「それが傘忘れてきちゃってさー……!」
「なら気付いた時に家に取りに帰れっつうの。てか朝の時点で普通に降ってたっしょー?」
「大丈夫かなーって思ってさー……!」
「どうしたらその発想になんだよ。バカだから風邪引かねえってかー?」
駅で合流して、傘を持ってない俺に対して鷹田がツッコム……渡しちゃったって言うのはなんか恥ずかしくて……
「モールに着いたら傘も必要無いけど、帰りには止むといいね」
「ま、歩く時は誰かに入れてもらえ」
――
それにしても8人で出かけるのは大所帯だ。男は俺に鷹田、熊谷、新井。女子は波多野さん、近藤さん、渋谷さん、月野さん。
今日、皆で遊ぶ理由は、元気のなかった月野さんに何かしらしたかったからだ。今はそれなりに元気になったように見えるから余計な事だったかもしれないけども……
「マイナスは誰が好き系?」
「え? みんな好きだけど……」
「彼女にするならって事だなー。近藤さんは鷹田の嫁だよなー」
「幼馴染で腐れ縁だっつの。ついでに元カノだから破局済みだっつの」
今は電車で、なんだかんだ男女で別れている。
「ちなみに俺は渋谷さん。ギャル系でコミュ強でいいよねー」
「俺も渋谷さんだなー。あーでも、波多野さんの実は一生懸命で母性のある感じ、いいんだよなー」
「俺、今は彼女とか興味ねえけどなー。ちなみに会長はお節介だし、管理してこようとしてくるし幼馴染じゃなきゃ無いわー。頼るとめっちゃ恩着せてくるぞ」
「はいはい惚気惚気。俺もそんな幼馴染的なの欲しかったわー」
「女の子の幼馴染、憧れちゃうよなー」
「で、マイナスは?」
「えっ、いやっ……わ、わかんないって……! むしろ恋人になってどうするっていうのもわかんないし……」
「波多野さんが好きだと思ってたけどなー」
「でも、今日は月野さんばっかりで、なんかあった系?どうなの?」
「な、何でもないよー!!」
~~
「きっと男子どもは彼女にするなら誰? とか話してるんやろなー定番や!」
「男子なんてそんなもんでしょ。予定って程じゃないけども、この後のスケジュール考えないとなー」
「こ、近藤さんって本当に、キッチリしてる……よね。いつもまとめ役……あ、ありがとう……」
「ね……近藤さんのおかげで吹奏楽部も捗ってるしね。すごいよ」
「あはは、どういたしてまして」
近藤さんは謙遜してるけども、本当にすごいんだよなー……灰野先生にも交渉始めちゃうし……言うなら渋谷さんも波多野さんもすごい……渋谷さんはコミュ強だけでなくコスプレの為に色々本気で取り組むし、波多野さんはゲームを作ったりマイナスくんの為に勉強も色々がんばってるし……それに引き換え私は、ってネガティブな事言いたくなっちゃう。けども、そうならないためにもがんばろうって決めたんだから飲み込む。
「せや、コンちゃん。実はな、相談があってな……」
「ん? なあに?」
「ツッキーとマイナスが二人きりになれるように時間作って欲しいんよ」
「え!? いや、その、だ、大丈夫だよ!? 別に、そんな!?」
「え、えと……その、近藤さんにも……手伝ってもらった方が……」
「私だけが知らない話があるんだ? えー聞いてもいい?」
「事情がその……色々あって……もしかしたら全く大した事じゃないかもしれないから……」
「なるほどね、じゃあとりあえず聞かないでおくとして……ふふ、楽しい事やってみよっか?」
「た、楽しい事……わ、私もできるかな……?」
「たぶん、男子は絶対に乗ると思うよ」
――
「デートコンテスト! めっちゃ面白い系じゃん! やるやるー!」
「男女それぞれ採点し合ってそれぞれ一位を目指すってね!」
フードコートで皆と昼ご飯を食べながら、そんな提案がされる。デートコンテスト……絶対最下位だー……!
「くだらねー、まぁ普通に俺の優勝だけどよー」
「タカダン減点っと」
「おい!? まだ始まってねえだろ!?」
「戦いは既に始まってるんやで……それにノンノン怖がらせないでデートできるんかー?」
「あ、いや、その、私は……だ、大丈夫だよ……」
「俺、デート初めてだからなーマイナスとの最下位争いになるかー?」
「採点基準とかはないから、各々自由に採点しちゃおうね」
「一応ルール説明。各1時間で交代。16時に皆で集合して男女で審査纏めてから発表! オッケー?」
「最初のペアはどうやって決める系? くじとか?」
「面倒やから女子側で事前に決めといたで!」
「そっかー、俺、最初誰だろなー」
――
「じゃ、みんな楽しんでねー!」
近藤さんの一言でみんな、それぞれ別行動を始める。ちなみに最初のペアは近藤さんと新井、波多野さんと熊谷、渋谷さんと鷹田、そして月野さんと俺だ。
「あ、えと、それじゃあどこ行こうっかー!?」
「あはは、無理しないでいいよ。とりあえず買い物でも済ませようっか?」
「お、おう! 月野さんは買いたいものなんだろう?」
「私は後でいいよ。服とか見ようかなって思ったくらいだから。マイナスは?」
「あ、えーと、俺は……」
貴重な自由時間でもあるから、欲しい物を事前に纏めておいてある。カナのアドバイスで。
「寝間着に歯磨きセットにメトロノームにブラシに――」
「お泊りセット……?」
「あ、うん。ちょっとお世話になる予定があって……」
「そうなんだ。じゃあ行こうっか。待ってね、フロアガイドによると……」
月野さんが良さそうな所を探してくれる。そんな折に、窓から見える外を眺める。雨は朝よりも強くなってるなぁ……。
「マイナスくん……?」
「あ、雨降ってるなーって思って!」
「傘も買う……?」
「そうしようっかな……!」
気がかりで仕方ない。けども今日は月野さんのために来たんだから、がんばらなくちゃー……!!
〜〜
「それにしてもメトロノームも買うんだね」
「あー、うん。思った時にサッと使えるのが大事なんだって」
今日のマイナスくんは上の空だったり、無理してるような所がある。だから楽器屋に連れてきてみたのだけども……
「その……マイナスくん?」
「えっ? な、なに?」
「何かあった……よね?」
〜〜
「あー……いや、その……」
心配かけたくないのに、誤魔化せてない自分にガッカリしそう……
「話していいんだよ、って言っても……この前も話してもらってばかりだったから、私の話、しちゃおうかな」
「え、あ、うん……」
そう、月野さんの話を俺も聞きたい。
「えっとね……先週の土曜日にさ、カラオケにマイナスくん、いたよね」
「えっ!? い、いや……いなかったよ。バイトしてて……」
見てないって事で話を通したい。いやだって、女子高生が大人とふたりきりで会うのってそういう事だから……
「うん、それでわかっちゃった」
えっ? どういう事? 月野さんに俺の事は伝えていないってみんな、言ってたはずなんだけど……
「履歴があってね、マイナスくんが近くにいるって」
「あ、いや……その……」
「通報、してくれたのマイナスくんなんだろうなって。ありがとう……ね」
「……うん。つい見ちゃって、それで月野さんが気を失ってるように見えて……」
「ごめんね、私、実はコソコソとマイナスくんと波多野さんの事、追いかけてたの」
「そ、そうだったの!?!?」
「ごめんね……気持ち悪いよね……」
俺は首を横に振る。ついでに道を迷ってたあの時に、月野さんと会ったのは偶々だと思ってたけども、そういう事だったんだってわかった。
「本当はここまで話すつもりじゃなかったんだけど……わかっちゃったから。ごめんね、それにありがとう」
そっか……そういう事だったんだ……。なんでふたりで会ってたいたのか、その理由がわかって安心したと同時に、月野さんの寂しそうに微笑む顔を見て、どこか遠い所に行ってしまうような気がする。
「その……なんて言えばいいかわかんないけど……でも、月野さんがお金とかそういうのが目的で会ったわけじゃないって、わかって、よかった……」
「ふふ、嘘かもしれないんだから、簡単に信じちゃダメだよ」
「いや、信じるよ!!」
月野さんは微笑んだままだ。
「あの……そのさ、話してくれたから、俺も話していい……かな?」
「私でいいなら、いいよ」
「朝にあった事なんだけど、でも、何かできる事が無いかって、わかんなくて……」
「あはは、落ち着いて? 座れる場所に行く?」
頷いて、楽器屋を後にする。
〜〜
「傘とご飯をその子に押し付けるくらいしか、その時はできないって思ってさ……」
「そっか……」
窓の外を見れば、雨がザーザーと降っている。マイナスくんはその度に公園のその子がどうなってるか心配でたまらなくなってたんだろうな。そんな事があって知らん顔して楽しめるはずないもんね……。だけど、みんなに気を使わせたくなくて黙ってた……そういう事なんだなぁ……。
「私、何ができるか調べてみるよ」
「えっ」
「何かしてあげたいけども、わからないんだよね? なのに時間もなくて調べる事もできなくって」
「う、うん……おう……」
「心配でたまらないのもわかる。私も正直、聞いてその子が心配で仕方ないよ。こうやって楽しむのが悪い気しちゃうもん」
「ご、ごめん……」
「だから、任せて。私だってそんな子を放っておけないよ」
「あ、ありがとう……!」
「今日、めいっぱい楽しむのは難しいだろうけど……ちょっとだけでも楽しもうね」
「おう……ありがとう……!」
「雨、止むといいね」
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