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「あら、おかえりなさい。早かったわね――ってメグちゃん? メグミ??」
あぁ、お母さんの声がする。私、ちゃんと家に帰ってこれたんだなぁ……生返事をした後そのまま自分の部屋へ。なんでこうなってるんだっけなぁ……
「ねえ、メグミ。どうしたの? 大丈夫?」
心配性のお母さんが追ってきてた。理由、理由はそう――
「何でもないよ。うん、大丈夫」
そう、だってくだらない事だから……
「……本当に?」
「うん。本当」
「……そっか、わかった」
お母さんが階段を降りていく音を確認してから、私は布団に顔を埋めて、声にならない声で叫ぶ。
マ イ ナ く ん と ラ ブ ラ ブ に な り た い よ お お お ! !
何!? なんで灰野先生とラブラブなんて事は絶対無いの知ってるのに、それでなんで私の心はこんなにおかしくなるの!? たぶん3人だけだったら耐えられたのかな!? 平賀先生にもそんな事あり得ないって反応欲しかったのに、全然そう見えちゃったのが私に効いたの!? ラブラブって何!! 何なの!! 全然っ! 全然そんな必要無いんですけど!? ラブラブってあれだよね隣に並んで座ったりご飯一緒に食べたり二人きりでどこか出かけたりなんだり……あああああ私してたあああああマイナくんをゲームフェスに誘って二人きりで出かけたしお祭りだって行ったし一緒に登下校もしたりふたりだけの秘密だってあるしそれでいいんじゃないのそれでいいよねそれでいいのにいいいい!!
ラブラブってなに……ラブラブってなに……ラブラブって……なに……?
ああ、少し自由になっても良いって思えるようになった矢先で、こんなに私がラブラブって言葉に反応するなんて全然思わなかったよ。知らなかったから平穏でいられたのに、知っちゃったから平穏でいられない、みたいな……?
本当は、本当は一緒にクラス委員続けられたら……いいよねー……でも、そうじゃなくても大丈夫……そうだよね、私……? そうなってほしい私がいる事も全然大丈夫だよ。それでもマイナくんがマイナくんらしくできるように、一緒じゃなくても大丈夫って言えて、私、偉いね……あぁ、でも切ないというかなんというか、そういうのもわかるよ……ヨシヨシ……
感情が爆発するこの感じ、今日だけじゃなくて明日からもずっとずっとあるんだろうなぁ……
ちょっと苦しいかもしれない。けども、この苦しさを受け止められるのは、マイナくんが好きなおかげ、なのかなぁ。
――
「ご飯はちゃんと食べられそう?」
「えっ? うん」
落ち着いたらお腹が空き過ぎていて、リビングに降りてきた。そしてどうやらお母さんは心配モードみたい。本当に大した事ない……ないんだけどなぁ……
「何か食べたいものがあったら、遠慮なく言ってね……?」
ああ、ちょっとだけ気まずい。やっぱり部屋に戻ってしまおうかなんて考えるけども……ふと思い出した事があったから、私は椅子に腰かける。それから晩御飯の支度をしているお母さんの様子をそっと眺める。
お母さんは心配している。お母さんに心配させているのは……私。私は大した事ないって考えてるけど、言わないから心配させている? じゃあ、言っちゃった方が良い? それはイヤイヤ、って心の私が言うのがわかる。どうしてイヤなの? 恥ずかしい気持ち、どうして出てくるの? だけど、言いたくない気持ちがあるのはわかった。それでもお母さんをこのまま心配させている申し訳なさに、罪悪感があるのがわかったかもしれない。
「――その、お母さん?」
「えっ、なあに? ちょっと待ってね、すぐ行くから――」
「あっ、いいよ!? 落ち着いて。というか、やりながらで大丈夫だから……」
「そ、そう……?」
私は台所のお母さんの隣へ行く。
「何か……手伝おうっか?」
「えっ、えっと、じゃあね、洗い物お願いしていいかしら?」
「うん。わかった」
私は言われたままに洗い物を始める。グツグツとお鍋の煮える音に水が出てくるシャーという音、他には外から時折に車の音とかが聞こえてくる。不思議と緊張感が、なんでだかある。
「ねえ、お父さんはどれくらいで帰ってくる?」
「まだもうちょっとかかるみたいだけど……」
「そのハンバーグは、帰ってから焼く?」
「ええ、お父さんのはそのつもり。先に食べても構わないわよ……?」
「ううん。大丈夫」
「そう……? わかったわ」
「そういえばなんだけどね、お母さんってリモートワークでしょ?」
「ええ、そうだけど……?」
「お仕事もして、なのに家の事も色々して、すごいよね」
「そ、そうかしら? そんな事言うなんて、どうしたの?」
「今日も忙しかった?」
「それは……そうね、忙しかったかも」
「そうだよね。今日もお疲れさま」
「……ふふ、ありがとう」
夕方の静かな時間、張り詰めていたような気がしていたけど、急に優しくて暖かい時間が流れ始めたような気がする。
「それでね、今日、あった事なんだけど……」
「うん、どうしたのかしら?」
「話したくは、無いんだよね」
「……そう。どうして、って聞かれるのもイヤ?」
「うーん……それは大丈夫かも? 恥ずかしい気がするから、なんだけどもね。エヘヘ……」
「そっかそっか。じゃあお母さん、気になるけども我慢するわね」
「ホント、大した事が無い……はずなんだけどもね」
「……ふふ」
お母さんは言葉を返さずに、だけど今度は楽しそうに支度を進めていく。
「その……別に関係ないんだけどもね。お母さんはお父さんと、その、どうだったのかな?」
「会ったばかりの頃?」
「えー、あー、まぁ、うん」
……なんで、私の言いたい事わかったんだろう?
「そうね。ホントのホントの最初の時はね……変な人だと思ってて、それからそれから」
「ラブラブ……?」
「そうよ、って言いたいけども……色々あったなぁ」
「あ、じゃあ付き合い始めたきっかけとかは……いや、やっぱりいいや」
「えー、たくさん話せるのにー」
「ううん、その、ほら、なんていうか……お母さんがお父さん大好きなのはわかってるけど、お父さんとの馴れ初め? を聞くのはまだちょっと抵抗がある、っていうのか……」
「それ、わかるわ。私もメグちゃんの頃だった時なんかも――」
「だ、だから、今度。今度にまた」
「うん。その時にはアルバムも用意しておこうっと」
「すぐに張り切っちゃうんだから……」
はぁ、とため息を私は洩らしちゃう。だけど、安心してのため息、かな。
「そういえばね、アルバムもいいものよ」
「えっ? まぁ、うん」
「特別な日だけじゃなくて、何気ない時も撮るとね……後から振り返った時に、かけがえのない時間だったって思い返せるから」
「……だからって写真、多すぎだよ?」
「ふふ、今も撮りたくて仕方ないわ」
……でも、写真、良いかも。
――
今夜もビデオ通話勉強会の時間。マイナくんとの時間がイコールでラブラブに結びつき、感情の私が心臓を思い切り大きく鳴らす。大好きが大洪水。冷静という防波堤からダラダラ漏れているのは自覚しているけど、それでもなんとか落ち着きたいと集中したい……そう、私はマイナくんがマイナくんらしくできるように手伝いたいんだ。だから、感情の私。その為に手伝ってくれるかな……?
ヘッドホンをかける。息を吸う。まだマイナくんがグループ通話にいない事を確認して、先に待機しておく。ピコン。よし、それじゃあ今日の勉強する分をちゃんと纏めておこう――
――ピコン。
参加の通知音に、私の胸は高鳴る。個人感覚だけどドラの音に勝てそうなくらい胸の鼓動は大きく、早くなる。声を、声をかけなきゃ。上手く言えるかな――
「あー、波多野さん、こんばんはー」
「あっ、熊谷くんだった!?」
想定外に驚いて変な言い方になっちゃった!?
「わわっ、驚かせたかー? もしかして、マイナスと約束あったかー……?」
ああ! これは気を使わせてる!? 違うの! ごめん、ごめんね熊谷くん!
「ううん! 全然! 全然大丈夫! きょ、今日もよろしくね、熊谷くん」
「おう、よろしくなー」
……微妙な沈黙が、少しだけ流れる。これはよくない。息を吸って、熊谷くんに声をかける。
「その、ね。考え事、考え事し過ぎてて……」
「うんー?」
「えっとね、そのね、マイナくん。マイナくん、クラス委員ね、どっちでもいいんだけどもね、でも……ああー……」
「わわわ……波多野さん落ち着いてなー……?」
「あっ、う、うん。いや、でも、考えたらこれって熊谷くんにも関係ない事だよね……」
「あははー、俺でよかったら何でも聞くから大丈夫だー」
「あ、ありがとう……」
「それで、マイナスがクラス委員……続けるかどうかって事かー?」
「な、なんて言えばいいかなぁ……私、一緒に続けられたら嬉しいのはね、嬉しいんだ……」
「おー」
「でも、無理はしてほしくないから、大丈夫だよって伝えてあるんだけど……」
「うんー」
「でも、本当はすごく一緒に続けたいって頭の中はいっぱいだった事に気が付いちゃってね……?」
「あはは、そっかー」
「だから、その、ゴメンね。熊谷くんが来てくれたの、全然嫌じゃないよ。熊谷くんだったなんて言っちゃって、本当にごめんなさい」
「えっ、俺に謝ってくれてたのかー?」
「うん、だって大切な友達だから……」
「そっか、全然気にしなくて大丈夫だー。むしろ、そう言ってくれて、嬉しいなー」
画面の向こうの熊谷くんは頭の後ろに手を置きながら、いつものように優しく笑ってくれている。ごめんね……そして許してくれてありがとうね……
「あー、でも、そのー、もしよかったらなんだけどなー。俺、波多野さんに相談したい事もあってなー」
「うん、なんだろう?」
「生徒会選挙の事なんだけどさ……」
最近、多忙を極めており執筆も時間を作って何とか続けておりますが、ペースがどうしても落ちてしまっています。
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