仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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72・ありのままで俺は好き!

「大丈夫ですか……?」

 保健室のベッドに森夜先輩と一緒に腰を掛けている。

 森夜先輩が泣くのはおさまってきたけども、表情は沈んだままだった。

 

「なんで……いや、なに止めてんだよ……」

「その……森夜先輩が大変なことをしそうだったから……」

「別に……別にいいだろ……」

「よくないですよ……」

 

 森夜先輩が目を泳がせる様子をジッと見ていると、何かが込み上げてくる。

 

「いや、なんで今度はお前が泣くんだよ……」

「す、すみません……わかんないです……」

「……なんで、俺、あんなに怒ったんだろうな……」

「なんで……でしょうかね……」

 

「俺さ……自慢じゃないけど、昔は良い子で通ってたほうなんだぜ……今はさておきだけど」

 

「なんつーか、場面に応じて合わせておくのが楽ってわかってさ……

 ケースバイケースで正解なんてコロコロ変わるじゃん……

 思うことがあっても表に出しても仕方ねえし……

 だから、感情とか不要って思ってたわけなんだよね……」

 

「黒間の奴はさぁ、見てわかると思うけどそういうの苦手。

 てかたぶん、普通に生きるの大変な方なんだよな。

 いつだったかに上手くやれないの見てて、ちょっと手を貸したらそれからずっと大体一緒にいるようになってさ……

 どうしてあんなにすぐイライラしたりするんだろうって思ってたわ」

 

「そう、てかさ。黒間の奴が謹慎してる理由なんだけどさ。

 アイツ、めちゃくちゃブチギレてロッカー壊したのが原因なんだけどさ。

 キレた理由が俺の教科書に悪戯書きされてたからなんだよな。

 

 一応イジメ案件だけどさ、こういうのって一過性っつうの?

 誰かがやらかしたらそいつにやり玉が移るからさ、別に大したことないっていうのか、まぁそんなもんだよなっていうのがあんのさ。

 でも、黒間の奴はめちゃくちゃキレたんだよな。

 

 表では殴るなとか、嫌な事あってもちょっと我慢しておけば大丈夫とか、そういうのは教えてたのもあるし、たぶん、黒間には犯人もわかんなくてさ。

 それで適当に因縁をつけて、ロッカーを思い切り殴ったわけよ。

 

 俺の事だし別に大したことないのに、なんで黒間はブチギレたんだろってさ、呆れたっつうかまぁ仕方ないかって思ったわけよ」

 

 

「なのになんで俺、あんなにキレたんだろ」

 

「すっげーバカらしいって笑ってんのに、なんで涙止まんねえんだろ」

 

 

 森夜先輩はヘラヘラと笑おうとしながら、涙がポロポロと溢れて止まらない。

 

「いや、てかさ、冷静に考えてさ、お前はなんで居るんだよ。

 こんなクソダセえ上にお前に無茶苦茶な事してたのによ。

 先輩らしくもできてねえし、お前に借りたハンカチだってちゃんと返せねえしさ……

 

 俺のこと嫌いだろ?」

 

 首を横に振る。

 

「いや……なんでだよ。

 別に良いとこ一つもないだろ?

 嫌いって言えよ……」

 

「……まだ、わかんないッスよ……」

 

「……わかんねえってなんでだよ……」

 

「……最初に怖い態度してたのは先輩が先輩らしくするためで、がんばってたんだなってわかりましたし……

 教えてもらった曲は俺も好きでしたし……

 仲良くなれそうって思ってて……

 だから、今はまだ……わかんないッス……かね……」

 

「……少なくとも嫌いじゃないッス。

 こういうのはお()がましい?かもしれないッスけども、

 俺のハンカチの為にあそこまで怒ってくれる人なんだって思いました」

 

「……お()がましい、な」

「あっ、すみません……!」

「いや、別にいいけどさ」

 

「マイナスは俺の事、ダセえって思う?」

「えっ!? いえ、全然そんな事は――」

「俺は俺の事、クソダセえって思ってる」

「いや全然そんな事無いですって!」

「そんで、俺よりマイナスの方が色々ダセえって思ってる」

「えぇーっ!? あ、いや、でも色々ダメッスよね……」

「けど、なんかいいよな……」

「えっ、いいんですか……?」

 

「お前見るたびイライラしてたのは、ダセえくせしてなんか良い感じになってるの見てたからだけどよ。

 俺、羨ましかったのかなぁ……」

 

 森夜先輩は少しぼうっとしながらそう言った。

 

「いや……いや、ダッセえのは今更か……

 ……マイナス」

「は、はい……」

 

「ごめん。それと、ありがとうな」

「あ、いえ、どういたし――」

「どういたさねえっつの」

「あ、は、はい」

「ダッセえ先輩だけど、これからお前と上手くやれたら嬉しいわ」

「わ……! 俺も! 先輩と仲良くできたら嬉しいです!」

「へっ……カワイイ後輩だな……よろしくな」

「はい! よろしくおねがいします!」

 

 

 ――

 

 

「あれ!? 熊谷、居てくれたの!?」

 森夜先輩と一緒に保健室を出た時、廊下に熊谷が立っていた。

 

「あーいやー……大丈夫かなーって心配でなー」

 とっくのとうに昼休みは過ぎているのに待ってくれていたんだなぁ……

 

「お前、駅で会った奴だよな。マイナスの友達の」

「……はい。その節は差し出がましい事してすみません」

「……いや、本当に悪いことしたと思ってんの?」

「はい。先輩の考えを尊重していなかったと――」

「ちげえよ」

 

「あの時におかしかったのは俺達だよ」

「……」

「今更だけど、悪かった」

「……」

「そんで……ありがとな。その時も。今回も」

「いえ……」

「んじゃ……」

 森夜先輩は一人歩き始めようとする。

 

「あ、森夜先輩大丈夫ッスか……!? どこに行くんスか……?」

「あ? 教室に決まってんだろ。授業時間だぞ」

「え、いやでも……」

「うるせえ、カッコつけてえんだよ」

「でも心配で……」

 

 森夜先輩は振り返る。それから俺のそばまで来てから言う。

 

「俺がお前の先輩で良いって思えるようにしたいって事。

 言わせんな恥ずかしい」

 

 んじゃ、と森夜先輩は足早に去っていった。

 

「……あ、熊谷。その、ありがとう」

「いやー全然大丈夫だー」

「森夜先輩、自分の事をダサいって言ってたけども、今の方がすごいカッコイイなって思ったなぁ」

「俺も同感だー」

「でも、大丈夫かなぁ……あ、俺達も行かなきゃ……!」

 

「あーその……マイナス」

「ん、なあに?」

「俺さ、先輩との衝突を避けるのがさ、一番だと思ってたんだけどさ……」

「うん……?」

「できたら先輩の色んな事も考えてさ、歩み寄れたら良いんだろうなーって思った」

「えっ、でも、森夜先輩との事は偶然も重なったから……」

「マイナスはずっと考えてたから、偶然のチャンス、あったんだと思うな」

「……そうなのかな?」

「うん……俺もちゃんとはわからないけどさー」

「あはは、でも、熊谷にそう言われたらそうなのかも」

「これからもよろしくなーマイナスー」

「おう! さ、遅刻だけど授業行こうー!」




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