鳴らすんじゃなくて、聴いてくれる人へ伝わるように。あぁ、今日は本当に楽しかったんだよ!!

 

「はぁ……お風呂行こうっか」

「……おう。そうしようぜ」

 

 

 ――

 

 

「あ……なんだかスッゴい眠たくなってきた……」

「おいおい、湯船の中だぞ」

「がんばって起きる……」

 

 鷹田とお風呂に入る。広い浴場はやっぱり最高だね。

 

「そういえば……このお風呂の臭いって……毒ガスなの……?」

「硫黄の臭いな。めちゃくちゃ濃かったら普通にそりゃ死ぬけど、それなら警告あるから平気だ」

「へー……そうなんだ」

 

 何とも言えないクサイ臭い。でも、非日常感があって、すごい良いよねぇ。

 

「あーもうダメだなコイツ。おーい! 出るぞー!」

「ウン……」

 

 鷹田に連れられてお風呂を上がる。フワフワしてる。ムニャムニャ……

 

「風呂上がりの牛乳も用意しといたのによー」

「飲むー」

「赤ちゃんかよ」

「スゴい美味しい……」

「赤ちゃんだわ。ほれ、がんばって部屋まで歩け」

「ウン……」

 

 鷹田に連れられて何とか部屋に戻る。敷かれていた布団に倒れるように横になると、パリッとしたシーツの心地良さが癖になる。

 

「先に布団敷いておいて正解だったわ」

 

 鷹田のそんな声が聞こえた気がして、でもストンと眠ってしまった。

 

 

 ――

 

 

 鷹田のスマホのアラームが鳴って、目を覚ます。時間はまだまだ深夜だと思うのに、なんでだろう……鷹田は熟睡してるみたい。

 勝手に人のスマホを触るのも良くないよなぁって思うけど、だからと言って起こすのは……と悩んでるとアラームが停まった。よかった。もうちょっと寝よう――また鳴り始めた。

 

 割とうるさいから眠れない……少しして停まって、また鳴る。鷹田は起きない。

 仕方ない、きっと何かの間違いだからこっちで停めよう……掛けられていた布団から這い出て、鷹田のスマホを見る。

 

『仕入れの起床時刻』

 そう書かれていて思い出した。

 

「鷹田、起きて」

 声をかけて身体を揺する。ちょっとやそっとじゃ目覚めない。

 なんだかんだ、鷹田もスッゴい疲れていたんだろうなぁ……そういう所を見せたがらないのが鷹田だけど。

 

 どうしよう? 俺ひとりで行く? それとも先輩に代わりに? 鷹田のためにするなら何がいいかな……

 

 うん、決めた。

 眠っている鷹田を抱えてみる。それでもスヤスヤ寝ている。重い……けど、がんばって何とかいける。

 

 ……

 

「おはよう、ってまだ寝ているな」

「あはは、起きなくて」

「無理して連れてかないでもいいが……」

「プライド鷹田なんで、寝坊して遅刻は本人がショックだろうなぁって思って」

「そうかい。じゃあ、車の中でもう少し寝かせといてあげようか」

「ありがとうございます」

 

 手伝ってもらって鷹田を乗せる。風邪を引かないように布もかけておく。

 そして出発。まだまだ辺りは暗いけど、遠くは白みがかっている。今日はどんな事があるんだろう。期待で胸がいっぱいになる。

 

 ……とはいえこの時、鷹田を置いていった方がよかったんだろうと気が付くのは後の事なんだけどね……

 

 

 ――

 

 

「いやぁ俺たち、マジで爆睡してたんすね。サーセン!」

「仕方無いから何とか連れ出してしまったよ」

「マイナスは俺より先に寝たのに、アラームに気が付かないとかヤバすぎだろー」

「そうだねー、移動中ずーーっとスヤスヤしてた鷹田の寝顔を見て、悪いなーって思ってたよー。ゴメンねー」

「次は叩き起こしてもらって大丈夫っすからね」

 

 本当の事を言うのは無粋だから言わない。それになんていうか、鷹田のあからさまな強がりは逆に可愛らしく感じる。だから遠慮なく軽口で返す。板前さんは笑っている。

 

「さて……ふたりには積み込みの手伝いをしてもらいたくてね」

「うっす! 何でもどんと任せてくださいよ!」

「がんばります!」

 

 そういう訳で朝早いけど活気みなぎる市場で、食材の入ったカゴを運んで何度も往復する事になった。どこかで、何かでしか知らなかった、この光景を実際に見るのって楽しい。

 

「セリっていうのも見てみたいなー」

「マイナスが見ても何もわかんねえだろきっと」

「それはそうだろうけど、普通は見る事無い場所だし見たいじゃん!」

「仕方ねえなー。んじゃ、さっさと運んでおっちゃんの所行ってみようぜ!」

「そうする!」

 

 ……

 

 ふたりでスタコラ運び終えて、板前さんの所に行く。驚いた様子だったけども、セリを見てみたい事を伝えたら快く許可してくれた!

 今はお魚とかのセリをしてるみたいだ。

 

 お兄さんがすごいまくし立てるように値段を喋って、周りの人たちは手を変な形で挙げてる……?

「やっぱり何がどうなってるかはわかんないね……」

「よくわかんねえけどすげーなー」

「え、もう次?」

「へー、思ってる以上にパパっと決まんのな」

 

 もう完全に俺たち置いてけぼりの世界だけど、それでも鷹田と眺めてるだけですっごく楽しい。

 

「ん、おっちゃんが何か買うみたいだな」

「わわっ、もう決まった?」

「早いなー」

 

「お待たせ、思ったより早く済んだよ」

「いやー、素人が見ても何もわかんなかったっす」

「でも、なんかすごいなーって思いました!」

「はは、それはよかった。もう少しだけ見ていくのだけど、一緒に来るかい?」

「行きます!」

 

 板前のおじさんにくっついて市場を見学する。おじさんは時折、声をかけて食べ物を買っていく。買ったものをどんな料理にするのか、楽しみだなぁー。

 

「おっ、市場だと貝はこんな値段なんすねー」

「食べたいかな?」

「まさか良いんすかー?」

「はは、悩んでただけだよ」

 

 おじさんが貝を買う。その横で鷹田が嬉しそうにこっちを見る。こういう所も流石鷹田だなー。

 

「さ、車に戻ろうか」

「はい!」

 

 

 ――

 

 

「私は古いから、フォークソングが好きかな」

「アコギとハーモニカの奴とかっすか?」

「そうだね、素朴で目を閉じると季節を感じられるんだ」

 

 フォークソングは、由来としては民謡や伝統に根ざした音楽だけど、今は楽器の生音を大切にする素朴な音楽ってイメージだ。素朴と言っても、楽器の音色のパワフルさでありのままを、等身大の世界を描き出す。俺も好き!

 

「昔は、駅前は旅行客で溢れていてね。今はだいぶ廃れて、時代を感じるよ」

「今はどこも大変だって聞きますしねー」

 

 鷹田と板前のおじさんの話を聞きながら、外を眺める。昔はどんな光景だったんだろう。そんな想像をしながら。

 

 ――ん、アレはなんだろう?

 

 道の脇に石の何かが転がってるのが見えた。本来なら気にするような事じゃないんだけども、その時はなんだかスゴい気になっちゃったんだ。




フォークソングと聞いてどんなものを思い浮かべますか?

個人的には3つに分けられると思っています
①ギター片手にメッセージ性の高い歌を歌っているもの
②素朴で普段は聴きなれない楽器が使われている歌
③そもそも知らん

元々はマイナくんも言うように、フォーク=民謡という翻訳を当てられる音楽ですが、時代と地域によって多様な文化となったジャンルでもあります。
アメリカでの話になりますが、第二次世界大戦後は東西冷戦やベトナム戦争などで強い緊張感やアメリカの自信を揺るがされていた時期に、『ヒッピー』というものが流行りました。
その時の彼らのメッセージを乗せるために使われたジャンルがフォークソングであり、①のイメージに結び付く事があります。

アメリカで大流行りしていたなら、それは日本にももちろん渡ってきます。
最低限ギター1本で、自分のメッセージを載せる事ができるのもあり大変盛んだったようです。
例えるなら『フォークソング”が”ソーシャルメディア』みたいなイメージかもしれません。

とはいえ時代が下るごとにフォークソングは変化していき、身近さや素朴さ、等身大というのが主流になっていきます。
一番の有名どころは『涙そうそう』が挙げられるでしょうか。
また、鷹田くんの言うアコギとハーモニカというのは90年代末から流行ったフォーク・デュオの事ですね。
これらが②の示すところになります。

余談ではありますが、『誰かへのメッセージ』から『自分の心や感情』を歌う事に変化していったのはどのジャンルも似通っています。
共感や心の声という焦点に当てると、現在もたくさんの素敵な曲が次々と生まれていますね。

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