仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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164・図書館ってどれくらい行く?

「月野さんは言ってた通り、勉強に集中するって吹奏楽部は辞めちゃったよ」

「やっぱりそうだよね」

 部活終わりに、吹奏楽部に顔を出して月野さんがいないかを確かめた。辞めるつもりなのは聞いていたから当然なんだけども、念のために来てみた。

 

「やりたい事とか目標があるなら、もちろんそれを優先してほしいから全然構わないんだけどね。でも、連絡も素っ気ないから私も少し心配かなぁ」

「近藤さんもそう思う? 俺、月野さんに連絡してもいいかなぁ?」

 合宿でゆっくり話して、吹奏楽部のコンクールが終わって。それからは夜の勉強会にも来なくなって、月野さんと接点がほとんどなくなっていた。声をかけていいのか、それとも邪魔になるからやめたほうがいいのか、悩んで結局連絡を全然していない。

 

「ああ、それはもちろんして良いと思うよ。むしろ喜ぶんじゃないかな」

「そう? じゃあ、連絡してみようかな……」

「もしよかったらなんだけどもね、私も月野さんと話したくて。皆で出かけないかって誘ってみてくれないかな?」

「えっ、いいよ! 皆って皆?」

「ふふ、予定が合えばだけどね。波多野さんも渋谷さんも心配しているしね」

「8人で出かけたの、楽しかったからなぁ……」

 まだ二回だけだけど。

 

「そういうわけで、少しお願いね。マイナスくん」

「おう、すぐ連絡してみるね」

 それじゃあ、と俺は近藤さんと別れた。

 

 

 ――

 

 

『こんにちは。月野さん。聞きたい事があって、いいですか?』

 すごく悩んで悩んで送った内容だけど、他人行儀過ぎる気がしてもっと気軽な方がよかったかなぁってモヤモヤ。とりあえず、返事が来るまではのんびりと――

 ピコン! と通知音がもう返ってきてビックリ。

 

「図書館なんやから、ちゃんとマナーモードにしとき、マイナス!」

「ご、ごめん。うっかりしてた」

 鷹田はバイトでいないけど、渋谷さんに森夜先輩、黒間先輩と俺の4人で図書館へ来てみた。月野さんからの返事にはチラッと目を通しつつ、マナーモードに設定。

 

「にしても、図書館来るなんて久しぶりなんよなー」

「俺もなんだかんだ久しぶりかなぁ……家に書庫があって」

「えっ、マイナスの家、書庫があるん……?」

「あっ、えと……一応……?」

「すごいなー、インテリやん! オトンの?」

「ウン。音楽関連ので……」

「ほえー、やっぱマイナスってお坊ちゃん疑惑強いわー」

「そ、そんな事無いと思うけどー……」

 家の事を隠したいのにボロが出そう。ボロが出そう!

 

「実は大豪邸持っとる大富豪が友達やったりしたら、ベタ中のベタで面白いんやけどなー」

「大豪邸……どんなのだろ?」

「せやな、家に入るのには門を潜って庭を抜けてなー」

 門、庭、あるなぁ……

「玄関開けたらちょっとしたホールになっとって、花瓶とかも置いてあってー」

 えっと、一応そうかなぁ……?

「サンルームってわかるか? お庭で紅茶とか呑む場所もあってなー」

 あるなぁ……

「あとはお手伝いさんが居って、部屋もたくさんあって客間もあって、お風呂は泡が出るすごい奴とかやろかなー」

 やっぱり、ウチ、大豪邸かもしれません、ハイ……秘密にしよう。

 

「金持ちアレルギーのタカダンがそんなん見たら、きっと面白いやろなー」

「ま、まぁでも、鷹田には申し訳ないけど、良い暮らしはさせてもらってる方かなぁ……」

「むしろタカダンが大変なのにようがんばっとるなぁって話やな」

「それは本当にその通り。できる事なら色々もっと手伝いたいんだけどなぁ」

「けどプライドタカダンやから、施しみたいなんは嫌なんやろ?」

「あっ、渋谷さんもわかる?」

「理由無く奢ろうとすると機嫌悪くなるもんな、タカダン」

「あはは、そうなんだよね」

「――申し訳ありませんが、図書館なのでお静かにお願いします」

「あっ、ごめんなさい」

 渋谷さんと会話が盛り上がっていつの間にか声が大きくなってた……ごめんなさい……!

 

「盛り上がってまうから、本読むかぁ」

「ウン……俺、今日は本探しに来たから……」

「おぉ……? 何読むんや?」

「えっとね、音楽史に関連した歴史でね……」

「ホンマ? なんかガチ本っぽいけど読めるん?」

「ちゃんと読めるかはわかんないけども、知りたくて……作曲家の背景とかを知ると、その曲についてもっと世界が広がるから……」

「さすが音楽オタクや……! 本探すの手伝おか!?」

「あっ、よかったらおねがい……!」

 

 ***

 そういえばこれは余談なんだけども、一口に音楽史と言っても様々なジャンルにそれぞれの歴史がある。それぞれが完全に独立した歴史を持つわけではないけども、かといってひとつに纏めるのは大雑把過ぎる。

 クラシック音楽史はまだ知っている方だと思いたいけど、ポピュラー音楽史やその前身、あるいは派生については齧った程度しか俺は知らない。

 また、ジャンルを括ってはいるけどもそれは俺の感じた解釈であって、他の人にはその人の解釈があると思うから、何が正しいかよりどんな風に感じたかをそれぞれ大切にしていきたいなって俺は思ってる。

 ***

 

 そういうわけで俺が気になっていたのは『ショーロ』っていうジャンル。恐らく一番有名なのは『Tico-Tico no Fubá』っていう楽曲で、これはラテンのリズムの中で陽気さと哀愁の両方を感じられる、すごく心に残る曲だ。

 そんなショーロの生まれはブラジルっていう所で西暦1870年頃らしいのだけども、たしかこの頃は南北戦争っていうのの後だったかな?

 それに加えて、ブラジルっていう所はポルトガル――ヨーロッパの国で……あ、だからクラシックの流れっていう事なのか。ラテンの地に、クラシック音楽の文化を持った人が移住した。それでクラシックとラテンって感じなのかなー?

 うーん、ちゃんとはわかんないけども、でもなんだか惹かれた理由として、他のラテン系となんか違うからなのかも?

 

「マイナスって……実はちゃんと本読むんやな……?」

「……えっ? いや、でも全然ちんぷんかんぷんかな……?」

「せやけど、地味に世界史とかは得意やん」

「ちゃんとした名前とかは覚えられないんだけどね……」

「てか、調べたかったのわかったん?」

「ポポ……ポ……? が、えっと、海を渡って、だから、他のラテン系との差があるのかなぁって思った」

「固有名詞の記憶壊滅してるやん! それでええんか!?」

 渋谷さん、思わず大きな声で喋ってお静かに、って叱られる。俺もゴメンナサイ……

 

「で、でもなんかなんとなくはわかった気がするから……」

「まぁ……それならええんやけど……」

「あ、でも次は作曲家の事も調べようかなぁって」

「名前はわかるん?」

「えっとね、『ゼキーニャ・ジ・アブレウ』って人とか」

「音楽家の方は覚えられるんかーい!!」

 

「――お話が弾むようでしたら、申し訳ありませんが館外でお願いします」

「ホ、ホンマごめんなさい……」

「俺もごめんなさい……」

 

 二人でいるとまた喋りそうだから、俺たちは離れる事にした……

 

 

 ――

 

 

 あっ、と気が付いてスマホを開く。

 

『大丈夫だよ 聞きたい事ってなんだろう?』

『今、部活中だっけ? 学校にいる?』

『返事は時間ある時で大丈夫だよ』

『何か困ってたら気軽に言ってね』

『大丈夫?』

 月野さんから返信がけっこうな量届いてるー! すぐに返事くれたのに、反応遅れてごめんね! 早く返そうっと……

 

『大丈夫だよ 今は図書館 返事遅れてごめんね』

 なんとか送って――

『平気 今図書館? 探し物? 手伝える? 行こっか?』

 わっ、月野さん早い!? 心配かけちゃったかなぁ……

『ありがとう』 

 とりあえず、お礼を伝えてから――

『うん じゃあすぐ行くね』

 ええっ!? 早いよ!? 月野さん!? まぁとりあえず、先輩たちに声をかけて図書館を出て月野さんを迎えに行く事にした。

 

 ……

 

「マイナスくん、お待たせ。中で待っててくれてよかったのに」

「ううん、わざわざゴメンね」

 自転車に乗って来てくれた月野さん。前に会ったのは半月前くらいだから久しぶりっていう程じゃないんだけども、思ったより元気そうで安心。

 

「聞きたい事って探し物の事だったのかな? 何調べてたの?」

「調べてたのは『ショーロ』っていうのについてなんだけども、聞きたい事は別なんだ」

「あっ、そうなの? じゃあ、来なくても大丈夫だった……?」

「ううん! いや、でも大丈夫だったけども月野さんと会えたのは嬉しいから」

「あはは、そんな事言わなくてもいいのに。それに、別に私なんかいつでも呼んでくれていいよ」

「いやいや! 勉強がんばってるって聞いてるから、邪魔しちゃうかなって」

 全然良いのに、って月野さんは笑って返す。月野さんは本当に優しい人だなぁ。

 

「あ、じゃあ聞きたい事ってなんだろ?」

「前に会った児童福祉司さんのあの人に、聞いてみたい事があって……」

「そうなんだね。マイナスくんも連絡先は持ってなかったっけ?」

「うん、だけどいきなり連絡するんじゃなくて、月野さんに一回聞いてみようと思って」

「そっか。一応今も私、連絡取ってるからね」

「やっぱり忙しくしてるかな? 少し、相談をしたい事があるんだ」

「私じゃ何とも言えないけども、よかったら聞いてみよっか?」

「いいの? そうしてもらえると助かるけども」

「もちろん任せて。じゃあ、返事もらい次第また連絡するね!」

 それじゃあ、と月野さんは自転車に乗ろうとする――

「待って待って! 月野さん!」

「どうしたの?」

「いや! わざわざ来てもらったのにすぐ帰すなんて申し訳なくて……」

「えー、別に気にしなくていいのになぁ。マイナスくんは本当に優しいね」

「時間があれば少しだけでもゆっくり話でもしない?」

「えへへ……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

「ありがとう! 渋谷さんと先輩たちにちょっと連絡するね」

「……もしかして、渋谷さんと先輩たちも来る……?」

「あっ、それはちょっとわかんない! 月野さん、イヤかな?」

「……ううん。大丈夫だよ」

「無理はしないでね!」

「うん、ありがとう」

 

 月野さんに付き合ってもらってばかりで申し訳ないなぁ……!




 作中で簡単に記述している通りですが、ブラジルはポルトガルに由来しています。
 このため、音楽の一点に絞って見たときにラテン系のくくりに入らないというのは、ヨーロッパの音楽の流れを強く汲んでいるのが理由になるんですね。
 また、ブラジルはカーニバルでも有名ですが、その音楽と歴史は深く結びついており、とても興味深い道を歩んでいます。

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