仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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8・恋愛経験っていつ頃が適正なの?

 近藤さんから買ったベースと鷹田に取ってもらった人形を抱えての帰り道。

 休みの日にたまたま友だちに会って、昼ご飯を一緒に食べて、ゲームセンターに行くという経験。小説や映画だけの経験だと思ってた。

 

「本当にあるんだなぁー」

 

 バンザイ高校生活! と人形をギュッと抱きしめる。

 

「あ、あの……」

「あいっ!?」

 

 急に声をかけられて、他人の目を忘れて自分の世界に浸った事を思い出し、我に帰って恥ずかしさが込み上げてくる。

 

「な、なにか……?」

 

 ゆっくりと振り返る……そこにはネズミ系の男の子が居て、俺と目が合うとたじろいだ。

 

「……!」

「あ、ゴメンゴメン……ちょっと良いことがあって夢中になってて……」

「そ、その……あ、いや、えと……」

 

 明らかに怖がらせてしまっている……俺が笑うと不適に見えて、怖いというのは定番だから……。

 

「ゴメンね。怒ったりしてないよ。どうかしたかな?」

 

 男の子を怖がらせないように、屈んで目線を合わせる。

 

「あ、あの…………マイナちゃんの……お兄さん……ですよね?」

「あぁ、うん。カナの友だちかな?」

「う、うん……天野宙太って言います……」

 

 あれ? 宙太……カナの話に出てきたイジワルしてくる男の子?

 

「宙太くんだね、どうしたのかな?」

「そ、その……マイナちゃんに……カナちゃんに謝りたくて……」

 

 あ、これは昨日カナがスゴイ怒ってた話についてか。でも、思ってたより話せる良い子な気がする……?

 

「そうなんだ。確かにカナもスゴい怒ってたけども……」

「そうだよね……ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」

 

 それから宙太くんはわぁーっと泣き出してしまった。

 

「よしよし……反省してるんだね。それで謝りに来てくれたんだね?」

 

 ひとしきり泣きじゃくりながら宙太くんは頷く。

 

「じゃあウチに来る? 案内するよ」

 

 宙太くんにそう提案したが、首を横に振った。

 

「あれ……どうして?」

 

 できる限り優しく聞いてみる。

 

「あの、あのね……ゆ、許してくれなかったら……」

「ああ、許してくれるよ、カナだったら」

「でも、ちゃんと謝れるかわかんないの……」

「俺にちゃんと謝りたいって言えたから、できるよ」

 

 そう声をかけると宙太くんはまた大きな声で泣き始めてしまった。

 

(こ、これ、俺が泣かせてるみたいになってて、大丈夫かな……)

 

 閑静な方ではあるが、なんだかんだ人通りはある。どうしたんだろうという視線は突き刺さる。でも、無理やりどうにかしようとするのは、せっかく勇気を出して声をかけてくれたこの子に申し訳ない。ジッと落ちつくのを待つことにする……

 

 ……

 

「大丈夫?」

 

 うん、と落ち着きを取り戻した宙太くんが頷く。

 

「どうして難しいって思ったんだろう?」

「ぼ、僕ね……マイナちゃんの前だとね、イジワル言っちゃうんだ……」

「素直に自分の気持ちを言えない……って事?」

 

 うん、と宙太くんは頷いた。

 

「席替えでね、マイナちゃんとね、離れちゃった時にね、離れられて嬉しいって言っちゃってね、胸がツンってしちゃったんだ。でも、マイナちゃんが私も嬉しいって、言って、それが、すごく、すごく……」

 

 宙太くんは手で顔を覆う。また涙が溢れだしてるようだ。

 

「大丈夫、ちゃんと聞くよ。ほら、これで拭いて。これも、ほら」

 

 ハンカチと鷹田が取ってくれた人形を宙太くんに渡す。宙太くんは人形を抱きしめながらハンカチで顔を拭う。

 

「僕……マイナちゃんにね……嫌われてるってね……わかってるの……」

「……そうだね、今、カナは宙太くんの事、スゴい怒ってる」

「だからね、僕も、マイナちゃんの事、嫌いになろうとしてるんだけどもね……」

「……うん」

「でも、でも……」

「でも……?」

「僕、やっぱり、マイナちゃんの事……好きなの……」

 

 えっ??? えっ???

 いや、そういう線も考えたけど……えぇーー!?

 いや、待って。まだカナは小学生で、そんな、恋愛とかまだするような歳じゃ……

 え、でも宙太くんの気持ちは放っておけない……けども、そんな、カナに彼氏なんて、まだ早くて、

 

 ええーー!?!?俺、どうしたら良いのこれ!?!?!?

 

「あの……マイナちゃんのお兄さん……」

「ま、まだお兄さんと呼ばれるには……あ、はい、なんだろう?」

「僕、やっぱりちゃんと謝れる自信が無い……どうしたらいいかな……」

 

 

 宙太くんはすごく真面目に、俺に聞いてきている。

 

 

「この話は俺以外にも誰かに相談したかな?」

「ううん……恥ずかしくて誰にも言えない……お兄さんも誰にも言わないで」

 

 ……俺は適任じゃないって伝えようとしたのに、そんな事言われたら言えなくなっちゃうよ……

 

「……だけど、これからどうするか自分一人で決めるの……? せっかくここまで来たのに帰ったら、学校で会っても気まずいよ?」

「うん……でも、やっぱり、言えない……マイナちゃんにちゃんと謝れない……どうしたらいいのか、わかんない……」

「じゃあ、やっぱり相談しなきゃね」

「うん……お兄さん……相談させて……」

 

 い、言われちゃった……ふ、複雑だよーーーーー!!!

 待って! 宙太くんに寄り添ってあげたい気持ちとお兄ちゃんとしての気持ちせめぎ合い過ぎるよーーーー!!

 それでも心の中で深呼吸して、落ち着いて宙太くんと会話する……

 

「……わかった。でも、俺、今日はたまたま会えたけども、次はどうやっていつ話す?」

「お兄さんのレッスンの前とか……どうかな?」

 

 え? そういうの把握済みなの?? ちょっと怖いなぁ?? いや、実際に家までこうやって来てるし、近いからなんだろうけども……

 

「うん、わかった。でも、やっぱり謝るのは早い方がいいからね? それは忘れないでね」

「うん……ちゃんと謝る……約束する」

「よし、じゃあ今日は帰ろうか。そのハンカチも人形も、今日は持って帰っていいよ」

「ありがとう……マイナちゃんのお兄さん」

「どういたしまして」

 

 

 ど、どうなるのかなこれ……




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