風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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時系列はCASE of S・sの直後です。


CASE of C・c
前章1「街に現れたC/危篤の探偵」


 ぼくの名前はフィリップ。

 風都にある鳴海(なるみ)探偵事務所で私立探偵をしている。

「ぼくたち」は「二人で一人の探偵」なのだが、もう一人はとある事情で外出中だ。

 

「「ただいま」」

 事務所のドアが開き、帰宅の挨拶をして入ってきたのは、黒のジャケットに大きな(つば)付きの帽子をかぶったぼくの相棒・(ひだり)翔太郎(しょうたろう)

 その後ろには、(ふじ)色の長髪、シースルーのキャミソールにローライズジーンズを着こなす彼の助手・「ときめ」もいる。

「おかえりー!」「おかえり」

 ぼくと事務所の所長・鳴海亜樹子(あきこ)が出迎えた。

「どうだった?」

 ぼくの問いに翔太郎はすっきりとした(おも)持ちでうなずく。

「ありがとよ。相棒、ちゃんと別れの挨拶ができたぜ」

「それはよかった」

 つい数時間前。情緒(じょうちょ)豊かな彼にはつらすぎる過去の事件について話をしたばかりだった。

 だが、その様子から過剰に気を使うこともないと思った。

 彼も日々、「大人」になっているのだろう。

「……じゃあ、どうしよう、とりあえず続きやる?」

 亜樹ちゃんが翔太郎を(おもんぱか)ってか遠慮がちに尋ねた。

 ちなみに今は年末の大掃除の真っ最中だ。

 事務所の至る所からゴミと思われる物品をひっぱり出したため、進捗(しんちょく)としては七割ほどが片付いたところか。

「そうだな。明日に回すのも面倒だし、今日の内にやっちまうか!」

「了解!」

 雰囲気を変えるためか意気揚々と声をあげて、再び四人でゴミの分別を再開した。

 

「あれ?」

 九割方を片付けたところでときめが声をあげた。

「どうしたの?」

「……杖だ……」

 手に取った老人用の杖を不思議そうに見ている。

「誰かの忘れ物?」

「……それは……」

 ぼくにはおぼろげに見覚えがあった。

「その杖、どっかで……あっ!」

「俺が使ってた杖だ!」

 亜樹ちゃんが思い出したように声をあげ、翔太郎が懐かしむようにそれをときめから受け取る。

「まだ、あったんだなあ」

「えっ? なんで杖なんか持ってるの?」

「えっ。いや、そのぉ……」

 ときめの問いに翔太郎が言いづらそうにしている。

「翔太郎は一度、ドーパントの能力で老人になってしまったんだ」

 そこでぼくがとある事件の概要を簡潔に説明した。

 ドーパントとは地球の「記憶」が入ったUSB型のデバイス・ガイアメモリを使った人間が変貌した怪人の総称だ。

 翔太郎はその中のオールドの能力で、七十代まで一気に老化してしまったことがあった。

 あのときはぼくたちのもう一つの姿。街を守る戦士・仮面ライダー(ダブル)になるのにさまざまな制限がかかって大変だった。

「えっ、そうなの?」

「あんまり思い出したくねー記憶だけどな……」

 相棒が嫌な記憶に身震いしている。

 たしかに……あのあとはいろいろと大変だったからね……。

 一方でぼくはその杖を見てあることを思い出していた。

 ぼくが街と……家族のために「一人で変身した」ときのことを。

 

 きっかけは仮面ライダーエターナル・大道(だいどう)克己(かつみ)が起こした、大規模ガイアメモリテロ事件を解決し、花火大会を見終えた翌日のことだ。

 早朝。犬の散歩に出ていた男の前に、一人の赤いジャケットを着た青年が立ち塞がる。

千田(ちだ)茂雄(しげお)、だな?」

 不審な表情を浮かべる相手に、風都署超常犯罪捜査課の警視・照井(てるい)(りゅう)が警察手帳を見せた。

 それを見て千田の顔が見る見る内に青ざめていく。

「おまえにガイアメモリ不法所持の容疑で令状が出ている」

 逃げようとする男の後ろを、ツボ押し器を携帯した中年と若手の二人の男が塞いだ。

 彼の部下・刃野(じんの)真倉(まくら)刑事だ。

「話を聞かせてもらうぞ」

「……ちくしょう! こうなったら!」

 千田は犬のリードの手持ち部分のジッパーを開き、中に隠していたグロテスクな装飾が(ほどこ)されたガイアメモリを起動する。

「クレイドール!」

「何?」

 照井竜は驚いた。

 それは風都にガイアメモリを流通させている秘密結社・ミュージアムの幹部が所持しているメモリだったからだ。

 千田は腕に浮かぶ刺青のような生体コネクターにメモリを刺す。

 むっ、と照井竜は身構えた。

「……うっ⁉ うぐっ……ウアァァァッ⁉ アガァッ⁉」

 ところが千田の身に異変が起きた。

 ドーパントにならず、その場で(うずくま)って苦しみはじめたのだ。

「おい! 大丈夫か⁉」

 ただならぬ様子に三人が駆け寄る。

 だが、千田は力の限り苦しみ抜いた末に……息絶えた。

「……またかよ、これで三件目だぞ……」

「気味悪いすね……」

 二人の刑事が不気味そうにつぶやくと、千田の腕から使用者の死亡を認識してメモリが飛び出す。

 照井竜がそれを拾いあげる。

 その拍子にメモリの骨のような装飾が一つポロリと取れた。

 

 そんな異変が起きていた、一方。

 ぼくは事務所に併設された、隠し部屋である薄暗いガレージで作業をしていた。

 傍にはWの巨大装甲車・リボルギャリーが待機している。

 ここが実用面において、ぼくの部屋と言っていい。

 そして、目の前にあるのは普段「ぼくたち」が使用している、Wに変身するためのベルト・ダブルドライバーに似たベルト・ロストドライバーだ。

 両機ともベルト型のガイアメモリ制御装置で、ガイアメモリに内包される記憶のみを人体に発揮し、依存性がある毒素を極限まで排除する機能を持つ。

 違いについて簡単に説明すると、ダブルドライバーは二本のメモリが使用可能で多彩な能力が発揮できる。

 対してロストドライバーは一本しか使えない分、使用したガイアメモリの特性・性能がフルに出力可能だ。

 ある「思い出深い事件」で「シュラウド」こと母・園咲(そのざき)文音(ふみね)から受け取り、ぼくが変身に使用したが力及ばず破損させてしまった。

 

「……ようやく、終わった……」

 だが、今日、ついに修復が完了した。

 一息ついて、ベルトから配線などを取り外してじっくりと眺める。

 これらのベルト類やWやもう一人の仮面ライダー・アクセルの数々の装備を完成させたシュラウドの手腕(しゅわん)はすさまじい。

 文字どおり人生を懸けた結晶であることが、ありありと伝わってくる。

 母と比べればぼくの工学技術は足元にも及ばないが、それでも修復は可能だろうと時間をかけてやっとここまできた。

 それも、ぼくがこれまでの激戦の中で、いずれはこれが必要になる……そんな予感がしていた。

 おそらく適合率が高い黒のガイアメモリ・ジョーカーを使いこなした翔太郎が(おも)に使うことを見越して。

「……あとは動作テストか……」

 どちらが使うにしろ、不完全の状態で渡すわけにはいかないだろう。

 ぼくは立ちあがり、物はためしとベルトを腰に巻こうとした。

 

「ノオォォォォォーッ‼」

 表の事務所にいる翔太郎の絶叫がガレージにまで響く。

「うわっ⁉」

 その声を聞いて、危うく直したばかりのベルトを落としかける。

「な、なんだ……⁉」

 尋常ではない声にあわてて事務所まで駆けあがり、声の主である翔太郎を見る。

「翔太郎! ……どう、したんだい……?」

 そこには脚立に上り、奇妙な態勢で天井を向いて動かずにいる翔太郎がいた。

「……あっ……あっ……」

「……翔太郎? 大丈夫かい……?」

「……こっ……こし……が……」

「『こしが』?」

「……ぎっ、く……りごし……」

「『ぎっくりごし』⁉ ……なんだいそれは?」

 ぎっくりごし。初めて聞く単語だった。

「いまの、おれに、つっこませんなぁぁぁ……!」

 翔太郎は絞り出すような声で叫んだ。

 

「あらま、ギックリ腰」

 事務所に出勤してきた亜樹ちゃんがぼくに朝刊を渡しながら、事情を聞いてひどく気の毒そうな顔を浮かべている。

「検索した。どうやら翔太郎は腰にひどいダメージを負っているようだ」

「んなこと、いわれなくても、わかってるよぉっ……!」

 どうにか脚立から降ろし、事務所奥のベッドに横にした翔太郎が痛みに(もだ)えていた。

 

 話を整理すると、こうだ。

 エターナルの一件で新型ガイアメモリ・T2(ティーツー)が街にばら撒かれた際、翔太郎と適合率が高いジョーカーが事務所の天井を突き破って落ちた。それで雨漏りが発生。

「よぉーし。やるかぁ!」

 それを修繕するために意気軒高(けんこう)として脚立に登る。

 ところが直前にオールドの能力で老化し、その後はエターナル(ひき)いるNEVER(ネバー)たちとの連戦に次ぐ連戦で、翔太郎の身体はすっかり弱っていた。

 道具を片手に天井へ手を伸ばす。

 ピキッ!

「あっ……」

 瞬間、彼の腰にこれまでの戦いの負担が一気に集中したのだ。

「ノオォォォォォーッ‼」

 これが彼が動けなくなったあらましである。

 

「街の真の英雄が、次の日にはギックリ腰とは……なっさけないねぇ……」

 亜樹ちゃんがあきれて肩をすくめる。

「そう言わないでくれたまえよ、亜樹ちゃん。彼は死闘を何度も潜り抜けたんだ。たまには休息も必要さ」

「それなら。……まあ、翔太郎君もツイてないねぇ」

「……ひとごと、だとおもいやがってぇ……!」

「だって他人事だもん」

「亜樹……イデデデデッ!」

 いつものように喧嘩腰になるが、満足には動けないようで動くたびにうめいている。

 ズーのときのような人生最大級の風邪を引いたゾンビ状態よりかはマシに見えたが、顔からは冷や汗が噴き出し、顔色は真っ(さお)だ。

「まあ、じっとしてなさい。じーっとね」

「たしかにひとまずは寝ているしか楽な治療法がないようだ。しばらく安静(あんせい)にしていたまえ」

「あぁぁぁぁ……」

 翔太郎がうめき声を出すのを横目に、ぼくは渡された新聞に目を通す。

 エターナルによって破壊された風都タワーの写真とともに、見出し全面に『仮面ライダー、テロリストから街を救う‼︎』と出ている。

 以前の記事のように疑問符はついていない。

 見間違いようのない街全体を巻き込んだ前代未聞の事態だった。

 住民全員が仮面ライダーの存在を認知したと考えていいだろう。

 我ながら誇らしい気分だ。

 しかし、いつの間に撮ったのか、ぼくたちが万事休すのところで変身した「奇跡の黄金のW」の写真が載っている。

 若干ブレてはいるが……こればかりは撮った人間のプロ根性というのか、感心するばかりだ。

 それにしても、この姿になれたのは、たまたま吹いた風都の風のおかげ……だけではない気がする。

 街の人々の声援。ぼくからすると非科学的だが、それが要因の一つであるような気がしてならない。

 だとするならば、それを力に変えたのは……。

 ぼくは寝込んでいる翔太郎を見る。

 彼の持つ「切り札(ジョーカー)」が窮地(きゅうち)の場面をひっくり返した……。

 そう考えるとWで苦戦したNEVERのドーパントを撃破したことも含めて、すべての辻褄(つじつま)が合う気がした。

 

 プルルルル!

 事務所の固定電話が鳴り、亜樹ちゃんが取る。

「はーい。鳴海探偵事務所です! はい……はい? えっ、『犬探しの件』?」

「あっ……!」

 亜樹ちゃんの受け答えに翔太郎が焦った様子で普段使いの事務デスクを見た。

 見れば迷子になった動物たちの依頼書が十枚近く置かれている。

 ぼくの記憶が正しければ、これらはエターナルの件の前から受けていた案件だったはずだ。

「あっ……はい。今、丁度、捜索中でして……。はい、もう少しお待ちください。失礼します」

 亜樹ちゃんが翔太郎を横目に愛想よく返すと、受話器を置いてため息をつく。

「すっごい心配そうだったよ……」

 昨日の今日だ。心配になるのも無理はない。

「……やべぇ……雨漏り直したら行こうと思ってたんだ……! いっつぅ⁉」

 立ちあがろうとするが、腰を抑えてすぐにベッドに倒れる。

「翔太郎君、その状況じゃ無理だよ」

「……引き受けちまった以上は……解決しねぇと……! あだだだっ……!」

 亜樹ちゃんと押し問答しながら、なんとかベッドから這いあがろうとしている。

 その相変わらずの「ハーフボイルド」に苦笑しながら、ぼくの頭にある考えが(よぎ)った。

 命懸けでぼくを救ってくれた翔太郎の助けになれないだろうか。

 つい昨日、大道克己が画策(かくさく)していたおぞましい計画の道具にされそうになったのを助けられたばかりだ。

「ぼくが行こう」

 いちばん街を愛している彼を助けることが、最大の恩返しになると考えた。

「「えっ?」」

「事態は緊急を要するようだ。本来ならば猫探しは君の専門分野だろうけど」

 こと猫探しに関しては翔太郎の右に出る者はいない。

「おい、おまえ、本当に外に出る気か……?」

「大丈夫さ。迷子の動物たちを探しに行くだけだよ。なんの危険もない」

「……おまえが外に出る(たび)(ろく)な目に遭ってない気がするけどな……!」

 翔太郎の小言を聞き流し、ぼくは依頼書を手に取る。

「君と街に恩返ししたいんだ。たまにはね」

 相棒は一瞬驚いたような顔をすると、複雑そうな表情で渋々(しぶしぶ)うなずいた。

「じゃあ、頼んだ……」

「さて、保護対象は?」

「……迷子(けん)に迷子猫……。迷子亀だ……」

「亀がどうやったら迷子になるんだい……?」

 外に放し飼いにでもしていたのだろうか?

「いいか、フィリップ。くれぐれも事務所の看板に泥を塗るようなことはすんなよ……!」

「承知している。バイクとメモリガジェットを持っていくよ」

「あぁ、持ってけ。どのみち今の俺に使えねーからな……」

 ぼくは手頃なショルダーバッグを取り出すと、中にすべての依頼書をつめ込む。

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい!」

「……気をつけろよ……」

 ぼくは外に出るとヘルメットをかぶり、事務所前に駐車してあるバイク・ハードボイルダーに久しぶりにまたがると適当な場所へ走らせる。

 そう。簡単な迷子探しになるはずだった……のだが。

 翔太郎の嫌な直感は的中することになった。

 

 ここからはあとから聞いた話だ。

 ぼくが出てから少しして、照井竜が封筒を抱えて事務所を訪れた。

「失礼するぞ」

「あっ、竜くん!」

「……おぅ、照井、なんだぁ……?」

 亜樹ちゃんが抱きつかんばかりに駆け寄り、翔太郎がベットから弱々しく手を振る。

「どうした?」

「ギックリ腰なの」

 鉄面皮(てつめんぴ)の照井竜でさえも苦い顔をした。

「それは……災難だな。フィリップは? 『検索』か?」

「翔太郎君の代わりに迷子のペット探し」

「そうなのか。できれば力を借りたかったが……とりあえず君たちには話をしておくか」

「どうしたんだぁ……?」

 照井竜は翔太郎にも聞こえるようにベッドまで歩み寄って話をはじめた。

「最近、気になることが起きていてな」

「『気になること』って?」

「ここ最近、何人かメモリ使用者に出くわしたんだが……。少し、不可解でな……」

「何が?」

「……使用者がメモリを刺したとたんに死亡した。ドーパントにならずにだ」

「えっ?」

「……どういうことだよ……?」

 照井竜は封筒からガイアメモリを入れた透明の袋を取り出して、二人に見せた。

「これがそのメモリだ」

「クレイドール……⁉ 『若菜(わかな)姫』のメモリじゃねぇか……!」

 

「若菜姫」とは風都の名家である園咲家の次女・園咲若菜の愛称だ。

 かつては風都のアイドル的存在だったが……今は組織(ミュージアム)の幹部として暗躍している。

 そもそも園咲家自体が組織(ミュージアム)そのものなのだ。

 

「……ん、あれ? こんな感じになるっけ?」

 見せられたメモリは亜樹ちゃんが疑問に持つほど、ガワがぐちゃぐちゃになった「ガイアメモリのような物」だった。

「メモリブレイクしていないにも関わらず、数時間でここまで劣化した」

「……なんだこれ……? 本当にガイアメモリか……?」

「俺も気になって、最近、風都署に設立したメモリ専門の科捜研のような部署・『特殊研』に検査を依頼した」

「特殊研? そんなもん作ってたのか」

「ああ。それについては詳細を(はぶ)くが……検査の結果、プラスチックでできていることが判明した」

「「プラスチック⁉︎」」

「内部基盤もプラスチックだが本物に近いらしい。俺はこれをドーパントが作成した『コピー品』だとにらんでいる」

「コピー品……」

「……なんか前にも似たようなことあったよね……」

 亜樹ちゃんが言っているのはダミーの件のことだろう。

 あれはドーパントが死亡した有名人の身近な人物から記憶と姿を読み取って模倣し、悪事に利用していた。

「おそらくそれとは知らずに使用を続けた結果、中毒死したのだろう」

「えっ、そんなん本物以上に危険やん!」

 劇薬をばら撒いているのとほとんど意味は変わらない。

「……そんなもんを売りまわってる奴がいるってのかよ……⁉」

「まだ、容疑者についても見当はついていない……」

「……ひと荒れ来るかもしれねーな……」

 三人の間を不安が渦巻いていった。

 

 ぼくは適当に開けた場所でバイクを止めた。

 遠目には風車部分を破壊されタワー部分だけが残った街のシンボル・風都タワーが見える。

 復旧にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 それは専門の業者にまかせることにして、ぼくは依頼だ。

「よし、この辺りからやってみようか」

「スパイダー!」

「バット!」

「フロッグ!」

「デンデン!」

 持ってきていたメモリガジェットにギジメモリというガイアメモリタイプの思考型AIを押し込んだ。

 腕時計型のスパイダーショック。

 カメラ型のバットショット。

 録音機のフロッグポッド

 ゴーグル型のデンデンセンサー。

 四機が自立行動が可能なライブモードに変形した。

 彼らをフル活動して迷子になった動物たちを捜索させる。

 

 ぼくは適当な椅子になりそうな所に座ると、ショルダーバッグから厚手の本を取り出しページを開いた。

「さあ、検索をはじめよう」

 ぼくが「地球(ほし)の本棚」に入ると全身を緑色の光が包んだ。

 

 周囲が白一色となり、広々とした「無」の世界になる。

 その中心にぼくはいた。無数の書架が空間を埋め尽くしていく。

 これがぼくの特殊能力である「地球(ほし)の本棚」だ。

地球(ほし)の本棚」は地球のあらゆる記憶が「本」という形で具現化されている。

「知りたい項目は、迷子の動物たちの習性」

 翔太郎は動物の気持ちになりきって探すタイプだが、ぼくは「地球(ほし)の本棚」で検索した迷子の動物たちの癖や習性からアプローチすることにした。

 ぼくはキーワードを次々と打ち込む。

 あっという間に本棚が減っていき、一冊だけ残る。

 読み終えれば、次の迷子……あとはそれを繰り返していく。

「すべてを閲覧した」

 時間にして十分かかっただろうか。

 ぼくは笑って席を立つ。あとは保護するだけだ。

 

 読みどおり、メモリガジェットの助けもあり次々と発見することができた。

 彼、彼女らを依頼人の(もと)へ返していく。

「ありがとう!」

「ありがとうねぇ」

「無事で良かったよ!」

「お兄ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして」

 不安そうな依頼人たちの顔が笑顔に代わるのを見て苦労が吹き飛ぶような気がした。

 翔太郎はいつもこんな気分を味わっていたのかと思うと、少し羨ましく思えた。

 よかった。ぼくは、この街が好きになれたようだ。

 かつて、好奇心でしか動かなかった「悪魔」のようだったぼくに言いたい。

 今、ぼくは「人間」として心が満たされている、と。

 

 順調に依頼をこなしていった末にぼくは風都のとある神社に辿りついた。

「この辺りか……」

 神社では丁度、小規模な夏祭りが開催されていて人が集まっている。

 生憎(あいにく)、祭りには興味はない。

 ここに来た理由は最後の一匹がこの辺りを散歩ルートにしているからだ。

 ぼくは出店に来た親子連れやカップルを避けながら境内(けいだい)を見渡す。

「よう、元気か?」

 すると声をかけられた。

「あなたは……尾藤(びとう)(いさむ)、さん」

 そこにいたのは翔太郎の師匠・鳴海荘吉(そうきち)の親友であり風都にある露店の元締め・尾藤勇だった。

 彼が依頼人としてやってきたビーストの事件は記憶に新しい。

 ぼくと相棒が本当の意味で心身が一体化し「究極」に至った出来事だった。

 

「おまえさんが出てるなんて珍しいな。あの後釜は?」

「生憎、ギックリ腰で」

 そう説明すると尾藤は少々あきれた顔をした。

「ったく、事務所のほうは大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫ですよ。相棒はこれまでいくつもの事件を潜り抜けてきました。今は少々無理が(たた)ったんです」

「ならいいが。……なあ、相棒さんよ」

「なんでしょう?」

「後釜……翔太郎のことを支えてやってくれ。頼むぞ」

 尾藤は何か含みを持ったような視線を送りながら、ぼくの肩を叩く。

 このときは言葉の意図が理解できなかったが、ぼくはただうなずき返した。

「えぇ」

 言われずとも、そのつもりだ。

 ぼくと翔太郎は永遠の相棒だ。

 それこそ、この地球がなくならない限り。

 

 そこでスタッグフォンが鳴った。

「失礼、電話が」

「おう、またな」

 尾藤と別れを告げ、祭りの喧騒(けんそう)から離れたぼくは境内の静かな所で着信ボタンを押す。

「どうしたんだい。翔太郎?」

「……よう。調子どうだぁ……?」

「問題ない。すべて順調さ。残り一匹だ」

「マジかよ。すげーな」

「動物には習性があるからね。それを利用して『地球(ほし)の本棚』とメモリガジェットを使えば、あっという間さ」

「……さすがだなぁ。……情けねーな俺……」

「何言ってるんだい。いつだってぼくたちは『二人で一人』だよ。君は安心して療養していたまえ」

 翔太郎は小恥ずかしそうに「すまねぇ」と感謝の言葉を述べた。

「……なぁ、相棒」

 翔太郎のトーンがいくらか下がったことに気づく。

「ん? なんだい?」

 今になって思えば、このとき「コピー品」の件について伝えようとしていたのだろう。

「……いや、やっぱりなんでもねー。頑張れよ。相棒」

「あぁ、それじゃあ、またあとで。相棒」

 ぼくは通話を切り、再び迷子探しに戻ろうとした。

「!」

 そこである人物を見かけてあわてて建物の陰に隠れる。

 なぜ、こんな所に⁉

 それは園咲家の長女・園咲冴子(さえこ)が、女性に対してガイアメモリを向けている姿だった。

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