仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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54・予定を立てるのってワクワクしちゃうなー!

「なるほど、レッスンの開始を30分遅くしてほしいですか」

 

 学校から家に帰るとレッスンの時間だ。そして今はいつもレッスンを付けてくれている上井先生に応援団で練習する時間を作るための相談をしている。

 

「すみません……断りきれなくて……けども引き受けたからにはちゃんとやらないとって思っていて……」

 

 スラッと背が高く、いつも穏やかでスーツが似合う上井先生は微笑みながら話を聞いてくれる。

 

「構いませんよ」

「い、いいんですか!?」

「と、言いたいところですが」

「新しい課題ッスか!? 何でもがんばります!!」

 

 穏やかで優しさも溢れる上井先生だけども、レッスンは割とスパルタだ。必死にやって何とか達成できる課題が何度も出てくる。大きなハードルを用意してくれるけども、それを一緒に乗り越えさせてくれる、俺の尊敬できる音楽の先生だ。

 

「いえ、テルくんの事を考えると今後も何かしらの仕事を引き受け、時間が無いとなるのが見えていましてね」

「い、いや、俺も、その、断ろうとはがんばって……」

「中学生の頃からでは、想像できませんでしたけどね」

 

 中学の頃……音楽に没頭したり、落ち込んで何も見えなくなったりで、頭空っぽで本当に何も考えてなかったもんなぁ……顔の仮面模様で怖いって言われてたのもあったなぁ。

 

「少なくともテルくんが充実した生活をおくり、そこで様々な経験をする事は今後の糧となると私も思っています。しかし、それで約束である音楽についてを疎かにするわけにはいきません」

「は、はい……そのとおりです……えっと、じゃあ睡眠時間を削ってがんばるとかですか……?」

「明日、私の家でレッスンしてみましょう」

「えっ!? 先生の家に!?」

 

 まさかまさか上井先生の私生活を知れる!? そっちの方が興味津々になっちゃった!

 

「泊まる支度を忘れずに」

 

 上井先生の家に……泊まり!?

 

 

 ――

 

 

「えー!! 上井先生のお家にお泊り!? カナも行きたいーー!!」

「申し訳ありませんねカナさん。テルくんはしっかりと面倒見ますので」

「迷惑かけないようにねお兄ちゃん……」

「もちろん大丈夫だよ……って心配する側が逆!! カナは小6だから俺に心配される方だって!」

「梶原さんにも伝えてありますし、加えてカナさんの面倒を見てもらう人を手配しますのでご安心くださいね」

「うー……どんな人になるんだろう。あっ! もしかして灰野先生!?」

「えっ!? 違いますよね!? 先生違いますよね灰野先生じゃないですよね!?」

「残念ながら違いますね。彼女は高校で教鞭を執る身ですから」

 

 えーん安心したよー! だけどもカナも上井先生も灰野先生の真実を知らなくて困るよー!

 

「では、私はこれで失礼しますね」

 

 カナと一緒に上井先生を見送る。

 

「晩ご飯、食べようっか」

「うんー!」

 

 

 ――

 

 

 夜、泊まるための支度も済ませてから、いつものグループ通話に参加する。俺も入ると8人全員がいる!

 

「おーマイナスー今は数学の先生の話してた所だー」

「ウチらC組はまだ授業受けてないねん!楽しみやなー!」

 

「B組でだと、皆が顔を向けてくれるまでジッと見てたよね」

「俺は会長が声かけるまで気付かなかったけどなー」

「けどその後は鷹田も普通に授業受けてたよね」

「受けてたフリだっつーの」

 

「どっかの大学の教授で臨時に来た系だっけ?頭いいだけじゃなくて授業できる系なんだなー」

「新井の頭の中ってあんな感じなのかなーって思ったなー」

「知ってるだけじゃなくて、それを教えるって普通に難しい系の話だからなー。野球でも同じっしょ」

 

「あはは……C組での授業も楽しみだね」

「あ!月野さん!こんばんは!」

「マイナスくん、こんばんは」

 

 皆が雑談でもちきりの中、月野さんが先日よりは落ち込んでない様子で思わず声をかけてしまう。

 

「あ……その、昨日に元気無くて心配だったからさ!」

「うん、ごめんね。色々あって……今は一旦、大丈夫」

「そっか、よかったー……」

 

 深くは聞けない。月野さんが辛そうにしてる原因はわからずとも、ひとまずこうして話せるまでに持ち直してくれて嬉しい。

 

「あ、あの……み、皆……」

 

 そこに波多野さんが声をかける。本当に最近の波多野さんはすごいがんばってる……すごい……!

 

「今度、よかったら皆で……出かけない……?」

「あ! それ! 俺もすごい行きたい! そう! どこかに行きたい!」

「あ……そうなの、こう……マイナスくんが言ってて……!」

「あっ、はい! 俺が昨日に言ってた事です……!」

 

 皆が笑う。そう、俺が昨日言ってたって波多野さんは言いたかったのに俺が先走っちゃったんだな。恥ずかし……エヘヘ。

 

「そ、そのね……今度の土曜日……定番だけど、ショッピングモール……どうかなって……」

「皆で遊びに行ったら絶対楽しいで!」

「俺はバイトして金稼ぎてえんだけどなー」

「はいはい、荷物持ちとして来てね」

「会長がマジ横暴過ぎだわ」

「尻に敷かれてる系なら仕方ない系だな」

「なんだかんだ欲しいものも買いに行くかー」

 

 皆で出かける……出かける!

 楽しみで楽しみで仕方ない!!

 土曜日のために他全部めちゃくちゃがんばらなきゃ!!

 

「よし、じゃあそろそろマイナスくんは勉強かな? 波多野さんよろしくね!」

 

 

 ――

 

 

「そういうわけで波多野さん今日もよろしくお願いします!!」

「ふふ、いつも以上に気合が入ってるね」

「やることが本当にいっぱいあるからね……! どれも落とせないし、けど、俺一人じゃどうしようもないし……だから、頼るしかなくて、そしたら気を引き締めるしかないからね!」

「うん……特に数学がんばらなくちゃね。授業の後に魂が抜けたみたいな顔してたのは見てたよ」

「そうなんだよね……すごい丁寧に教えてくれるのに全然わからなくてツラくなっちゃって……」

「次はついていけるように、がんばろうね」

「おう! あ、あと、これはどうしても聞きたくてなんだけど……月野さん、元気になった?」

「うん……少なくとも、どうしようもなく落ち込んでた時よりは」

「そっか……! よかった……!」

「じゃあ勉強始めようね」

 

「あ! そうだ! 明日はビデオ通話できないかも!?」




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