風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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時系列は『風都探偵』9巻より前を想定しています。


CASE of S・s
前章「墓標に刻まれたS/骨抜きの骸骨」


 俺の名前は(ひだり)翔太郎(しょうたろう)

 風都にある鳴海(なるみ)探偵事務所でいくつもの事件を解決し、街の人々の涙を(ぬぐ)ってきたハァードボイルドな私立探偵だ。

 これまで難事件にはいくつも(たずさ)わってきたが……今日もまた難解な事件が舞い込んできた。

 

「はい! それじゃあ何年ぶりかの、鳴海探偵事務所大掃除開始ぃー‼」

 ウチの所長様・鳴海亜樹子(あきこ)がデカい声でそれを宣言した。

 そう。年末年始を間近に控え、鳴海探偵事務所では久しぶりの大掃除が行われることになった。

「おーう……」

 俺たち事務所員は力なく腕を挙げる。

「……気合い入れんかーい!」

 パコン!

 頭をスリッパで(はた)かれた。

「あいたっ⁉ なんで俺だけなんだよっ!」

 こいつは気に食わないことがあると、いつも文字を書いたスリッパで叩いてきやがる。

 また、これが地味に痛い。

「翔太郎君とフィリップ君が、際限(さいげん)なくハードボイルド小説やら健康器具やらなんやら買いまくるから、もう事務所に物の置き場がないんじゃ!」

 物が乱雑した事務所を指す。

「うっ……」

 それをつっこまれたら、反論のしようがない。

断捨離(だんしゃり)よ! 断捨離! いらんもんは全部捨てる! いいわね⁉」

「ぼくは構わない」

 俺の相棒・フィリップがそう言う。

「おまえは興味がなくなれば、それでいいんだろうけどよぉ……」

 相棒は一つのことに興味を持つとなんでもかんでも買う悪癖(あくへき)がある。

 俺? 俺は人生の教科書であるハードボイルド小説だからいいのさ。

「燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ゴミ。その他諸々(もろもろ)、それぞれ分けて入れてねー」

「はーい」

 俺の探偵助手・「ときめ」が元気よく、その小説を容赦なくダンボール箱につっこんだ。

「って、おーい! それ、俺のバイブル!」

「えっ? 埃かぶってるし、読んでないんでしょ?」

 ときめの鋭い指摘にフィリップが笑う。

見栄(みえ)を張って、読めもしない原文版を買うからだよ」

「いや、だから、その……」

 パコン!

「断捨離ぃ‼」

 さらば、俺のバイブルたち……。

 

 ゴミを指定のゴミ袋やダンボール箱に入れ、一階のゴミ置き場と何度か往復した。

 ひと段落ついたところで、亜樹子が俺の事務デスクの裏にある物置き場のダンボールを見ていた。

 たしか……中身は「おやっさん」が関わった事件の資料だったはずだ。

 おやっさんとは師匠である初代所長・鳴海荘吉(そうきち)のことだ。

 俺の中では「男の中の男」。まさにハードボイルドを体現した人だった。

 探偵として街の人間の涙を拭い、そして……人知れず街を守る戦士・スカルとして戦っていた。

 だが俺とフィリップが出会った、始まりの夜(ビギンズナイト)の日。

 まだ探偵助手で半人前だった俺は勝手な行動をして……おやっさんは命を落とした。

 それは俺の「罪」でもある。

「えっ、それも捨てんのか?」

「今はよくても溜めてったら、これも本当に置くところがなくなっちゃうから……」

「……でもよ。おやっさんが関わった事件もあるんだぜ……」

 さすがにきっぱりと捨てるのは抵抗がある。

「文書の保存期限は平均十年だ。そろそろ鳴海荘吉の事件の報告書に関しては期限が切れていくだろう。だが、必要ならば、ぼくが時間があるときに電子データとして保存しておこうか?」

 そう相棒が提案してきた。

「そうしてもらうか……。時代はデジタルだな……」

 手分けしていくつかダンボールを下ろし、中を開ける。

 

 記憶どおり古いファイルが隙間なく詰められていた。

 そこにはそれぞれ、英単語が一文字だけラベル張りされている。

 その中で俺は何気なく目についた「S」のラベルが貼られた中身を見た。

 地球の「記憶」が入った街を泣かせる道具・ガイアメモリ犯罪の資料だとすぐにわかった。

 内容が読めたからじゃない。これに関しては、おやっさんが複数の言語で暗号化して資料を残していたからだ。

 パラパラとページを流す。さすがおやっさんだ。ほとんど何が書いてあるのかわからない。

 だが、ある単語が目に入ったとたん、俺は目を見開いた。

「ん? 『さ、つ、き』……? まさか……」

 この名前に俺は覚えがあった。

「だれ?」

 ときめが覗き込んできて尋ねてきた。

「……おやっさんの昔馴染みだったスナックのママだ……」

 短い間ではあったが……「サツキさん」は事故で両親と死に別れた俺にとっての母親代わりのような人だった。

「でも、俺が中学の時に事故で亡くなった、っておやっさんに……」

 その名前がどうしてガイアメモリ犯罪の資料の中に……。

「くっそ、読めねぇ……!」

 頭から見直すが、(がく)のない俺に読めるはずがない。

「……貸してくれ」

 気を利かせたフィリップが俺からファイルを取ると、さっと流し読みして閉じた。

「読めたか?」

「……待ってくれ、少し『地球(ほし)の本棚』に入る」

 フィリップは愛用の分厚い本を持ってくると手を広げる。

 緑の光に包まれて「検索」に入った。

 

 フィリップの頭の中には「地球(ほし)の本棚」と呼ばれる、地球のすべてと言ってもいいほどの知識が詰まっている。

 それを「本」という形で読み取れるようにしている。

 だが莫大(ばくだい)な知識を抱えているために、そのすべてを読み終えたわけではないらしく、キーワードを打ち込まないと一つに絞り込めない。

 だが、今回はあっさりと絞れたようだった。

 

「この事件のすべてを閲覧した……」

 目を開けたフィリップはどこか寂しそうな表情を浮かべている。

「……どうだった?」

「……まず警告しよう。翔太郎、この事件の概要を聞けば過去からの経験から推測して、君は大きく取り乱すことになると思う。それでも……聞く勇気、あるかな?」

 まさか……。

 その忠告を聞いて、一抹の不安を抱えつつもうなずいた。

「……頼む。聞かせてくれ、相棒」

 俺は知りたかった。真実を。

 サツキさんの身に何があったのか。

 そして、おやっさんが嘘をついてまで俺に何を黙っていたのか。

 フィリップは一呼吸置くと語りはじめる。

 あの、おやっさんでさえ、戦う覚悟を再び揺さぶられることになったという、この事件の話を……。

 

 風都にはかつて気持ちのいい風が吹いていた。

 しかし、今では()にとって風はやんだも同然だった。

 この街に魔性の小箱がばら撒かれてしまったからだ。

 来る日も来る日も、終わりの見えない戦いに……男は疲れを感じていた。

 ある年の梅雨(つゆ)。雨が降る中、傘もささず白いスーツに白い中折れ帽子をかぶった、探偵である男は墓地にいた。

 花束を置いた目の前の墓標には、一人の男の名前が刻まれている。

 ……「ストーン」には悪いことをした。

 ある事件で力を貸してくれたのだが、それが原因で命を落とした。

 あの悲劇は男の「罪」として胸に刻まれている。

『憶病なくらいが丁度良い。長生きできる』

 今思えば、なんて無責任なことを言ったのか。

 男の周りにいる人間は(ことごと)く不幸になる。

 そう思わされた。

 

 ふと、墓地に一組の家族が来ていたことに気づいた。

 見覚えがある。男の依頼人だった奥さんとその息子さんだ。

 少し前にご主人が行方不明になり心配になったと、警察だけではなく素性(すじょう)の知れない男を頼って来た。

「どうも……」

 奥さんに歩み寄って声をかけた。

「……あっ、鳴海さん……こんにちは……」

 傘をさす奥さんの顔は憔悴(しょうすい)しきっていた。

 ご家族が参っていた墓碑を見る。探し人だったご主人の名前が刻まれていた。

 

 ここ最近、風都ではドロドロになった遺体がいくつも見つかっていた。

 噂によれば、まるで何かの動物に消化されたような……とにかく見るにたえないものだったらしい。

 そして、男がご主人を見つけたのは依頼を受けた矢先のことだった。

 他の被害者と同じく全身を溶かされていた。

 報告して泣き崩れる遺族を前にしたとき、男は無力感と失望感と無念の気持ちでいっぱいだった。

 犯人は……まだ見つかっていない。

 たわいもない会話を数度交わしたあと、ふと傍にいた息子さんの手にヒーローものの人形が握られていることに気づいた。

 男はただ励ましたいという、浅はかな考えで声をかけた。

「ヒーローが好きなのか?」

「……だ……」

「……うん?」

「……ヒーローなんて……大嫌いだっ!」

 少年は怒りのままに人形を水に濡れた地面に叩きつける。

 硬い地面にぶつかった人形はバラバラになった。

「パパを助けてくれなかった! ヒーローがいるなら! もっと早く、見つかって……死ななくてすんだんだっ‼」

「!」

 男は涙をこらえてそう叫ぶ少年の姿にショックを受けた。

 ……俺はなんて無力なんだ……。

 少年にかける励ましの言葉すら思いつかなかった。

「なんてこと言うの! すみません、鳴海さん!」

「……こっちこそ、失礼した」

 奥さんが深く謝罪をしてくれたが、男は逃げるようにその場をあとにした。

 ここにいる権利すらないと思ったからだ。

 ……俺がもっと早く見つけていれば、あの家族を泣かせずに済んだ。

 依頼されたときには間に合わなかったのだから仕方がない……そう自分に言い訳をすることもできただろうが、後悔と怒りが男の胸を締めつけた。

 

 男は何かに取り憑かれたように、あらゆる伝手(つて)を頼って死にもの狂いで犯人を探し回った。

 ある晩、男はついに犯人と思われる一人のチンピラを見つけ出し、夕凪町(ゆうなぎちょう)のT字路まで追い詰めた。

 そこに置かれていた工事用の安全柵に吹き飛ぶくらいまでチンピラを殴り飛ばした。

 (はず)みでズボンのポケットから人を怪物に変える魔性の小箱・ガイアメモリが飛び出す。

 チンピラは震えた手で頬を抑えている。

「……追いかけっこはここまでだ……!」

「ひっ……⁉」

 長年愛用する帽子でさえ隠せないほど、男の目に怒りの炎が灯った。

 こいつは気に入らないことがあると、すぐに手が出ることで有名な(ふだ)付きのワルだった。

 だが最近、よく「腹が減った」と言って異常なほどの食欲を見せていると聞いて察しがついた。

 この男もメモリに魅入られた人間だ、と。

 飢えを満たすために人を喰っていた。

 こいつのせいで何人もの街の人間が涙を流した。

 男にとってそれは耐えがたいことだった。

「……なんなんだよっ! あんた、いったいだれなんだよぉ⁉」

「怪物、妖怪、悪魔、死神、戦士、英雄……なんとでも呼べ」

 どれも無理矢理、男にこじつけられる言葉だ。

「……なんにしろ、おまえがその名前を呼ぶことは二度とないが」

 こいつの死は俺より長くなる。

「き、気取ってんじゃねーぞ! おっさん!」

「スネーク!」

 目を血走らせたチンピラが落としたガイアメモリを舌に刺した。

 身体に大量の蛇がまとわりつくと、人と蛇が組み合わさったような醜い姿(ドーパント)になった。

「被害者はひどい死に方だったが……犯人もその通りの性根が腐った奴だったか……」

 これが人類の進化の到達点などと抜かす人間がいるとは、笑わせる。

 だが、おかげで「裏の仕事」がやりやすくなった。

 男に覚悟が宿(やど)る……怪物を倒す(人殺しをする)覚悟が。

「は、はぁ? 何言ってんだおっさん、覚悟しろよ! おめーも丸のみにして溶かしてやるよぉ!」

 蛇人間は顎を二メートル近く開いて、丸呑みにしようと喰らいついてきた。

 その反動でかぶっていた帽子が落ちる。

 

「俺の飯に……ア、アガァ⁉」

 腰にベルト・ロストドライバーを巻いて、L字になるように倒す。

「しかし、ここまで食い意地も汚いとはな……」

 身体に冷えた風がまとわりつきながら、腕と足から血が抜けていく。それに合わせて体温も冷たくなる。

 言葉にするなら骨だけになっているような感覚だ。

 そう。男は「変身するたびに、死んでいる」。

 左手と右足で蛇人間の顎を力まかせにこじ開けた。

「アガガガガアアァァァッ……⁉」

「骨まで食う気か? 腹を壊すぞ」

「スカル!」

 男も怪物(戦士)になった。骸骨男(スカル)に。

「……だが、もう手遅れだがな」

 スカルは片手でベルトからメモリを引き抜くと投げ上げ、生成した銃・スカルマグナムに入れ展開した。

「スカル・マキシマムドライブ!」

「アッ、アァァァァッ……⁉」

 蛇人間の断末魔が聞こえた……T字路に一瞬、光が(またた)いた。

 

 スカルは元の男に戻ると、地面に落ちた帽子のゴミを払う。

「……お気に入りの帽子だ。おまえのよだれでベトベトにならなくて良かった」

 チンピラ「だったもの」に目を向ける。

 その身体は上半分と下半分に分かれていた。

 メモリを使った人間は、人間ではない。倒す(殺す)ことでしか救えない。

 こいつも犯人がわからない変死として片づけられるだろうが……少なくとも蛇人間の件(人間消化事件)に関しては、これ以上の被害が出ることは二度とない。

 静かにその場をあとにした。

 

 男は自分の探偵事務所に戻ってきた。

 ドアを開けようとしたところで、中から騒がしい声が聞こえてくる。

 ったく……。

 あきれつつ開けると事務所では中学生の小僧と、黒髪の長髪の女が騒いでいた。

(しょう)ちゃんはいつも留守番ができて偉いわねー」

「えへへ、そんなことないっすよ~……いてぇ⁉」

 依頼人用のソファーで女に甘やかされていた小僧から、勝手にかぶっていた帽子を取りあげて拳骨(げんこつ)をくれてやった。

「つつっ……! 何すんだよ、おやっさん!」

 小僧が後ろで(わめ)くのを聞き流しながら、帽子をフックまで投げ飛ばす。

 小僧は男を勝手に「おやっさん」と呼び、探偵助手になると言ってつきまとってくる坊主だ。

 知り合ってから、毎日のようにここに来る。

 そのしぶとさとしつこさは探偵なんかじゃなく、もっと違うところで()かせばいいと、いつも思っている。

「おまえこそこんな時間まで何してる。とうに門限は過ぎてるだろうが。さっさと家に帰れ。おばさんが心配する」

「何言ってんだよ、まだ夕方……えっ、マジかよ! もうこんな時間⁉ 早く帰らねーと!」

「翔太郎、もう一つ言っておく。生煮(なまに)えのおまえに帽子はまだ早い。勝手にかぶるな」

「はいはい……。じゃあ、またなサツキさん!」

「バイバイ。翔ちゃん」

 小僧は荷物をまとめるとあわてて事務所を出ていった。

 

 男は事務所奥の事務デスクの椅子に座る。

「……ったく、身体は少しばかりデカくなったが……中身はまだガキのままだな」

 小言を言うと女は微笑んだ。

「いい子じゃない。他人(ひと)のために笑ったり泣いたりできる子よ」

「ここはガキの遊び場じゃねぇ。仕事場だ」

 女は男の昔馴染みのスナック「夜風」のママだ。

 昔はよく日をまたぐまで飲んでいた。かつての相棒と……。

 最近、なぜか事務所に来るようになってからは、いつも小僧と騒いでいる。

「……サツキ。おまえにも言いたいことがある」

「えっ?」

「ガキ相手に色仕掛けするな。教育に悪い」

 胸元を大きく開けた仕事服に苦言を呈する。

「あら、翔ちゃんも、もう中学生。『女』を知ってもいいころよ」

「まだ早え。『何かあった』ときに自分の責任が取れないようなことを(そそのか)すな」

「もう、(そう)ちゃんは相変わらずお堅いのね」

 そう軽口を叩いて、デスクの上に腰を預ける。

「座るな。壊れる」

「ねぇ、荘ちゃん。たまにはウチの店に来てよ」

 女は顔を覗こうとしながら、さり気なく男の手に触れようとした。

 

「! ……触るな」

 とっさに手を引き女から距離をとる。

「えっ?」

「……俺に触ると死ぬぞ」

 男の言葉を聞いて、少し間が開いたあと、女は大口を開けて笑った。

「何それ? 新しい断り文句? マッちゃんが亡くなってから輪にかけて身持ちが堅くなったんじゃない?」

 ……冗談なんかじゃない。

「……もともと、許していたつもりもないがな。俺が妻子持ちなのは知ってるだろ」

 男がそういうと女は飾っていた写真立てを手に取る。

「いまだに信じられないわ。ハードボイルド気取りの探偵に、こんな綺麗な奥さんや可愛い娘さんがいるなんて」

 男は女を見る。不服そうな顔で写真立てをデスクに置いた。

「何よ、その顔。『おまえが言える義理か』って言いたいの?」

 女は若いころ、亭主だった男から暴力を受けて、当時お腹にいた子供を……失った。

 さらに悪いことに、それがきっかけで二度と子供を作れなくなった。

 だから、どこか「家族」に対して羨ましがるところを見せる。

「……早く店に帰れ。サツキ。こっちはもう店仕舞いだ」

「まったく……そんな態度をしてたら、いつか大きな物を失うわよ」

「……いつものお得意の『予言』か?」

 女はよく予知夢を見るらしく、それがかなり当たるらしい。

 帰り支度を整えた女はグレーのキャペリン帽をかぶり(つば)を人差し指でなでた。

「まあね。じゃあまた店をご贔屓(ひいき)に」

 女が去ると騒がしかった事務所に静寂(せいじゃく)が訪れる。耳が痛いくらいだ。

 

 置かれた写真立てを手に取る。唯一残っていた家族で撮った写真。

 男は愛する家族にはもう二度と会うことができない。

 亡くしたからではない。男には「愛する者が触れると爆発する」子蜘蛛が埋め込まれている。

 マツ……。

 闇を抱えていた相棒からの怒りと恨みがつまった置き土産(みやげ)だ。

 男は愛する家族と無理矢理引き裂かれた。

 さらに悪いことに、それからは下手に惚れられるわけにもいかなくなり、簡単に気が許せなくなった。

 どこまでが「愛する」に入るかわからないからだ。

 それもまた男の心に影を落としていた。

『ヒーローなんて大嫌いだ!』

 あの少年の言葉が忘れられない。

「……俺は、なんのために戦っている? 街を救うためか? 人を殺すためか?」

 だれに尋ねるでもないひとりごとだったが、それに返事をしてくれる奴はいなかった。

 

 別の日。報告書をまとめる作業をしていると、また用もなくやってきた二人が騒いでいた。

「はい! 翔ちゃん、これわかる?」

 女が小僧に何かを見せた。

「えっ……あーっ‼ ハガキ抽選のみの期間限定のふうとくんのアクリルキーホルダー‼」

 小僧の目の色が変わり、早口でまくしたてた。

「ためしに送ってみたら当たったの。いる?」

 あの人間風車みたいな奴のどこが良いんだ……?

「ほ、ほし……」

 だが、まさに喉から手が出るほど欲しいらしい。

『翔太郎。探偵をやりたいのなら、少しは我慢ができるようになれ』

「! ……い、いや……それは、サツキさんが当てたもんだ! サツキさんが持っていてくれ……」

 ん?

「えっ、いいの?」

「……いいんだ! 幸運のお守り代わりだと思ってさ! そんなレアなキーホルダーを当てられるなんて、きっとサツキさんを守ってくれるぜ!」

 翔太郎……。

 男はいつもと違う小僧の態度に少し感心した。

「ふふ、ありがとう。翔ちゃん」

「あ、ヤベ。そろそろ帰らないと! じゃあな! おやっさん! サツキさん!」

「もう来るな」

「またね、翔ちゃん」

 小僧が出て行くのを見届けると男は静かに笑った。

「……あいつも少しは自分のことで辛抱ができるようになったみたいだな」

「荘ちゃん。子供に無理な我慢は毒よ」

 男は嬉しかったが、女は不満だったらしい。

「もう中学生だ。いい加減、我慢を知ることも大切だ」

「甘えられるときに甘えさせてあげないと。あんたみたいになっちゃうわよ」

「奇特なことに、あいつは俺みたいになりたいらしい」

「……目標にする相手を絶対に間違えてるわね」

「……店に帰れ。サツキ」

 だが、こんな軽口を言える雰囲気は悪くなかった。

 この環境がある意味、男を支えてくれていたのかも知れない。

 

 ところが、ある梅雨明け後の晴れた日のこと。

 依頼を済ませ事務所に戻ってきた男は中に入ろうとした。

「良い日和だね」

 背後から声をかけられて、何気なく振り返る。

「!」

 その相手を見て、男は身構えた。

「あんたは……」

「お初にお目にかかるかな? 鳴海探偵」

「……園咲(そのざき)琉兵衛(りゅうべえ)……」

 風都を滅茶苦茶にした元凶である組織・ミュージアムの頭目だった。

 初めて会ったがすさまじい威圧感だ。同じ人間とは思えない。

「……なんの用です?」

 平静を(よそお)う男の問いに、老人は得体が知れず、底が見えない、笑みを浮かべている。

「なに、お茶のお誘いだよ。街で名のある探偵を一目見ておきたくてね」

「……いいでしょう。だが、場所はこっちで指定させてもらいたい。でなければ、お断りする」

 相手の屋敷などに連れていかれたら、何をされるかわからない。

 今でさえ老人の周りからはおかしな気配を感じる。もはや殺気に近い。

「構わんよ」

 

 ガタン……ゴトン。

 親子連れで(にぎ)わう、噴水を目印にしたすずかぜ公園。

 そこに設置された自販機から缶コーヒーを二つ取り出す。

 ベンチに座っている老人の横に音を立てて置き、男は老人の座るベンチの背もたれに腰を預けた。

「……これが君流のお茶の誘い方かね?」

 いくらか嫌味がこもった返事が来た。

 男は気にせずプルタブを開けて一口飲む。

「……嫌なら飲まないで結構だ」

「できれば、紅茶が良かったんだがね」

「事務所に来るなら用意しておきますよ……安物で良いのなら」

 嫌味で返すと老人は缶コーヒーを物珍しそうに手に持って開けると、一口飲んだ。

「こういう物は久しぶりだ。ウチの豆に比べれば全然だが……悪くない」

「こっちは貧乏探偵だ。(おご)った分くらいは感謝して味わってもらいたい」

 風都の一般人で名家の園咲家の主人に缶コーヒーを奢った人間など、そういないだろう。

 

 老人は何度か飲んだあとに静かに缶を置いた。

「……文音(ふみね)息災(そくさい)かね?」

 その言葉に男は緊張した。

 (かくま)っていることに勘づいているのか……?

「そうだと思いたいですがね……」

 男は真意を悟られないように……そして、怒りが噴き出しそうになるのを押し殺す。

 

 園咲文音はこの老人の妻だった。そして、男の幼馴染でもある。

 もともとは組織(ミュージアム)の研究員だったが、最愛の息子を組織(ミュージアム)のメモリ製造機として利用し、それに異を唱えるとメモリの力で痛めつけて、最後には捨てた老人を許せず、復讐のためにガイアメモリ絡みの事件に巻き込まれることが多い男を頼って裏で協力体制を築いた。

 今では「シュラウド」とかいう芸名で活動している。

 

「二人きりで話をしたいんだが。少し人が多いな」

「?」

 老人がそう言ったとたん、何か強烈な違和感が身体を抜けたように感じた。

 なんだ今のは……?

「……ぱぱーなんだか、きもちわるい……」

「なんか寒くない……?」

「すごい悪寒が……」

 家族連れが次々と気分が悪いと言って公園から離れていく。

 なんだ……何が起きた?

 気づけば広い公園に老人と二人きりだ。

「うむ。静かになった」

 今のがこの男の力、か……。

 幼馴染から話に聞いていた。「恐怖」を操る、と。

 

 老人はチラリと男を見た。観察されていることにはすぐに気づいた。 

「……弱い相手に力を振りかざすのは、感心しませんね。とくに子供を巻き込むのは」

「不要な犠牲は私とて望むところではないさ。……ところで今の風都をどう思うかね? この発展具合を」

 老人は遠くに立つ街のシンボル・風都タワーに両手を挙げながら嬉しそうに言った。

「昔のほうがいい。今の街は気持ち悪い風にまとわりつかれている」

 だから、本心で返す。

「ビルが溶け、人が死ぬ。この街では良くあることになった。……まあ、我々の『仕事』のせいだがね」

 その一言で溜まっていた男の中の何かが爆発した。

 素早くベルトを巻き、倒す。

「スカル!」

 スカルは銃を老人の後頭部に突きつける。

「……その『仕事』は、おまえを殺せば。すべて終わるのか?」

 こいつだ。こいつのせいで街が泣いている。

 ここで引き金を引けば、すべてが解決するだろう。

「その銃で私を殺す気かね?」

 さすが名家の当主様だ。肝が()わっている。

「今なら『風都の名家の長を骸骨男が殺した』。それで済む。おまえが言ったとおり、この街では当たり前に人が死ぬからな」

「身のほどを(わきま)えたほうがいい。君は恐怖の帝王の前にいるのだよ」

「名家でいることにも飽きたらず、今度は王様気取りか。おまえの名前は世紀の悪党として墓標に刻んでおいてやる」

「骸骨男の分際で、大きな口を叩くじゃないか」

「この街はおまえたち(園咲家)だけの街じゃない。この街に住む全員のものだ。それを忘れるな」

 かつてドーパント相手に放った小僧受け売りの啖呵(たんか)を老人にぶつける。

「ならば我々(園咲家)がこの街を支配していることも忘れないことだ」

 辺り一帯からさっきの比ではないほどの殺気を感じた。

 おそらく老人を殺せば……男も死ぬだろう。

「それでも撃つ、覚悟があるのかね?」

 男に迷いが(しょう)じる。

 本能が「殺せ」と言う。理性が「やめろ」と言う。

「……ことを急ぐと元も子もなくすぞ……探偵」

『いつか大きな物を失うわよ』

 ……これ以上、街のだれかが苦しむくらいなら俺の命などくれてやる。これで終わりだ。

 スカルが引き金を引こうとした。

「お父様ー……!」

「どちらですのー!」

「!」

 風に乗って、少女たちの声が耳に聞こえてきた。こっちに近づいてくる。

『お父ちゃん!』

 亜樹子……。

 頭に笑顔の娘の顔が浮かんだ。

 すぐにベルトからメモリを抜いた。「生者(人間)」に戻る。

「……失礼する……」

 帽子を整えると、その場をあとにした。

 

「……互いに街に救われたか。しかし、文音が選んだ相手だが。思ったより骨のない男だな……」

 どこか落胆したような老人の手にはメモリがあり、腰に巻かれたベルトに刺さりかけていた。

「お父様、ここにいらっしゃったの?」

「探したんですのよ」

 少し息を切らした二人の娘が老人を囲む。

 老人はメモリを服に戻すと父親としての笑顔を見せる。

「あぁ、冴子(さえこ)若菜(わかな)。すまないな」

「今の方はどなたですの?」

「なに、新しい友人だよ。骨太で……少々、厄介な男だがね……」

 凍てつくような鋭い目つきで男の後ろ姿を見ながら、横に置いた缶コーヒーを手に取り味わっていた。

 

 事務所に戻ってくると、中にはもちろんだれもいない。

 騒がしかった状況に慣れ過ぎていた男には静かすぎるように感じた。

 すると併設されたガレージから物音がした。

 男はドアを開ける。ドアの向こうのだだっ広い空間には基地があり、螺旋階段を下りていく。

 中央には骸骨の頭が付いた、六輪のフォーミュラカーのようなデカいマシンが駐車してある。

 その隅で真夏にも関わらず、黒いロングコートを着込み、全身を包帯、帽子、サングラス、手袋で覆った幼馴染がテーブルに向かいながら「内職」に励んでいた。

「何か用?」

「……文音。園咲琉兵衛に会った」

「なんですって⁉」

 驚きの声をあげて幼馴染は立ちあがるなり男に詰め寄る。

 身体をジロジロと見てきた。

「たしかにこの感覚……テラーの力に間違いないわ。生きて帰れたのね」

「なんとかな」

「やはり私の目は間違いじゃなかったわ」

 納得したようにうなずく幼馴染。

「……奴の頭に銃を突きつけてやった」

「殺せたの⁉」

「……やろうと、思えば」

「どうしてやらなかったの⁉」

 さっきまでの称賛の言葉が、批難(ひなん)に変わった。

「撃つ覚悟がなかった」

「二度とあるかわからないチャンスだったのよ!」

「……娘たちの前でか?」

「! ……それでも……!」

 幼馴染は言い淀むと椅子に座った。

「おまえは『家族』を奪われた。だからと言って、『家族』の親を奪っていいのか? 俺にはもう、よくわからん……」

 男は手を見る。血濡られた手だ。

 これまで何人もの怪物になった人間を手にかけてきた……長年の相棒でさえ。

「俺も家族を失い。友達も減った……。俺の周りの人間は皆、不幸になっていく……」

「……その覚悟があったんじゃなかったの?」

「おまえは俺には心がないと思っているのかもしれんが……俺も一人の人間だ。文音。割り切れないときがある……」

「荘吉……」

化け物(スカル)でも人でなし(鳴海荘吉)でも、骨抜きになるらしい……」

 自嘲しながら帽子を深くかぶると階段を上がって事務所に戻った。

 

「……ちゃん。荘ちゃん。ちょっと聞いてるの?」

「……あっ、ああ」

 女の声でふと我に帰る。

「そろそろ休んだほうがいいんじゃない?」

「いきなりなんだ……?」

「『なんだ』って。さっきから話しかけても、ずっと(うわ)の空だし。顔色も悪いわよ。骸骨みたい。淹れてくれたコーヒーもいつにも増してまずいし」

「悪かったな……」

 すっかり夏になったころ、また用もなくやってきた女が無遠慮にそう言った。

「……この暑さだ。俺だって疲れるときもある」

「だからこそ休んだほうが良いって言ったの」

「依頼は待ってくれない」

 デスクに置いた依頼書を指で叩く。

「もう……頑固ね……」

 均衡(きんこう)状態が続くかと思われたそのとき。

「こんちわー! おやっさん! 聞いたかよ、この辺りで陥没……あっ!」

 同じく用事もないだろうに小僧がやってきた。

「あら、翔ちゃん。いらっしゃい」

「サツキさん! こんちわ!」

 嬉しそうに椅子に座る。

「……おい、まだ昼だぞ。学校は?」

「何言ってんだよ、おやっさん。今日は終業式だぜ? 明日からは夏休みだ!」

「もうそんな時期なのね……懐かしいわ。大人になると夏休みなんてないから」

 女は「あっ」という顔で男を見る。

「……なんだ?」

「そうだ! せっかくだし皆で『あそこ』に行きましょうよ」

「おい、サツキ……!」

 余計なことを言うな、と言いたかったが。

「えっ、なになに? どこ行くんだ?」

 やっぱり食いついてきやがった……。

「荘ちゃんはね、風吹(かざふき)山に別荘を持ってるのよ」

「別荘⁉ マジで⁉」

 余計なことを……。

「……こじんまりとした、ロッジみたいなもんだ」

「行ってみたい!」

「でしょ? 森に囲まれた静かな所よ。ねぇ、荘ちゃん。せっかくの機会なんだし、休暇取らない?」

「行こうぜ、おやっさん!」

 小僧と女のすがるような目線から目をそらし、ため息を吐いた。

「……おばさんの許可を貰ってからだ」

「やったぁ! すぐ聞いてくる!」

 小僧は浮足立ちながら事務所を出ていった。

「おい! ったく、今日行くとも言ってねぇだろうが……」

「ふふ、私の店も臨時休業ね。日付決まったら教えて」

「……おまえも来るのか?」

「『母親』がついて行くのは当たり前でしょ? 『お父さん』」

 事もなげに言う女に男は頭を抱えた。

「だれがお父さんだ……」

 

 数日後、なんとか都合をつけた男たちは別荘についた。

「わぁー! ここがおやっさんの別荘かー!」

「久しぶりね。ここに来るのも」

「暴れて物を壊したりするなよ」

「わかってまーす! 荷物どこに置けばいい?」

「二階に寝室がある。そこにでも置いておけ」

「りょうかーい! あっ、サツキさん荷物持つよ!」

「あら、良いの? ありがとう」

 女からかぶっていた帽子と荷物を取った小僧は二階に意気揚々と登っていく。

「ホントいい子ね」

 女はその後ろ姿を微笑みながら見ている。

「ここで過ごすんだー……うわあああっ⁉」

 小僧の絶叫が響いた。

「やかましい奴だ……」

「ど、どうかしたの?」

「ク……ク、マッ! が……!」

「クマ⁉」

「……落ちてた木彫りのクマがこっち見てた……」

「!」

 それを聞いて急いで二階に上がる。

「大丈夫?」

「あぁ、大丈夫……。にしても、おやっさん、こんなのが趣味……あっ」

 小僧が手に取ろうとするよりも先に取る。

「……大事なもんだ。触るな」

「へ、へーい……」

 しょぼくれた小僧は荷物を置くと、下に降りていった。

 棚に置き直すと男も降りる。

「ちょっと、荘ちゃん。今のは言い方キツかったんじゃない?」

 女が苦言を呈してきた。

 男は小僧に聞こえないようにわけを言った。

「……あれは『サム』への手土産だ」

「! そう……」

 女はそれで引いてくれた。

 サムは男の親友のあだ名だ。

 今は奴の弟分とその妻が起こした事件の罪をかぶって警察に出頭し、懲役十年の実刑判決を受けた。

 あの木彫りのクマは奴への出所祝いだ。男からの大切な「メッセージ」が入っている。

 

 それから数日間、男たちは別荘で久しぶりの休暇を騒がしく過ごした。

 いくらか(すさ)んでいた男にとって、この騒がしさは悪くなかったというのが本音だ。

 最後の日の夜、テラスでたそがれていると隣に女が来た。

「翔ちゃん、寝ちゃったわ。楽しかったわね」

「……過ぎてみれば。あっという間だったな」

 横を見ると女が物憂(ものう)げな顔をしていることに気づいた。

「……何かあったのか?」

「さすが、荘ちゃんね……。お見通し?」

「やけにしおらしかったら、嫌でもわかるさ」

「失礼ね……」と言いつつ夜空に目を向ける。

「……荘ちゃん、私、街を出ることにしたの」

「……そうか」

「最近、嫌な夢ばっかり見てね……。私が死ぬ夢……荘ちゃんと翔ちゃんに看取られながら死んでいくの」

「……夢は夢だと思うが」

「正夢になったら嫌でしょ?」

 冗談めいて言ったが、男には心当たりがありすぎた。

 身を守るためにも街を出る気なのだろう。

「荘ちゃんと翔ちゃんとの付き合い……本当の親子みたいで楽しかったんだけどね……」

 女は本心から言っているように見えた。

「……いつだ?」

「お盆を過ぎたら、店を閉めるわ。それでお別れね」

「また、街から友達が一人減るな……」

「……そうね。今までありがとう。荘ちゃん」

 女が別荘の中に戻っていくのを、黙って見ていることしかできなかった。

 

「……どうかしたのか? 二人とも?」

 小僧が帰りの車内で、男たちのおかしな雰囲気を感じ取ったらしい。

 後ろから顔を出してくる。

「危ないから、座ってろ」

「大丈夫よ。翔ちゃん」

「……なら、いいけど」

 小僧は首を傾げながら席に戻った。

 すると目の前に通行止めに出くわした。なぜか警察車両も見える。

「なんだ? また陥没事故かよ?」

「最近、多いみたいね」

 外を覗いてみるとそこは……。

「墓場か……」

 しかも大部分が崩落していた。

「そろそろ、お盆なのに不吉……」

 嫌な予感を感じつつも大回りして、女の店についた。

「ありがとう」

 女は帽子をかぶり指でなでると車から降りる。

「サツキさん、またなー!」

「……またね」

 男たちに気弱そうに笑って手を振ると、店に入っていった。

「……やっぱりサツキさん、なんかあったのかな……。どう思うおやっさん?」

「翔太郎。そういうことは口には出さずに黙っておくもんだ」

「へーい……」

 

 小僧の家に向かっている途中。

「あっ! ちょっと! おやっさん! ここで停めてくれ!」

「何? おまえの家はもっと向こうだろ」

「頼むって! 友達がいるんだ!」

「ったく……一人で家に帰れるな?」

「当たり前だろ? この街は俺の庭だぜ! 迷わねーよ!」

 仰せのままに車を止めると小僧は荷物を背負って、その友人たちの下へ走っていく。

「おーい! みんなーっ!」

「おっ、翔ちゃん!」

 男はそれを見送りながら、小僧の交友関係に疑問を持った。

 サンタの恰好をした中年に、カメラを首からかけたキノコ頭の青年。果ては幼稚園児か小学生くらいの二人組の少女。

 なんだあの組み合わせは……。

「翔ちゃん! プレゼント、フォー、ユー!」

「いらねーよ、サンタちゃん! またくだらねーもん入ってんだろ?」

「翔ちゃん! 最新式のカメラで撮ったボキの写真どうかな!」

「おっ、ウォッチャマンの新作か! ……うーん。もうちょっとってところじゃねぇかな?」

「翔ちゃーん! あたしたちのアイドルユニット名まだ決まんないのぉー!」

「だーかーら、まだおまえらには早いって」

「こう見えて私たち本気で考えてるんだけど?」

「おまえは相変わらず大人びてるっていうか、可愛くねーな……。あっ」

「……だれが可愛くないって?」

「いや、(ちが)……! 見た目が『可愛くない』じゃなくてぇ……!」

「この、デリカシーなし中学生が!」

「ノッ、ノオォォォッ! 首ノオォォォォーッ!」

 見事なフロントチョークを決められて騒ぐ小僧を周りが止める姿を見て……男は少し羨ましかった。

 あんな風に馬鹿騒ぎできる奴はいなくなった。

「本当に友達が減ったな……」

 一抹の寂しさを覚えながら一人、事務所へと戻った。

 

 それから一カ月ほどが過ぎたある晩。

 一人の男が千鳥足で暗い路地裏に入ってきた。

 目がどこか虚ろで、傍から見れば酔っぱらっているようだ。

 はっ、と目が覚めたように顔をあげた。

「あれぇ……俺なんでこんな所にぃ? 飲み過ぎたかぁ?」

 ボウッ!

「いい身体だ……」

「は? うわああああああっ⁉ 化け物ぉ⁉」

 建物の影で全身が隠れているが、「骸骨」の頭だけが見えた。

 その後ろでゆらりと紫色の炎が灯っている。

「さぞかし『いい骨』が取れそうだ」

 そういって、骸骨は男の頭に骨の手を置いた。

「あっ、あがあああああっ⁉」

 絶叫する男の口の中から小さな骨の人形が出てくる。

「……あひゃ……」

 ドチャッ!

 直後、男の身体がゴムのように潰れる。

 それを尻目に骸骨はその骨人形を愛でるようになでていた。

 

 男の知らぬ間に、風都に新たな脅威が迫っていた。

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