「お前らなんか盛り上がってるけどよー、何してんの?」
「体育祭の優勝打ち上げに焼肉する予定で、準備してるんですよー!」
「へー、せいぜい楽しんでこいよ」
「もちろん灰野先生の席もありますよ……俺の隣に」
「キッショ」
「ああん♥ 嬉しい♥」
月曜日の朝のホームルーム、朝に馬園ワールドを見せられるのはなかなかキツいなぁって俺も思う。
「あ、それで皆! プリントを配るから書いてな!」
「えっと……これ……お願いします……」
波多野さんと俺で皆にプリントを配る。
『焼肉会』に参加するか、参加する際にお金を払うか働くかを選ぶようになっている。
お金を払って参加する場合は入金が確認されてから参加名簿に記入。働く場合は連絡先や住所も一緒に記入、その後に鷹田が紹介してくれる仕事をして賃金を入金して参加名簿に記入される。その際に余剰の賃金は本人のお金となる事も記されている。
「うわ……思ったよりガチな事になってるじゃねえか……」
「灰野先生の為なら俺、これくらい朝飯前ですよ」
「ノンノンとマイナスのおかげだろー! 調子に乗るなー! 馬園ー!」
「えー!! 俺だってがんばってるもん!!」
今日も学校は楽しいなぁ。
――
「ノンノン、バイトってどんな事するの?」
「え、えっと……マイナスくんわかる……?」
「引っ越しのバイトだったら荷物運んでたなぁ……あとは掃除したり? 聞いただけだけども配達の仕事とかもあるらしいよ」
「ノンノーン! バイトってふたりとかでも応募できるー?」
「え、えっと……マイナスくん……」
「俺は鷹田と一緒にバイトしてたから、できるみたい? 一人でバイトに行くのも見たからバイト先によるのかなぁ」
次々と波多野さんに質問が来る。けどもたまたま俺が知ってる事だから代わりに答えられている。
興味はあるけども不安って感じる人は多い。
「最初は緊張するけども、わからないことがあった時には聞いて大丈夫だよ。怖い人もいるけど怖い人ばっかりじゃないよ」
俺もそこまでバイトをたくさんしたわけじゃないけども、思ったことを素直に話していく。
「へーバイトやってみようかなぁ」
「体験って思えば更に良さげそう」
「焼肉目的でもコスパ良い感じかなぁ」
「みんながやるならやるかなぁ」
クラスの皆でヤキニクできるのも楽しみだけど、一緒にバイトできたりしたらそれも楽しいだろうなぁ……
「あのー、打ち上げ会長の俺に質問はありませんかー」
「馬園に聞いても『知らないから聞いてくる』ばっかりじゃん」
「えーん! 会長なのにー!! もっと頼ってよー!!」
「あ……頼み事なら……お願いしても良い……?」
「ノンノーン! 俺、会長だから何でもするよ!」
「皆からのプリント……内容をデータベースにあげたいから……登録する作業を……」
「えっ! 事務作業って事!?」
「あ、えと、フォーマットは出来てるから、入力するだけで……」
「なんかもっとクリエイティブで独創的なそういう仕事を俺に――」
「何でもするって言っただろ馬園ー! おらー!」
「ヒーン! 何でもします何でもしますーー!!」
「あ、ありがとう……」
馬園を見て、波多野さんも笑っている。なんだか嬉しいなぁ。
――
「呼び出してしまってすまないね」
「いえいえ! 原田先生の方から声をかけてくれるなんてありがたいッスよー!」
「俺もありがたく思っています……」
数学の原田先生に呼び出されて、森夜先輩と俺は空いてる教室にやってきた。
「私も含めて出来る事を纏めてきたけども……相談した後から何か変わった事はあるかな」
「はい! 色々ありました!」
なんだかんだと原田先生に起こった事を話す。喫茶店のマスターに仕事をしてみるのを勧められた事や、取材の話がある事も色々。
「なるほど、私の思った以上に様々な事をしているんだね」
「相談する時、色んな人に相談した方が良いと思っていて……!」
「森夜くんはそれについて、思った事はあるかな?」
「あ、はい。思った事はメモしておけって話だったんで、書いてみてます」
「よかったら見せてもらうか、あるいは聞かせてもらってもいいかな?」
「えっと……はい」
森夜先輩は手帳を見せてくれる。
///
●黒間について
最近上手く話ができない。前はどんな話をしていた?→愚痴だった気がする。
俺たちは友達だったのか、たぶん前は違かったのかもしれない。今は友達になりたい。
黒間は優しくされると不安になるんだと思う。俺も優しくされると罠だと思っていたから。
・働く事について
黒間ができるか不安。俺は何か手伝えるか?そもそも俺も働くの不安。
だけど、手伝ってくれると言ってもらえて嬉しかった。やってみたいと思った。
・取材の事
黒間が好きな歌がない事に驚いた。カラオケで歌った事がある曲は好きな曲じゃなかったのか?
将来を聞かれた時、黒間がキレ始めたのは驚いた。黒間の話を遮らないように黙っていたけども、前の俺だったら黒間の話の続きを勝手に喋ってたと思う。
大神さんが知りたいって言ってくれた。俺も知りたいって思った。黒間の事を俺は全然知らない。
働いたり取材を受ける事で新しい何かに触れる→良いきっかけになると思う。
///
もっと詳細に書いてあるけども、纏められた内容はこんな感じだった。
「よく書いてあるね」
「本当はもっと伝えたい事はあるんですけども……なんか上手く書けなくて」
「私の用意してきた物も君に渡しておこう」
そうして原田先生はクリアファイルをくれる。中には色んなリーフレットやパンフレットが入っている。また、手書きで纏められた連絡先一覧なんかもあった。
「あ……えっとこれは……」
「行政民間問わず、相談に乗ってくれる機関の資料だね」
「わー……! 相談できる所ってこんなにあるんですね!」
「私も専門家ではないから、紹介するだけになってしまうんだけどね」
「……その、何かしてもらえたりってできない……ですよね」
森夜先輩が小さく呟く。
「おや……君はどうなったら良いと思っていたのかな」
「あ、いや……声をかけてくれて良い感じの所に連れてってくれる……みたいな感じですか?」
「なるほど……」
原田先生は少し考える。
「まず、残酷な話だけども、誰かしらが抱えている問題を他人が代わりに解決する事はできないと知ってほしい」
「えっ、いや、それだと相談しても無駄って話ですか」
「それは違う。本人の問題は本人しか解決できないけども、他人はその取り組みを手伝う事はできる」
「……そうですけども、だから俺は黒間を手伝いたいし、誰かにも手伝ってほしいし……」
「だが、君も私も、誰であろうと彼の問題を代わりに解決してはならない」
――どうして?
俺たちの疑問に答えるかのように、原田先生は続ける。
「彼自身は自らの事を問題に思っているのかな?」
「それは……その……」
「問題が無ければそもそも解く事ができない。あるいは、問題に気が付かなければ解く事はできない。だから、問題を見つける事も、その問題に取り組む事も、人として成長するために必要な問題だよ」
「……じゃあ、俺たちって何ができるんですか……?」
「彼が問題に気が付けるように支援する事、彼が問題に気が付いた時に支援をする事だね」
「……なるほど」
「少なくとも、彼が苦しい日々を送っていると私も思う。だけど彼がそれを問題だと思わなければ解決はできない。それを他人が無理やり解決するのは成長を奪う事になってしまう。だから、手伝う事しかできないんだよ」
「そっか……」
……なんとなく、原田先生の話を聞いて、俺が黒間先輩にどうなって欲しいのかもわかったような気がする。
「黒間先輩が黒間先輩自身で何かしたいって思えるようになってもらえたらいいなぁって俺、思いました……!」
「そうだね。その為に色んな人に会ったり、色んな場所に行ったりしてごらん」
「……わかりました。俺、やってみます」
「俺も手伝わせてくださいね! 森夜先輩!」
「ああ……手伝ってくれな。マイナス」
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