仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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79・世の中には難しい事がいっぱいあるなぁ

「うおー、綺麗な店っすねー」

「ターくんは初めてなのかな♥ ここで待ち合わせなんだ♥」

 前にも来たことがある、カナのお気に入りのオムライスがあるお店に俺達はやってきた。

 

「庶民には縁が無い店っすからねー。金持ちが通うか、おっさんが女釣るために来るような店じゃないっすか?」

「えー♥ ターくん偏見強すぎー♥ そう思わない? マイナスくん♥」

「全然わかりませんでした……」

 ここに何度も来ててグサグサ刺さるのもそうだし、そういう場面も見たから余計に刺さる!! 鷹田はやっぱり何でも知ってるの!?

 

「うわっ、コーヒーだけでこんなするってヤベえっすよこれ」

「すごい値段だよね♥」

「速水先輩は飲んだことあるんすか?」

「うん♥ 来たこと何度かあるしね♥」

「やっぱり旨いんすか?」

「わかんない♥」

「ならやっぱりインスタントとかでいいっすね」

「口にしちゃえば何でも一緒だしね♥」

 

 速水先輩と鷹田がちゃんと会話してるの珍しいなぁー。なんだか微笑ましくなる!

 そんな様子を眺めつつ、ふと入口に目をやると既視感を感じる人がいた。

 

(あれ? 上井先生?)

 

 レッスン開始時間を遅らせてほしいって連絡したら、今日は急用があって無しって事だった。

 いやいやまさか上井先生が速水先輩に連絡を取っていた……?

 入口の人は狼的な感じでスーツもビシッと決まっていて、上井先生にすごい見える。でも、似てるだけかもしれないし……

 

 気になって眺めていたけども、その人が顔をこちらに向けた時にわかった。

(あ、上井先生じゃないやー)

 

 上井先生はダンディーな感じなんだけど、その人は少し童顔な感じ。似てるには違いないんだけどね!

 と、その人は俺達の席へと真っすぐやってきた。

 

「お待たせ、速水くん。そのふたりは?」

「学校の後輩でバンドメンバー♥ せっかくだから呼んじゃった♥」

「そうなんだね。ふたりともはじめまして。僕はファングプロダクションの大神と言うよ」

 

 そういって大神さんは名刺も見せてくれる。なんかすごいなぁ……!

 俺も鷹田も流れに合わせて名乗ったりする。飲み物もお代は気にしなくていいからと注文させてもらったり。

 

「ふたりとも良い子なんですよ♥ ターくんは色々すごいし、マイナスくんはすごい可愛くって♥」

「はは、速水くんが言うなら有望そうだね」

「今日はどんな話をする予定なんすか?」

 ああ、と大神さんは話を切り替える。

 

「速水くんの事を偶々話したら興味があるって人がいてね。よかったら会ってみないか、速水くんに聞きたくてね」

「えっ!? つまり、スカウトって事ッスか!? すごい!!」

「端的に言えばその通りだね。どうかな? 速水くん。興味はあるかな?」

「……んー……」

 

 大神さんはそのまま説明を始める。

 聞く所によるとドキュメンタリーなジャンルで、今の若者についての動画を作りたいらしい。先方から良い人はいないか聞かれた時、速水先輩が思い当たって改めて声をかけに来たそうだ。

 

「ええっ……!! すごいッスね! 速水先輩、デビューって奴ッスか!?」

「話が進めば、になるけどね」

「やるっきゃないんじゃないスか!? 速水先輩!」

「えー♥ マイナスくんの方が張り切りすぎ♥」

「鷹田もそう思うでしょ!?」

「んー」

 

 あれ、何故か考えている様子。どういう事だろう?

 

「気になることがあるかな?」

「あーいや、部外者なんで色々言うのはよくないと思うんでー」

「いや、率直に言ってくれていいよ。若い子の考えることは貴重だからね」

「今の話って現状は企画段階って事になるっすよね?」

「うん、そうだね」

「紹介するとして、それって速水先輩はファングプロとして行くんすか?」

「そうだね。そうした方がこっちで手伝う事ができるからね」

「そうすると速水先輩のバンド活動ってどうなるっすかね」

 

 ……ん?

 

「所属するって事は色々従わなきゃならないじゃないっすか。勝手にSNSで発信したり動画上げるとかそういうのダメって聞きますし」

「それはその通りだね。事務所の看板を背負う事になるからね」

「となるとバンド……今度のライブもどうなるのかなーって思ったんすよね」

「なるほど。君はすごく頭が回る、利口だね」

「素人考えなんで杞憂かもしれないっすけどね」

「結論から言うと雇用形態と契約内容で変わるよ」

 

 なんか難しい話になってきた……?

 

「事務所に所属するといっても実際は色々な形があるのはわかるかな?」

「マネージャーがついて一から十までやってくれるか、それか紹介された仕事引き受けるかとかっすよね。イメージ的には普通のバイトか単発バイトか、みたいな」

「遠くないイメージだね。細かい所は置いておくとして、君はそれぞれの働き方についてどう違うと思う?」

「言われたことをやるには違いないっすけども、仕事を選べるとかっすかね?」

「うん、近いね。どうせなら今回の話も含めて説明しようかな。どうかな? 速水くんとマイナくん」

「ターくんが聞きたいなら続けていいよ♥ マイナスくんヨシヨシしてるから♥」

「ハッ……何話してるかわかんないッスけども大丈夫ッスよ! バンドができるなら……!!」

 

 何話してるのかどんどんわからなくなってきて頭がパンクしそう……

 

「マイナスはともかく、速水先輩は聞いておいたほうがいいっすよ」

「ふふ、しっかりものだね。君は起業家になりそうだ」

「いやーとんでもないっす。説明聞かせてもらっていいっすか?」

「うん。主な形態はふたつ。『マネジメント契約』と『エージェント契約』。前者は事務所から振り分けられた仕事を請け負う、後者は事務所に契約や仲介を委託するというものだよ」

「え、どういう事スか……? 仕事もらうって意味で同じじゃないんスか……?」

 

「例えばドラマを作る時、10代の男の子が欲しいと頼まれたらそれに合う子を事務所で選ぶのが『マネジメント契約』、人気のあの俳優を使わせてくれないかって聞かれて事務所が仲介するのが『エージェント契約』だね」

「あー、商店街の催しで芸人呼ぶ時、事務所のオススメに任せるかそれとも人気の芸人呼びたいとかそんな差っすか?」

「厳密には全く違うんだけども、そんなイメージで大丈夫だよ」

「ネットでの配信のアレってどんななんすか?」

「話題だよね。事務所ごとの特色がありすぎて何とも言えないのが正直なところだけど、個人事業主として委託契約を結んでるって考えるのがベターかな」

「個人で売れるなら個人でやったほうがいいっすもんね」

 

 へー

 

「三者三様だけど、自己管理能力やトラブルが起きた時の対処、仕事以外のモチベーションといった点を踏まえて自分で選択するのがベストだね。それぞれ利点と欠点はあるからね」

「今回の場合、どういう形態になるんすか?」

「『マネジメント契約』にあたるね」

「そうなんすか。てっきり『エージェント契約』って思ってたっす」

「雇用か、それともサービスを受けているかの違いになるのだけども、ともあれ契約内容を確認するのが大事なんだね」

 

 わかんないけども大変なんだなぁ……

 

「話は戻るんすけども、今回、契約した場合って速水先輩はバンド活動続けられるんすかね?」

「僕達の考えとしてはしないでほしいと思っている」

「ええー!? バンドできなくなっちゃうんッスか!?」

 

 もうすぐライブがあって、それが楽しみなのにできなくなっちゃうの!?

 それはイヤ!!

 だけども速水先輩にせっかくスカウト来てるのに受けないでなんて言えないし、むしろ速水先輩のためになるなら受けてほしいし、でもライブすごい楽しみでやりたくてやりたくて――

 

「ふふ、落ち着いてほしいな。相談して決めていけば良いからね。できる限り考えは尊重するし、すり合わせていくのが大事だから」

「は、はいー……あ、でも速水先輩は速水先輩のやりたい事を優先してくださいね……!!」

「えー♥ マイナスくんがダメって言ったら俺、やらないからいいよー♥」

「それはダメです!! 速水先輩のする事何でも応援しますけども、俺の都合で速水先輩が決めちゃダメです!!」

「じゃあライブできなくなるからやめるー♥」

「いやせっかくお話してもらったんですから、もうちょっと聞いてみましょうよー!」

「わかった♥ じゃあ聞く♥」

「そ、そうじゃなくてー!!」

 

 速水先輩が俺のために考えてくれてるのはわかるんだけどもー! 違うんですよー!

 

「あー、もしよかったらなんすけども」

「うん、なんだろう?」

「俺たちも速水先輩と一緒にその現場、行けませんか?」

「えっ、俺たちっていう事は鷹田と俺!?」

「えー♥ 来てくれるなら来てほしい♥」

 

 速水先輩が俺を抱きしめる。これを大人たちの前でもする事になっちゃうの……!?

 

「まぁ速水先輩がマイナスにベッタリな所もありますけど、俺、よかったらそういう現場も見て勉強してみたいんすよねー」

「ふふ、向上心がすごいね。わかった。できるように調整しようと思うよ」

「ありがとうございます。連絡先を交換してもいいっすか?」

 

 同じ歳とは思えない鷹田……本当に頼りになるなぁ……

 

 この後、もう少し色々な話をしてから解散になった。




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