仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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119・大凶がやってくる

 旅館に戻ってきて、板前のおじさんは厨房へ。俺たちは朝食の時間まで旅館の裏手の敷地にあるバンガローへ行く。

 ご飯や温泉は旅館で、他は自然いっぱいの場所で過ごせるようになってるんだって!

 今日から来る団体さんの為の準備や確認、清掃なんかを終わらせて旅館に戻る。お腹はまたペコペコだ。

 

「おつかれ。仕入れの方はどうだった?」

「よくわかんなかったけど楽しかったですよ!」

「マイナスらしい感想だな」

「よくわかんねえのは俺もそうっすけど、勉強になるなーって思ったっすね」

「もしかして、『楽しい』を『勉強になる』に言い換えると大人っぽい……?」

「そうなると毎秒勉強してそうだなマイナス」

「ウーン、そうかも……」

 

 板前のおじさんが作ってくれたまかないの朝ご飯を頂きながら、森夜先輩たちも含めて楽しい時間を過ごす。

 美味しいし楽しいしで幸せ過ぎるー……

 

「君ら、ちょっとこれも味見してくれないかな」

「おっ! これって酒蒸しって奴っすか!」

 

 板前のおじさんが貝の料理を俺たちにくれる。嬉しい! 皆でお礼を言いつつ、貝も頂く。おいしい!

 おじさんも嬉しそうにしながら厨房へ戻る。

 

「ヤベー、超うめえー」

「鷹田もっと食べる?」

「あ? お前の方こそ食いたいだけ食っていいぞ」

「え? なんで?」

「貝食いたがってただろ」

「そんな事言ったっけ……?」

 

 記憶を振り返る。えっ、そんな事言ったっけ……?

 記憶力に自信はあんまり無いけど、それでもやっぱり思い当たらない……

 

「おいおい、自分で言った事忘れんなよー」

「え、いつ言ってた?」

「電車でだよ」

「……それ、貝食べたいじゃなくて貝拾いたいだと思う」

「一緒じゃね?」

「いや、違うんだけど……」

 

 貝を買ってもらった時に鷹田がこっち見て嬉しそうにしてたの、そういう事だったんだなぁって思うと同時に、そういう事じゃないんだよなぁ! って気持ちが溢れてくる。

 いや、鷹田なりの気遣いというか優しさというかは、わかる。嬉しいなって気持ちはある。だけど、それ以上にモヤっとした気持ちもあって苦しい。気にしないで喜んであげらない自分の器の小ささにも幻滅しそうになる。

 

「まぁ……でも、ありがとう。一緒に分けよう」

「仕方ねぇなぁー」

 

 また、少し時間が過ぎれば何ともなくなるよね……

 

 

 ――

 

 

 団体さんがそろそろ来る時間。どんなお客さんか楽しみにしていたら驚いた。

 

「鷹田、おつかれさま」

「会長もおつかれー」

「えっ……団体さんってうちの吹奏楽部だったの!?」

「えぇ、聞いてなかったの?」

「マジかよ。ウケる」

 

 森夜先輩は知ってたの? そんな気持ちで顔を向ければ、俺が知らなかった事に戸惑ってるみたいだった。

 吹奏楽部の面々が来るのは全然構わない。でも、吹奏楽部の顧問ってさ……

 

「お、なんか知らねえけどマイナいんじゃん」

「今、仕事中なので話しかけないでください」

 

 絶対に会いたくなかった灰野先生と、また顔を合わせなくちゃいけないのヤダー!!

 

「おいおい客に対してその態度かー? ああん?」

「それならお客さんらしく振舞ってくれませんか?」

「はいはい灰野先生行きましょうねー」

「後で覚えてろよー」

 

 近藤さんに連れられていく灰野先生……近藤さんの方が引率にしか見えない。

 

「マイナスらおったんやなー!」

「渋谷さんも合宿に参加したんだね」

「コンクールに参加予定やからな!」

 

 ギャルの渋谷さんは、元気よく森夜先輩と黒間先輩にも挨拶する。

 

「軽音部でバイトしてるん?」

「軽音部で……というよりバンドの4人でかな?」

「おぉ! なんかええね! ……後でウチもなんか手伝わせてーな!」

「えっ、どうなんだろ……?」

「また後でなー!」

 

 俺の一存で決められるはずはないけど……

 とりあえず、積まれた荷物をバンガローの方で降ろしていく。吹奏楽部は灰野先生を入れて11人だから、そこまで大した量じゃない。

 

「そういえば、灰野先生って音楽の教師だったな……」

「そうなんですよ……というか、先輩たちは大丈夫ですか?」

「まぁ俺は……悪いのは俺たちだし」

 森夜先輩は黒間先輩を見る。黒間先輩は黙々と作業している。

 

「先生となんかあったんすかー?」

「あー……まぁな」

 そういえば、黒間先輩が灰野先生に蹴られたっていうのは鷹田に話してなかったなぁ……

 

「そうなんすね。俺も苦手なんすよー。つーわけでマイナス、全部頼むぜー」

「俺もヤダよ!?」

 

 楽しかったバイトの時間、サヨナラなんだね……

 

 

 ――

 

 

『駅の医院までお使いを頼まれてくれないか』

 

 そういう訳で鷹田とふたりで行ってくる事になった。早朝の分の差し引き自由時間っていう話だ。やったー!

 

「自転車で坂をくだるのたーのしー!」

「怖いって! 怖い! スピード落として!!」

 

 鷹田が運転する自転車の後ろに乗せられて、田舎の道を爆走する。ヤダー!

 

「預かった野菜、潰すなよー」

「じゃあスピード落として!!」

 

 板前のおじさんが旅館の片隅で作った野菜を大事にしたいけど、転んだりしたら俺たちごと潰れちゃいそうだよ!

 そんな怖い思いを耐えて、やっと平らな道になる……

 

「あー、帰りは憂鬱」

「バスで行けば良かったのに……」

「駅でも便利だろ?」

「そうかなぁー。というか二人乗りってそもそも良くないんじゃ……」

「田舎だし平気平気」

 

 結局乗ってる俺も俺だから良くはないんだけどね……なんだかんだ後ろに乗せてもらうの楽しいって正直な気持ちもある。

 青い空に白い雲、風が吹いて木々の揺れる音は気持ち良すぎる。

 

「ん……ねえ、鷹田、アレってなんだろ?」

「どれだよ」

「アレアレ」

 

 朝、ふと目に入って気になってた物を再び見つける。ゴロンと横になっている石の何か。近付いて見てみる。

 

「こりゃ……お地蔵さんだな。なんで倒れてんだろ」

「ホントだ……倒れてていいのかな?」

「んー、わかんねえけど……」

 

 自転車を停めて、そばまで行く。見た所だと苔むしてるとかではない……?

 

「たぶん、どっかのバカがわざと倒したんだろうなぁ」

「それなら直してあげよっか」

「そうすっかー。可哀想だしな」

 

 お地蔵さんの事をあんまりよくは知らないけども、地面に転がったままにしておくのはなんかイヤだよね。鷹田と一緒に起こす。

 

「土で汚れちゃってるね」

「少しは水あるけど、足りるかー?」

「濡らした布で拭けば綺麗にできるかも?」

「マジか。まぁいいけどよ」

 

 鷹田の水筒に入れていた水を、いつも持ち歩いてるタオルに染み込ませて汚れた所を拭く。ピカピカとは言わないけど、さっきよりは良くなったと思う。

 

「なんか供えておくかー」

 板前のおじさんから預かった野菜――おやつに食べて良いって分――をお地蔵さんの足元に置く。

 

「後でなんかご利益おねがいしまーっす」

「鷹田ってば現金なんだからなぁ……」

「ここまでやったんだし、ちょっとくらい願っても良いだろ」

「まぁ安全くらいは俺も願っとこっと」

 

 そんな風にして、お地蔵さんを後にした。

 ……でも、たぶん何か良くなかったのかも。この時は何も知る由がなかった。

 

 

 ――

 

 

「いやー田舎、マジ最高だな!」

 医院に野菜を届け、お使いのお薬やらを貰いつつ、お中元が余ってるからと色々頂いてしまった。

 

「すごい良くしてもらってばかりで気後れしちゃうなぁ」

「ありがたーく頂くのも世渡りのひとつだぜ。背伸びして何か返すにゃ俺たち早すぎるし」

「それは確かにそうかも……」

 

 お返しするにも、自分のじゃないお金でするのはなんか違うもんなぁ。自分にお金があるにしても、それはパパとママの稼いだお金に違いないし。

 

「それはさておき、せっかくだしちょっと遊ぶか」

「何があるかなー」

「食い物、ゲーセン、お土産、近場の観光って所か? ぶっちゃけ俺らが遊ぶには物足りねえな」

「うーん、先輩たちがすぐ食べられるお土産買おうかな」

「女子どもに大きいのもなんか買っとけ」

「あー、そうしよう。灰野先生が絶対に鬱陶しいからそれも何か……」

「竹刀でも買うかぁー?」

「取られて叩かれる事になるから買わない」

「容赦ねえなー」

 

 ルンルン気分で鷹田とお土産屋さんに向かう。こうやって過ごせるの楽しい! 嬉しい!

 ――そんな風に思っていると、突然ほんの隣でパーンと音がする。

 

「ウワァ!?」

 ビックリして固まる俺たち。見てみると車が停まっていて、フロントガラスの内側がびちゃびちゃだ。

 さらにガシャンと音がして、数歩先に植木鉢が落ちていた。

 

「……あ、焦ったぜ。大丈夫か?」

「だ、大丈夫。ビックリし過ぎた……」

「車で爆発したの飲み物っぽいけど、一応通報しとくか」

「お、おう」

 

 見上げると驚いた猫が隙間に入っていくのが見えた。たぶん、大きい声出したからビックリして植木鉢蹴飛ばしたのかなぁ……悪い事したなぁ。

 

「よし、まぁ、行くか」

「お、おう」

 

 ……

 

「えっ、大凶!? しかも俺たちふたりとも!?」

「いやミラクル過ぎだろおい」

 

 お土産屋さんにあるおみくじを引いたらこの結果。

 

「さっき良い事したはずなのによー」

「こういう事もあるんだねぇ……」

 

 灰野先生が来たから間違いなく大凶に違いない。良い事ばっかりだったのになー……

 

「御守りでも買っておこうかなぁー」

「学業成就はいくら買ってもよさそうだな」

「鷹田は商売繁盛か出世成功でしょ」

「わかってるじゃん」

「今は安全祈願にするけどね」

 

 そうして御守りも選んじゃう。本当は鷹田の分も買いたいけどなぁ。でも、買っても喜ばないだろう事はわかってるし、でも俺の分だけ買うのもなんかウーン……!!

 

「早く選べってー」

「鷹田は御守りは――」

「イラネー」

 

 そうだよね……うん。悩んだ末に自分のだけ買う事にした。お会計を済ませて先輩たちへのお土産も抱えて外に出る。

 

「まだ時間あるし、なんか良い感じのセルフィーも撮って行こうぜー」

「おう、そうしよう」

 

 鷹田は自転車を押しながら、いつの間にか手に入れた地図を眺めている。どこでもきっと楽しいだろうけど、楽しみだなぁ。

 

 ――パァンッ! と、また大きな音がする。

 

「……えっ?」

「……ハァ? 自転車パンクした!?」

「なんで!? うそ、なんで!?」

「とりま行き先、自転車屋だな……」

「……その前に少しだけ寄らせて」

 

 お土産屋さんに走って戻って鷹田の分の御守りを買って、鷹田に押し付ける。

 

「大凶こわい」

「仕方ねぇなぁー」

 

 ここからが、苦難の始まりだった……




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