仮面のロックンローラー   作:黄色ミミズク

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9・相手の確認をしっかりしましたか?

 ただいまーと家に帰り、自室へと向かう。カナと上井先生はレッスンの最中だ。夕食まではまだ時間があるからベースを解く。

 

「いやぁ……今日も本当に色々あったよ……高校生になってから色々あり過ぎだよ……」

 

 中学時代に何も無いわけではなく、そこでしか得られなかった経験はたくさんある。でも、そこでは絶対に得られない経験がドンドン押し寄せてきていて、自分が知っている世界がいかに狭かったかをまざまざと示されてるようだった。付属高校に行っていたらどうなってたんだろう。そんな想像もよぎる。

 

「あ、そうそう、新しく迎えたベースだよ。よろしくね」

 

 ずっと付き添ってくれていたバイオリンにベースを紹介する。

 

「とりあえず弾けるようにしちゃおうね」

 

 色々確認。色々調整。アンプやらにはまだ繋げずに。それからじっくり眺める。

 

「うーん、やっぱりいいね……」

 

 鷹田に教えてもらった曲たちを思い出す。雰囲気だけで弾いてみる。

 

「やっぱりベースは身体にズシンと来ていいんだよなぁ」

 

 ベース、ベースライン。華やかなメロディーを支え、厚みを持たせる縁の下の力持ち。こいつ単体で曲を奏でるのは難しいに違いないが、いなくちゃ寂しすぎる。そんな存在。

 

「でも……余り物みたいに選んでゴメンね」

 

 鷹田がギターをやる。渡辺先輩がドラムを叩いてくれたから。だからベースに。

 

「最悪の馴れ初めだよね。ゴメンね」

 

 

 ……

 

 

 コンコン、とドアを叩かれご飯に呼ばれる。

 

「テルくん、帰るの遅かったわねぇ」

 

 そう声をかけてくれたのはお手伝いの梶原さんだ。

 

「いやぁ……高校の友だちとバッタリ会って……」

「あらあら、カナちゃんからテルくんに友だちができたって聞いたけども、遊ぶ仲に……」

「えへへ……偶々、なんですけどね」

「落ち込んでた頃からすっかり立ち直って私も嬉しいわぁ……お友達はいつ呼ぶ? 張り切って歓迎しちゃうわよぉ」

「と、遠いからなぁ……」

「テルくんの新しいお友だち、見たいわぁ……」

「そ、そういえばカナの友だちって家に遊びにきたりしてますか?」

「ええ、カナちゃんはお友だちが多いからねぇ」

「男の子の友だちは……?」

「あらあら、お兄ちゃんとして心配?」

「いやいやいや……まだ小学生ですよ……?」

「もう〜女の子はいつでも乙女なのよ? いつの間にか彼氏ができちゃうかも」

「じゃあ、まだいない……?」

「たまにカナちゃんのレッスンをこっそり聞きに来てる子がいるわねぇ」

 

 その子きっと宙太くんだ……!

 

「そ、そうなんですか……知りませんでした。どんな子ですか?」

「ふふ、ヒミツ。でも、学校ではカナちゃんに上手く話せなくて悩んでるみたいねぇ。この先どうなるのかしら……」

 

 絶対に宙太くんだ! なんだかんだ俺以外にも相談できそうな人いるじゃん……!!!!

 

「梶原さんはその子にアドバイスとかはしていないんですか?」

「相談された事がないからしてないわねぇ」

 

 なんでーーー!?!?!?

 

「それにねぇ、甘酸っぱいボーイミーツガールに、おばちゃんが水を差すのはどうかと思うし……」

 

 いや! 差して! 水を差してください!! 俺よりよっぽど良いアドバイスできますから!!

 

「俺も梶原さんにその時は相談しようかな……」

「あらあら? あらあら? あらー??」

「あ、な、何でもないです……」

「はぁ……テルくんからそんな言葉が出るなんて……明日はとびっきりを作っちゃおうかしら……」

「いやいや……れ、恋愛くらい……」

 

 恋愛は……全くした事がない……怖がられるのもそうだし、気を使わなくちゃって思って、微妙な空気になりがちなのもあるし、沈黙があると気まず過ぎて……。

 

「楽器が恋人だものねぇ……」

「それは言い過ぎですよー……!」

「私、テルくんを呼ぶ時に機を伺うから全部知ってるのよ?」

「ええー!?」

「ここだ! っていう時にノックしないと気が付かないんだから」

「だ、だから梶原さんのノックには気がつけるんだ……」

「そういう事♪」

 

 全部聞かれてたのかな……と思うと恥ずかしくて悶えるしかない……

 

「お兄ちゃーん!」

 

 と、レッスンを終えたカナの声が響く。

 

「さぁさ、今日もたんと晩御飯、召し上がってねぇ」

 

 

 ――

 

 

 上井先生と梶原さんを見送って二人で晩御飯。

 

「お兄ちゃん、今日は帰るの遅かったね」

 

 俺に対して思うことはカナも梶原さんも一緒……やっぱり女性っていうのはそういう存在なのかも……

 

「あぁ、高校の友だちと会ってね、それで遊んできたんだ」

「お兄ちゃんが……お友だちと……!!」

 

 完全に繰り返してる! ダ・カーポしてる!

 

「お祝いとかは要らないからな……!」

「大丈夫、勝手に祝うから」

「……あ、ところでカナはスマホのアプリは使う?」

「え、使うけど?」

「SNSは?」

「やってない。ママのおねがいだもん」

 

 俺と一緒だった。嬉しい。

 

「じゃあ……このアプリは知ってる?」

「うん。あれ、というかお兄ちゃん、もしかして知らない……?」

「えっ、うん」

「やっぱり、カナはお兄ちゃんが心配だよ……」

「なんで……」

 

 4つ下の妹にあらゆる面で負けてる。相手は小学生なのに。

 

「大丈夫、カナがやってあげるから……お兄ちゃんは私がちゃんと面倒見るから……!!」

 

 

 お兄ちゃんはどっちが上の立場なのかわかんなくなってきて心の底で泣いてます。

 

 

 ――

 

 

 俺の部屋でカナと一緒にアプリの設定をする。

 

「そういう訳で連絡先交換してて、相手もアプリ入れてれば勝手に友だちとして追加されてるから安心してね」

「うん! じゃあメッセージ送ってみるぞ……!」

 

『マイナスだよ! ビデオ通話しよう!』

 

「お兄ちゃんの渾名(あだな)、マイナスなんだ……?」

「マイナッス、って名乗ったらさ……」

渾名(あだな)付けてもらえてカナは嬉しいよ……!」

 

 どうしてカナはすぐにしみじみするんだ……。と、ピコンとメッセージが返ってくる。

 

『いいですよ』

 

 あれ? 鷹田ってメッセージだとこうなるんだ……? そう思いながら通話ボタンを押す。

 

「お兄ちゃんの友だち、どんな人か楽しみ……」

「普通に入ってこようとしないでよー……まぁいいけど」

 

 通話が取られて画面には鷹田……ではなくて――

 

「あ、こ、こんばんは……何か……連絡……ですか……?」

 

 映ったのは波多野さんだった。私服を着ていて、それだけで学校とは雰囲気が違う。

 

「あ、あれ……? 波多野……さん……?」

「こんばんは! 妹のカナです!」

「わ……は、はじめまして、カナ……ちゃん……?」

「あ、ご、ごめん、か、かけ間違えちゃった……!」

「あっ、間違え…………? あっ……です、よね……」

 

 あっ、あっ……! な、なんだかすごい罪悪感……!

 

「待って!! お兄ちゃん! せっかくだし話しちゃおうよ! 名前は波多野さんっていうの!?」

 

 カナ、それはお兄ちゃんへのフォロー? それとも首を突っ込みたいだけ?

 

「あ、は、はい……波多野……って言います。よ、よろしくね……?」

「よろしく! お兄ちゃんとはどんな仲?」

 

 どうしてこんなにグイグイ行けるのー!? というか波多野さんも勢いに押されて敬語使っちゃってるよ!!

 

「えと……同じクラス委員で……」

「そうなんだ!? 波多野さんが連絡先くれたの!?」

「あ、いえ……マイナスくんが……」

 

 カナが肘でぐりぐりしてくる。

 

「やるじゃん……」

 

 鷹田も言ってたよ……

 

「あ……。あの、今って、マイナスくんの部屋……?」

「え、ああ、うん……?」

「その……後ろに映ってるそれ……」

「ん……?」

 

 カナと俺で振り返る。棚に収められたコンクールで貰ったいくつもの楯が並んでいた。

 

「マイナスくんの……?」

「あ、う、うん」

「す、すごいね……」

「あ、ありがとう……!」

 

 ……褒められて、嬉しいけど照れちゃう……!

 

「お兄ちゃんはね、小さい頃からピアノにバイオリン、他にも色々やっててね! もうすっごいんだよ!」

「そ、そうなんだ……」

「将来はたぶん、パパのオーケストラに入ると思うの! でもね、今はロックがやりたいって音大付属高校って所じゃなくて、今の高校に入ったんだよ!」

「待って待ってカナ待って……恥ずかしい……それ以上はダメ……照れちゃうからダメ……」

 

 必要以上に自分を卑下するつもりは無いけども、それでも俺よりもっとすごい人がたくさんいる。だから、まだまだ未熟な自分にそこまで言われるとやっぱり照れちゃう……恥ずかしくなっちゃう……。波多野さんにどう見られてるんだろう……

 

「……あ、あの……」

「あ、な、なんだろ……?」

「えと、ビデオ通話するのって……他の人とは……」

「あ、初めて……だよ。ゴ、ゴメンね。迷惑かけて……」

「あ、ううん……その……えと……」

「……?」

 

 波多野さんが言葉を選んでいるように見えて、何を言うのか、俺たちは待った。

 

「その……部屋は、見せない方が良いと思う……の……」

「へっ?」

「あ、ご、ごめんなさい……その、すごく……思ってた以上に……マイナスくん……あの……」

「あ、う、うん……」

「……すごいお家……だよね……?」

 

 ……そういえば、近藤さんの言ってた事も思い出す。

 

「えと……」

「あ、ご、ごめんね……その……えと……」

 

 微妙な沈黙……

 

「どういうことなのー?」

 

 カナがどうにかしようと喋ってくれる。ありがとう。本当にありがとう。

 

「その……マイナスくん、断れない人だと思うから……でも、お金とかで……トラブル……あると怖い……よねって……」

「あ、ああ……」

 

 なんだろう……波多野さんは昔にそういうのがあったのかな……

 

「できたら……お家の事……学校では絶対に……秘密にした方が良いと思う……の……」

「う、うん……わかった」

「は、初めてなのに、こんな話で……ゴ、ゴメンね……」

 

 カナはよくわかんないといった様子でわかったーと返す。

 

「背景の設定とかは……わかる……?」

「あ、えと……」

「カナわかるから、ちょっと貸して!」

 

 カナが触ると背景が変わる。なんだかファンシーで可愛いものになった。

 

「う、うん。それで……大丈夫」

「波多野さんも背景使ってるの……?」

「あ、うん……これは背景」

 

 背景は白になっていて、広い部屋なんだなって思ってた……。

 

「あ、あの……」

「あ……は、はい……」

「教えてくれて、ありがとう」

「あ、ううん……」

 

 目を逸らしながら波多野さんは言う。

 そしてそれからすごく微妙な沈黙……

 

 「「あ、あの」」

 「「あっ、どうぞ……」」

 「「……」」

 

 ヤバいよ。ヤバい。気まずい。気まず過ぎる。どうしたらいいの? カナは横でニヤニヤしてるだけで助けてくれない、なんで?? さっきはグイグイきたじゃん!!

 

「……月曜日に、また、学校で……ね……」

「あ……うん」

「……またね」

「あ、つ、通話ありがとう……また、よかったら……」

「あ……う、うん……」

「じゃ、じゃあね!」

「じゃ、じゃあね……」

 

 ……通話が終了する。

 

「カナね、今ね、もう、すごく嬉しいよ……」

「なんで!?!? めちゃくちゃ気まずくなかった!?」

「初めてのお話……だもんね……でも、またねって言ったし、言ってくれたし……」

「いや、だって同じクラス委員だし……」

「これから練習していこうね……」

「どういうこと!?!?」

 

 

 この後、改めて鷹田にメッセージを送ったら忙しいからまた今度と返された。




 楽器を触った経験はあるのですが、その中で私はベースラインが好きになっちゃいました。
 弾けないけどもベース好きです。

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