仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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152・世界はありのままを受け入れてくれるってこういう事なんだ

「つい癖で火ぃ点けちまっただけだっつの」

「ふえぇ、ごめんなさい、ごめんなさいー!」

「土田もこんなに謝ってるから許してやってくれってー」

「タバコ止められなくてごめんなさいー!」

 

 助けてくれた職員さんと一緒にホールの方へ向かうと、そこには灰野先生と土田先生がいた。

 やっぱり灰野先生はエネミー役の方が相応しい気がして、私の灰野先生への認識は甘いのかもしれないと思った。

 

「はいはいさーせんでした。タバコくらい好きに吸わせろよなー。まったく」

「あー! だからタバコ取り出しちゃダメですってー!」

「癖だっつってんだろー!」

「私預かります! 預かりますからー!」

「そういっていつも失くしてんじゃねえかよ!」

「ひーん! ごめんなさいごめんなさいー!!」

 

 私の知る限りだと、大人ってこんな会話しない気がする。

 

「ああ、ですけれども、怪我の功名といいますか、おかげでこの子が――」

「あっ、それは、大丈夫です!」

 助けてくれた職員さんが、私の事を伝えようとしたので遮る。まだ、その事についてどうするべきかは全然考えてないから、大ごとにしたくなくて……

 

「――ああん? 波多野じゃん。閉じ込められでもしてたとか?」

「……申し訳ないけども、保安のためにも伝えさせてもらうよ?」

「うっ……いえ、でも……」

 なんて言えばいいか躊躇っている様子は、灰野先生の質問にYESと答えているようなものだった。灰野先生はギザギザの歯を見せながらニヤニヤ笑う。

 

「なんか重大な事案起きてるみたいなんで、早く対処しねえとなこりゃ! 確保あざーっす!」

「人を交えて事情を説明して頂きたいのですが――」

「まずは波多野が怪我してないかとか見るべきじゃね? えっ、違う? 保護大事じゃね?」

「それはそうですけども……」

「怖かったなー! もう大丈夫だぜ波多野ー!」

「そうなんですかノンノンさん!? 無事でよかったですえーん!!」

「おら行くぞ波多野、舞台の後半見逃すぞ」

「えっ、あ、は、はい」

「後で必ずお話を伺わせて頂きますからね……!」

 

 職員さん、助けてくださったのにすみません……でも、私も灰野先生にはちょっと話したいから……

 

 

 ――

 

 

「悪気無けりゃ何しても許されるってか。マジで良い事聞いたわ」

「そうなんですか!? じゃあ、タバコ点けちゃったのも大丈夫なんですねよかったー!」

「そ、そんな事、そんな事無いと思います……はい」

「普通に考えてそうだろ?」

「えっ、そうなんですか。悪い事はやっぱり悪いんですね」

「そ、その通りです。土田先生……」

 起きた事を話しつつ悪気の有無について、すごく灰野先生らしい返答が来た。

 

「んでどうする? 強請る? 通報? 恐喝?」

「なんでそんな怖い事ばっかり言うんですか……」

「普通に考えてこの交流合宿でそんな事発覚したら、そいつら学校にマジで来れなくなるじゃん。加えて親どももバカな子どものせいで人間関係破綻してガチで面白い事になるぞー」

「ええー!? そんな事になったら可哀想ですよー!」

「なら土田はノンノン苛められたの許すワケ?」

「許しません! ノンノンが許しても私が許しません!」

「こんな感じで可哀想と許さないは両立するわけだな。業界なんてマジで狭いんだからよー」

「……そうなんですね」

 

 灰野先生の道徳0だけども、道理は押さえた話っていうのは納得しちゃう。

 

「ですけども私、なんていうか正直、今はその人たちに興味が無くって……」

「おっ、なんか悟ったってか?」

「その……私にも好きな人、嫌いな人がいるんですけども……でも、どんな人にも道理は通したいというか……なんというか……」

 

「それが、最低限の人としてあるべき姿だと思っていて。そうじゃないと社会に居る資格が無いって思っていて。でも、それが本当に通じない人もいて……」

 

「その人たちに関わる事、その人たちのために頑張る事、その人たちのために時間を使う事。なんだか勿体無いなって、思ってる……のかもしれません」

 

 ……人を見限るような私、それをちょっと軽蔑してるのかも。

 

「……波多野に私、超ディスられてるこれもしかして?」

「――えっ!? なんで!? 違いますよ!? 灰野先生は、そのぉ……」

「ミキさん! ミキさんには私がいますよ! 私がぁ!」

「土田は黙れ。私が社会に存在するの間違いですかぁ? どうなの波多野ー?」

「ぜ、全然! 違います私は他の人に押し付けたいんじゃなくて、私は私にそう思ってて……」

「んじゃあ、自分だけは特別ってか?」

「えっ、えーっと……」

 

 奇想天外な事をする皆の事、私は大好き。でも、せめて私だけは良い子でいようって事?

 いや違う。それは私が皆に申し訳ないから良い子で居たいって事で――

 

「ミキさんは私の特別ですよ!」

「うるせー! ずっと纏わりついてくんな!」

「私は一生ミキさんのお友達です! 味方です!」

「マージでこいつみたいなのも居るんだよな。私みたいなのでもよー」

「えっと、蓼食う虫も好き好きみたいな感じ……ですか」

「波多野のディスは無意識なの?」

「あっ、いえ、ごめんなさい……」

 でも、私も灰野先生、好き側だからなぁ……

 

「まぁ自信無いみたいだけどよ、お前は良い子だし、私なんかよりずっと人に好かれると思うぜ」

「……えっ!? あ、ありがとうございます……」

 

 急に灰野先生にそんな事を言われると、照れてしまう……

 と、そんな時にアナウンスが入る。そろそろ後半が始まるらしい。

 

「おっと、席行こうぜー。私も鹿倉の舞台、見てみたくてさー」

「は、はい……!」

「すっごいよかったんですよー!」

「タバコで中断しちまったけどな」

「そこは反省してくださいね……」

 

 私たちは観客席へと向かう。後半からでも見れるのは嬉しいなぁ。

 

 

 ――

 

 

「あっ、あの、ノンノンさん……さ、探しました……」

「す、すみません。ちょっと色々あって……」

 

 企画のきっかけになったあの人が声をかけて招いてくれる。

 

「な、何かあったのかと、心配で探したのですけども、どこにも見当たらず……」

「心配……かけちゃいましたね。すみません」

「い、いえ……戻ってきてくれてよかったです」

 今は正直に話すのは良くないなぁ。そう思って、ちょっとだけ誤魔化す。

 

 ――あの人たち、やっぱりいるのかな。

 少し騒がしいお喋りが聞こえる方を一瞥すると、やっぱり居た。

 

「あ、あの人たち……普通に参加してきていて……その……」

「そうですね。私も良い気分ではないですけども、気にせず楽しみましょう」

「なあなあどいつらどいつら? なあなあ」

 灰野先生が悪い顔しながら聞いてくる。

 

「あ、えっと……いえ……」

「ほーん、あいつらかぁ。ほーん」

「その……貴女は……?」

「ん、私は普通に合宿の講師。なんかトラブったって聞いててさー」

「そ、そうなんですね。あ、でも、別に、大したことじゃ……」

 

 ――ブー、と開始直前のブザーが鳴る。

 ホールが静かになり、幕が開く前の、独特な緊張した時間が続く。

 

 ……私は囁き声で聞く。

 

「あの……前半って、どうなってましたか……?」

「その……出会って、惹かれて合って、でも、隠れて会って……あ、でも、その時に……」

「その時に……?」

「本来、だと……愛を誓いあって、幕引きなんですけど、ベル、鳴っちゃって……」

「すごい、良い所で……」

「そう、ですね……」

 

 灰野先生がやったから私に責任は一切無いけども、仮に私がベルを鳴らしたら、私が台無しにしていたと思うと複雑な気持ちになる。

 こうして今からでも見れる事は幸運。だけども、今からでもこうして見れる事はトラブルがあってこそ。

 鹿倉さんたちが今回の舞台に、どれだけ真剣に打ち込んできたか、その一端を垣間見たからトラブルがあって皆がどんな気持ちかを想像すると辛くなる。

 

「――嗚呼、昨日しか伝える機会なんて無かったのに!」

 真中さんの――主人公の嘆きの声で、舞台が唐突に始まる。

 

「やっぱり、私たちは結ばれるべきではないと、神様も言うんですか」

 ――ここって、幸せなシーンじゃなかったっけ。ふたりで脱出をする算段を上手くしていくシーンじゃなかったっけ。

 

「いいえ……でも、彼が幸せなら、私はそれで良い……」

 想う心を、切ない心を、その嘆きがジンジンと伝わってくる……証明が落ちて、暗転する。

 

 ――コンコン、とノックの音がする。

「やあ、どうしたんだい」

「愛しの貴方に会いに来ただけですわよ」

「……そうかい」

 新内くんと鹿倉さんの――もう一人の主人公と悪役のシーンになる。

 

「昨日までは落ち着きがありませんでしたのに、今日はお仕事に熱心ですのね」

「……もうじき君との式がある。その前に仕事を片付けなくては、と」

「まぁ、無理はなさらないでくださいまし。愛しの貴方に大事があれば私は悲しいですわ」

「……」

 黙りこくる主人公に、悪役は続ける。

 

「ところで、昨日の夜は火事があったそうですわ」

「……それが?」

「ずいぶん歩く場所なのですけど、とてもロマンチックな場所だそうですの」

「……」

「今度は、私を連れていってくださいまし」

「……君がっ――」

「そう、それと彼女は朝一番にこの町を出たそうですわ」

 そう言って、悪役はトランクを投げる。

 

「雇い主である貴方に挨拶ができないなんて、なんて常識の無い女なのでしょうね」

 そして、悪役は出ていく。

 

 主人公は悲しみに暮れながら、トランクを開ける。そして嘆きの言葉を呟きながら……ひとつの手紙を手に取る。

 どこからか、歌声が聞こえてきて、ふたりはその場にいないながらも、互いを思いやりながら歌う。

 

「……これ、もしかして私の鳴らしたベルが悪役のせいだった的なオリジナル展開?」

「――えっ、そういうのあるんですか」

「いや、わかんねえけど。でも、なんつーか……」

 

 ――そういえば、言ってたなぁ。

 トラブルがあってもそれが舞台だ、って。

 

「うお……波多野なんで泣いてんの!?」

「えっ、えっ……あ、ハンカチ……ど、どうぞ」

「す、すみません……すみません……」

 

 私、勘違いしてた。

 鹿倉さんたちは完璧な舞台をしようとしてたんじゃない。

 鹿倉さんたちは鹿倉さんたちの舞台をしようとしてたんだ。

 

 ――ありのままでいいって、そういう事なんだね。

 私、鹿倉さんたちに出会えて、よかった。ありがとう。




せっかくのクリスマスなので、明るいエピソードを投稿したくなりました。
メリークリスマスです!

※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです
※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。
 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。
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