仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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45・大人になったら大変なんだろうなぁ

「おはようございます……!」

「おはよう、学生くん」

 

 土曜日の朝。先週に席を立って行ってしまったユンユンさんと喫茶店でもう一度会う。予報の通り、今日は雨がザーザー降っている。

 

「その……来てくれてありがとうございます」

「ううん、僕の方こそ彼女が来たからとはいえ急に席を立って悪かったよ。……でも、本当に彼女は今、ここに来ていないんだね」

「はい……ユンユンお兄さんもミーたんさんがいない方が話しやすいかなって思って……」

「――世話焼きさんだね、君は。若くていいなってお兄さんは思うよ」

 

 ユンユンお兄さんはコーヒーに口を付ける。俺も真似して一口飲んでみる……うわっ、すごい苦い!

 

「ミルクや砂糖を入れないと君の口には合わないんじゃないかな」

「す、すみません……つい……お兄さんは平気なんスか……?」

「大人だからね」

 砂糖やミルクをお兄さんは俺に渡してくれる。

 

「それで、何を話したいんだい?」

「はい……お兄さんとミーたんさんの事についてで……」

「うん。特別に聞くよ。受け入れるかはさておきね」

「ありがとうございます……」

 

 息を吸う。

 

「お兄さんはミーたんさんのことは好きなんですよね」

「そうだね、愛してるね。今だってね」

「それでミーたんさんもお兄さんの事を……好き、愛してますよね」

「残念ながら、ね」

 

 ユンユンお兄さんは穏やかな顔でじいっと俺を見ている。穏やかなのに、気圧されそう。

 

「お兄さんはお兄さんなりにミーたんさんの幸せを願っているって、わかってます」

「……だけど、君から言わせると自己中だっけ」

 

 うん、と俺は頷く。

 

「なぜ? って聞いておこうかな」

「……俺の話になっちゃって、立場も違うから、単純な話じゃないっていうのはわかってるんスけども……」

「うん」

「好きな人……友達なんですけども、その子の邪魔になるかなって不安で、実際にその人の目指す道の人に俺は邪魔だって言われたんです」

「……うん」

「いない方がいいのかなって、それで大丈夫かって聞くと、その子は何度も大丈夫だよって言ってくれてて……」

「うん」

「でも、不安で仕方ないのは変わらなかったんです。いない方がいいのかなって」

「……うんうん」

「でも、別の友達が言ってくれたんです。大丈夫だよって言ってくれるその子の言葉を信じてあげられないの? って」

「……良い友達だね」

「はい……今、話してて、俺も気が付いたんですけども……すみません、纏まってなくて……」

「大丈夫だよ」

 

「あの子の大丈夫だよって言葉を信じてあげられなかったのは、俺が一番自信無かったからなんだろうなって……」

 

「今は、どうしてるんだい?」

「一緒にいてもいいって、そう思えるように自分なりにがんばろうって思ってます。それと、その子の事をちゃんと見て、ちゃんと話を聞いて、応援しようって思ってます」

「……青春だねぇ」

 

 お兄さんはコーヒーをまた一口啜る。

 

「あの……それで……その……」

「大丈夫だよ。落ち着いて話して」

「……はい」

 

 砂糖とミルクをたっぷり入れてもらったコーヒーを、俺も一口飲む。伝えるための言葉を、考える。

 

「ミーたんさんと、もう一度、ゆっくり話してみてほしいって……」

「どうして、君はそう考えたんだい?」

「えっと……思ってる事……話して欲しい……歩み寄る……っていうのか……」

「それは何度かやったよ」

「でも、それはまだ、足りないって思うんです。思った……?思いました……」

「君はそう思った。だけども、少なくとも僕はちゃんと話したよ」

「でも、でも……いや、その……」

 

「好きな人が悲しんでるのって、すごくツラい……ですから……」

 

「……僕もツラいのは一緒だよ」

「ユンユンお兄さんも、ミーたんさんも、ツラいって思ってます。それに、俺も……ツラくて……」

「……面白い子だね。それはどうして?」

「たぶん、俺もユンユンお兄さんとミーたんさん、好きだなって思ったから……です……」

「そっか。君は世話焼きを通り越してお節介になってしまっているだろうね」

「す、すみません……」

「微笑ましいなって思ったんだよ。まだ僕たち、会うの3回目なのにね」

「……俺、すごい、勝手な事、言ってるってわかってます。その……」

「うん」

「ユンユンお兄さんも、ミーたんさんも、悲しまないで済むように、もう一度だけ、話し合ってくれませんか……?」

 

 お兄さんはコーヒーを飲む。

 

「君のその純粋な気持ち、眩しいと感じるよ。他人の僕たちのためにそこまで言ってくれるなんてね」

「す、すみません……」

「だけどね、たぶん変わらないんだ。僕と彼女の恋は叶わない」

「……」

「でも、そう。せめてもうちょっと彼女が悲しまないようにがんばってみようかな」

「……す、すみません……子どもなのに、こんな事言って……」

「子ども相手にここまで言われる僕が大人げないだけだよ」

「い、いや、そんな事」

「ありがとう、学生くん」

 

 ユンユンお兄さんは行ってしまった。

 幸せな結末を迎えられない二人。もう一度会ってそれでもっと悲しい思いをするんだろうか。その後に、二人が納得のいく別れができたらいいんだけども……その前にもっと傷つくのかなって想像したら、ツラくなる。

 

 コーヒーを飲んで、俺も喫茶店を出る事にした。外は雨が降っている。

 

 

 ――

 

 

「鷹田がウソ付かなかった……!」

「おいおい、俺、ウソはそんなについてないぜ」

 鷹田に誘われて今日は一緒にバイト! バイトに行こうぜって誘われて、何があるのか疑心暗鬼ですごい警戒していた。

 

「遊ぼうって言われてバイトだったのは忘れてないからね!?」

「予定変更になっただけだってー。つか、バイトって言われたらテンション下がらねえ?」

「鷹田と一緒なら全然! むしろ勉強になるから嬉しい!」

「かわいい事言うじゃんー。仕方ねえな、飯奢らせてやるよ」

「やったー!! って俺が奢る方なの!?」

「何食いたい? 行きたい所考えるからよー」

「うーん……いや、今考えるのよしとく……」

 

 今日は清掃のバイトを一緒にしている。楽器のメンテナンスはできるけども、掃除や片付けはうっかり何か抜けることも多くて少し苦手だったりする。夢中で気分良くやっていたら物を引っ掛けて片付ける前より散らかるなんて事はよくやっちゃう。そして今はトイレの掃除中だ。

 

「おいおい、飯は大事だぜー? 美味いの食べて元気出すんだしよー」

「それは間違いないけども、こんな所でご飯の事考えたら食欲失くすよ!」

「カレーとかどうよー。ちな俺、カレー好きー」

「ここでカレーの話はやめて!! 鷹田がカレー好きなのはわかったけど!!」

 

 鷹田はゲラゲラ笑いながらトイレの掃除を進める。俺も慣れないながら、ゴシゴシとやってみる。みるみる綺麗になっていくトイレには達成感があるけども、やっぱり汚い状態のトイレはなかなか抵抗が強い。

 

「そういえば、鷹田っていつ勉強したり練習したりしてるの?」

「勉強は教科書に目を通せば余裕じゃん」

「えっ!? 目を通せば余裕って?」

「そのまんまの意味。勉強で躓いたことって今まで覚えがねえわ」

「す、すげー……え、じゃあ練習は?」

「そっちは普通に。サックスは会長の家で練習したりしたけどよ、基本は暇つぶしにアンプ繋げないでエレキギターだわ」

「暇つぶし! そうなんだ! 俺も暇があったら楽器触っちゃう!」

「勉強面についてはD高だから当然だけど、ギターで俺より上のお前がいた事は驚いたわな」

「上手いよ!? 普通に鷹田上手いよ!?」

「普通に、だろ。マイナスはマジでバグってんだよなそこらへん」

「す、好き過ぎて……」

「マイナスは音大にでも進学か? それ以外の道が無さ過ぎるけどよ」

「あー、うー……」

「金かかるっつうから、今のうちから金については計算しとけよー」

「お、おう……! 鷹田は進学するの?」

「独り立ちするのは確定として、大学行くかは微妙。悩み中」

「聞いた感じ、すごい頭が良いから良い大学行ったりしたほうがよさそうなのに……」

「学業には金がかかるからな。奨学金だって学費に充てれても生活費はまた別だし」

「そ、そっか……俺、わかんないからなんとも言えないな……」

「ま、少なくとも金は稼いでおいて損はねえ。当然の事だけどよ」

「鷹田はホントすごいなぁ……偉い……俺もがんばらなきゃ……」

「マイナス。お前はなんだかんだ、やる気もあるし頑張りもするからよ、ちょーーーっとだけ期待してんだぜ」

「そ、そうなの!? 鷹田に期待されてる!?」

「尻尾振り過ぎ振り過ぎ。せっかく綺麗にしたの汚れるだろ落ち着け」

「ご、ごめん!!」

「今が楽しければいいとか言うやつもいるけどよ、そういうのに耳は貸すなよ」

「お、おう……!」

「それとは別に、まぁ、今は少しだけ、楽しいよな」

「おう! おう!! 俺も!! すごく楽しい!!」

「はしゃぎ過ぎだっつーの!! あとマイナスだけに話したんだから、他の奴らには言うなよ」

「……特に近藤さんには言わない?」

「ウッゼ! イメージがあるっつう話だよ!! カレーのトッピング盛り盛りにすんぞ?」

「奢るなんて言ってないのにー! でも終わったら食べに行こうね!」

「ほれ、トイレ磨け磨け」

「……現実に戻すのやめてー……」

 

 ……

 

「うっし、時間だわ。マイナスおつかれー」

「お疲れさま! ご飯ご飯♪」

「カレーでいいのか? カレーでいいのか?」

「リセットさせてよ……まだカレーの話はしないで……」

「いやー楽しみでよー。って、ん……」

 

 鷹田がスマホを見る。

 

「どうしたの? 何かあった?」

「いやよー、ひとり足りないから緊急案件で上乗せするからって連絡来ててよー」

「えっ!? 行っちゃうの!? カレーは!?」

「今度に頼むわ。俺、行ってくるわー。やっぱ天気悪いと稼ぎ時だわな。いってくるー」

「ま、待ってよー!!」

 

 そういって鷹田は行っちゃった……

 

「うう……ご飯楽しみだったのに……」

 

 仕方ない……とりあえずスマホを開く……

 

「うーん、一人で帰れるかな……あれ……?」

 

 地図を見ながら、少し考える。




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