仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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120・わかっちゃいるけどどうしようもない

「マジで昼飯食いそびれる所だったんすよー」

 

 自転車屋さんでパンクを直してもらって急いで帰ってきた。店主さんが最初は居なくて焦った。近くで事故があってそれを見に行ってたらしい。

 

「色々災難だったなぁ……」

「たぶんまだ災難続くんだろうなぁって思ってます」

 主に灰野先生や灰野先生。お仕事に没頭、あるいは忙殺されれば関わる必要無いと思うんだけど……

 

「でも、今日来るはずだった団体がキャンセルになったみたいでな。思ってたより暇になるみたいだ」

「マジっすか」

「台風の進路が変わって、この辺りを直撃するらしくてさ」

「さ、災難過ぎる……」

「仕事減ってもバイト代は減らねえから安心しろって」

「そ、そうじゃなくてー……」

 

 まかないを食べ終えたら、お昼のお皿洗いを始める。ああ、もっと洗いたいよぉ……無情にも時間は余る……

 

 

 ――

 

 

「お風呂掃除終わったら次のやる事何ある!?」

「いや特にやる事ねえよ」

「じゃあ、俺ひとりで風呂掃除しよっか!?」

「お前ひとりに任せるとか逆に不安だわ」

「それはその通りだー!!」

 

 浴場に向かいながら考える。灰野先生に合わないようにするためできる事を……ハッ! 足音とかで判別できないかな!? 灰野先生なら粗暴な歩き方してるだろうし、逆に俺達の方に向かってくるのに警戒をすればもしかして――足音が聞こえる。誰か来る!?

 

「ん、月野じゃん。おつかれー」

「あ、あぁ、うん。おつかれ」

「よかった……月野さんだった……」

 

 吹奏楽部の月野さん。最近は顔を合わせることが減っていて、鷹田とはけっこう久しぶりなんじゃないかなーって思った。

 

「何か困ったことでもあったの?」

「いや、ううん……」

「今よー、マイナスの奴、ひとりで風呂掃除したいって言っててよー」

「え、なんで?」

「忙しくしてたいんだよね……」

 

 月野さんは灰野先生の事をちゃんと知ってると思うし、この理由がわかると思うんだけど……

 

「それってちゃんとふたりで平等に働いてる……? 大丈夫?」

「え……? それはたぶん、大丈夫だよ」

 予想した反応と違ってちょっと驚く。

 

「どっちかっつうと面倒見る分、俺の方が働いてるわー」

「俺もがんばってるけど、それは間違いないかも……」

「できる人が色々フォローするのは当たり前だと思うけど……」

「できる側としてはマジでやれやれだぜ」

「頼りにはしてるけど、俺もちゃんとがんばるよ!」

 足引っ張りがちなのは確かだけど、それに甘えてばかりじゃよくないしね……

 

「――よかったら私、手伝おうか?」

 不意の月野さんの提案に、またちょっと驚く。

 

「いやいや、客に手伝ってもらうとかありえねえから」

「ウ、ウン。月野さんは合宿で来たわけだし、練習に専念してもらって大丈夫だよ」

「今は休憩中だし……じゃあちょっと見てるじゃダメかな?」

「ど、どうなんだろ……?」

 鷹田は少し考える。

 

「……まぁ、それくらいならいいけどよ。別に面白くもねえからな?」

「うん、大丈夫」

「掃除を眺めてるのって何だか楽しい時もあるしね」

 

 やっぱり月野さん、変わっているなぁー。

 

 ……

 

「その……マイナスくんはイジワルされていない? 大丈夫?」

「え、今のところは平気だけど……」

「……やっぱり、何か不安があるの?」

「まぁそれはね。暇そうにしてたら目を付けられると思うから」

 暇ならお酒をよこせーって言う灰野先生が目に浮かぶ……

 

「……それって絶対におかしいと思う」

「月野さんもそう思うよね。人前では多少大人しいんだけどさ」

「どうにかできないかな? 偉い人に伝えるとか……」

「こっちで何とかがんばるよ。面倒くさい関係なのもあるし、月野さんにまで迷惑かけたら申し訳ないし」

「……うん」

 灰野先生の事でこんなに心配してくれて、心強いなぁ……

 

「その……明日もお風呂掃除はするのかな」

「たぶんすると思う?」

「よかったらまた見させてね」

「練習がんばってね!」

 

 月野さんは浴場から出ていく。

 

「なーんか月野の印象って変わったよなー」

「そうだね。でも、たぶん前よりきっと良くなってるって思うんだよね」

「そうかー?」

「やりたい事ができて、がんばってるんだなぁって」

「へー」

 

 うん、俺もがんばらないとなー!

 

 

 ――

 

 

「風呂掃除まだ終わってねえのかよー」

「うわぁ来ちゃった……まだお湯を張ってる所です」

「お客様に対して失礼だなコイツよぉー?」

「相応の振舞いってありますからね?」

 

 浴場の掃除を終わらせて出てきた所で灰野先生に遭遇。避けられないタイミングなのが最悪過ぎる。隣の鷹田はこの状況をこっそりと笑っている。

 

「じゃあ時間潰すのに付き合えよー」

「仕事で忙しいので無理でーす。というか吹奏楽部の練習をみたら良いじゃないですか!?」

「うるせー、やる気しねえー」

「行こう! 鷹田!」

 灰野先生を置いて、どうにかがんばって仕事を見つけて――

 

「あぁ、ふたりとも。休憩に入ってもらって良いかしら」

「エー!? 女将さん!? いや、でも洗濯とかの仕事ありませんか!?」

「団体さんのキャンセルで手が余ってるから大丈夫よ。張り切ってくれてありがとうね」

「ならコイツ借りても良いですかー? 学校の知り合いとしてー」

「ええ、ええ。ゆっくりどうぞ」

 

 恐らく気を利かせてくれた女将さん。でも、俺にとっては懲役宣告だった。

 

「俺もなんかついて行って良いすか?」

「鷹田だったよな。いつも近藤にゃ世話になってるぜ」

「アイツは世話焼くの生き甲斐っすから」

「うーし、行くぞー」

 

 逃げたい……けど、弱みを握られているからなぁ……観念してついていく事にした……

 

 ……

 

「これ、総譜(スコア)な」

「いや待ってくださいよ! また俺に丸投げですか!?」

「だってマジでダルくてよー」

「教師失格過ぎますって……」

「まぁ良いから見ろよー」

 仕方なく目を通す……

 

 ――楽曲はどうやら最近の物のようだ。木管楽器の奏でる音色が流れる風のように舞う、爽やかな曲。期待、高揚、広がる世界、駆け抜けるように奏でられるその様は、アルバムの1ページとしてずっと心に残るような気がした。

 

「良い曲ですね……実際に聴きたいですね」

「おう、指揮棒持っていっていいぞ」

「あー!? そういう作戦ですか!?」

「てかアイツラが演奏したらどうなると思うよ」

「う、うーん……打楽器は3ですか?」

「いや、ひとり金管に移った」

「そうなんですか……」

「別にこだわりはねえんだってよ」

「なるほど……」

 

 吹奏楽部員は10人。推定だけども恐らく今はこんな感じ?

 木管5(フルート1・クラリネット3・サックス1)

 金管3(不明1・トロンボーン1?・チューバ1)

 打楽器2

 

 編成について外の人間がアレコレ言うのは、余計なお世話に他ならないから、思うところがあるけどそれはいいとして……

 灰野先生がビシバシ指導をしたら、クラリネットの先輩がたとまた軋轢(あつれき)ができて険悪なムードになってそうな気がする……

 

「ノ、ノーコメントで……」

「前もマイナス、ボロクソ言ってたもんなぁ」

「違うでしょ鷹田!? 皆で合奏しようって言っただけだよ!?」

「2年3年相手によくそんな事言ったもんだぜー」

「指揮するのマジでダルいっての、お前が一番わかってんだろ」

「ノ、ノーコメント!! ノーコメント!!」

「てか、そろそろ風呂行けるかなー。戻るまでには酒持ってきとけよな」

「持ってこないです!!」

 

 そのまま灰野先生は部屋から出る。

 

「普通にクズのクズ過ぎてウケるな。マジウケ」

「やっぱり鷹田もそう思うよね!?」

「とはいえ、クソダルいっつーのはまぁわかるぜー」

「あー! うー!!」

 

 指揮をするうえで、先輩がたに演奏の指摘をするのが神経を使うんだ……真っ当なつもりでも機嫌を悪くさせたら後でどうなるかわからない。でも、指摘しない事で周囲とのズレが大きくなる。でも、指摘すると不機嫌になるし……

 

 と、ドアがガチャリと開く。

「あれ、鷹田にマイナスくん? 灰野先生は?」

「ん、会長じゃん。先生なら風呂行ったぜ」

「……あー、なるほど。代わりにマイナスくんに押し付けるつもりだね。これは」

「……この後、合わせ練習?」

 近藤さんは頷く。

 

「でも、マイナスくんは大丈夫。バイトも忙しいだろうし、気にしないで」

「あっ、今、暇だから休んでてって言われてて時間はあるよ」

「そうなの? うーん、でも……」

「面倒だしスルーでいいんだぜ?」

「もちろん、来てくれたら嬉しいけどね」

 

 ああ、ど、どうしよう……どうしよう……!!

 

 

 ――

 

 

「灰野先生が逃げたので、代わりによろしくおねがいします……」

 

 やっぱり気になって来ちゃった。神経を使うって言っても、人の演奏を聴くのは大好きだし、あれからどうなったか知りたいんだもん!!

 久しぶりと声をかけてくれる人もいるし、緊張をほぐそうと気を使ってくれるのも感じる。ちょっと安心。

 

「えっと……総譜(スコア)に書き込みがないけど、灰野先生って指揮は……」

「今日が初めての予定だったのー」

「そっかー」

 そっかー、そっかー……

 

「じゃあまずは頭から。俺もまだちゃんとこの曲をわかっていないから、できる所までやっていこう」

 目を3年のクラリネットにやる。吹奏楽部の部長で、指揮無しで練習している間のコンサートマスターに違いない人。

 

 指揮棒を構える。息を吸う。

 ――緩やかな風が吹くような、演奏の始まり。フルートの音が揺れる花のように響き、また風が吹き……吹き……

 

 待ってくださいクラリネットの御三方風が吹き抜け過ぎです待って他の皆を置いてかないで装飾が吹き飛んでいく待って待って待って……

 

 思わず、指揮を中断する――あれ? 待って! 止めて止めて! チューバやトロンボーン、ドラムセットは止まってくれたけど、木管が一切止まってくれない!

 

「待って待って! 中断中断!」

 思わず声をかけて中断。

 

「えっとね……」

 何度も言ってて、本当に申し訳ないってお腹がキリキリしそうだけど、言うしかない……

 

「周りの皆の音を、聴いてあげてほしいな」

 ……クラリネットの先輩方が不満そうな顔をする。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

 

「あー、よかった。やっぱりズレてたよねー」

 あぁー! チューバさーん!! 助け舟をいつもありがとうございますー!!

 

「う、うん。掛け合いや合いの手なんかで、一体感を出すのが特に大事だと思うから、皆でそれぞれを聴いてあげて」

 

 気持ちを切り替えて、中断した少し手前から再開。がんばってまずは通そう……! どんな風に感じて演奏をしているのか、それを受け止めなくちゃいけないから。

 

 ……

 

 当然揃わないフィナーレの直後、感じた事を忘れないうちに総譜(スコア)に書き込んでいく。俺自身もこの曲についてもっと学ばないと何とも言えない所が多いけど、どうしてもって所は書かないとだ。

 

「とりあえず通せてよかったー」

「やっぱり今のままだと灰野先生怒らせちゃうよねー?」

「どう思うー?」

「そ、そうッスね……」

 

 クラリネットの先輩方に相槌を打ちつつ、メモメモ……細かい事は後でまた書こう。

 そう思って顔を上げた時、クラリネットの先輩方がものすごく不機嫌そうにしていた。

 なんで!?

 

「あ、えっと……じゃあ、とりあえず頭からもう一度さらって行くッスね……」

 

 つらい。

 

 

 ――

 

 

「マイナスくん、その、やっぱりゴメンね……」

「えっ!? ああ、うん、ゴメン。空気悪くしちゃって……」

「ちがうちがう。マイナスくんが悪いんじゃなくて、私たちが悪かったって謝りたくて……」

「え……?」

 

 合わせ練習が終わってから、近藤さんに改めて声をかけられる。

 

「先輩たちって指摘されると不機嫌になるでしょ? 別に無茶を言ってるわけでもないのに」

「う、うーん……」

「加えて言うなら、手伝いに来てくれた人に対する態度じゃないよ」

「いやでも俺がその――」

「ううん。マイナスくんは何も悪くない」

 

「今回の合宿ではね、その事についてちゃんと話し合おうって思ってるの。おかしい事におかしいってちゃんと言う。その為に企画したんだから」

 

「頑張るから、応援しててね」




当然の事ではありますが、新しい作品は次々と生まれており、それは吹奏楽でも同じです
むしろ吹奏楽はかなりポピュラーなジャンルなので、オススメしたい曲はたくさんあります
逆に、オススメの曲があればとても聞きたいので、気軽に教えて頂けると嬉しいです

※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです
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