仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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165・何が良くなかったか、知りたいなぁ

「うちはモスド派なんやけどなー」

「モッスの方がよく聞くけどなぁ」

「その小っちゃい”ツ”はどっから来たねんって突っ込みたくなるんよ」

「あー……そういえばたしかに。どっから来たんだろうな。モッス」

「ツッキーとマイナスはどっち派や?」

「気にした事無いけども、モス・ドーナツなら……モスド?」

「考えてみたらモスドの方が自然かも……だからモスドかなぁ?」

「よっしゃ! モスド派勢力増やしたで!」

「よかったなぁ……一応、黒間はどっちだ?」

「ん……モッス……?」

「あ、一緒だな。なんか嬉しい。ありがとうな」

「ん……?」

「いやいや森夜先輩! 黒間先輩に不意打ちで聞いて仲間にするのアカンよ! 黒間先輩、モス・ドーナツはモスドの自然やと思いませんか!?」

「ん……モッス、ダメなのか?」

「これは黒間先輩はモッスで確定ッスね!」

「くっ……せやけど、このテーブルではモスド優勢やから……!」

 図書館から出て、月野さんとも一緒に近くのお店に入った俺たち。一応、月野さんと先輩たちは全くの初対面っていう訳じゃない。こうやって話すのは初めてだったはずだけど。

 

「そういえばその……渋谷さんたちは、なんで図書館にいたの……?」

「んっ、黒間先輩が読書好きでな。森夜先輩は付き添い、ウチはせっかくやし一緒に来たんよ」

「あ、えっと……?」

 月野さんは意外そうな表情で黒間先輩をチラッと見る。

「ふふ、ウチも初めて知った時はちょっと驚いたで。けど黒間先輩、難しい漢字も書くんやでー」

「俺たちって正直不良側だったし、やっぱり意外だよなぁ」

「そう、ですね……ちょっと、意外ですね」

「思い返せば会ったばかりの頃は……あっ、これは思い出すの恥ずかしすぎる……」

「森夜先輩って、ちょいちょい勝手に自滅するんよね」

「いやだってさ、その……ああ、いや、その、俺、なんでマイナスにあんな事したんだろうってマジで俺さ……」

「俺、全然気にしてないから大丈夫っス!」

「そうは言ってくれるけどさ、でもやっぱ罪悪感とかヤバイから……あの時は本当にゴメンな……?」

「えへへ、でも、俺も森夜先輩に色々迷惑かけてますから」

「――その……俺も……」

 不意に黒間先輩からも謝罪される。急でビックリするけども、どちらにせよ俺は今更全然気にしていない。

 

「黒間先輩も大丈夫っスよ!」

「あ……いや……でも……」

「俺の方こそ、黒間先輩に色々失礼してますし……!」

 なんていうか、俺も空気読めないから黒間先輩をイライラさせる事って多いみたいだし……

 

「なので、今、一緒に過ごせて嬉しいッスよ!」

 面と向かって言うのは恥ずかしいけども、でも、伝えたかった事を勢いで言っちゃう! これからも仲良くできると嬉しいなぁって!

 

「……」

 だけど、何故か黒間先輩、俯いて目が泳いでる……? えっ、なんでだろう……?

「どした? 黒間?」

「……いや」

 わからないけども俺、なんかしちゃったのかな……? 不安になって渋谷さんや月野さんの顔も見る。

「……ごめん」

 そう言って、黒間先輩は席から立ちあがる。

「俺、なんか失礼しました……? それならごめんなさい……」

「――違う……っ!」

 わからないけどすごい苛立ってる。でも、それを抑えてるようだった。

 

「……帰る……」

「……えっ、いや、大丈夫か?」

「……ごめん」

 そう言って黒間先輩はテーブルから離れる。

「えっと……あーええっと……」

 戸惑う森夜先輩。黒間先輩と俺を交互に見て、どうするか悩んでるみたいだ。俺も困惑しててどうしたらいいかわかんない……黒間先輩を止めたいけども、たぶん俺に何か原因があるから、それがわからないまま声かけるのはむしろ良くないのかも……

「ウチ、ちょっと聞いてくるわ」

「えっ、だ、大丈夫か? 渋谷?」

「平気や! ツッキーごめんな! また後で話しよ!」

 そういって渋谷さんは黒間先輩を追っていった。

 

「……え、えっと……どうしたの……かな?」

「あっ、月野さん、ごめん……俺もちょっとわからなくて……」

「俺も……その、今の黒間の事はちょっとわかんなかったなぁ……」

「やっぱり俺、何か失礼な事、しちゃったんですかね……」

「私が見る限りだと、突然勝手に怒り出したようにしか見えないけども……」

 月野さんの一言にどう反応したらいいか悩んで、気まずい沈黙が流れる。

 

「でも、黒間の奴、喋るのは苦手なだけだからさ……」

「そ、そうッスね。日誌に書いてくれるかもしれないッスよね……」

「ああ、だけど俺、やっぱり黒間を追いかけてやった方がよかったかな……」

「わ、わかんないッス……でも、俺は行かない方が良いッスよね……」

 そわそわして仕方がない森夜先輩。少し悩んでから立ち上がった。

「その、少なくとも、俺はマイナスが何か悪い事したって思ってないからな……?」

 そして、森夜先輩はお店から出て行った。

 

「……マイナスくん、大丈夫?」

「あー……俺は大丈夫。びっくりさせたよね? ゴメン」

「ううん、大丈夫だよ」

 気を使ってくれる月野さんに優しいなぁって思うのと同じくらい、申し訳なさがある……黒間先輩に俺が直接どうこうできないのももどかしく感じる……

 

「あの、マイナスくん。黒間先輩ってドラムだったよね」

「えっ? うん、そうだよ」

「黒間先輩じゃなくて、渋谷さんじゃダメなのかな?」

「えっと、場合によっては渋谷さんがドラム叩く事もあるけど……」

「じゃあ、渋谷さんが上手になったら黒間先輩には抜けてもらうって事?」

「ええ!? それは違うよ!?」

 月野さんが言いたい事はなんとなくわかるけども、でも、なんていうか、俺の認識ではそうではない……

 

「でもね、黒間先輩って必要なのかなぁって、普通に考えたら疑問に思っちゃうんだけど……」

「わからないけども、俺は黒間先輩とも演奏したいから……」

「どうして?」

「黒間先輩が考えてる事、もっと知りたいから……?」

「……演奏でわかるの?」

「なんていうか、ロックってね、抑圧された感情を吐き出すような所があってね……」

 

「そう、だから、違うって思うんだ。必要かどうかで選ぶって」

「苦しいとか、辛いとか、歌って良いって思うし、そういう人に、手を差し伸べるのもロックだと思うし」

「黒間先輩は、だから、大切なのかなぁ。一緒にバンド、させてほしい。できるなら」

 自分でも言ってる事がなんだかメチャクチャなのがわかる。自分のやりたいロックの為に、自分勝手な事を言ってる。こういうのが良くないのかなぁ……

 

「……マイナスくん、そういう所で妥協がないの、本当にすごいよね」

「すごい……のかなぁ……」

「うん。……だけども黒間先輩の事、これからどうするかって考えてる事はあるのかな?」

「正直、俺が直接できる事はないんだけども……あっ、さっきに聞いた児童福祉司さんの事なんだけどもさ」

「うん?」

「自活とか、自立についても相談できるみたいで、だから聞いてみようって思うんだよね」

「そうなんだ」

「黒間先輩、家だとゆっくり本を読めなくて、それで今は図書館に来たわけなんだけどもね。黒間先輩が過ごしやすい環境ってどうしたらできるかなぁって」

「色々事情があるんだね。でも、そういうのも相談できるって知らなかったよ」

「聞いてもらえるかわかんないけどね」

「ちゃんと聞いてみるから、待っててね」

 月野さんが優しく微笑む。月野さんが良い人で本当によかったなぁ……感謝しかない。

 

「あ、そうだ。これもまた別の話なんだけども、月野さん、今度一緒にまた出掛けない?」

「えっ、えっと、いいよ……?」

「いいの!? ありがとう! 最近、月野さんが勉強頑張っているの知ってるんだけども、それでも皆、月野さんどうしてるかなって気になってて」

「あっ、皆とだった……?」

「そうだよ!」

「あはは、そうだよね……」

「あれ、ダメだった?」

「ううん。大丈夫。私の方はいつでも大丈夫だから、皆の都合で決めていいよ」

「わかった! 楽しみにしてるね!」

 

 やることたくさん! でも、良い感じにする為、へこたれてられない!

 

 ~~

 

 またね、とマイナスくんを見送る。

 今日はどちらかと言えば良い日だったかも。マイナスくんから連絡が来るだけで嬉しいし、会えたのも嬉しい。本当は学校でも会いに行けばいいのかもしれないけど、理由が無いから難しい。だから少し寂しいんだけども、今は仕方ない。マイナスくんが楽しく過ごせるように、守ってあげられるように、私は勉強している所だから。

 それで、黒間先輩って人も、マイナスくんの邪魔になる人なんだなぁって思った。

 マイナスくんは優しいもんね。だけど、誰にでも優しくしてたら色々足りなくなっちゃうと思うんだ。あの人はマイナスくんが優しくして良い人じゃない。たぶん無意識でそう思ってるから、追い出すための相談をしてくれたって事だよね。嬉しい。

 

「ただいま」

 恐る恐る玄関を開けて小さく呟く。急に家を出た事をお母さんに叱られるかもしれないって思ってたけども、どうやら大丈夫そう。お兄ちゃんの部屋から、ふたりの喧嘩してる声がまだ聞こえたから。

 模試の結果が返ってきたんだけど合否判定がDで、お母さんお兄ちゃんそれぞれお互いがお互いのせいだって怒ってる。時折にバンバンと何かを叩く音とか、ドンッ! って物を投げた音が聞こえてくるけど、ふたりが手を出したりする事はそんなに無いから大丈夫。掃除しておこうかな。ご飯の用意を代わりにしておこうかな。家族みんな大変だから、私もできる事を手伝わないと。

 

 そうだ、その前にメッセージを投げておこう。

『私の友達が家庭環境に悩んでいるみたいで、それについて相談させてほしいみたいなんですが、よかったら時間を取れませんか?』

 このまま今日が良い一日で終わりますように。




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