仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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88・推し活2

 ~~

 

「そういえば……灰野先生は焼肉会に行きますよね……?」

 放課後にふと聞いてみる。

「タダで飲み食いすんのは悪くねえよなー」

 言う事は酷いけども、それにしてもなんだかテンションが低いなぁって思う。

 もっと嬉しそうにしててもいいのになぁって私は思っちゃうんだ。

 

「馬園くんがダメですか……?」

 徹底的に灰野先生は馬園くんの事を嫌ってるみたいだし、それが原因なのかなぁ……

「言う事いちいち変に気取ろうとして滑ってるししヒヨりまくるしすぐ調子に乗るし他人に頼ってばっかりでかといって安全地帯からじゃないと知らない奴に声かけられないアホだって思うけども別にダメじゃないぜ。

 人間にカウントにしてないからセーフ」

 

 馬園くんかわいそう……

 

「……でも、ちゃんと見てるんですね……」

 かわいそうだなぁって思うけども、ちゃんと馬園くんを見てないとわからない事を言ってるから不思議だなぁって思う。

「意外ってか?」

「あ……えと……」

「なんだかんだ私は人を見るのが好きでよー、特にオケとかは一丸になるの大事だろ?

 ある意味職業病なんだよな」

「へぇ……」

 

 そういえば吹奏楽部でも灰野先生の事でなんだか大変だったみたいな話、聞いたなぁ……

 

「お前もマイナとはどうなの? たぶん、恋人にはならねえんだろうけどよー」

「なななにを言ってるんですか……! そうですよ! 恋人とかじゃなくて推しですから……!!」

「一線引きたいのはわかるけどよー、学生のうちは気軽にくっつけばいいだろー」

「ダメですから……ダメですから……!! ダメです……!」

 

 自信も無いし、迷惑かけそうだし、それに今でも十分幸せだし、これ以上なんて別に必要ないし……!!

 

「ま、悪い癖でついついこんな風に口出ししたくなるんだよなぁ」

「こ、困ります……困りますね……」

「だからよー、クラスの奴らと仲良くなったら悪い癖出しそうでよー」

「……そうなんですね……えっ?」

 

「それってつまり、灰野先生はみんなと仲良くなるのが怖いって事ですか……?」

「……波多野、お前それ表で言ったらお前でも怒るからな?」

 

 この反応は図星っていう事だ……!!

 

 

 ――

 

 

 灰野先生と話した後に家まで帰る……その途中で私はいつもの本屋さんに寄る。

 ネットで調べるのもいいんだけど、本はメモをしたりすぐに開く事ができるからちょくちょく買っている。

 今日はネットで見かけた良さそうな本を買う予定だけど、並べられている本をザーッと眺めるのもなんだかんだ楽しい。

 

「力持ちで頼りになるねぇ」

 その声がした方に目を向けると、いつもの店員さんとおそらく新人のバイトさんが見える。

「わからない事ばかりだろうから、いつでも声をかけてねぇ」

 優しく声をかける店員さんと、慣れない様子でたどたどしい返事をする新人さん。

 

 バイトする先が全部こうだったら安心なんだけどなぁ……

 理不尽に怒られたらイヤだなとか、苦手な人と会ったらどうしようとか、失敗したらどうしようとか……

 私は上手くできる自信が無くて、バイトはしないつもりだった。けど、誘われたのもあって今は興味が湧いている。

 

 と、ぼうっと眺め続けるわけにはいかない……お目当ての本を持ってレジへと向かう。

 店員さんが見守る横で、新人さんがレジに挑戦するようだ。

 

「あ、えと……」

「だ、大丈夫ですよ。ゆっくりで……」

 

 困ったような様子の新人さんに、店員さんがゆっくりとレクチャーする。

 私は急いでるわけでは無いから、のんびりと眺めながら待っている。

 

 ――あれ? この新人さん、なんだか覚えがある……?

 交友関係の狭い私だから、面識のある人ではないのかもしれない……もしかしたら高校の誰かかなぁ?

 

「あ、ありがとうございます……」

「あ、はい……ありがとうございます」

 

 支払いを済ませて本を受け取る。体は大きい人だけど、緊張していたのか小さい声だった。

 レジを離れた後に振り返ると、店員さんはよくできたって新人さんを褒めていた。

 

 ――そっか、最初はそれくらいで良いんだなぁ。

 

 もしかしたら私が仕事する人に求めているものが知らないうちに高過ぎたのかも。

 大きい声でちゃんと返事したり、スムーズにレジをこなしたり、わからない事が無いように、って。

 

 ちょっとだけ、気持ちが軽くなったかもしれない。

 

 

 ――

 

 

「あれ?マイナスくん? 何してるの?」

「あっ!? 波多野さん!? あっ、いや……その……!」

 

 本屋を出るとマイナスくんがいる。今日は真っすぐに家に帰る日だったはずなんだけども、どうしたんだろう?

 

「迷子になった……?」

「えっとー……半分そうかも」

「じゃあ案内……しよっか?」

「あ、ありがとう……!」

 

 急に会えてなんだか嬉しいのと、こんな所でどうしたんだろうって気になるのがすごい混ざる。

 歩きながら聞いてみようかなぁ……そう思いながら駅の方へと向き直る。

 

「この辺りってマイナスくん、用事があるの……?」

「ううん、その……本屋さんで先輩たちがバイトを始めてさ。どうしてるかなぁって……」

「え、ええー……? 先輩たちってその……軽音部の?」

「うん。それでコッソリ様子を見に来てみたんだ」

「そうなんだ……」

 

 ……マイナくん、コッソリできてなかったなぁ。

 

「今日はレッスンの日……じゃなかったっけ……?」

「あ、うん。だけど今日は家じゃなくて先生の家に一日お世話になる予定だから、ちょっとだけ時間があるんだ」

「そうなんだね。えっと……じゃあ駅じゃなくて先生のお家に向かったほうが良い?」

「途中でたぶん、目印があるから大丈夫だよ!」

 

 うーん……大丈夫は大丈夫なんだろうけども、心配になっちゃう……

 

「ちゃんと案内するから場所、教えてもらってもいいかな……?」

「え、いいの?」

「うん……時間はあるから大丈夫だよ」

「えっとね、じゃあ……」

 

 そしてマイナくんが住所を教えてくれるのだけども……

 

「……あれ、そこってもしかして……」

「波多野さん知ってる?」

「う、うん……知ってる……」

 

 あのすごい豪華なマンションだって事にすぐ気がついた。

 やっぱりすごいなぁっていうのもあるけども、それよりも……

 

 ――私の家、そこのすぐ近所なんだよね……!!!

 

 え、朝に声かけたら一緒に登校できそう? いやいやそんな急に……というかマイナスくんはバス使ってるし、私は自転車だし……待って!待って! 私の妄想待って!! 夜にいつも勉強会してるでしょ! 一緒に登校とか別に考える必要ないでしょ! 落ち着いて私!待って私!!

 

「――波多野さん?」

「あっ……! い、行こうっか……」

「ちなみに波多野さんの家はどっちの方なんだろ?」

「あ、えと…………お、同じ……」

「同じ???」

 

 同じ方角って誤魔化す?? 同じ場所って話しちゃう?? 

 言ってもいいの? それとも言わないほうがいい??

 変化がない方が安心!! だけども、だけども……!!!

 

「近所……だから、大丈夫……」

 

 ――ああ、言っちゃった……言っちゃった……!!

 いやでも一緒に登校とかは妄想の先の先だから。そうなるとは誰も言っていないから……!!

 

「そっかー、それならよかった! ありがとう!」

 

 ……うん! マイナくんはすごい普通の反応をしてくれていた!

 私の理性がすごい安心する……

 

 そのままマイナくんと歩き始める。

 

「バイトしてた先輩、どうだったかなぁ?」

「えと……色々教えてもらってるみたいで……がんばってたよ」

「それならよかったー! 色々良くなるきっかけになったらいいなぁ」

「うん……そうだね」

 

 そして会話が途切れる……

 

 いや待ってよ私! 喋りたいこといっぱいあるでしょ!?

 でもでも言えない! 感情が溢れすぎて言葉を選べない!!

 モニター越しなら喋れるのに、なんで今は喋れないの!?

 

「そういえば今度、出かけるならどんな所がいいかなぁ?」

「あ、えと……待ってね……」

 うぅ……マイナくんの方から声をかけてくているのに上手く喋れない……気を利かせてくれてるのに……

 

「マイナスくんは行きたい所……ある……?」

「どこでも大丈夫! この間のゲームフェスもすっごい楽しかったからどこでもいいよ!」

「そ、そっか……」

 行きたい場所行きたい場所行きたい場所……私の方こそ割とどこでも良いというか、ライブに行ったりなんならコンクールとか見に行きたいとか色々ある……けどもマイナくんと二人きりとかだと、それはまた違うことになるし……

 

「……あ、夏祭り……」

 不意に目に入った夏祭りの張り紙。定番の定番だし、とりあえずの予定にするなら一番いいかもしれない!?

「夏祭り!いいね! 行こう行こう!」

「予定……いっぱいあるから無理はしないでね……!」

「おう!」

 

 うう……妄想が……妄想が広がりすぎて止まらない……頭の中がいっぱいだよー……

 

「波多野さんの家はどっちの方かなぁ?」

「あ、えっと……あっちの方だね」

「じゃあ、まだまだ一緒だね!」

「う、うん……!」

 そして話は途切れて……黙々と歩いていく。

 

「あ、えっと……マンションはあっちで……私はこっちだから……」

「ここまで来たらわかるかも! 案内してくれてありがとう、波多野さん!」

「ううん……どういたしまして」

 

 それじゃあ、と別れようとする。

 

「あ、よかったら送ろうっか?」

「え、あー……近いから大丈夫……だけど……」

「じゃあ行こうっかー!」

 ああ! また大丈夫のすれ違いだ!!

 まぁいっか……本当に近いし、家の前までマイナくんと歩く。

 

「うん……ここで大丈夫。ありがとうね、マイナスくん」

「案内してくれてありがとうね! じゃあ、また夜に!」

 そうして手を振ってマイナくんと別れる。

 

 ……全然話せなかったなぁ。そう思うとなんだか落ち込んでしまった。

 恋愛関係とかは望んでいない。だから落ち込む必要なんて無い。そのはずなのになんでこんなに落ち込むのかなぁ……

 

 一歩踏み込むと答えが溢れ出てきてしまうから、気持ちに蓋をして家に入る。




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