仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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123・夏

「そうッスね、練習する時は難しい箇所だけじゃなくて、前後も含めてやるといいですよ!」

「いや、悪いな、足引っ張ってて……」

 

 午後は皆で思いきり練習! 音をちゃんと出して練習するのは最高!!

 

「日常生活じゃマイナスが足引っ張りまくりなんで、まったく気にならないっすよ」

「そうッスよー! それにまだ練習始めたてですし!」

「はは……頼らせてもらうな、いや、ありがとう」

 

 森夜先輩はサイドギター、いわゆる伴奏の役割だ。曲の色や雰囲気を構成するために大事な要素(極論言えば全員大事な要素なんだけどね)。

 

「そういえばこのコード進行、よく出てくるよなぁ……」

「あ、それはですね、言うなら定番の進行っていうのがあるんですよー」

「へー、定番?」

「えっと、例えばー……この曲は初心者用にオススメって曲で、4つのコードで弾けるってなってますよね」

「ああ、知ってる。セーハ(人差し指で複数の弦を抑える)が必要で初めたてなのにツラ過ぎってなったなぁ……」

「他の曲でもマジでFの頻出っぷりヤバいっすよねー」

「FがCの下属調だからですね!」

 

「「……??」」

 

「Cコードの音はC()E()G()で、FコードはC()F(ファ)A()で構成されているんですね。同じC()が含まれていて、Cコードが上に昇るのとは逆にFコードは下に降りる形になっていてそれで下属調って――」

「待てっつの。何言ってるかわかんねえから、一言に纏めてくれ」

「……仲良しだからすごい使うって事です!」

「へ、へぇー……」

 説明待ちだと思ったら違ったのかな……エーン……

 

「ん、っていう事はだけどよ、もしかしてパターンって結構決まってるって事か?」

「あ、うんうん! 『音階練習』っていうのは、よく使うパターンを覚える練習だよ!」

「へぇー……C→F→G→Cの練習とかか?」

「そうですよ!! そうです!!」

 通じて嬉しい!! 嬉しい!!

 

「ホンマにマイナスはめっちゃ詳しいなー!」

「極振りし過ぎっつうか……てか、また来るの早すぎだろ渋谷」

「暇やし仕方ないやろー!」

「女子どもで仲良くすりゃいいじゃん」

「ウチは練習したいねん! 話し合い言うても、ウチはもう決めてるしなぁ」

「へぇ……聞いても大丈夫か?」

「ウン! ウチは普通にコンちゃんが言ってる事に賛成や!」

 

 渋谷さんがハッキリ言ってくれると、なんだかすごい安心するー!

 

「ゆうて前から思うところはあったし、でもそん中でも自分のできる事はがんばってたけど、皆で一緒にがんばれるならそっちの方がええもん!」

「吹奏楽部って団結してるイメージだったけど、違うのか……?」

「んー、トラブル起こさないようにしてたんは間違いないな」

「面倒くせえだろうしなー、女の喧嘩ってよー」

「半年か1年かすれば関係ない人やし、それまで適当に過ごしてサイナラーの方が丸いしなぁ」

「ははははは……」

 思わず森夜先輩が空笑いする……

 

「ま、それはええわ! ほな練習しいや!」

「マネージャー面かよ。いいけどそれなら動画撮ってくんね? 練習風景ーってよー」

「おっ! ええでー! 撮影には自信あんねん!」

「なんか恥ずかしいけど……まぁいいか」

「えへへ、じゃあ続きやりましょうね!」

 

 

 ――

 

 

 ボーッと空を眺める。台風前なのもあってだんだん空模様が悪くなってきた。

 

「あーあ、やっぱ今夜はダメそうかー」

「何する予定だったの?」

「明日できるかもしんねーし秘密」

「そっかー」

 

 念の為、早めに切り上げて旅館のに戻ってきた。ちなみにバンガローは閉じて、吹奏楽部も旅館の方に移ってきてもらっている。

 

「黒間、本ってそれ以外も持ってきてるか?」

「ん」

 黒間先輩はカバンを指す。森夜先輩はカバンから本を数冊取り出す。

 

「へぇ、どれがオススメとかあるか?」

「……わかんね」

「俺も読んでいいすかー?」

「……いいぞ」

「どもっす。マイナスも読もうぜ。ベースは置いて」

「ん、おう」

 

 誘われて本を見せてもらう。

 

「へー、『芥川龍之介』に『宮沢賢治』。めっちゃ定番っすねー」

「かなり渋いの読んでるんだな……黒間はもう全部読んだのか?」

「一応」

 言葉数少なく黒間先輩は答える。

 

「今も『ライ麦畑でつかまえて』を読んでるみたいだけど、ハマってるのか?」

「……わかんね」

「難しい本って事か……?」

「……わかんねえ」

「……そっか」

 

 森夜先輩が質問を切り上げる。たぶん、しつこく聞くのも良くないって思って――

 

「――わかんねえなって。だから……」

「あ、そうなのか。どんな所が……?」

「……ムカつくのわかる。でも、ムカつくのが、わかんねえ。どうしてか、俺も、こいつも」

「……それで何度も読み返してるんだな」

「バカだから、な。俺」

「俺も、バカだからわかんねえだろうけどさ、そのうち読んでみるよ。教えてくれてありがとな」

 

 黒間先輩は頷いて、本にまた目を落とす。

 

「あー……とりあえず俺、芥川龍之介でも読んでみるかぁ」

「ん、マイナスはこれでも読んどけ。名作児童文学短編集だってよ」

「おう、ありがとう!」

 

 黒間先輩が、自分の気持ちを言葉にしてくれた事が感動してジーンとする……俺も本を読んで、黒間先輩と仲良くなるぞ……!

 

 

 ――

 

 

「昔の人って大変だったんだね……」

「いや、今だって大変だろー」

「お金もご飯も無くて、誰にも助けてもらえないんだよ?」

「助けてもらえないのが当たり前じゃね?」

「でも、主人公の家が裕福だった時は色んな人に優しくしてたのにさ……」

「世間の厳しさは昔っから変わらねえって事だなー」

「……」

 

 うん、こういう話はやめよう。

 

「てかさー、人に優しくするって普通に損じゃね?」

「え、なんで?」

「見返り求めて打算でやらねえから、全部奪われる訳だしよー」

「うーん……一理あるにはあるけど、なんか違くない?」

「優しくしてもどうしようもない奴っているだろ?」

「う、うーん……」

「そんな奴らは切り捨てて、できるもん同士でやるのが正解だって」

「……俺はそうは思わないなぁ」

「おうおう、マイナスは甘ちゃんだもんなぁ」

「いや、そうじゃなくて……」

 

「与えるとか、施すだけが優しさじゃないっていうか……だから、鷹田の言う優しさって、俺の思う優しさと違うと思う」

「……なんだよ急に」

「俺は鷹田が優しくしてくれたのスゴい嬉しかったし、今も感謝してるし……」

「お前には優しくしてやっても良い価値があるだろ?」

「もし、俺が上手くなかったら優しくはしなかったって事?」

「いや、そんなの当たり前……だろ。……当たり前だし」

「……」

「てか、お前も俺がバカの甲斐性無しなら仲良くしようなんて思わなかっただろ?」

「それはわかんない」

「ほれ、やっぱその通りだろ」

「ううん。違う」

 

「たぶん、きっと、お互いバカで下手でも、仲良くしてたと思う。でも、今の鷹田がいないと乗り越えられない事がたくさんあったから。だから……わかんない」

「声かけなかったらとかの、そもそも論?」

「うん。でも、それを乗り越えたら、鷹田がどんな人でも仲良くなれたと思うよ」

「ふーん……」

 

「ま、きっかけさえあれば誰でも良かったって事だよな」

「……え? そういう事じゃないんだけど」

「偶然、俺だったって事には違いないだろ?」

「うん。それは間違いない」

「そんで仮に、俺じゃなくても色々上手くいったらそいつと仲良くしてるって事だよなー」

「いや、だからその偶然に鷹田がいてくれたって話で――」

「都合良く俺だったってだけだろ」

「……なんで」

 

 思わず体が震える。カーッと頭に血がのぼって行くのがわかる。胸の奥に抑え込んでいた気持ちを止められない。

 

「――なんで!! そんな事!! 言うのさ!!」

 

 息が、こんなに、荒いのは、初めて。

 

「偶然を!! 考えたら、わかんないのは!! 当然じゃないの!?」

「は? いや、俺的には当たり前なんだけど。お前がヘタクソで甲斐性無しなら無いし、お前の上位互換が居たらそっちとヨロシクするし」

「それは、良いよ!! 鷹田の勝手だし!!」

「じゃあ解決だな」

「してない!! 俺は、わかんない事と、比べてほしくないの!!」

「いや、だからお互い仕方なく、利用し合えるから友達してるってだけで」

「俺はそうじゃない!!」

 

 思いきり叫んだ後、どうしようも無い気持ちになって、部屋を出ていった。目から涙がボロボロ溢れて止まらない。ひとりになりたい。昂ぶる気持ちを落ちつかせたい……

 

 

 ――

 

 

 ――ヴィヴァルディのバイオリン協奏曲『夏・第1楽章』

 悲壮的、悲壮的、悲壮的な始まり。夏ってこんなに哀しい感じだっけ? ううん、暑さと陽射しにグッタリしているってわかるんだけど……でも、初めて聴いた時は予想できなかったなぁ。

 ヴィヴァルディの『春』は、暖かい春の陽気やぐんぐんと芽吹く様を溢れるほど示していて、だからこそ夏の哀しさには本当にビックリした。

 

 だけど好き。予想は裏切られたけど、好き。

 

 ……この悲壮感、不意に表れるバイオリンの嵐の旋律、収まった後のまた哀しい感じ……勝手に今の自分みたいだって思っちゃう。

 

 なんで、さっき、俺はあんなに怒ったんだろう。

 自分が口にした言葉を頭の中で反芻して、自分でも何を言っていたのかわからない、って思った。

 

 鷹田は、何を考えていたんだろう。

 ――そもそも、お互い何も知らない時に声かけて優しくしてくれたし……

 俺も、なんでわざわざ聞いたんだろう。

 鷹田が意地を張って、上手いから優しくしたんだよって言うのは想像できたはずなのになぁ。

 

 でも、別にそこは怒ってない。少しイヤに……寂しく感じたのは感じた。けど、それでも鷹田と、今、こうして過ごす事ができてスッゴい嬉しいのは本当に間違いなくて、人の気持ちをわりと(ないがし)ろにして利得に貪欲ですぐに俺はスゴいだろって言い始める所とか、鷹田だなぁって思えてむしろ良いと思う。

 

 というか鷹田って、なんだかんだ悪い事したなぁって思ってる時、ちゃんと謝りはしないけど、変に気を使う所あるよね。貝とか、練習時間の確保とか……他にもきっとたくさんある。

 うん、だから俺は鷹田の事、友達か親友だと思ってるし、俺も鷹田の友達か親友でありたい。

 

 ――じゃあ、さっき俺が怒ったのはなんでだろう。

 

 すっかり怒りの火が消えてしまって、わからなくなる。同じ事を言われたら、また俺は怒るのか、それもわからない。全部をわかってもらうつもりも無い、だから、次は大丈夫なのかな……?

 でも、なんとなくこのままじゃ良くないって思ってる。

 

 すごい勢いで雲が流れていくのが、これから嵐なんだって事を感じさせる。




■取り上げた楽曲の動画
ヴィヴァルディ 「四季」より「夏」
https://www.youtube.com/watch?v=K_jEDNYz0qY

夏といえばどんなイメージですか?
多くの人が答えるだろうイメージと全く違う夏をヴィヴァルディは描きました。
春が一番有名ですが、よかったら夏も、秋も冬も聞いてみてほしいです。

■コードについて
専門的な話になるうえ、私は独学なので多く間違いがあるかもしれませんので間違いがあれば指摘を頂けますと幸いです。
大雑把に説明すれば本文中にマイナくんが説明した通り、「仲良しだからすごい使う」という事になりますが、進みたい方向というのそれぞれの仲良しで変わる事になります。
恐らくはDTM(デスクトップミュージックと呼ばれるパソコンで曲を作る手法)をした事があると理解が深くなるでしょうが、もっと学びたいという人は以下のURLからどうぞ。
・YAMAHA コードについて学ぶ
https://jp.yamaha.com/services/music_pal/study/chord/index.html

■『芥川龍之介』と『宮沢賢治』について
前者は『羅生門』、後者は『銀河鉄道の夜』を教科書で触れた事があると思います。
両者ともに短編も多く出していますので、古い本だからと食わず嫌いせずに一度読んでもらえたらすごく嬉しいです。
特に、芥川龍之介の『芋粥』が私はなんとなく好きで、物語としての滑稽さとリアルに感じさせられるモヤモヤでずっと頭に残っています。
・青空文庫 芥川龍之介
https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person879.html
・青空文庫 宮沢賢治
https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person81.html
・青空文庫 『芋粥』芥川龍之介
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/55_14824.html

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