仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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77・感情でリズムは変わっちゃう

「こうやって軽音部で3人、話すのちょっと久しぶりッスね!」

「忙しかったもんねー。これからはライブに向けてがんばらないとね!」

「応援団で普通に負けたの悔しいわー」

 

 月曜日の今日は合わせ練習とかは特に無い。だけども渡辺先輩の手伝いをしたりするために顔を出している。

 

「紅組の応援団のやる気すごかったもんねー」

「体育祭であそこまで盛り上がるのも普通にやべえって」

「すごい楽しかったなぁ……えへへ」

「他もあんなふうにやる気を出せるといいんだけどねぇ」

「いやーそんなの無理っすよー基本的にここの皆、やる気無いですしー」

「うん。わかってはいるんだけどねぇ」

「まぁ……色々事情があって取り組む時間が取れないとかありますし……」

「いや、そういうのじゃねえからー」

「えー?」

 

「主体性が無いっつうの? 責任取りたくないから自分から動きたくない訳よ。誰かのせいにするのが基本ムーブ。ついでに誰かが変なことしたらバカにするし、バカにされるのわかってっから変なことしない訳」

「えー……でも、皆が皆、そういう訳じゃないよね……」

「俺はそういうのわかってっからね。マイナスはバカでヘンタイだから気が付かねえけどさー」

「ヘンタイじゃないよー……!」

「鷹田くんの言う事はまぁその通りなんだけどね……」

 

「てかなんすけども、ドラム叩ける奴探したほうがいいんじゃないすか」

「えっ、いや、黒間先輩がいるでしょ!?」

「うーん……」

「えっ、なんで渡辺先輩も悩むんスか!?」

「今まではふたりで怒られてふたりで傷の舐め合いできたわけだけどよー、これからは黒間先輩が完全に孤立する未来が見えんのよねー」

「なんで!? 森夜先輩は黒間先輩の事、気遣って見えたけど!?」

「ふたりで支えてた柱が急に無くなったみたいな? 黒間先輩視点でな」

「う、うーん……?」

 

「外から見て悪い意味で安定してたっていうのはわかるけどね……」

「それならどうにかしてあげた方がよかったんじゃないですか?」

「無理にやってもダメなんだよね。尚更怖くなってしがみつく感じになるの」

 

 ……しがみつく。怖いからしがみつく。

 速水先輩のあの時の様子を思い出す。

 

「だけど、森夜くんが変わったからね。それは良いことだけども、黒間くんが心配なのも違いないね」

「うー……俺のせいって事になりますよね……?」

「そりゃなー。全く手間をかけさせるぜマイナスはよー」

「ご、ごめん……」

「いや、マイナスくんは謝ること無いよ」

「マイナスを甘やかさないでくださいよ渡辺先輩ー」

「ううん、そうじゃなくてね」

 

「変化には必ず苦痛が伴う、困難な道なんだよ。

 楽な道を選び続けたら変化は無いの。

 変わろうって思えた森夜くんも、周りも大変なのは当然だよ。

 だから皆で支えようっていう話」

 

「……そして、森夜くんの事とバンドの――黒間くんの事はまた別の問題だよ。黒間くんも変わることを強いるなんてできないし、それを踏まえて考えないと」

「そうそう、なんでドラム探したほうがいいっすよー」

「鷹田くんはドライ過ぎ」

「最悪、マイナスがドラムやる? 速水先輩はベースできるし」

「えっ」

 

 ドラム、できなくはない。

 ――でも、それは黒間先輩を追い出す事に繋がる……そういう事だよね。

 

 

 ――

 

 

 鷹田はバイトで、渡辺先輩は色々雑用で部室を後にした。

 俺は部室のドラムセットを前に、ドラムの楽譜を眺めている。

 叩くかどうかはさておいて、教える必要がある時に備えようと思った。

 

 メトロノームをセット。それに合わせてスティックでリズムを刻む基礎練習。タイムキープ。

 口でもカウントを唱えながら叩き続ける……

 

 ――ドラムはとにかくリズムが大事な楽器だ。

 メトロノームに合わせて叩いてリズムを身体に染み込ませる。

 どの楽器でもリズム感は必要だけども、ドラムは演奏の土台、皆を乗せる役目と言っても過言じゃない。

 

 俺は基礎を習ってるくらいだから、初級者くらいになるんだろうかな。

 

「お、マイナスがおったわー」

「あれ、渋谷さん? 吹奏楽部は?」

「次に何やるかで相談してるみたいなんよー。あくまでうちは助っ人やしな。ドラムの音が聞こえたから来てみたんよ!」

「そうだった……! そうだよね。ドラム志望だもんね」

 

 渋谷さんはドラム志望だけど、組める人がいなくて軽音部に入れなかった。そして、今、ちょうどドラムの席が不安で……

 

「マイナスはドラムの練習してたん?」

「うん。ライブでやる曲のドラムを確認がてら……あ、でも練習したかったら代わるよ」

「大丈夫やで! てかスティックだけでも練習になるしな!」

「あはは、それは確かに。じゃあもうちょっとだけ使わせてもらうね」

 

 メトロノームを止めて、録音しながら叩く。

 しばらく続ける。口でカウントもしながら。

 そして終えたら録音を聞く。

 

「あー、ちょっと遅れていってるなぁ」

「なるほど……やっぱりそういう練習よな」

「そうだね。メトロノームで確認、録音、聞いて確かめるって感じだね」

「基礎練習って大変やなー。マイナスも基礎練習ガッツリやっててちょっと安心したわー」

「俺、ドラムは基礎しか知らないから尚更に基礎練習かなぁ……?」

「ウチも真似させてもらうで!」

 

 こんな風に話を聞いてもらえる人と一緒にバンドを組めたら、本当に助かるなぁ。

 練習をすれば伸びるのは当然だけど、どこまで練習できるかは人に依る……渋谷さんは初心者だけども絶対に良いドラムを叩けるようになると思うんだよね。

 

「せや。話変わるけども、ツッキーとは最近どうなん?」

「え、月野さんと……?」

 

 話して良いこと、良くないことを考えながらどう話そうか考える。

 

「ツッキーと出かけたんは知ってるんよー。せやけど、ツッキーが最近、難しい顔してるの増えたなぁ思ってな」

「あー、うん。そうだよね」

 

 公園とその後の出来事から月野さんはどこか深刻そうな顔をしている事が増えた気がする。夜の勉強会も顔を出すことが減ったと思うし……

 

「ツッキーは何かと抱えがちやからなぁ……」

「大丈夫、って言っちゃうもんね」

「友達としては寂しいもんや。困ってたら相談してもらいたいわ。まぁ色々あるんやろうけど」

「あはは……そうだね」

 

 思わず愛想笑いで返してしまう……今、俺の抱えてる色んな悩みを相談するのはやっぱりちょっと難しい。

 

「マイナスもよかったらツッキーの事、これからも見守ってやってなー」

「おう、それはもちろん」

 

 渋谷さんといつか、バンドができたらいいなぁ……

 

 

 ――

 

 

「世の中、複雑だなぁって思ってるんだ……」

「それは当然だが、お前が考えても仕方ないことだろう」

 帰りのバスで最近の事をショウくんに話す。これも恒例になってきたなぁって思う。

 

「楽しいことも色々あるんだけどね。体育祭で優勝したから打ち上げする予定で『ヤキニク』するかとか」

「『ヤキニク』? BBQの事か?」

「たぶんそうだと思う! 後は初のライブの予定がそろそろとか」

「……一応、開催はいつだ?」

「再来週の土曜日の予定だよ。ミヤネも来る!?」

 

 ――つい、はしゃいで聞いちゃったけども、誘ったら大変な事になるのを言ってから気が付く。

 どうしよう……

 

「いや、僕は別にロックなんて興味が無い」

「そっかー……そうだよね。忙しいだろうし」

「お前自身も色々予定が詰まっているのだから、余計な事で悩むな。バカの考えは休んでるだけとも言うくらいなのだから」

「うー、酷いー。でもその通りだからなぁ」

 

 〜〜

 

 ――ミヤネも来る?

 屈託もなく誘う君の言葉に、僕は思わず頬を緩めそうだった。

 

 仕方ないなと言えればよかったのに、君の友達に偶然に出会い、つい話してしまった事が頭の中で蘇り、行かないと伝えてしまった。

 

 今後、交わる事が無いだろう相手だと思ったのに、どうしてそいつが君の友人でバンドのメンバーなんだ。

 どうして、あの時の僕は軽率にあんな事を話したんだろう……

 

 ――本当は聴きたい。すごく行きたい。

 

 そんな溢れそうな思いに蓋をする。

 僕はやっぱり、君と仲睦まじくする事ができない運命なんだろうな。

 人を奈落に落とした罰が、そうさせるんだろうな。

 

 ……誰にも話す事なんてできない。それが僕の運命だ。




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