「「サーノ ドッコイショ!!」」
昼休みに教室で、馬園と俺とでソーラン節の練習。
「やっぱソーラン節ってカッコイイぜ……」
「うーん、まぁ合格だね! おらー!」
「待って! 合格なのになんで蹴るの!? 待って!」
「褒めてんだよ! おらおらー!」
火曜日から馬園は練習に熱が入り、どんどん踊れるようになった。
山岸さんの指導もビシバシあったけども、すごいがんばったなぁ……
ふたりのじゃれ合いも昼休みの名物になって、クラスメイトも俺達のソーラン節に盛り上がるようになってきた。
「来週の体育祭、楽しみだなぁ……」
――
「来週の体育祭、マジで鬱なんだけどお前ら??」
終わりのHRでの灰野先生の開口一番。
「絶対に灰野先生に優勝捧げるんでー!!」
「雨降らねえかなぁマジで」
馬園のアピールを完全スルー。
「隕石落ちるとかでもいいからよー」
「担任なのにそんな事言うのやめてくださいって……そういう訳で話す事は何かあります?」
「知らねー覚えてねー」
「はいはい……」
灰野先生のやる気が無さ過ぎるのでクラス委員の俺が進める……
とはいえ、来週がんばろうくらいしかないかなぁー?
「あ、あの……」
「波多野さん、何かある?」
「じ、実は、その、クラスの旗をね……」
「えっ!?」
波多野さんがクラスの旗を!?
「作りたいって……その……」
「良いデザイン降ってきたんだよねー!」
なるほど! クラスの別の女子から相談されたって事ね!
「ヤバい!? 団結力ヤバい!? もうこれA組の優勝確実だ! 灰野先生ー!!」
「勝手にすりゃいいけどよー。私に迷惑かけたら承知しねえかんなー」
「邪魔とかはしないでくださいッスよ……? 灰野先生?」
「しねえよ面倒くせえし……」
……
「そういえばなんスけども――」
灰野先生の立ち去り際に声をかける。
「灰野先生に謝りたいことがあって……」
「あん? 何?」
「吹奏楽部での指揮する中での指導、灰野先生はむちゃくちゃを言うと思ってたんです。でも、実際は妥当な事を言ってたので……すみません……」
「へー」
「え、反応それだけなんスか……? めちゃくちゃ理不尽に謝罪なり要求されると思ってたんスけど……」
「お前には貸しとその利子がアホほどあるから今更別にな」
「あ、でも、音を考えるっていう意味について、ズレがある事を知ったんスよ。この時にこの音を出すって決めるっていうのが――」
「知ってる」
「えっ!? じゃあなんでそれ伝えないんスか!?」
「真面目にやってるなら調べるなり人に聞くなりして、主体的にその答えにたどり着け。そう考えてっから」
灰野先生が……教師みたいな事言った……!?
「音を決めるにしても、音を探す必要があんだろ。お前はその音を探すのも手伝ってやるつもりか?」
「……時間が無いッスね……」
「"待ちの姿勢"の奴に答えを配って回るのは優しさじゃなくて、人をダメにするクズだからな」
「……先生?」
――灰野先生が一瞬、どこか遠い目をしたように見えた。
「マジで鬱いわ。学校爆発しろ」
「準備室に住んでるのにいいんスか……?」
頭を叩かれる。すごい良い音で。
――
「モーくん。ターくんかマイナスくんにギター教わった?」
放課後の軽音部で、速水先輩が森夜先輩に聞く。
「いやー、さーせん……いや、時間が合わなくって……」
「俺もマイナスも色々忙しくって、時間取れなくてサーセン」
「ターくんたちは本当に忙しそうにしてるもんね」
速水先輩は冷ややかな視線を森夜先輩に投げる……
「あ、あの、今からでも時間を取るのは――」
「俺がマイナスくんとふたりきりで教わる時間だからダメ♥」
「そこを何とか……!」
「えー♥ じゃあ、マイナスくんお持ち帰りしていいならいいよ♥」
「俺、お弁当とかじゃないッスよー……」
「まぁまぁ、教えるのできるかわかんないっすけども、森夜先輩と俺、一緒に練習するから安心してくださいよー」
鷹田のフォロー……ありがとう……! ありがとう……!
あれ? でもこの後は結局、速水先輩と俺、ふたりきりだ……
――
「あ、でも、そうだ! 俺、先輩の事もっと知りたいッスね!」
「えー♥ マイナスくん大胆♥ 全部教えてあげるよ♥」
速水先輩に密着されるのにも慣れてきたのかな……?
お持ち帰りは先輩の家に招かれるって事だろうし、軽音部でのバンド活動を色々聞けたら嬉しいなーって思ったんだ。
「明日の土曜日はダメなんスけども、来週の土曜日……体育祭の翌日なら……?」
「予定空けちゃおうっと♥ ふたりで何しよっか♥」
「その代わりなんスけども、森夜先輩の所に行ってきてもいいッスか……?」
「えー♥ じゃあ今日はお預けって事ー?」
「来週は俺、何でも付き合いますからー……! おねがいします!」
「わかった♥ 約束だよ♥」
「ありがとうございます!」
――
鷹田と森夜先輩が練習してる所にそっとやってくる。
……ふたりとも、特に口を利かずに淡々と練習している。
「鷹田ー。速水先輩がちょっと呼んでて。いい?」
「あん? 俺? いいけど」
速水先輩に口裏を合わせてもらって鷹田を離させてもらう……
ごめんね……!
「ん、マイナスは来ねえの?」
「あ、ちょっとその間、代わりにっていうのか……」
鷹田は俺の事をジーっと見る。
な、何も魂胆なんてナイヨー……
鷹田は、ハァー……っと息を吐いてから去っていく。
やっぱり魂胆バレてそう……ごめんね……
「あ、あの、森夜先輩……」
俺は森夜先輩に顔を向ける。
「……いや、何?」
森夜先輩は顔を逸している。
俺は少し息を吸って――
「俺、森夜先輩と話したいんです」
「…………いや、別に話すこととかねえし」
森夜先輩は壁に顔を背けたまま、そう言った。
……何か、声をかけたいけども、言葉が見つからない。
森夜先輩の目は泳いでいる。
沈黙が流れる……
「……別に」
「別に、どうでもいいっつってんのに……」
「別に、いや、全部どうでもいいっつうのに」
漏れるように森夜先輩は言葉を口にする。
それから俺を一瞥して――
「お前がクソムカつく」
抑えていたタガが外れたように森夜先輩が叫ぶ。
「何見てんだよ!!」
息を荒くして、ギターを投げ捨て、それから立ち上がり、俺に近づいてくる。
「黒間がいねえからって舐めてんだろ!?」
そのまま俺は胸ぐらを掴まれる。
「何とか言えよ!!!」
「……大丈夫……ですか……?」
「――っ!!」
――思わず漏れた言葉はこれだった。
「大丈夫!? 舐めてんのか!?
後輩が!! 先輩に大丈夫!?!?」
森夜先輩は激昂する。
「見てわかるだろ!? 大丈夫じゃないにきまって――!!
あ、いや大丈夫……あっ……じゃ、な……い……っ……」
怒りのままに激しく揺さぶっていた両手が止まる。
表情を失った森夜先輩の目から涙が溢れ出す。
「いや、ちげーよ。いや、舐められたら終わりだよ。
別に全部どうでもいいのに。
なんだよ。ムカつく……ムカつく……ウゼえ……」
俺を掴んでいた手を解いて、森夜先輩は涙を隠すように覆う。
開放された俺は息を整える……
「これ……よかったら……」
ハンカチを森夜先輩に差し出す。
先輩は
……静かに泣く森夜先輩。
「マジで……ムカつくよ……お前……ホント……」
「……すみません」
「悪いところなんてねえのに……謝るの……マジでムカつく……」
「……」
「なんだよ……マジで……1年の頃に俺達、すっげえがんばったのによ。
やっと……やっと……我慢する番が終わったって思ったのに……」
「ロクデナシのクズでいてくれよ……
何してもいいやって思わせてくれよ……
なに勝手に愛されてんの……
必要とされてんの……
俺達はがんばったのに、耐えたのに、
なんでこうなるんだよ……
なんで、居場所が無いんだよ……」
「森夜先輩――」
「喋るんじゃねえよ……! 俺が惨めになるだろっ……!」
「それでも――」
「優しくするんじゃねえよ!! お前にやったこと思い出すんだよ!!」
「俺は――」
「うるせえ!! うるせえうるせえ!! 黙れ!!!」
「先輩とバンドやりたいです」
「……人数合わせだろ」
「違います」
「じゃあ哀れみか? 情けか?」
「それも違います」
「じゃあ……なんだってんだよ……!!」
「……辛い気持ちや苦しい気持ちを歌ったブルースが、ロックの源流だっていうのは知っていますか?」
「だから、森夜先輩たちとロックしてみたいんです……
知りたいです。聴きたいです。奏でたいです。
先輩たちとの、ロック」
「……どう、ですか……?」
背中を向けたままの森夜先輩から、小さく笑う声が聞こえてくる。
「いやお前サイコパスかよ……必死にそういう辛いのから逃げてきたってのに。
邪魔で邪魔で、息ができなくなりそうなのに、それでも必死に無視してたのに。
それを……聴きたいって。俺を殺す気かよ」
「聴きたいです……殺す気とかは無いですけども……」
「なら合成音声系とか聴いたらどうだよ。いや、最近は他に良いのもあるけど……」
「えっ!? どんな曲ですか!? 教えてください!」
「いや別に普通に探せば……いや、再生リスト送るから」
「森夜先輩のオススメって事ですか!?」
「あーいや別に……まぁ、そうだけど……」
「ありがとうございます!」
ずっと背中を向けていた森夜先輩がそっと振り返る。
「……いや、お前ひっどい顔してんな。情けねえー」
「す、すみません……」
「いや、そんなお前よりひっどい顔なんだろうなって思っただけだし」
「……ハンカチは洗って返すのが礼儀だっけか」
「え、そんな、大丈夫ですけども……!」
「いや、別に一般的の話について聞いてるだけなんだけど?」
「そうッスね……一般的なら……?」
「……いやさ、そのさ――」
「いきなりどうこうは無理。普通にお前を見てると自分が無理になる。
悪いけど……いや、もう悪い事してるから今更だけどさ……
こういう事からやらせて。いや、やらせろ」
「は、はいっ!!」
「てか、今日の合わせ無理過ぎてどうしよ。バックレたら速水先輩ブチギレだよなぁきっと。でも、できる気がしねえー」
「そういう時は休んだほうが良いと思いますよ……! 何なら俺からも伝えておきましょうか?」
「……いや、いいのかなぁ……」
「大丈夫ですよ! 次に
「……初バックレだわ。いや、別にどうでもいいけど……」
「悪いけどよろしく。またな」
「はいっ!」
※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです