仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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※投稿するエピソードを間違えてひとつ抜かしてしまいました。
『135・ご令嬢とパンツ』と「136」を改めて投稿しましたのでよければご覧ください。


135・ご令嬢とパンツ

 シンデレラって、なんであんな気丈に舞踏会に参加できたんだろう。

 

 私はこの場にいる事が相応しくないと強く感じてしまう。

 それでも、マイナくんの秘密を守るためって理由ができたから、まだマシだとは思う。

 

 午後になって、申請した講座をそれぞれで受けに行く時間になった。

 そういえばピアノの講座のキャンセル、結局できなかった。どうしよう……

 

 それでもとりあえず、マイナくんに近藤さんのお父さんが来ている事を伝えよう。

 そんな時にちょうど、ピコンとスマホが通知を鳴らす。

 

『具合はどうだろうか?

 講座はちゃんと取れただろうか?』

 

 ミヤネくんからの連絡だああああ!?

 嬉しい、嬉しすぎる……いや、本当はこんな風に気を使わせていて申し訳ないんだけども、でも、こうやって聞いてくれるのが嬉しすぎて嬉しすぎて。

 

「あなた」

 

 夢中になってスマホで返信をしようとした所で、鹿倉さんの声が私に向けられる。

 

「前を見て歩きませんと危ないという事、ご存知ありませんの?」

「あ……す、すみません」

 

 きっとまた、怖い目で見つめられているんだろうなと思うと顔も合わせられない……

 

「火急でしたら、早くお返事を差し上げたらいかがですの」

「あっ……いえ、大丈夫です……」

「そう。それでしたら構いませんけども……」

 

 それから鹿倉さんは背を向けて、歩き始める。

 

「あなたは向かいませんの?」

「……えっ」

「同じ講座を受けるものと、私は記憶していたのですけど」

「あっ、す、すみません……」

 

 慌てて私もついていく。

 

「あなたは――」

「は、はいっ」

「あなたは、背を丸めて歩くほうが楽ですの?」

「えっ、あ、その……」

「言葉遣いも、とてももどかしいですわね」

「す、すみません……」

「すぐに謝るのは口癖ですの?」

「そ、そうですね……すみません……」

「緊張なさっているという事ではなく?」

「あっ、そ、それは、その……」

「緊張されてるという事で構わないのですわね」

 

 鹿倉さんは振り返り、私を一瞥する。

 私は、ウンと頷くのがやっとだった。

 

「本当に、しょうがない人ですわね。あなた」

 

 鹿倉さんからの好感度がグングンと下がっているんだろうなぁって思った。

 

 

 ――

 

 

「ウヒー! お前らも呑めってばよー!」

「断固としてお断りいたしますわ。失礼ですけども規範というのはご存知ですの?」

 

 小さなコテージを割り当てられていて、そこに来てみたら唖然。

 ヒロシさんはお酒をこれでもかと呑んでいて、完全にダメ人間になっていた。

 

「ロックはよー、こういうのも知るのが大事だしよー」

「私、恥ずかしながら浅学ですので、ロックがどういうものか存じておりませんけども、あなた様から学べることがあるとは到底思えませんわ」

「はぁー!? 言ったなー!?」

「紳士であれとは言いませんが、粗野で野蛮な振舞いは講師以前の問題でありませんの?」

「何言ってるかわかんねえー! わかるように言ってくれよー」

「務めを果たしなさいと申し上げてるのですわよ!」

 

 鹿倉さんが一歩も引かないのもあって、想像以上に良くない化学反応が起きてる。

 なんとか場を収めたいけど、どうしたらいいかわかんないよ……

 

 必死に考える……マイナくんならどうするんだろうなぁ。

 ふと、窓の向こうの遠くに見えたマイナくんを見て、そう思った――

 って、えっ!? マイナくん!? こっち来てる!?

 

 口論になっている二人を差し置き、私はこっそりと、だけども素早く表に出る。

 マイナくんが気がついて、小さく手を振りながらこっちに来るので私は小走りで駆け寄る。

 

「こんにちは! 波多野さん!」

「こ、こんにちは。マイナスくん。ど、どうしたの」

「ロックの講座があるっていうから、一目だけ見ようと思ってさ」

 

 そっか! やっぱりそっか!!

 気が付けてよかった……

 私は少し息を整えてからマイナくんに説明しようと試みる……

 

「人はどれくらいいる?」

「えっ、えっと……」

「ここの皆には、俺がロックに興味があるのは知られたくないからさ、それでもチラッと見たくって」

「う、うん。そうだね。全然いない……かな」

「そっかー。でも、波多野さんが参加してるのは驚いちゃった!」

「べ、勉強と思って……」

「楽しんでね! 終わったらでまた話そうね!」

「うん」

 

 マイナくんが背を向けて去っていく。

 全然話せなかった……むしろ伝えることもできなかった……

 いや、でも、今ならメッセージで伝えられるかも!

 

「おーい! ノンノン! どこ行ったんだー!? おーい!!」

「ノンノンさま、いらっしゃいませんのー?」

 

 えっ、すごい大声で探されてる。外にいるのにすごい聞こえる。

 メッセージを送るのはちょっとだけ後にして、急いで私は戻ることにした。

 

「す、すみません。ど、どうしましたか」

「いや、別に。ちょっと便所にでも行ってきたんだよな」

「ちょっと! そのようなデリカシーの無い言葉、謹んでくださりません!?」

「ああん? 金持ちは用を足さなくても平気ってか?」

「そうではなく、男性が女性にかけて良い言葉ではありませんの!」

「あっ、あっ……す、すみません……」

 

 ヒロシさんと鹿倉さんとの間で、口論がどんどんエスカレートしていた。

 鹿倉さんが真っ当な事を言っているだけなんだけどもね……

 

「ノンノンさま! やはり私としましては、この方からご教授頂けるものはないと存じますわ!」

「わかんねえけど、ぞんじませんよなー? ノンノンー??」

「『存じる』というのは思うという言葉の謙譲語ですの! 申し訳在りませんけど、それだと仰る意図が伝わりませんのよ!」

「じゃあよ、なんて言ったらいいんだよー」

「立派に講師を勤め上げてみせます、などでしょうかしら」

「りっぱにこうしをつとめます」

 

 ここまで説得力がない宣言は初めて聞いた。

 鹿倉さんも驚きすぎて固まった。

 

「……差し出がましいのは承知ですが、ノンノンさまは本当にこの方から師事を仰ぎますの?」

 鋭い視線で、鹿倉さんにじっと見据えられる。

 

 ここまでダメな人だとは、私も存じてなかったんです……でも、事情があって、私はこの人を今は見張っていたくて……

 そんな気持ちで、頷く。

 

「……そう。承知致しましたわ」

 鹿倉さんはたぶん、付き合いきれないと怒るだろう……そんな予想をしながら身構える。

 

「さぁ、立派に講師を務めると仰ったからには、見せていただきますわよ」

「おう、やったるぞー!!」

「……えっ。鹿倉さんも、う、うける、の、ですか?」

「何か問題でもありますの?」

「そ、そんな、め、滅相もないです」

「よーし、じゃあ何からやるかー!」

「内容については予め決めておく事が一般的ですのに、ロックにはそういったものは必要ありませんのね?」

「たぶんどっかにやっちまったんだけどよー、用意無い方がロックだな! わかってるじゃねえか!」

「お褒めに預かり()()光栄ですわ」

「俺もなんか嬉しいぜー!」

「あ、あはは……」

 

 全てが予想通りにならない、変な世界。

 

 

 ――

 

 

「ロックのが超流行ったのは、やっぱ『ビートルズ』ってのがきっかけだな」

「名前は伺った事がありますわ。横断歩道を歩いてらっしゃる写真は存じておりますの」

「そうそう。よく知ってるなぁ」

「むしろ、それくらいしか存じておりませんわ。歌劇のひとつのミュージカルについてならまだ存じておりますけど……」

「鹿倉って声が綺麗だし、やっぱ歌が専門なのか?」

「嗜み程度ですわ。専門だなんて、恐れ多いですのよ」

「なんか歌ってくれよー」

「伴奏はお願いしても構いません?」

「オッケー。曲はリクエストあるか?」

「せっかくですし、ノンノンさまもご存知なものだと幸いですわ」

「わ、私が知ってるもの……ですか……」

「任せとけ。これならノンノンも絶対知ってるだろ」

 

 そう言ってヒロシさんはギターをノリノリで演奏し始める。

 あ! これなら知ってる! 『アルプス一万尺』だ!

 

「お待ちになって!? どうしてそれなんですの!?」

「ん? ダメか?」

「そ、その、殿方が歌うに相応しいものですから」

「日本語で歌えばいいんじゃねえか?」

「そ、そうですけれども……!」

 そういえばアルプス一万尺は元の歌があるんだっけ……

 

 それで、歌うのを躊躇っていた鹿倉さんだけども、少し息を吸ってからギターに合わせて歌ってくれる。

 しかも、思ったよりもしっかりと歌ってくれていてすごい。童謡でも、本気で歌ってくれるとこんなにすごいんだ……!

 

「いやー、すげー! 鹿倉はボーカル決定だな!」

「お、お褒めにあずかり、光栄ですわ」

「ノンノンも歌ってみようぜー」

「わ、私は、は、恥ずかしくて、そ、その……」

「歌いやすい奴にするからよー」

 

 また、別の曲を奏で始める。

 あ、これも知ってる……!

 

「あ、あの!! どうしてこの曲なんですの!?」

「えっ? 良いだろ? のびのび歌えるからよ。 ほら、おにーーーのパンツは良いパンツー!」

「良いパンツー……」

「ノ、ノンノンさま! おやめくださいまし!! 私たちが口にするにはあまりに破廉恥過ぎますわ!!」

「あっ、ご、ごめんなさい……」

 

 た、たた、たしかに、パンツって歌うのは、恥ずかしいかも……

 つい釣られて口にしてから気が付いた。

 

「アヒャヒャヒャ! わりぃ! 気が付かなかったわ!! つよーいぞー!! つよーいぞー!!」

「あなたさまの仰るロックって最低ですのね!!」

 

 あぁ、ごめんなさい……鹿倉さん、本当にごめんなさい……




『アルプス一万尺』の原曲『ヤンキードゥードゥル』はかなり男性的な歌詞です。

※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです
※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。
 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。
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