仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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14・良い事悪い事には波がある……はず

「あ、あの……マイナスくん……」

 

 金曜日の放課後、クラス委員の仕事を一緒にしている時に波多野さんに話しかけられる。

 

「ん、どうしたの?」

「あ、あの……吹奏楽部の助っ人の話って……どうなったのかなって思って……」

「うん……全然見つからなくってね」

 

 先輩の言いつけもあって、今はおおっぴらに声をかける事ができていない……。吹奏楽部や打楽器に興味がある人いないかなって話題には出し続けているけども……

 

「軽音部も……補欠……だったよね」

「うん、でも、そっちは人とかの関係もあるしね」

「……よ、よかったらなんだけども、ね……」

「……?」

 

 波多野さんが何か言いかけたその時――

 

「おーーーーい! マイナスーーーー!!」

 

 教室の戸を元気よく開けながら誰かが入ってくる。

 

「わっ!? どしたの!?」

「聞いたんやけどもドラム叩ける人探してる言うやん!? ウチ、ドラムやってみたくてなー! あ、ウチ覚えてる?」

「え、えっとー」

 

 たしか、軽音部に来たけども、追い返されちゃってた女子の――

 

「渋谷やで! ちゃんと話すのは初めてやー!」

「渋谷さん、よ、よろしくね……! それでドラムしたいっていうのは……!?」

「そのまんまの意味や! ホンマは軽音部でダダダダってやりたかったんやけども……」

 

 基本はバンドを組めなかったら軽音部に入部できない……他に女子がいない事もあって、渋谷さんは入部できなかったんだ。

 

「楽部でもまぁええかってな!」

 

 う、嬉しい……!!

 

「ちょ、ちょっと待ってね。まだクラス委員の仕事があるから……」

「あ、いいよ……私、1人で……」

「いやいや、仕事任せるのは絶対に悪いから……やるよ!」

「ならウチも手伝うわ。あ、よろしくなー! えっとー」

「は、波多野です……」

「よろしくやで! ノンノン!」

「は、はい……!」

 

 ……

 

「そういえばさっきの話の、よかったらってなんだったんだろ?」

 

 作業の途中に波多野さんとの話に続きについて聞いてみる。

 

「あ、ううん…何でもないよ……」

「……そう?」

「なー! これはこっちでええんかー?」

「うん! そっちでお願いー!」

 

 ひと通りの作業を終えてから波多野さんとは別れて、渋谷さんと吹奏楽部に向かった。

 

 

 ――

 

 

「渋谷でーす! よろしくやでー!」

「ギャルだー! えー! 来てくれたんだー!?」

 

 うちはバカ高校だけども、吹奏楽部の子は割とおとなしい格好の子が多い。だけども、渋谷さんはかなり見た目が派手だ。

 

「本当はウチ、軽音部行きたかったんやけどね、断られてもうてなー」

「軽音くずれってやつだー!」

 

 軽音くずれ、軽音部に入ろうと思ってたけどもなんだかんだで吹奏楽部に入った人のことを指したりする言葉らしい。

 

「ちゅーことでよろしくな!」

「よーし! これで体育祭はどうにかなりそう!やったー!」

 

 吹奏楽部の部長が喜ぶ。近藤さんも、サックスの子も嬉しそうだ。俺も嬉しい。

 

「ちなみにウチ、音楽初めてやからゆっくり教えてな!」

 

 すごい自信満々に見えたけども初めてだったんだ……!

 

「大丈夫! 色々教えるからー! っていうか化粧教えてよー!」

「ええよええよ! 仲良くしよなー!」

 

 さすが……これが陽キャっていう奴だ! みんなとあっという間に仲良くなれてすごいなぁ……!

 

 

 ――

 

 

 それじゃあ、と吹奏楽部の部室から抜け出して軽音部へ。

 今日は部長から皆に話があるらしく、集まるように言われていた。何とか間に合ってドアを開く……

 

「こんちゃーッス……!」

 他のバンドのメンバー、それと鷹田に渡辺先輩、森夜先輩、黒間先輩もいて、部長はまだみたい。よかった間に合ったー……

 

「来るの遅えんだよなぁ?」

 

 黒間先輩がギロリと睨みつけながら言う。森夜先輩も怖い顔だ。

 

「あっ、あっ、す、すみません……」

「いやさぁ、普通はさー、後輩は一番に来るべきなんだよねー。わかんない? いや、先輩待たせるとかあり得ないもんねー?」

「す、すみません……」

 

 そういうルールがあったんだ……平謝りしかできない……

 

「ねえ、待ってよ。マイナスくんはクラス委員もしてるしさ」

 

 渡辺先輩が先輩ふたりに言ってくれる。そうなんです……すいません、本当に忙しくて……

 

「俺らが待てってかぁ?」

 

 えっ……?

 

「普通に待てばよくない? 実際、他にやること無いからパパっとふたりは来れてる訳だしね?」

 

 渡辺先輩、その言い返し方はマズくないッスか……?

 恐る恐る先輩2人を見れば、黒間先輩は今すぐにでも手をあげそうなくらい頭にきているのがわかる。

 

「それ以上言うとキレっぞ……?」

「別にいいけど恥かくのアンタだよ? かかってくる?」

 

 ここまでの修羅場を俺は見た事が無い。今にも殴りかかってきそうな黒間先輩と、堂々と言ってのける渡辺先輩は映画か何か? 当事者なのにそんな気持ちになってしまった。

 

「あれー? また喧嘩中? 喧嘩はダメだよ。仲良くしよ♥」

 

 そんな中、割って入ってきたのは軽音部の部長、速水先輩だった。

 

「あ、速水先輩ー! またふたりが突っかかってきたんですよー!」

「もー、ナベちゃんにちょっかいかけちゃダメって言ったでしょ? モーくんマーくん♥」

「ウ、ウス……」

「ナベちゃんもよく我慢できたね、偉い偉い♥」

「えへへ、それほどでも……」

「じゃ、部長からのお知らせしちゃうよ♥」

 

 部長のおかげて事なきを得た……のかな??

 

 ……

 

「そういうわけで6月に合同ライブする予定だよ♥」

「速水先輩、そういうの私通してくださいって言ったじゃないですかー!」

 

 他校との交流で合同ライブを開く事になったそうで、しかし細かい話はこれかららしい。渡辺先輩、本当に大変そう……!

 

「細かい事はナベちゃんと……新入生のマイナスくんだったね? に頼むとして……」

 

 あ、俺もでした!

 

「そんな感じで練習するバンドは練習していってね♥」

 

 話が終われば一旦、他のバンドの人たちは解散していく。

 

「ところでさ……マイナスくん、ベース上手いんだって?」

 

 速水先輩が声をかけてくれる。

 

「あ、は、はい、できるというかなんというか――」

 

 俺のこの返答に、速水先輩の後ろに見える鷹田がグッと親指を立てたのが見えた。

 鷹田にベースの事を聞かれたら、できるってだけ答えるんだぞって教えられていたんだ。

 

「今日はさ、カラオケ行こう♥ ターくんもこの間は来れなかったしね♥ バンドメンバーって交流大事だしね♥」

 

「モーくんもマーくんも準備してして♥ どうせならライブでやる曲も決めようね♥」

「ウッス」

 

 

 ――

 

 

「当然の如くマイナス、カラオケは初めてだよなぁー」

「お、おう……」

 

 今は先輩たちへの飲み物を鷹田とふたりで用意している最中だ。

 

「そういえば、俺って速水先輩に気に入ってもらえたのかなぁ……?」

 

 俺がカラオケに来るのが初めてだと知ると、速水先輩はカワイイって連呼していた。それから俺を抱えるようにして離してくれなくて、ベッタリで……

 喜んだ方が良いのか、それでも困惑しちゃう……

 

「一応はそう。だけど気を付けろよ」

「なんで? 良い人そうだけど……」

「ギリギリついていけるのが、あの拗らせ先輩2人だけっていう事から察せねえよなぁ。マイナスだし」

「????」

「距離感間違えたらアウト。そこ気をつけろ。何かあったらすぐに俺にホウレンソウ。オッケー?」

「オ、オッケー」

「上手くやるんだぞ」

「おう……?」

 

 どういう事だろう……?

 

 

「あ、ところでさ、これだけはどうしても聞いておきたいんだけど……」

 

 抱えてた疑問をここで鷹田に聞かなくちゃって思った。

 

「ん、なんだよ」

 

 鷹田も神妙な顔をする。

 

「渡辺先輩ってもしかしてすごく強い……?」

「空手五段だってよ」

 

 

 ――

 

 

「マイナスくんにターくんおかえり♥ 飲み物ありがとうね♥」

「いーえー。後輩なんでむしろ先輩の為に何でもやるっすよー」

「モーくんマーくんに聞いたんだけど、吹奏楽部の子と仲良くしてるんだって?」

「は、はい……! 楽器を融通してもらってて……」

「そういう事なら応援するよ♥ マイナスくんもターくんも良い子だねー♥」

 

 速水先輩はポンポンと隣の席を叩き、俺に座るように促す。

 

「モーくんマーくんもがんばってる後輩の応援したげてね♥」

「も、もちろんっすよー!」

「ねー、じゃあ仲良しの乾杯ー♥」

 

 速水先輩はポンポンと隣の席を叩き、俺に座るように促す。隣に座ればそのまま首に腕を回され、抱き寄せられてしまう。

 物理的に距離が近過ぎるよー……!

 

「マイナスくん何歌う? 選んで選んで♥」

「先輩ー、マイナスはカラオケがガチ初めてなんで手本必要っすよー」

 

 鷹田のフォローが心強すぎる。ありがとう。

 

「えー♥ じゃあ俺が歌った方が良い??」

「やっぱりここは先輩の十八番、歌ってくださいよー!」

 

 森夜先輩が操作して曲を予約する。

 

「もー♥ 仕方ないなぁ♥ マイナスくんきっと知らない曲だけど♥ 聞いてね♥」

 

 ……

 

 速水先輩が歌い出したのはいわゆる『洋楽』だった。

 

 邦楽でなければ全て洋楽に違いないのだが、狭義的に言うならば海を渡ってきた歌というのはやはり一味違う。言葉の壁を乗り越えて海の向こうの誰かに届く曲、それは誰かの心に届いたという事なのだから。

 

 そして速水先輩の歌は上手だった。俺の事を片腕で抱えて離さないからしっかりと見る事はできてないけども、部長を務めて渡辺先輩みたいなおっかけができるのも納得できる。それにカッコイイし。

 

「どうだった? マイナスくん♥」

「すっごいカッコよかったッス! それに選曲渋くて意外っス! そのバンド、速水先輩好きなんスか?」

「え! もしかして知ってたの♥ え、じゃあこれも知ってる?」

「あー! いいっスね! 歌えるんスか!?」

「マイナス、そこらへんになると逆に詳しいのなー」

「もーマイナスくん好きになっちゃう♥ 時間合わないのだけ本当に残念♥」

「ちな、速水先輩ってもしかして、この曲とかも歌えるんすか?」

「ターくんも知ってるのー?? 今年の一年、ヤバイね♥ ねっ、モーくんマーくん♥」

「いやぁヤバいっすねぇ」

「じゃあ歌おう歌おう♥」

 

 

 そんな風にして速水先輩たちとのカラオケが1時間ほど続き……

 

 

「サーセン、そろそろ俺、家の手伝いしないとなんで先に帰りますわー」

「言ってたね♥ ターくん本当に忙しいのに付き合ってくれてありがとうね♥」

 

 えっ!? 帰っちゃうの!? 鷹田!?

 

「じゃあ、お先に失礼しまっす。またー」

 

 バイバーイと速水先輩は手を振る。俺も鷹田がいないと不安過ぎるよ……!

 

「いやぁ大丈夫っすよー! 先輩ー! 俺ら、まだ一緒できるんでー!」

 

 森夜先輩が明るく盛り上げようとする。先輩にだけ囲まれるの怖いよぉ……

 

「は? お前らまだいんの?」

 

 ……え?

 

 膝枕させられてる俺は、速水先輩の顔を見上げる。

 

「あ、い、いや……」

「別にいてもいいけど」

「いやいや、帰りますよ~!」

「帰ってほしいなんて言ってないけど」

「あ、いやぁ違いますって違いますって~!」

 

 森夜先輩はしどろもどろにしてる……速水先輩がどうしてほしいのか、俺もちょっとわからない……。

 

「きょ、今日、俺たち、その、家に用事があって、そう、思い出して……」

 

 黒間先輩が用事を急に思い出す……

 

「そうなんっすよ。いやぁ、さーせん!」

「用事があったなら仕方ないね♥ 俺たちの事は気にしないでいってきて♥」

「う、うっす! サーセン……」

 

 お疲れ様、と言いながら森夜先輩と黒間先輩は部屋から出て行った……

 

「二人きりだね、マイナスくん♥」

 

 あっけに取られていたけども、今、個室には速水先輩と俺の二人きりだ……

 

「あ、は、はい……」

 

 そっと俺の顔を撫でながら速水先輩は言う。

 

「今日は何時まで大丈夫?」

「え、えと……」

 

 時計を見る。

 

「6時半……までなら」

 

 

「――なんで?」

 

 

 ゴクリと俺は唾を飲んだ。

 

「バスの時間と……妹が晩御飯待ってるんで……」

 

 

「そっか♥ 妹ちゃん待たせたら可哀想だもんね♥」

 

 

 鷹田の"間違えたらアウト"っていう言葉がグルグル頭の中で回っていた。




 非常に乱暴に、洋楽と纏めていますがもちろんたくさんの曲があります。

 なんか良い曲だな→繰り返し聞く→口ずさむ→歌詞の意味を調べる→もっと好きになる
 ってあるあるありませんか?

※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです
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