仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

66 / 165
66・ロックの為なら何でもするよ2

「「サーノ ドッコイショ!!」」

 

 昼休みに教室で、馬園と俺とでソーラン節の練習。

 

「やっぱソーラン節ってカッコイイぜ……」

「うーん、まぁ合格だね! おらー!」

「待って! 合格なのになんで蹴るの!? 待って!」

「褒めてんだよ! おらおらー!」

 

 火曜日から馬園は練習に熱が入り、どんどん踊れるようになった。

 山岸さんの指導もビシバシあったけども、すごいがんばったなぁ……

 ふたりのじゃれ合いも昼休みの名物になって、クラスメイトも俺達のソーラン節に盛り上がるようになってきた。

 

「来週の体育祭、楽しみだなぁ……」

 

 

 ――

 

 

「来週の体育祭、マジで鬱なんだけどお前ら??」

 

 終わりのHRでの灰野先生の開口一番。

 

「絶対に灰野先生に優勝捧げるんでー!!」

「雨降らねえかなぁマジで」

 

 馬園のアピールを完全スルー。

 

「隕石落ちるとかでもいいからよー」

「担任なのにそんな事言うのやめてくださいって……そういう訳で話す事は何かあります?」

「知らねー覚えてねー」

「はいはい……」

 

 灰野先生のやる気が無さ過ぎるのでクラス委員の俺が進める……

 とはいえ、来週がんばろうくらいしかないかなぁー?

 

「あ、あの……」

「波多野さん、何かある?」

「じ、実は、その、クラスの旗をね……」

「えっ!?」

 

 波多野さんがクラスの旗を!?

 

「作りたいって……その……」

「良いデザイン降ってきたんだよねー!」

 

 なるほど! クラスの別の女子から相談されたって事ね!

 

「ヤバい!? 団結力ヤバい!? もうこれA組の優勝確実だ! 灰野先生ー!!」

「勝手にすりゃいいけどよー。私に迷惑かけたら承知しねえかんなー」

「邪魔とかはしないでくださいッスよ……? 灰野先生?」

「しねえよ面倒くせえし……」

 

 ……

 

「そういえばなんスけども――」

 灰野先生の立ち去り際に声をかける。

 

「灰野先生に謝りたいことがあって……」

「あん? 何?」

「吹奏楽部での指揮する中での指導、灰野先生はむちゃくちゃを言うと思ってたんです。でも、実際は妥当な事を言ってたので……すみません……」

「へー」

「え、反応それだけなんスか……? めちゃくちゃ理不尽に謝罪なり要求されると思ってたんスけど……」

「お前には貸しとその利子がアホほどあるから今更別にな」

 

「あ、でも、音を考えるっていう意味について、ズレがある事を知ったんスよ。この時にこの音を出すって決めるっていうのが――」

「知ってる」

「えっ!? じゃあなんでそれ伝えないんスか!?」

「真面目にやってるなら調べるなり人に聞くなりして、主体的にその答えにたどり着け。そう考えてっから」

 

 灰野先生が……教師みたいな事言った……!?

 

「音を決めるにしても、音を探す必要があんだろ。お前はその音を探すのも手伝ってやるつもりか?」

「……時間が無いッスね……」

「"待ちの姿勢"の奴に答えを配って回るのは優しさじゃなくて、人をダメにするクズだからな」

 

「……先生?」

 ――灰野先生が一瞬、どこか遠い目をしたように見えた。

 

「マジで鬱いわ。学校爆発しろ」

「準備室に住んでるのにいいんスか……?」

 

 頭を叩かれる。すごい良い音で。

 

 

 ――

 

 

「モーくん。ターくんかマイナスくんにギター教わった?」

 

 放課後の軽音部で、速水先輩が森夜先輩に聞く。

 

「いやー、さーせん……いや、時間が合わなくって……」

「俺もマイナスも色々忙しくって、時間取れなくてサーセン」

「ターくんたちは本当に忙しそうにしてるもんね」

 

 速水先輩は冷ややかな視線を森夜先輩に投げる……

 

「あ、あの、今からでも時間を取るのは――」

「俺がマイナスくんとふたりきりで教わる時間だからダメ♥」

「そこを何とか……!」

「えー♥ じゃあ、マイナスくんお持ち帰りしていいならいいよ♥」

「俺、お弁当とかじゃないッスよー……」

「まぁまぁ、教えるのできるかわかんないっすけども、森夜先輩と俺、一緒に練習するから安心してくださいよー」

 

 鷹田のフォロー……ありがとう……! ありがとう……!

 あれ? でもこの後は結局、速水先輩と俺、ふたりきりだ……

 

 

 ――

 

 

「あ、でも、そうだ! 俺、先輩の事もっと知りたいッスね!」

「えー♥ マイナスくん大胆♥ 全部教えてあげるよ♥」

 

 速水先輩に密着されるのにも慣れてきたのかな……?

 お持ち帰りは先輩の家に招かれるって事だろうし、軽音部でのバンド活動を色々聞けたら嬉しいなーって思ったんだ。

 

「明日の土曜日はダメなんスけども、来週の土曜日……体育祭の翌日なら……?」

「予定空けちゃおうっと♥ ふたりで何しよっか♥」

「その代わりなんスけども、森夜先輩の所に行ってきてもいいッスか……?」

「えー♥ じゃあ今日はお預けって事ー?」

「来週は俺、何でも付き合いますからー……! おねがいします!」

「わかった♥ 約束だよ♥」

「ありがとうございます!」

 

 

 ――

 

 

 鷹田と森夜先輩が練習してる所にそっとやってくる。

 ……ふたりとも、特に口を利かずに淡々と練習している。

 

「鷹田ー。速水先輩がちょっと呼んでて。いい?」

「あん? 俺? いいけど」

 

 速水先輩に口裏を合わせてもらって鷹田を離させてもらう……

 ごめんね……!

 

「ん、マイナスは来ねえの?」

「あ、ちょっとその間、代わりにっていうのか……」

 

 鷹田は俺の事をジーっと見る。

 な、何も魂胆なんてナイヨー……

 

 鷹田は、ハァー……っと息を吐いてから去っていく。

 やっぱり魂胆バレてそう……ごめんね……

 

「あ、あの、森夜先輩……」

 俺は森夜先輩に顔を向ける。

「……いや、何?」

 森夜先輩は顔を逸している。

 

 俺は少し息を吸って――

「俺、森夜先輩と話したいんです」

 

「…………いや、別に話すこととかねえし」

 森夜先輩は壁に顔を背けたまま、そう言った。

 

 ……何か、声をかけたいけども、言葉が見つからない。

 森夜先輩の目は泳いでいる。

 沈黙が流れる……

 

「……別に」

 

「別に、どうでもいいっつってんのに……」

「別に、いや、全部どうでもいいっつうのに」

 漏れるように森夜先輩は言葉を口にする。

 

 それから俺を一瞥して――

「お前がクソムカつく」

 抑えていたタガが外れたように森夜先輩が叫ぶ。

「何見てんだよ!!」

 

 息を荒くして、ギターを投げ捨て、それから立ち上がり、俺に近づいてくる。

 

「黒間がいねえからって舐めてんだろ!?」

 

 そのまま俺は胸ぐらを掴まれる。

 

「何とか言えよ!!!」

 

 

「……大丈夫……ですか……?」

「――っ!!」

 

 ――思わず漏れた言葉はこれだった。

 

「大丈夫!? 舐めてんのか!?

 後輩が!! 先輩に大丈夫!?!?」

 

 森夜先輩は激昂する。

 

「見てわかるだろ!? 大丈夫じゃないにきまって――!!

 あ、いや大丈夫……あっ……じゃ、な……い……っ……」

 

 怒りのままに激しく揺さぶっていた両手が止まる。

 表情を失った森夜先輩の目から涙が溢れ出す。

 

「いや、ちげーよ。いや、舐められたら終わりだよ。

 別に全部どうでもいいのに。

 なんだよ。ムカつく……ムカつく……ウゼえ……」

 

 俺を掴んでいた手を解いて、森夜先輩は涙を隠すように覆う。

 開放された俺は息を整える……

 

「これ……よかったら……」

 

 ハンカチを森夜先輩に差し出す。

 先輩は躊躇(ためら)った後にハンカチを取り、それから背を向けた。

 

 

 ……静かに泣く森夜先輩。

 

 

「マジで……ムカつくよ……お前……ホント……」

「……すみません」

「悪いところなんてねえのに……謝るの……マジでムカつく……」

「……」

「なんだよ……マジで……1年の頃に俺達、すっげえがんばったのによ。

 やっと……やっと……我慢する番が終わったって思ったのに……」

 

「ロクデナシのクズでいてくれよ……

 何してもいいやって思わせてくれよ……

 なに勝手に愛されてんの……

 必要とされてんの……

 俺達はがんばったのに、耐えたのに、

 なんでこうなるんだよ……

 なんで、居場所が無いんだよ……」

 

「森夜先輩――」

「喋るんじゃねえよ……! 俺が惨めになるだろっ……!」

「それでも――」

「優しくするんじゃねえよ!! お前にやったこと思い出すんだよ!!」

「俺は――」

「うるせえ!! うるせえうるせえ!! 黙れ!!!」

 

「先輩とバンドやりたいです」

 

「……人数合わせだろ」

「違います」

「じゃあ哀れみか? 情けか?」

「それも違います」

「じゃあ……なんだってんだよ……!!」

 

「……辛い気持ちや苦しい気持ちを歌ったブルースが、ロックの源流だっていうのは知っていますか?」

 

「だから、森夜先輩たちとロックしてみたいんです……

 知りたいです。聴きたいです。奏でたいです。

 先輩たちとの、ロック」

 

「……どう、ですか……?」

 

 背中を向けたままの森夜先輩から、小さく笑う声が聞こえてくる。

 

「いやお前サイコパスかよ……必死にそういう辛いのから逃げてきたってのに。

 邪魔で邪魔で、息ができなくなりそうなのに、それでも必死に無視してたのに。

 それを……聴きたいって。俺を殺す気かよ」

 

「聴きたいです……殺す気とかは無いですけども……」

「なら合成音声系とか聴いたらどうだよ。いや、最近は他に良いのもあるけど……」

「えっ!? どんな曲ですか!? 教えてください!」

「いや別に普通に探せば……いや、再生リスト送るから」

「森夜先輩のオススメって事ですか!?」

「あーいや別に……まぁ、そうだけど……」

「ありがとうございます!」

 

 ずっと背中を向けていた森夜先輩がそっと振り返る。

 

「……いや、お前ひっどい顔してんな。情けねえー」

「す、すみません……」

「いや、そんなお前よりひっどい顔なんだろうなって思っただけだし」

 

「……ハンカチは洗って返すのが礼儀だっけか」

「え、そんな、大丈夫ですけども……!」

「いや、別に一般的の話について聞いてるだけなんだけど?」

「そうッスね……一般的なら……?」

「……いやさ、そのさ――」

 

「いきなりどうこうは無理。普通にお前を見てると自分が無理になる。

 悪いけど……いや、もう悪い事してるから今更だけどさ……

 こういう事からやらせて。いや、やらせろ」

「は、はいっ!!」

「てか、今日の合わせ無理過ぎてどうしよ。バックレたら速水先輩ブチギレだよなぁきっと。でも、できる気がしねえー」

「そういう時は休んだほうが良いと思いますよ……! 何なら俺からも伝えておきましょうか?」

「……いや、いいのかなぁ……」

「大丈夫ですよ! 次に挽回(ばんかい)しましょう!」

「……初バックレだわ。いや、別にどうでもいいけど……」

 

「悪いけどよろしく。またな」

「はいっ!」




※よければ感想、あるいは評価など頂けると幸いです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。