仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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167・いつもの人の意外な反応は、難しいと思いました

「それで、ラブラブとはいったいどういう事か聞いてもいいかな……?」

 平賀先生が改まった様子でそう聞いてくるのは反則だと思う。自分の表情が固まっているのがわかる。違う違うと否定すればいいのかもしれないけど、それもそれで誤解となっては怖い。目の端で灰野先生を見やるけども、どう反応しようか模索中なのは同じみたい。

「ああ、いやね、生徒と教師の恋愛は良くないのでね……」

 違います……違います。誓ってこんな乱暴で傍若無人の素行に問題がある人を好きになるなんて事、あり得ないですから……!

「平賀教授には私とこいつ、ラブラブに見えるんですか」

 灰野先生が敬語を使った!? というか先生って呼んでたけども教授なの? 先生と教授ってどう違うんだろう? いや、これは現状と関係無いか……

「だ、大丈夫だよ。場所と節度を弁えているなら口外するような事は無いから……」

 それってつまり見えてるって事ですかー!?

「んなら、全部秘密って事で。お話ありがとうございました」

「いやいやいや! 状況の確認ぐらいはさせてもらうよ!? 君のご両親も心配していたのだから……」

「何も問題無し。以上。今後も関わらないでほしい」

「頑固なところは相変わらずだねぇ……」

「……そのーちょっといいですか?」

「お前は発言禁止」

「俺は灰野先生の事をあまり知らなくて、昔からこんな感じだったんですか……?」

「こんなってなんだよ? おい??」

「ははは、そうだね」

「そうなんですか」

 後で絶対に蹴っ飛ばす……そんな灰野先生の視線はスルー。

 

「まぁ仲が良いのはよくわかったよ。やはり上井くんの生徒同士だものなぁ」

 今ので仲が良い判定になるのっておかしくないですかー!?

「君たちふたりは音楽に対して真摯に、そしてストイックに向き合ってるのもあって気が合うのだろうね」

「あー、いえ……音楽に対しての姿勢"は"見習わせてもらっています」

「お前が下手くそだから口出ししてるだけだっつの。あの人の指導もヌルくなったみたいだしなぁ?」

「そうなんスね……ちなみに、上井先生って他に教えている人っているんですか?」

「……えっ、お前、あの人がどういう人かわかってないで聞いてる?」

「もしかして知らないのかい?」

「えっ、何をですか? 上井先生ってすっごい家庭教師じゃないんですか?」

「マジかよ」

「本当に知らないのかい?」

 えっ、どういう事……?? 上井先生って俺の想像以上に凄すぎる人って事……?

 

「一応聞くけど……私の事はどうなんだ……?」

「ロクデナシの教師」

 思わず本音を言っちゃった。きっと睨まれてると思って灰野先生をチラっと見る――

「マ、マジで……? えっ、じゃあ、もしかして……えっ、あっ、いや、な、なんでもねえ」

 ……何、その反応!? なんで嬉しそうにしたの!?

「平賀教授、私の事をこいつに絶対に言わないでくれよな!!」

「ど、どうしてだい?」

「後で話します!! だけどもコイツに今は知られたくないんだよ私の事ーー!!」

「わ、わかったよ」

「おいマイナァ!! 誰かに私の事を聞いたりしたら容赦しねえからな!!」

「そんな事言われると逆に気になるんですけど」

「そんときゃお前の秘密も全部バラしてやるからな!!」

「灰野先生はそうやってすぐ脅すんですから……でも、一応わかりました」

「そういうわけで平賀教授、信じてるからなぁ!!」

「はは……まぁ、そういう所も昔から君にはあったものな」

 

 なんだか無事に纏まったような、勢いで押し切られただけのような、そんな平賀先生との時間だった。

 

 

 ――

 

 

「おう、マイナスおつかれー」

「お疲れ様。あれ、鷹田だけなんだ?」

 バンドで使っている教室へ来たけども、土曜日の事もあってか黒間先輩はもちろん、森夜先輩も渋谷さんもいない。

「しょうもねえけど、まぁ今日は俺も忙しいからちょうどよかったぜ」

「そっか……いや、ごめんね。その……」

「別に俺はいいっつうの。忙しいから」

「そっか……何してるの?」

「なんつーか仕事」

「仕事? バイトじゃなくて?」

「夏休み前、焼肉食う為にバイトのアレコレしただろ」

「あー、うん。『焼肉会』」

「んで、マイナスにもわかるように平たく言うと……金を整理して、清算してるわけ」

「へー」

「マイナスにはいくら渡すかなー」

「えっ、俺に何かあるの?」

「お前に払ってなかったバイト代分を出資扱いにしてっから、その分がマイナスの金になんだよ」

「しゅっし……?」

「お前から金を借りた。だから返すって事」

「貸したっけ……?」

「だーかーらっ! 借りたって事にしたんだよ!!」

「借りたの? 俺が? 俺から?」

「マジで馬鹿過ぎて伝わらなくてイライラするわー」

「ご、ごめーん……」

 わかりたいのに、少しもわからなくて本当に申し訳ないなぁ……

 

「ま、こんなだから歌にもなるわけだよな」

「……え、歌って?」

「この間にやったやつ。愛の言葉の弾丸じゃーって」

「あっ、それの事!? それは、うん。たしかに……」

「仕事含めてパパっと伝わってくれた方が楽だけど、そうはいかねえから似たような歌がたーっぷりわけだし」

「まぁ、うん。それはそう」

「てか考えると黒間先輩も、お前にじゃなくて自分にイライラしてんのかもなぁ」

「俺がイライラさせてる、じゃなくて?」

「いや、知らねーけど」

 そう言いながら、鷹田は紙を2枚取り出す。

 

「これは何?」

「『有価証券』」

「ゆ、ゆーかしょうけん?」

「この紙をよこせば、マイナスは俺から金をもらえる。OK?」

「えっと……わかった」

「詳しい意味は自分で調べろ。伝わらなくても、別に俺は良いし」

「どこで調べればいい?」

「色々あるけど、まぁまずは普通に勉強がんばれ。そしたらいつかわかる」

「そ、そっかー……」

「一応だけど、すぐ金が必要なら引き換えるぜ」

「えっ、いや、大丈夫だよ。そのうちで」

「おっけ。じゃあ2枚ともにサインして、片方は大事に持っててくれよな」

「わかった」

 俺用の控え、鷹田用の控え、同じ事を書いてあるだろう紙にそれぞれサインする。

 

「やっぱそういう所だよなー」

「何が?」

「ちゃんと内容は読んだか?」

「えっ、なんか変な事でも書いてあるの?」

「さぁな」

「えー! 信じてるんだからね!?」

「そういう所だ」

 鷹田は小さく笑う。

「今はムカつくなんて事ねえけどさ、これでもそれ、一生懸命考えたんだぜ?」

「えー!? それならちゃんと読んでって先に言ってくれればいいじゃん!?」

「お前がきちんと読めるなんて思ってねえよ」

「じゃあ、どうしてほしかったのさ……?」

「どうにも。だけどな」

「だけど……?」

「俺が勝手に期待してただけ。お前に読んで、理解してほしい、みたいな?」

「えー……それはその――」

「ごめんって言わなくていいぜ」

 鷹田はまた笑う。

 

「てかさ、マイナスに理解されたら普通に悔しいし」

「……何それ。どっちでも怒るって事?」

「そうかもな。だから、これはお前がどうこうじゃなくて、俺が思ってる事」

「そっか……それじゃあ、伝えたい事ってなんだったの?」

「わかんねえー」

「なんか今日の鷹田は変だね」

「俺にもこういう日はあるって事でいいだろ?」

「うーん、まぁそれはそうかもしれないけど」

「ああ、だけどそうだなぁ。お前に聞いてもらえたら嬉しい事、あるんだけど聞くか?」

「えっ、聞かせてくれるなら聞きたいけど……なんだろう?」

「後悔しないか?」

「なんか、そう言われると身構えちゃうんだけど」

「じゃあやめとくか?」

「えっ、いや、ここまで聞いておいてそれは……」

 鷹田はニヤニヤしている。夕方にはまだ早いけど、放課後の教室で鷹田と二人きりの状況で改めて言われると、なんだか緊張もするけど……鷹田をじっと見て、喋るのを促す。

 

「スーパーの特売、一緒に来てくれねえかなー」

「うわっ、やられた」

 鷹田には本当におちょくられてばっかりだ!

 

 ……

 

「そういえば、裏日誌にはまだ何も書かれてないね」

「ん、ならなんか書いとけば?」

「なんて書こう……」

「何でもいいんじゃね。ああ、でも謝るのだけはやめとけ」

「それは……あー、うん。ちゃんとはわかってないけども、わかった」

「お利口になりまちたねーマイナスくんー」

「はいはい」

 

 ああ、何か上手く書けたらいいんだけども、気の利く文章なんて思いつかない。

 少ない候補を思い浮かべて……一言だけ書く事にした。

 

『いつでも待ってます』




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