「ヤダー!! やめてよー!! 楽器で叩くのやめてー!!」
「いやゲームだし。てかこれが最強だから仕方ねえし」
「楽器は繊細なんだからーー!!」
休憩時間に鷹田と持ってきたゲームを遊んでるのだけど、それでは楽器が武器として使えるうえで、音を出して攻撃するより直接叩く方が強いらしい。
……なのだけれども、フィクションなのはわかっていても!! 楽器を振り回すなんて!! 俺には耐えられないよおお!!
「わかったわかった。ほら、やめてやるから目ぇ開けろって」
恐る恐る覆っていた両手の隙間から、ゲーム画面を見る……
「おらっ、一撃必殺ー」
「アアアアアァァッッ!! ダメエエエェェェ!!」
「マイナスのメンタルに特攻過ぎてやめらんねえー」
「お前らさ、また喧嘩になるぞ……?」
「森夜先輩、鷹田を止めてくださいよー!」
「いやいや、ゲームと現実の区別くらいしろっつーの」
ゲームなのはわかってるのに!! わかってるのにいいい!!
「てか、話題になったクソゲーなだけあるなこれ……」
「マイナスが持ってきたもうひとつもド級のクソゲーっすよ」
「くそげーってなあに……?」
「天然ハンターかよ。嗅覚ヤバすぎ」
「いっぱいお店に並んでて安かったから買っただけだよ!」
「なるほどなぁ……」
「あ、森夜先輩。回復おなしゃす!」
「ん、待ってな。詠唱長すぎだから……」
「楽器で叩くの終わった……?」
「ここから大活躍だから見てろよ見てろよー」
「見ない……」
イキイキと遊ぶ鷹田、それを補佐する森夜先輩を横目に何とかついていくだけ。画面もそこまで見れていないし……
「というかさ、ほら、見てみろってマイナス……?」
森夜先輩が炎を出して敵を攻撃する。
「これな、一応そこそこ強い攻撃のはずなんだけど、それでも10回くらい当てないと倒せないんだよ」
「楽器なら一撃ってな。うりゃー!」
「アーッ!! いや、わかったけども、わかったけどもー!!」
俺が苦しむのを見て鷹田は楽しんでるでしょ!! 酷い!!
「おっし、この敵倒したら休憩終わりだぜ」
「楽器殴り無かったら本当にクソゲーだな……これ」
「終われば何でもいいよ……エーン……」
「あっ、マイナス。そこ逃げろ」
「え?」
わからないけども、俺のキャラが突然やられちゃう。
「あー、遅かったか。その小さい点が即死攻撃でさ……」
「へー……」
「これを掻い潜って10分戦うとかクソゲー過ぎて、やっぱ楽器殴りだわー」
鷹田が楽器で敵を叩いて、一瞬でクリアーする……
「うっし、後でまた遊ぼうぜー」
「やらない……ヤダ……」
――
「そういやさ、マイナスは高校より前ってどんな風に過ごしてたわけ?」
「えっ? えっと、うーん」
お風呂掃除をしながら鷹田に聞かれる。どんな風に答えるか、悩む悩む……
「ああ、一応は会長から聞いてるぜ。元々は港の方に住んでてそこの楽団に拾われて、毎日遊びに行って色々教わってたとか」
「う、うん。そうだね」
それは灰野先生が教えてくれたカバーストーリー……つまり嘘だけども、否定するわけにはいかない。本当はパパが楽団の団長でママはオペラ歌手、そして一年中海外で公演しているなんて事を今更話すわけにもいかない……
「どんな思い出があるよ?」
「えっ!? えっと……待ってね」
ど、どうしよう……待って待って……! 俺自身もよくわかっていない架空のお話だから、その思い出って言われても難しすぎる……! それに似た思い出を代わりに話すとして、何があるかな……!?
「あー、いや、無いもんを無理して話さなくていいからな」
「えっ!? どういう事!?」
嘘だって……バレてるの……!?!?
「マイナスは音楽以外の経験が寂しいのはよーくわかってっから」
「……ヒドい!!」
違っていて安心したような、悲しいような……
「一応さ、小学校でも中学でも旅行とかあるだろ? それとかどうだったよ」
「ん……うーーーん……」
「やっぱり印象に残ってなさそうだよな。マジでマイナスって奴」
「たしかに、なんか音楽以外の事はすっぽり頭から抜けてるかも……」
「旅行とかは?」
「ん、それはするよ」
「どこで何した?」
「……うーーん……」
「やっぱマイナスマジでマイナス」
「た、楽しいのは覚えてるよ……!!」
「ってなると、今回のも楽しいしか残らなくなりそうだよなぁー」
「そんな事無いと思うけど!?」
「いや、今のままだとあり得るっての」
ケラケラと鷹田は笑う。安定の信用されていないだけど、俺自身も何年か経ったらこのバイトの事を忘れちゃうのかなぁって思ったりもする。どうなんだろう――バシャーっと水をかけられる。
「うわっ!? つめたっ!?」
「しみじみしてんのか? やっぱバカだなー」
「鷹田が聞いたからでしょ! それにやっぱり絶対忘れないと思うし!!」
「ハハッ! 大人になったら答え合わせしてやるかー!」
鷹田がこんなにふざけてるのは初めて! でも、まぁ楽しそうだしなんか良いかって気持ちになる。
それはそれとして反撃をする。やられっぱなしでいられるかーー!!
――
ビッショビショになって板前のおじさんに呆れられたり、色々手伝いをしてから晩御飯を食べたりして日が暮れる。
「うわー、星が綺麗ー!」
「マジでマイナスってチョロ過ぎ。すぐに何でも喜ぶよなー」
「まぁまぁ、それがマイナスの良い所でもあるしさ」
「町だとやっぱり見れないですし、綺麗な物は綺麗っスよ!」
宵闇のキャンパスに、キラキラと輝く星々が散りばめられている様子はやっぱりキレイなんだもん! 連れ出されたバンガロー側の広場で皆でのんびりする。
「星眺めてるだけでもいいけどよー、やりたい事があんだよなー」
「ん、そういえば鷹田、昨日も何かしようとしてたっけ」
「そそ。てか、ちょっと待ってろ。先輩、マイナス頼むっす」
そう言って鷹田は大きなビニール袋を持ったまま、奥に行って何かし始める。
「あっ、マイナスに軽音部の先輩らやん! ばんはー!」
「あれ……渋谷に、吹奏楽部の奴らか」
「こんばんは。あれ、鷹田はどこにいますか?」
「ああ、近藤か。こんばんは。鷹田があっちで何かしてるけど……」
「ありがとうございます。ちょっと用があるので行ってきますね」
近藤さんは鷹田の方に行った。
俺は吹奏楽部の皆がどんな様子かを少し眺める。特にクラリネットの部長さんがどうなったか、心配というかなんというかで気になってて……
部長さんは隅っこの方にいた。晴れた表情をしていないのは一目でわかって、やっぱり一朝一夕で仲直りはいかないよなぁって思って、俺はそっと顔を逸らす。
「うわー、それにしても星、綺麗だねー」
チューバの吉原先輩が俺と同じ事を言ってる!
「吉原先輩もそう思いますか!?」
「そりゃねー。町だと見れないしねー」
「やっぱりそうッスよね!」
なんか味方が増えた気分! 嬉しい!!
「あ、一応ね、私たち花火をしに来たんだー」
「花火! いいッスね!」
「じゃあ俺たち、邪魔になるかな……?」
「いやいや、せっかくやし一緒に花火してもええんちゃうかな!」
「部長に聞いてくるよー。部長ー」
吉原先輩は部長さんの所に行く。
「ヨッシー先輩、ホンマ強いなぁー」
「そうなのか……? 俺はマイペースな奴だと思ってるけど……」
「どないな状況でも出来ることを淡々とやってく人ってイメージや! マイナスもそう思わん?」
「あっ、なるほど! 確かにそう思う!」
「へー……知らなかったなぁ」
「ウチもヨッシー先輩見習うつもりや! 軽音部の次の練習はいつやろですか!?」
「ああ、月曜日の予定だけど……」
「お邪魔させてもらいますで!」
「はは……わかった、待ってるな。あ、あと無理して敬語使わなくても良いからな……?」
「いやいやいや、練習中やから使わせてくださいやー!」
「そっか、まぁ、じゃあわかったよ」
「部長、オッケーだってよ」
吉原先輩が戻ってきて、そう教えてくれる。
部長さんを見る。やっぱり、楽しそうな雰囲気ではないのは遠くからでも伺える。
俺は立ち上がる。
「俺、部長さんにお礼を言ってきますよ」
「ん、なら俺も行った方がいいよな……行こう」
ひとりで行くつもりだったけども、森夜先輩も一緒に。
「部長。すみません、お邪魔させてもらいますね!」
「……好きにすれば良いってだけだから」
「あー、いやでも、男が混ざるのイヤかなって。なんで、まぁ、俺達は気にしないで……」
「……」
部長さんは黙ってしまう。閉じこもってしまっているって印象で、心配だけども取り付く島もないっていう感じだ。
「あ、あの……先輩」
クラリネットの2年生たちが部長さんに声をかける。
「……なに?」
「私達、先輩にも一緒に、花火楽しんでほしいなって思ってて……」
「楽しそうに見えないって事?」
部長さんはアタリの強い雰囲気で言う。
「……はい。そうです。先輩」
予想外の返事だったのか、部長さんは一瞬固まる。このままだとまた怒りそうだって思ったけども――
「――だから、よかったら、一緒に、そのっ……」
「私達、抜け出してもいいですし、別の場所に移るでもいいですし……」
「先輩との合宿、楽しい思い出にしてほしくって……」
「私達、先輩の事、やっぱり好きですし、先輩が楽しかったら、それで良いって我慢してる事ありましたし……」
「でも、それが本当に楽しい事なのか、仲良しっていう事なのかわかんなくなっちゃって……」
「……私は、みんなが……ふたりは何でも楽しんでくれてる仲良しだって思ってたのに……」
「だから、一緒に、今からでも、先輩に、何かできませんか……?」
ちょっとした沈黙。
この場に居合わせているけど、何か声をかけるなんてできるわけがない俺と森夜先輩。とはいえ、じゃあって話を切って場を後にするタイミングも読めなくて、すごくもどかしい……
ちなみに、俺も部長さんには楽しい思い出を作ってほしい……
「おーい、全員注目ー」
鷹田がみんなに呼びかける。
「特にマイナス、見てろよ見てろよー」
なんだろう……? 鷹田は背中を向けてしゃがみ込んだ後、何かをしたら近藤さんと一緒に走る。
ヒューという音がして赤い火が空へと打ち上がる。それからパパパンと音が鳴り、空に花火が
すごく綺麗! 鷹田、もしかして打ち上げ花火を用意してくれていたの!?
「どんどん行くぞー!」
鷹田はテンポよく花火を上げていく。どこで用意してたんだろ? とにかく鷹田のサプライズって最高過ぎ!!
「よっしゃ、最後はこの50連発って奴打ち上げるぞ!」
50連発!?!? どんな風に上がるのか楽しみすぎる!!
鷹田が火を付けて、それから俺の方へと走ってくる。
「アレが一番高かったからよー、楽しみにしてろよしてろよー」
「おうっ! ワクワク!!」
きっとヒュウウウウって言って、それからドパパパパンってなるんだろうなぁ!!
でも、実際はシュパッ、シュパッ、って1回ずつ上がっていった。
「あれ!? 予想と違う!?」
「マジかよ!? 上で50じゃなくて下で50か!?」
「なんか想像と違ってショボいな……」
「マジかよ! 最悪だぜ!」
そう言ってから、鷹田はお腹を抱えて大爆笑し始める。それに釣られてなんだか俺も面白くなってきて笑い始める。
「騙されたわー、クソ花火過ぎてウケる!」
「最初の奴が一番派手だったね!」
「言って、なんかマイナス超楽しそうじゃん!」
「いや、だって鷹田でも騙されるんだなって。シメがシマラな過ぎて逆に面白すぎるよ!」
「一生思い出して笑えそう。マジで」
「たぶん、俺も」
ゲラゲラ笑っている俺達に釣られて、周りもいつの間にか笑っている。
「みんなー! それじゃあ花火始めようー! 私、いっぱい用意してきたから!」
「なんや! 鷹田の花火は前座やったんか! 最後がショボいのも納得や!」
「ああん!? まだまだ隠し玉あるに決まってんだろ!!」
「火を扱うんだから気をつけるんだぞー……?」
「バケツはこっちにあるよー、火元はそっちだねー」
「せや! みんなで写真も撮ろうや!」
一気に和やかな雰囲気になる。ふと、部長さんたちを見ると3人も笑っていた。
「ほれ、マイナスの花火はこれな」
すごく楽しそうな鷹田が俺に花火を渡してくれる。
「わぁ、ありがとう!」
……泣いたり喧嘩したり酷い目に遭ったりしたけども、こうして鷹田と一緒に心の底から楽しい時間を過ごせて、本当によかったって――
ドパパパパン!! と渡された花火から爆音がする。
「ウワアアァァッ!?!?」
「完全に引っかかった!! 完全に!!」
「な、何するのさーー!!」
「サプライズだよサプライズ! 超ウケるなーー!!」
「あーー!! もう鷹田!! ヒドい!!!」
「やり返せるならやり返してみな!」
「花火は危ないんだから、ふざけすぎないようにね!」
余韻もへったくれもない花火大会が始まった。
ところで知ってる? まだまだ夏休みは始まったばっかりなんだよね!
俺達の夏休みはこれからだ!!
=====
マイナくんたち、今頃どうしてるんだろうなぁ……
鷹田くんのSNSで楽しそうにしているのは見れるんだけどね、でも、実際にどう過ごしているかリアルタイムで見たいとか何とか思っちゃう……
いやいやでもでも私とマイナくんに学校と勉強以外の接点が無いしなぁ。
じゃあ、場所はわかってるから偶然を装って行ってみる……ってそれはストーカーだよ!!
会う必要性が無いから会えないし、会いたいから会いたいっていうのはマイナくんの迷惑だろうし、じゃあ会えるように何かするっていっても何も思い浮かばない……だって、会いたい以外でマイナくんと会う必要が本当に無いんだもん!!
推しの供給はまるで砂漠の中の一滴の水って聞いた事があるけど、たぶんそういう事なんだろうなぁ……うぅ、勝手に切ない。ゴメンね……
なにかに没頭しようにもひとりじゃ上手くできないし、かといって何もしないと頭が熱暴走のようにおかしくなる。
はぁ……マイナくん、今頃は何しているんだろうなぁ。
――ピコン、とスマホの通知。
マイナくんのメッセージではないだろうなぁって思いながら、でもマイナくんのメッセージだったら……って気持ちで見ちゃう。
あれ、思っても見なかった人からのメッセージだ……
カレンダーを見る必要も無いんだけど、一応確認する。
その日程なら空いていますよ、と返信。
まぁきっと大丈夫。
スケジュールがあるだけで、また別の気晴らしができると思うから。
お母さんとお父さんにも相談して、許可をもらおうっと……
【お知らせ】
2026年1月18日(日)に開催される『文学フリマ京都10』に出店します。
綺麗に製本されたものを私が欲しかったので、作るついでに社会勉強として行ってきます。
よかったら応援してくださると嬉しいです。楽しんできます。
※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです