仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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39・進む変わる成長する

「灰野先生、そろそろ呼びに行かなきゃなー……」

 朝のホームルーム前に時計を見ながら呟く。

 別に灰野先生に限らずの話で毎日ホームルームがあるわけではないんだけども、とりあえず朝は灰野先生の所に顔を出すのもルーチンになってる。

 がんばれーという声も聞こえてくる。

 

「わ、私、い、行くよ」

 そんな中で聞こえてきたのは波多野さんの声。

「えっ!? いや、大丈夫だって!」

 学校でそこまで喋るところは見ないうえに、みんなに聞こえるように比較的大きな声で言ったのも意外。

 クラスメイトも同じなのか、ちょっと驚いて教室が静まる。それに気がついて波多野さんは恥ずかしそうに顔を俯かせる。

 

「波多野さん一人じゃ心配だなー、俺も行こうかなー」

「いやぁ熊谷、俺行くから大丈夫だって!」

「おいおいマイナス……一人でご褒美独り占め……じゃなくてカッコつけようとすんなよ。俺も行くぜ……」

「アンタはマゾなだけでしょー! でも、波多野さんじゃ心配だし、どうせなら行こ行こー!」

「うーん、まぁいいけど、じゃあ俺についてきてもらって……」

「マイナスー、優しいのは良いけど波多野さんの挑戦も見守ってあげよーよー」

「え、えぇっ……」

 

 すごく心配で心配で、波多野さんの方を見る。

 俺につられて皆の視線も波多野さんに集まる。

 緊張してる様子が手に取るようにわかる。

 

 いやいや、こんなのダメだって。

 そう言おうとした。

 

「私にも、やらせてほしいな……マイナスくん……」

 

 何も言わずに頷くしかなかった。

 

 

 ――

 

 

「なんだかんだ大所帯……」

 灰野先生を呼ぶために音楽準備室へと向かう波多野さんについてきた、俺と熊谷と他に何人も。ぞろぞろと。

 

「ノ、ノックするね……」

「こ、こえー! マイナス、俺の前に立って!」

「アンタはマゾなのになんでこういう所で怖気付くのさ! 波多野さん、危なかったらすぐ逃げてね!」

「なんか覚えあるなーって思ったけど、立て籠もり犯に声かける奴だー」

 

 心配だ心配だ心配だ心配だ心配だ心配だ……

 

 何かあったらすぐに飛び出せるようにしなくちゃ……

 波多野さんが灰野先生に叩かれたりするのは嫌だから……

 

 コンコン、という波多野さんの、思った以上に大きいノックの音が響く。

 灰野先生に気づいてもらえるように大きく鳴らしたんだろう。

 中からゴソゴソと音がする。

 

「く、来るぞ! マイナス、俺を守って!」

「待って!? 掴まないで!?」

 何かあった時に前に出れないから離してーーー!!

 ああ! ノブが動いた!

 灰野先生が出てきちゃう!

 波多野さん後ろに下がってーーー!!

 

「ん、波多野じゃん。マイナじゃねえのな」

「お、おはようございます……あの……ホームルームの時間で……」

「マイナに任せりゃいいのに。仕方ねえ、お前に免じていくから待ってろよ」

「あ、は、はい……」

 

 ――バタン、とドアが閉まる。

 

「ええーー!?」

 灰野先生の波多野さんへの対応が、今までの灰野先生の人として底を突き抜ける程のクズっぷりと比較してマトモ過ぎて驚愕。

 顎が外れそう。

 

「灰野先生ってふたりきりだとあんななのかー?」

「いや、普段の横暴に拍車がかかるよ!」

「マイナス、もしかして灰野先生呼ぶ時ってお楽しみしてたりする?」

「面倒くさいって何度も言うし、俺の頭を楽器か何かだと思ってめっちゃ叩いてくる」

「灰野先生の意外な一面見ちゃったね……信じてもらえなさそ……」

 

「うーっし、行くぞー。今日もだっりー。って……」

 

 思いの外元気に出てきた灰野先生が出てきて、見守ってた俺達に気がつく。

 

「お、おはようございまッス……」

「チッ……波多野がひとりで来る訳ねえっての思ったけども、マイナ以外も来てるとかどういう事だよ……」

「灰野先生って優しいときもあるんすねデヘヘへへ」

「あ゛? 蹴っ飛ばすぞ?」

「ヒィィごめんなさいごめんなさい!」

「いやだから動けないから! 盾にしないでよ!!」

「私が代わりに蹴っ飛ばしておこうっと。おらー!」

「ああん! 良いーー!」

「うわ……きっしょ……」

「ああん! 灰野先生にそう言われると嬉しい……!!」

 

「せ、先生、とりあえず教室に! ホームルームお願いしまッス!」

 

 

 ――

 

 

「明日から試験。終わったら体育祭に向けての取り組み。以上、ホームルーム終わり」

「あっさりし過ぎッスよー……」

「あ゛? がんばれっつったらがんばるのかあ??

 優勝すんのかあ?? あ゛??」

 

 そんな諦めの境地みたいな事言わないでよー……

 がんばってるしがんばりたいもん……

 

「せ、先生! 先生!」

「うわっ、きしょい奴、お前喋んなよ」

「俺、先生にがんばれって言われたら何でもできまーーーっす!!」

「じゃあ優勝できなかったら二度と口聞くなよ」

「優勝できたら先生と喋っていいんですかー!?」

「はぁ……?」

 

 ドン引きの灰野先生。

 え、待って。面白すぎる……

 

「皆ー!! 灰野先生の為に俺ら、優勝しちゃおうぜーー!!」

「はああああ!? てめえの私利私欲じゃねえか!! 全力でお前ら負けろよ!? 優勝したら許さねえからな!?」

 

 なにこれ……おもしろ……クラスの皆も堪えきれないって笑ってる。

 

「じゃ、じゃあ、試験終わったら作戦会議、しちゃお!!」

 

 クラスの皆もおー!! って答えてくれる!

 灰野先生に一矢報いるチャンス……! 俄然やる気が出てきちゃった!

 

「最悪……鬱過ぎ……」

 

 

 ――

 

 

 中間試験前だから部活とかは無し。

 真っすぐに家に帰り始める。高校からバスで駅へ。駅のバス停ではバスを待ちながら、試験に向けての勉強をしておく。

 

(今日は早いから、絶対にショウくんには会えないんだよなぁ)

 

 先週の金曜日もそう。

 最初の最初、本当に偶然たまたまにショウくんと会えて、それからなんだかんだ会えてただけなんだなぁって思う。

 

(ショウくんと最後に会った時、俺たちなんて話してたっけ)

 

 鷹田とのバイトで偶然バッタリ出くわした時、あの時は関係を知られたくなくて誤魔化してたからふたりが話してるのを聞いてるだけだった。

 でも、もしかしたら、あの時がショウくんと最後に話せるチャンスだったのかなぁって思うと後悔の念がよぎる。

 

 

 ――バスが来たから、俺は乗り込んだ。

 

 

 ――

 

 

「そ、そそ、そういうわけで、よ、よよ、よろしくお願いします……」

「波多野さん落ち着いて……!」

 夜の波多野さんとのいつもの勉強の時間……

 

「ノンノンの緊張しいは可愛いなー!」

「あはは、でも朝に波多野さん、すごかったんだー。灰野先生の所に行くってさー」

「え、ええ……だ、大丈夫だった?」

「灰野先生が担任って時点でもうね……でも、マイナスくんお気に入りみたいだからそれで引き受けたのかな……」

「俺のせい……だよね。うん……」

 

 今日は試験前日、明日のテストの為っていう事で試しに皆で勉強してみようってグループ通話を試している。新井は別の学校なのでパスらしい。

 

「タカダンはまだやろかー?」

「鷹田は家でも忙しいからねー、そのうち来るよ」

「近藤さんって鷹田と仲良いよなー」

「幼馴染だからね。高校が一緒だったのは意外だけどね」

「わー……なんだか運命感じちゃうー……付き合ってたりするの……?」

「1回だけね。何も変わんないねって解消しちゃったから今はなんでもないよ」

「マジか……一周回って尊い関係やないそれ……? えっ……エモ……」

「渋谷さんはアニメの見過ぎ! 普通の関係だって!」

 

 と、そこで鷹田が参加する。

 

「うーっす。遅れたわー」

「鷹田、おつかれー。まだ始めてないから大丈夫だよ」

「先に始めててよかったのによー。てか別に俺、必要ねえしー」

 

 そんな時におにいちゃーーん! という声が混ざる。

 

「あー! 通話するっつったのによー!」

「ほらほら、行ってあげな」

「そういう訳で先進めといて」

 鷹田がミュートして、カメラの一旦停止する。

 

「鷹田って本当にいつも忙しそうだよね……」

 今の声は鷹田の妹だったのかな? どんな子だろうなーって想像しちゃう。

 

「鷹田も息抜きする時は息抜きするから大丈夫だよ。高校生になったから堂々とバイトできるってむしろ管理しやすいかも」

「タカダン、中学の頃からバイトしてたん!?」

「手伝いって名目だけど、配達とかしてたっけ……抜け目無いよ。鷹田は」

「うわーすごいなー、なのに勉強もできるしギターもできるってすごいなー」

「ふふ、私もそう思う。自慢の幼馴染だよ」

「コンちゃん、それは幼馴染自慢やなくて彼氏自慢や!」

「はいはい。じゃあそろそろ始めよう! 波多野さん、よろしくね!」

「あ、う、うん……!」

 

 

 ――

 

 

「通話って分けることもできるんだ……」

 誰かが話を始めると興味津々で聞いちゃって、その様子を皆に咎められて、結局は波多野さんとふたりきりになることになった。

 

「あはは……音楽かけてもそっちに集中しちゃうもんね」

「皆の話、すごい面白いんだもんなぁ……鷹田の昔の話とかもっと聞きたかった……」

「マイナスくんは色んな事に興味を持つもんね」

「そ、そうなのかな……? 自覚は無いんだけど……」

「ゲームとかも誘ったらたぶん、ハマったりしちゃいそう……だけど」

「だけど?」

「マイナスくんの時間が足りないって思ってるから、誘わないんだ」

 

 波多野さんは微笑みながら俺に言う。

 

「あ、え、あ……あー……足りないなぁ……」

「手伝えることは手伝うし……できることは私もがんばるから……!」

「……あっ! 朝の灰野先生の所に行くの、今日はがんばったよね!」

「心配かけて皆がついてきちゃったけども……えへへ。でも、一緒にがんばるよって見せたかったから」

「じゃあ俺もがんばらなくちゃ……! あ! 喋ってばかりじゃダメだ!

 勉強、よろしくお願いします!」

 

 

 〜〜

 

 

「アカン! やっぱウチ、ふたりが何話してるか気になってしゃあないわ!」

「一ヶ月近くふたりで一緒に勉強してるって話は伊達じゃないね……でも、ダメだからね!」

「学校で見たことない表情ばっかりしてるなーいやー新鮮だー」

「はぁー……いいなぁ……」

「まぁまぁツッキー! どうなるかはわからんから……慌てるとなんやかんやや!」

「んあー?月野さんってもしかして」

「い、言わないでー!!」

「ふふ、わかるよ。月野さんの為に渋谷さん見つけてきてくれたんだもんね」

「私、諦めてたのにな……だから、もうすごく嬉しくて、感謝してて……」

「ウチが来たことで起きたドラマ……最後まで見届けなアカンな……」

「さ、こっちも勉強するよ! あっちの監視は程々にね!」




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