仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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159・私利私欲の立候補なんてダメに決まってるでしょ……

「灰野先生! どうして平賀先生が来てるんですか!」

「私だって知らねえよ! てめえがなんかしたせいだろ! マイナ!」

「覚えはありますけど、きっと違いますから!!」

「ぜってえお前のせいだから!! そういう時お前のせいだから!!」

 

 俺たちのクラスの担任の灰野先生を教室に連れ出すため、私室と化している音楽準備室へ迎えに行く名目で平賀先生の事を聞く。

 灰野先生も音大のOGという立場らしいから、平賀先生の事はもちろん知っている。

 何か連絡とか受けているのかと思ったけど、全然そんな事無かった。

 

「まぁまぁ……悪い人ではないですし……でも、困るのは確かだから、私が聞いてみようかなって……」

「えっ、頼んでいいの!? 波多野さん!?」

「うん。マイナくんが部活も、D高校も、気兼ねなくできた方が私も嬉しいから……」

「んじゃあ平賀先生に音大に帰れって伝えてくれ」

「そんな事しません……平賀先生の認識っていうか……そういうのを聞いたりしようかなって」

「最近ずっと頼りになりっぱなしで、ありがとう……波多野さん……!」

「どういたしまして……さ、そろそろHRも行きましょう。灰野先生」

 

 同じクラス委員のうえ、勉強も秘密を守るのも協力してくれる波多野さん。

 本当に心強過ぎて感謝しかない……ありがとう……

 

 ……

 

「あれ? 灰野先生!? ど、どうしましたー?」

「んあ? 角田じゃん。担任してんの?」

「そ、そうですけどー」

「ふーん、お疲れ。んじゃ私戻るわ」

 

 教室に戻ると何故か角田先生がいて、担任っぽい事をしていた。

 それを見た灰野先生は踵を返そうとする。

 

「待ってくださいよ俺の担任は灰野先生しかいませんよ!」

「角田が担任してくれるってよよかったな馬園」

「ヤダー!! 俺は灰野先生になじられたい! ゴミを見る目で見られたい! 罵倒されたい!」

「代わりにやってくれな角田」

「えっ、私には、そのちょっと……」

「灰野先生が良いー! 灰野先生ー! 灰野先生!!」

「ま、まぁ確かに気色悪いのは認めちゃうけどね!」

「なんかそれふつうにきずつく」

「あの、でも、角田先生、担任になったんですか?」

 

 馬園の趣味趣向についてはノータッチとして、角田先生が担任になるっていうのは全く聞いた覚えがない。聞いてたら波多野さんも知ってると思うし。

 でも、どっちかなら灰野先生が担任じゃない方が俺は嬉しい。

 

「いや、ほら。急に辞めちゃったけども、こうして出戻りさせてもらってさ、だから元鞘に収まるべきっていうか、担任またした方がいいよねーって」

「あ、じゃあ、正式に担任……っていう訳じゃないんですね」

「うん、でも、担任は私の方がきっといいかなーって! 灰野先生は、その、個性的、ですし!」

「ヤダー!! 灰野先生が良い!! バブー!! オギャアアア!」

「誰かアイツをコウノトリに突き返せ」

「てかみんなも灰野先生が担任がいいっしょ!?」

 

 駄々をこねてた馬園が大きい声を出して皆に聞く。

 そんな、灰野先生が担任で良いなんて、絶対に少数派で――

 

「私は、灰野先生が担任続けてくれると、嬉しいな……」

 えっ……波多野さんは灰野先生が良いの!?

「ノンノーン!! ノンノンが味方! 俺の味方! やったバブー!! オンギャアアアア!!」

「ご、ごめん。馬園くんとは、理由、違くって……」

「馬園のマゾと肩は組みたくないけど、灰野先生が良いー」

「馬園はキショすぎだけど、どっちかなら灰野先生推し」

「漫才見れて好き」

「てか普通に楽しいし」

 

 聞こえてくる皆の意見に少し驚き。

 こんな人でなしロクデナシの灰野先生のどこがいいの!?

 平気で悪い事するし、いきなり蹴ってくる暴力教師だよ!?

 

「う、うるせー! お前ら、蹴り飛ばすぞ!!」

「でも、マイナスくん以外って狙って蹴った事ないですよねー」

「実は見てない所だと優しい!」

「灰野先生が担任だから、他のクラスからバリアーみたいになってる」

「知らねえー! 私にゃ関係ねえー!! 褒めたら蹴る!」

「そういう照れ隠し、この馬園の胸の中でいくらでも聞きますよ。カワイイ灰野先生――」

「ああああああ!! 死ねええええええええ!」

 

 そう言って照れ隠しの限界を迎えた灰野先生は手じゃなくて足が出る。――何故か俺のお尻に。

 油断、不意の一撃、痛くて絶叫。

 

「ナ、ナンデ!? なんで俺なんですか!? イタイ!! イタイイイ!!!」

「なんで俺を蹴ってくれないんですかああああズルイズルイー!! マイナスズルイー!!」

「こっち来るな馬園キモイキモイ死ね死ね死ねー!!」

「あああああ言葉攻めありがとうございまああああす!!」

 

 動物園。もうまさにここは動物園だ。

 

 

 ――

 

 

「マイナス、大丈夫かー? 保健室行くかー?」

「ありがとう熊谷……一応、平気……」

「灰野先生に蹴られた尻、触らせて」

「ヤダ」

「本当は俺への蹴りだったはずだから権利はあるでしょ!?」

「無いよ」

 奇天烈な事を言い出す馬園は放っておいて、優しくしてくれる熊谷に癒される……

 

「マイナスは灰野先生に頼られてて大変だなー」

「灰野先生がずっと担任だと、身体がもたない気がする……」

「クラス委員になれば灰野先生に蹴ってもらえるのかなぁ」

「どうだろうなー。馬園は汚物扱いみたいになってるしなー」

「なんでそんなひどいこというの」

 いや、そんなの当然の――

 

「そんなの当然だろ、きしょいんだよ。おらー!」

「イタイ!!」

 スパーンと馬園に蹴りが入る。

 

「ウーン、灰野先生の蹴りには届かないなぁ」

「いきなり蹴ったら痛いでしょ! なんだよ山岸!!」

「馬園がクラス委員になったら灰野先生、絶対に担任やりたくないってなると私も思ってさ!」

「あはは、山岸もそう思うよなー」

「えーん! みんながイジメる! ロミオとジュリエットなの!? 馬園と灰野先生なの!? 結ばれない運命つらい!」

「お前がきしょいだけだよ! おらー!」

「イタイって! やめて!!」

 

 灰野先生の蹴りと山岸さんの蹴りで何か違いがあるんだろうか……?

 やっぱり馬園の感性はワカラナイ……

 

「体育祭で優勝したのは灰野先生、褒めてくれたしなー」

「そりゃあ俺がんばったもんね!」

「みんなのおかげだろ、おらー!!」

「ヒンッ! あっ、でもさ、それならさ! もっとすごい事したらもっと褒めてもらえるんじゃない!?」

「次は何しでかすつもりなのさ……」

 馬園の話には全く期待できない。

 

「生徒会に入って、そこで灰野先生に褒めてもらうってお願いを叶えてもらう!」

 

 ……何を言っているかわからないと思うから補足。

 平賀先生が言う皆の願いを叶えるっていうのは、生徒会を通じて決められた要望を叶えるよっていう話らしい。

 今月末には生徒会の選挙が始まるから、要望を通すためには生徒会に入る必要があるわけで、馬園は生徒会に入ったら灰野先生に褒めてもらうってお願いをしようとしてるって事で……ごめん何を言ってるかわからないよ。

 

「私利私欲過ぎて誰がお前なんかに入れるか! おらー!!」

「イタイ!! 蹴るの禁止! じゃあ蹴るの禁止にする!!」

「生徒会になってから言えや! おらー!!」

「生徒会になるもん! 俺、なるもん!!」

 

 なれないと思うなぁー。

 

 

 ――

 

 

 その後もなんだかんだ授業をこなしたり、お昼を過ごしたり。

 学校はお願いの事や、生徒会についての話題で賑わっていた。

 みんながどう感じてるか、どう思ってるかを聞くのはすごい楽しくて、あっという間に放課後になる。

 

「いや、正直面倒くせえ事にしかならねえから面倒くせえ」

「なんで!?」

 

 同じ軽音部で親友の鷹田に、お願いの事を聞いたら意外過ぎる返事でビックリした。

 

「……なんで!?」

「考えようとした所は褒めてやるよ。いや、でもふっつーにクソ面倒な事になるぞ」

「んー……わかんない……生徒会に立候補する人が増えるから?」

「くじ引いて決める訳じゃないっつうのはわかるよな?」

「ウン。投票、選挙をするからくじじゃないもんね」

「多数決で決める訳だから、どれだけ味方を見つけられるかっていう争いにもなるわけよ。ちょっと待ってろ」

 

 鷹田は紙に何か書いてくれる……

 

///

 

・選挙では公約(=立候補したら何をするかの約束)が大事。

・同じ公約を持った候補者が増えると票がバラける。

 →叶えるには集団の大きさと統率力が大事。

●梅派が6人、おかか派が4人として

 立候補者が梅派6人、おかか派1人

 →梅派の得票はばらける。おかか派は4票でおかかに決まる。

※戦略的にやらないと、例え賛同者がたくさんいても選挙に負ける。

 

///

 

「まぁ要約すると人間関係が大事って訳だな」

「へー、わかんないけどもわかった!」

「で、他にもポイントがいくつかある。

 

 3年はすぐ卒業でバイバイするのもあるから当然、立候補できない。

 加えて何がどうなってもすぐ卒業だからモチベが低いよな。

 けど、そこに2年の奴らが漬け込む隙ができる訳。

 うちは年功序列強いから、3年に尻尾振れば、下の奴らを纏めて操作できるわけ。

 1年の身としては、クソみたいな話になったとしても逆らえないし、動きにくくてクソめんどい。

 

 ぶっちゃけると選挙の構造がクソって話にもなるんだけど、そこは置いとく」

 

「お、おう……えっと、でも、なんかそんな悪いことする人、いるのかなぁ」

「1年じゃなかったらなー。俺が2年だったらなー」

「えー、でも鷹田はなんだかんだ良い事願ってくれると思うよ!」

「ゴミゼロ法。ゴミ箱撤去して、ゴミをポイ捨てたら罰金取る」

「わっ!? なんか思ったよりすごい良いの出てきてビックリした。なんかいいね!」

「で、俺はゴミ袋を持ってくるから、どうしてもゴミを捨てたい奴から金を貰って処理してやるんだよ」

「しかも鷹田そこまで考えてるの!? 優しい!!」

「やっぱり素直でかわいい奴だよなー、マイナスはー」

「鷹田と友達でよかったー!」

 鷹田はなんでだか空笑いしてる気がするけども、なんでだろう?

 

「まぁいっか。部活行こうぜ」

「あっ、お、おう……!」

 

 平賀先生に見られていないならまだ大丈夫だよね……ドキドキ。




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