仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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59・人に優しくなりたいなぁ

 ロックってなんだっけ。

 ステージの上で演奏するのが俺の目的なんだっけ。

 そうじゃない気が、してる。

 でも何ができるだろう。

 

「おい、マイナ」

「あ…………ミヤネ」

 

 今日も考え事でショウくんに声をかけられるまで気が付かないままだった。バスターミナルで、いつもショウくんに声をかけてもらってばっかりだ。

 

「今日もまた浮かない顔をして……先日のは上手くいかなかったのか?」

「あ、いや! そっちはね、上手く行ったんだ。明日、ショッピングモールに行く」

「となると別件……としても悩むことが多すぎだろう」

「い、いやー……なんでだかね……」

「まぁ僕には関係の無いことだが……ところで」

「ん、なに?」

「それは……ギターか?」

 

「……あっ」

 

 ロックをしたくて普通の高校に入ったことを、ショウくんに話してなかった事を思い出した。

 

 

 ――

 

 

「ロックをやりたくて普通の高校に……むちゃくちゃだな……」

 

 ショウくんにはロックをやりたくて普通の高校に行ったことを打ち明ける。俺の話を聞くショウくんは頭を抱えている……

 

「パパにロックをしてる事を内緒にしたくてさ……」

「……音大付属には関係者が多くいるし、近くの私立高校でもそれは変わらないものな」

「そう! そう思ったの!」

「しかし、学校でやらなければ良いだけじゃないか……?」

「えっ?」

「わからないがネットや先人がいるであろうライブハウス、いっその事だが上井先生に聞くなり。それで隠れてやるという手はいくらでもあるだろう?」

「思いつかなかった……!!!!!!」

 

 ロックをやりたいって思い始めた矢先、高校の部活に軽音部があるのを知ってこれだ! ってなって。それから一直線に目指してたから思いもよらなかった……

 

「お前らしい」

「ロックを聞いてさ、それから……やってみたくて」

「立ち直ったのも……ロックを聞いたからなのか?」

「そうだと思う……」

「そうか」

 

「ご、ごめんね」

「……何を急に?」

「2年前のあの時から、俺、ショウく……ミヤネと全然話さなくなっちゃってさ……相談すればよかったなぁ……」

「……音楽をやめたお前に価値は無い、だから話す必要が無かっただけだ」

「そ、そっか……じゃあまた話せるようになったのは、ロックのおかげって事なのかなぁ……」

「好きに考えればいい。どうせ僕には理解できない事だ」

 

「あ、そうだ。その、悩んでる事っていうのかな。今度にライブをするんだ。ロックをする」

「それはよかったな」

「おう。それで……思う所があるんだけども、友達には時間の無駄になるから何もするなって言われてるんだ。言ってる事はすごい正しいって思う、なのに飲み込めなくて……なんでだろうって……」

 

「具体的な助言が欲しいわけではないというのはわかってる、バカだなと言ってほしいんだろう?」

「う……いや……その通り……だと思う……」

「お前がバカなのは自明の事だ。今更重ねても仕方ない」

「普通にバカって言われるより酷いこと言われてる気がする……」

「そのうえで好きにしろとしか言えない。何を言っても無駄だからな」

「酷い……けども、その通りだもんね……」

「演奏であれば、合わせてやれるんだけどな」

 

 

「まぁ好きにしろ。バカなのだから。痛い目をみて学ぶのがちょうどいいかもしれない」

 

 

 ――

 

 

 土曜日の朝。あいにくの雨。

 今日は皆でショッピングモールに遊びに行く約束で、朝の10時くらいに駅に集合する予定。もうすっごく楽しみで仕方ない!だけども、約束の時間よりずっと早くに俺は家を出た。向かう先はいつもの喫茶店だ。

 

「おはようございます」

 

 カランカランとドアを開けて、奥にいるマスターに声をかける。

 

「やあ」

「お兄さんたちは来てないみたいッスね。会えるかなぁって来ちゃったんですよー」

 

 偶然に出会った変なお兄さんとその恋模様……ついでに助けられて、そのお礼もしたいし、どうなったか知りたいし……

 

「ハネムーンだってさ」

「え!? え!?!? なんでっ!? 最後、ここで会った時はそんな雰囲気じゃなかったのに……いや、でも仕事してる時、すごい仲良さそうだったけど……」

「彼らから君に手紙があるよ」

「手紙スか……?」

 

 口数の少ないマスターは封筒を渡してくれる。中を見ると結婚の報告、感謝の言葉、それと……

 

「お礼に喫茶店で何でも食べて……?いやいや……お礼したいのむしろ俺なのに……!」

「注文、あるかな」

「うう……とりあえず紅茶をいただいても良いッスか?」

 

 マスターは頷くと紅茶を用意してくれる。今日はしとしとと雨が降っていて、お客さんも俺しかいないから何事も無さそう……

 

「紅茶でなら、残り199杯くらい」

「週一くらいでしか来れないのに、多すぎッスよー……」

 

 マスターの紅茶を頂き、そして来週もなんだかんだ来るしかないかな……? そう思いつつ、お店を後にする……

 

 ……

 

 雨の中を歩いていく。バス停へと向かっているといつもの道に何やら騒ぎが……

 

「はあ!? 私も働けってどういう事よ!?」

「いや、だから会社の業績が不振で……」

 

 うーん、これは近づくと何故か巻き込まれるパターン……? そんなのあり得ないのが当然のはずなのに、何故かあり得ない出会いが多すぎる……念の為にといつもの道を避けて、公園があったのでそっちの方を通ることにする。

 

 晴れてたら子どもたちが元気に遊んでいるんだろうなぁ……そう思いながら公園を見渡しているとベンチに8歳くらいの女の子が座っていた。雨の中、傘もささずに。

 

 えっ?

 

 思わず二度見する。そして周りを見渡して、親らしき人がいないかを探すけどもいない……時間に余裕がある事も確認。声をかける事に決める。

 

「あ、あの……何してるの?」

 

 今更かもしれないけども、俺の顔には仮面みたいな模様がある。それのせいで初めての人に色々誤解を与えがちだ。それを踏まえて怖がらせたり、驚かせたりしないように気を付けて声をかける。

 

「ん……友達、誰か来ないかなーって。待ってるの」

「約束してる……っていうわけじゃないの?」

「うん。お兄さんはヒマ? よかったら遊ぼうよ!」

「いや、それはゴメン、約束があるから……というか雨降ってるから家に帰ろうよ!? 傘はどうしたの!?」

「傘ね、忘れてきちゃったの。ママもパパも出かけちゃったし」

 

 え、ええー……?? どういう理屈か全くわからない。雨の中、子どもを外に放りだして仕事……? 仕事で家を空けるから留守番ならまだわかるけども、そうじゃなくて外に放り出す……?

 

「その、いつになったらパパとママは家に戻るの……?」

「夕方。6時まで帰っちゃダメなの」

「え? え!? えと……お昼ごはんは……?」

「お休みの日は無しなの」

 

 そんな事ある……? こんなのは本当にあり得ないと思う。

 

「その……警察に電話とか」

「ダメ!! ママたちに迷惑かかるからやめて!!」

 

 この反応……前にも警察に電話されたって事……?

 

「私は外にいたいからいるの! 今日は傘忘れちゃっただけなの!」

 

 この子にとってはいつもの事……そういう事なんだろうなぁ……胸が痛くなる……

 

「じゃ、じゃあさ、とりあえず雨も降ってるんだし、お店とかに入って雨宿りとか……」

「ダメって言われてるからダメ」

「友達のお家とかは?」

「ダメって言われてるからダメ」

 

 だからこの公園にいるしかできないって……絶対におかしいよ……

 

「あ、あの、ごめん。これちょっと持ってて」

「え?うん」

 

 傘を渡して来た道を戻って喫茶店に向かう。

 

 ……

 

「す、すみません、マスター! 冷えても美味しく食べられるもの、包んでくれませんか!?」

 

 マスターは頷くと手早く用意してくれる。

 

「メニュー入れておくね。次もよろしく」

「ありがとうございます!」

 

 そしてまた雨の中を走って公園へ。

 

「あの、これ!」

「え!? でも、知らない人からもらっちゃダメって」

「傘預かってくれたお礼だから! 忘れ物取りに行ってただけ! ありがとう!」

「うーん……?」

「それじゃ、ゴメン!」

「あ! お兄さん! 傘忘れてるよ!!」

 

 振り返らずに走ってこの場を去る。

 

 親切を押し付けてるってこういう事だよね……少なくとも本当の意味ではあの子のためにならなくて、自分が何かしたかっただけってわかってる……

 

 

 どうか、あの子が風邪引きませんように……




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