仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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38・グルグル廻る思考は時間を停めたくなる

「今日の勉強会、すごい楽しかった……」

「よかったね、お兄ちゃん!」

 カナとの晩ご飯、もう、ウッキウキで今日のことを話しちゃった。

 

「勉強はまだまだダメダメだけど、がんばれそう……!」

「私もお兄ちゃんが元気そうで嬉しいよ……心配しないで遠足行けそう!」

「あはは……あ、そうだ。カナ、よかったらこの後に合わせない?」

「いいよ! リベンジしよ!」

 

 ……

 

「いつでもオッケーだよ!」

「よーし、リードするからよろしく!」

 

 カナの優しいピアノの出だし。そこに今日までの色んな気持ちを込めたバイオリンの一音を乗せる。カナの微笑む顔が見える。そして俺を見つめている。まるで手を取りあうようにカナと『愛の挨拶』を奏でていく。

 

 

「やっぱり俺達、仲良し兄妹だな!」

「ふっふーん! お兄ちゃんの事なら何でも任せてよね!」

「あはは、いや、でもホントにいつもありがとうね、カナ」

「どういたしまして! この後も波多野さんと勉強の予定?」

「おう! カナも顔出す?」

「出す出すー!お話したいもん!」

「オッケー!」

 

 

 ――

 

 

「波多野さん! こんばんはー!」

「あ、カナちゃんだ。こんばんはー」

「今日もお兄ちゃんがお世話になります!」

「へいへい、今日もお兄ちゃんは波多野さんにお世話になりますよ。

 あ、そだ! 今日の勉強会、本当に色々ありがとうね」

「ううん。私の方こそ色々ありがとう……みんな良い人でよかった」

「でしょー! みんなとこれからも楽しく高校生活できるように勉強、がんばらなきゃ!」

「お兄ちゃんの友達、私も見てみたいなー!」

「すごいよー! コスプレイヤーしてる子もいてね、画像で見せてもらたけどすっごいクオリティなの!」

「えー!? いいなー!! 見てみたい!!」

「あとはカナちゃんもお菓子食べた?」

「お兄ちゃんが持って帰ってきたのだよね? 食べた! すごい美味しかった!」

「あれね、手作りなんだって!」

「えーー!! すごい!! あんなの作れるんだ!」

「えへへ、そんな人たちと私、友達になれたんだ……」

 

 画面の向こうの波多野さんが嬉しそうに笑ってる。

 直接会っていた時はすごい緊張してるのが見えたけども、こうして俺達だけの時に見せてくれる素直な波多野さんの様子は、すごく安心する。

 

「よ、よし……が、がんばろうっか! マイナスくん……!」

「おう!」

「みんなでグループ通話できるように、ペース上げなくちゃね……!」

「お、おう!」

 

 

 ――

 

 

「……なんでちょっと残念に思っちゃったんだろう」

 眠れなくて、仕方がない。

 

 皆にも波多野さんが普通に笑ってる所見てほしい。だからきっとグループ通話っていうのでみんなと話せたらいいなって思う。

 いや、そりゃやっぱり緊張でガチガチの波多野さんよりも笑ってる波多野さんの方が良いもん。

 そっちの方が好きだもん。

 

 でも、いつの間にかふたりだけの秘密の時間みたいにして過ごすのが、波多野さんの学校で見られない表情を、聞けない声を聞けるのがすごく嬉しくなってたんだ。

 独り占めしたいって、ちょっと思っちゃったんだ。

 

「あ、でも…………」

 

 波多野さんが好きって言ったハヤトさんは、俺の知らない波多野さんをもっと知ってるんだろうな。

 

「……はぁ……」

 

 波多野さんを独り占めなんて、思い上がり過ぎなんだよね……

 流石にこんな事でウジウジするのは情けなさ過ぎる。

 俺はもっと波多野さんの笑顔もみたいし、みんなと仲良くしてくれると嬉しい。

 そのうえで俺もちゃんと波多野さんと仲良くして、楽しい時間を過ごしたい。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 時間が停まればいいのにな。

 

 

 ――

 

 

「おはようございます! 上井先生!」

「おはようございます、テルくん。今日は元気ですね」

「悩んでる時間ももったいないっていうか……やることあり過ぎですからね! 今日もレッスンよろしくおねがいします!」

「そう思えるのは良いことです。ではストレッチから始めていきましょう」

「はい!」

 

 ……

 

「そういえば先生は俺くらいの歳ってどんなでした??」

「ふふ、最近はテルくんからのプライベートな質問が増えましたね」

「あはは……いや、相談できる年長者って上井先生や梶原さんしか思い浮かばないんで……」

 

 パパやママに会うのは年1回が関の山。何かあったら上井先生に話すことがやっぱり一番多い。

 

「どんなふうに過ごしていたと思いますか?」

「うーん……そういえば俺、上井先生の事を全然知らないからなぁ……」

「これは秘密ですが、テルくんのお父さんはやんちゃだったそうですよ」

「ええー!? パパが!? 想像付かない……」

 

 言葉少なく、厳格で仕事人間で、少し怖いけどもでも、俺達の事信じてくれるそんなパパ。

 やんちゃっていう言葉に繋がらない。

 

「そして思い返すと私もやんちゃな方でしたねぇ……」

 優雅に紅茶を口に運ぶ上井先生もやんちゃっていう言葉は似合わない……

 

「先生の言うやんちゃの定義がわかんないなー……」

「ふふ、そうですねぇ……テルくんは自分自身の事、どう思っていますか?」

「えっ……うーん……引っ込み思案っていうか、陰キャっていうか……」

「そういう所も無くはないですが、私の見立てではもっと別の相応しい言葉がありますよ」

「ええ……なんですか……? ……バカとかですか……?」

「『とってもやんちゃ』です」

 

 

 ――

 

 

「俺がとってもやんちゃってどういう事だろ……」

 そんな疑問が離れなくて、カナとの晩ご飯を済ませた後にパパの物置に来ていた。書斎って言うんだっけ? 倉庫? 資料室?

 

 中3の夏にロックに出会ったのはここだ。

 そしてあれからもう一度同じカセットテープを探したけども見つけられていない。

 古いから処分した……って考えるのが筋かもしれないけども……

 

 一応、ここにもロックの資料自体はこじんまりとだけども、ある。

 けども、他のものと比べて明らかに少ない。それに小さい頃にロックが流れてきた時、パパがすぐに変えたのも覚えてる。

 当時はロックってわからなかった俺だけど、すごく印象的だった。

 ママにこっそり聞いて、パパはそういう曲が好きじゃないって言ってたっけ……

 

「あ……これ……」

 すごくすごく思いがけないものを見つけて、つい手に取る。

 

「……やんちゃっていう評価なら、もうちょっとやんちゃしてもいいのかな……」

 

 

 ――

 

 

 5月の夜はまだ冷える。

 昼間、もう夏が来たのかってくらい暑い時もあるけど、夜になると急に冷え込んでいく。

 風が吹くとちょっと寒さに身体が震える。

 

「あれ……どっちだっけ……」

 

 そんな中で俺は道に迷ってる……。

 小さい頃にショウくんから贈られた誕生日会の招待状、そこに書かれた地図をアテにして、こんな時間だっていうのに様子を見に行くことにしたんだ。

 

 車で送迎してもらってたんだっけ?

 お互いの家に行き来したのは何回だっけ?

 あっという間に着いてたような気もする。

 だけども頭の中でショウくんとどんな演奏するか、それを考えてたらあっという間だったのかな。

 

「うう……スマホ、なんで置いてきちゃったんだろう……」

 

 俺はひとりだとこんな事ばっかり。

 ぼんやりしてて、すぐにうっかりをやらかす。

 ショウくんに何度それを指摘されたか、数えられないと思う。

 前を歩くショウくんが振り返って確認する。

 ショウくんに声をかけられて俺が振り返る。

 あの頃はずっとそれが続くと思ってたんだろうなぁ。

 

「か、帰るかぁ……」

 

 そう思って来た道を戻ろうとする……けども、ここがどこだかもわからなくなってる。

 自分が住んでる場所の事もそんなにわかってないんだなぁっていう事にもちょっとショックを受ける。

 俺って本当に音楽の事以外、何も目に入ってなかったんだなぁ……って、どうしよう。近くの家のインターホンを押して道を聞く……?

 

「そこの君、こんな時間に何をしているんだ」

「あぁっ! おまわりさーん!!」

「君は……舞南さんのお宅の!」

「す、すみません、その、迷子になって……道を教えてください……」

「なるほど……うろついてる人がいると通報があったのですが、迷子でしたか……」

「俺、通報されてたんですかー!?」

「はは、君は仮面を付けてるように見えますからね。それにしてもどうしてこんな時間に外を?」

「あー……いや、その……思い出に浸りながら散歩……?」

「なるほど……それで迷子になってしまったんですね。ふふ、芸術家らしいですね」

「そ、そういうものなんですかね……」

「さ、せっかくですから案内しますよ。道を教えても君はまた迷子になりそうなので」

「すみません……すみません……」

 

 なんだか今日は本当に憂鬱だ。




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