風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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前章2「街に現れたC/園咲冴子の憂鬱」

 カチャァン!

 ぼくが迷子探しをはじめる少し前、組織(ミュージアム)の本拠地である園咲邸に甲高い金属音が響く。

 すっかり人払いがされた食堂で男女が対峙していた。

「失礼。今なんと?」

 全身白スーツの男・加頭(かず)(じゅん)が尋ね返す。

「支援はもう必要ない。そう申し上げたのよ」

 組織(ミュージアム)の次期当目・園咲若菜が同じ言葉を繰り返した。

 先ほどの金属音は驚きで彼が持っていたカップを落とした音だ。

 これは無感情の加頭ができる精一杯の感情表現だった。

「これまで『財団(エックス)』は長年に(わた)り、ミュージアムに資金援助してきました。……それを反故(ほご)にする、と?」

 財団X。表向きは科学研究財団として世間からも認知されているが、裏ではさまざまな組織・個人に援助を行う闇の組織として活動し、兵器販売を生業(なりわい)とする「死の商人」だ。

「反故ではありませんわ。計画は既に最終段階まで来ました。あなた方の支援が不要になっただけです」

「私、困ります。突然、契約終了するなど……」

 話を(さえぎ)るように、目の前に若菜の直筆サインが入った「契約締結」の(むね)が書かれた用紙が置かれた。

 風都で一世風靡したアイドルのサインなど、そう簡単に手に入れられる物ではない。

 だが、そのときの加頭にとっては受け取りたい物ではなかった。

「父と相談し、決めたことです。書類も用意しておきました。……それに聞くところによると、あなた方も随分と(わたくし)たちに黙って好き勝手していらっしゃったらしいじゃない」

(新型メモリや『ビレッジ』の件か……)

 若菜に嫌味を言われながら、加頭はここに来る際に告げられた上司の宣告を思い返す。

『ウルスランド局長。お呼びですか?』

 財団Xの幹部・ネオン・ウルスランドは愛用のストップウォッチのタイマーを入れる。

『手短に。ミュージアムを投資対象から外す。また、ヘルスタイン博士の件もほとんど目立った報告もない上、おまえの失敗もある。ビレッジの崩壊や新型ガイアメモリ・T2の紛失、私でさえ(かば)えきれない状況だ』

『……私を処分すると?』

 加頭は最悪の状況を想像した。

『場合によっては。もはや、おまえの運命はミュージアムにかかっていると言ってもいい。いいか、これ以上の財団に対する損失は看過(かんか)できない。それが上の意見だ』

 ウルスランドはストップウォッチのタイマーを止め、「時間だ」と足早にその場を離れた。

 ゴトン!

 加頭は驚きのあまりに持っていたアタッシュケースを手から落とす。

 いよいよ自身の立場が危うくなっていることに気づかされたのだ。

「まあ、今さらそれに関して、(とが)めることはいたしませんわ。それに『投資先はここだけじゃない』んでしょう? 長い間、お疲れ様でした」

 若菜は加頭の肩を叩き、元の席に戻る。

 去れ、と言われていることがわかったが、ショックから席を立てずにいた。

「……あなたも男の人なら聞き分けなさったら?」

 自分よりもいくらか年下の相手から威圧され、加頭はアタッシュケースにその書類を仕舞うと食堂を出た。

(……このままでは……)

 会社からも投資先からも用済みだと言われたも同然の加頭は廊下で呆然と立ち尽くす。

 

琉兵衛(りゅうべえ)‼」

 屋敷内に怒鳴り声が響いた。

「……田名後(たなご)君。どうしたんだね。そんな大声を出すこともあるまい」

「貴様ッ! 今なんと言った‼ 今後一切、私への支援をしないだとォッ⁉」

「文字どおりの意味だが?」

「ここ十年の怪物騒ぎに、警察への圧力ッ! 昨日のテロの件の弁解と言い、市長として私がどれだけおまえたちのために身を粉にして働いてきたと思ってるゥッ‼」

 泣く子も黙る園咲家当主にかみついているのは、白髪をオールバックにした風都市長・田名後長市(ちょういち)だった。

 彼は園咲琉兵衛との旧知の友人であり、組織(ミュージアム)とは古くからパイプを持っていた。

 無名の議員から市長までのし上がれたのも、組織(ミュージアム)の後押しの成果と言っても差し(つか)えはない。

「それにはもちろん感謝しているよ。……だが、もうすぐ計画が完了するのだ」

「『ガイアインパクト』とかいう絵空事(えそらごと)か! 貴様、正気か!」

(ガイアインパクト……)

 その単語に興味を持った加頭は口論に耳を(かたむ)ける。

「正気だよ、田名後君。今までご苦労だったね。さあ、君も忙しいだろう、早く後任を決めなければならないんじゃないかね?」

「何? まさか……貴様、すべての責任を私に押し付ける気か⁉」

「その覚悟はあったと思ったのだが。だからこそ我々に支援を頼んだのだろう?」

「っ……ぐぅぅぅッ! このままでは済まさんぞ、園咲ィッ‼」

 図星を突かれたのかテーブルを力の限り殴りつけ、顔を真っ赤にしてその場をあとにした。

「……相変わらず目の前しか見えていない男だ……」

 琉兵衛は嘲笑(ちょうしょう)するようにひとりごちた。

 

「くそッ! あの古狸(ふるだぬき)め‼」

「お待ちください」

 怒り心頭の田名後が園咲邸の玄関門を出たところで呼び止められた。

「誰だッ!」

「失礼。私、財団Xの加頭と申します。ぶしつけながら少々お話を聞かせていただきました」

「財団X……? なんの用だ! 私は忙しい!」

「少しだけお時間をいただけませんか? あなたに耳寄りの情報があります」

 加頭は田名後に耳打ちする。

「……園咲氏を見返したくはありませんか……?」

「……何?」

 考えを見透かされたようなことを言われ困惑する田名後に対して、加頭は不気味に笑う。

「ここでは人目がつきます。場所を移動しましょう」

 

 数十分後、加頭と田名後は風都のとあるペットショップにいた。

「どうしてこんなところに来た?」

「表向きはペットショップですが……裏ではガイアメモリを販売しています」

「なっ……! 私はメモリなんか、使いたくない……!」

 田名後はできる限り自分の手を汚したくない人間だった。

「ですが、園咲氏に対抗するには『(メモリ)』が必要です」

「そうだが……!」

 田名後の意見を無視し、加頭が先導するようにして、二人は店内に入る。

 慣れた様子でカウンター上の呼び出しベルを叩く。

「は~い!」

 すると奥からプラチナブロンドのボブヘアで、動物の刺繍(ししゅう)が入った色鮮やかな手製のエプロンを着た、三十代の小柄の女性が屈託のない笑顔で出てきた。

「あっ! 加頭さん、いらっしゃい!」

千歳(ちとせ)さん」

 ペットショップの店長・千歳妙子(たえこ)

 その外見からはとてもガイアメモリの密売人には見えない。

 だからこそ怪しまれにくいのだろうが。

「急に来るなんて~。お化粧し損ねちゃった!」

「そうですか。それはともかく、彼にガイアメモリを見繕ってもらいに来ました」

 じゃれあうような千歳を加頭は冷たくあしらう。

「もう相変わらず、加頭さんはクールですね~。なんだかんだ、私のことを心配してくださってるんでしょう? あのときだって」

 千歳は嬉しそうに、数日前に加頭が滞在している風都ホテルに呼び出されたことを話しはじめた。

 

「では、万灯(ばんどう)君。くれぐれもお気をつけて」

 ホテルの一室で加頭は知人との連絡を切った。

 コン、コ、コ、コン。

 部屋のドアを奇妙なテンポでノックされる。

「どうぞ」

 ドアが開くと子供のような笑みを浮かべた千歳が入ってくる。

 彼女とはある件から知り合ったのだが、初対面から随分と好かれたらしい。

「加頭さん、お呼びで~すか?」

 いつもどおり緊張感がない千歳に対し、加頭は立ちあがると後ろ手に組む。

「千歳さん。ご存知でしょうが、現在、風都は未曾有(みぞう)の事態に陥っています」

「少し前の飛行機の爆発のことですか?」

「はい。機内には財団の次世代ガイアメモリ・T2を輸送していました」

 この時には別口で事態を知ったWとエターナルが対決し、エターナルがマキシマムを放つ直前だった。

「とくにテロリストに奪われたエターナルメモリは危険です」

「知ってますよ~。旧世代を半永久的に使用不可にしちゃうんですよね」

「そのとおりです。全力で開放すれば影響は風都全体に及び、八分の一の確率で死亡する危険もあります。事態が収束するまで不用意にガイアメモリを使わないように」

「えっ! 私のことを心配してくださってるんですか!」

 その忠告を聞いて嬉しそうにする千歳。

「いえ。私、少しも気にしてません。まだ利用価値があるので警告しただけです」

 加頭は背中を向けると冷たく言い放つ。

「もう、冗談ですか~?」

「本心です。……私、園咲冴子さんのほうが心配です」

 事件の直前、加頭が懇意(こんい)にしている冴子がホテルの部屋を出ようとしていた。

『冴子さん、どちらへ?』

『……どこへだっていいでしょ』

『雨が降りそうですが……。傘を忘れずに』

『……過干渉ね。母親じゃあるまいし』

『風邪など引かれないように。体調を崩されたら、私、悲しいです』

 冴子はそのまま黙っていなくなって以降、消息がわからなくなっていた。

「えっ、『さっちゃん』が?」

「お知合いですか?」

「はい! 彼女とは親友です!」

「そうですか。連絡が取れないもので」

「あの子も一人になりたいんじゃないかな~。いろいろと大変みたいだし。それにしても加頭さん、そんなに心配するなんて、まるであの子のことが好きみたいじゃないですか!」

 冗談めかした千歳の言葉に加頭は振り返る。

「好きですよ。一目惚れです」

「……冗談ですか?」

「本心です」

 その一言でさしもの千歳はムスッとした表情を浮かべた。

 

「なんだかんだ私を頼ってくれるんですよね~」

「『利用価値があるから』と言ったはずですが」

「そんな~」

 千歳は肩を落としてあからさまに落胆した様子を見せた。

「……おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 子供のような言動を見て不安になったらしい田名後が声をかける。

「ミュージアムの助力が得られない現在、ガイアメモリに関しては彼女がいちばんです」

「いやだ。嬉しい~!」

 能天気な言葉に田名後はついに額を押さえた。

「早速ですが。彼にメモリを」

「わかりました~。どんなメモリですか?」

「『テラー』に対抗できるメモリを」

 千歳が「えっ」という顔をする。

「それってつまり……『園咲のおじさんを倒す』ということですよね? 冗談ですか?」

「本心です」

 さすがに本気だと伝わったのだろう千歳は顎に指を当てると頭をひねる。

「う~ん……。『テラーフィールド』に影響を受けずに、『テラードラゴン』にも対応できるとなると……。『遠距離から強力な攻撃ができる』メモリがいいかな~」

「思いつきますか?」

 ぶつぶつとつぶやきながら、しばらく考えに(ふけ)っていた千歳がニコリと笑った。

「ありましたよ~。おあつらえ向きなのが」

「……それは強力なのか?」

「ええ! 使い方次第で地球を滅ぼせるくらいには!」

 冗談なのか本心なのか読み取れない、屈託のない笑顔で放たれたその言葉に田名後はただ戦慄(せんりつ)を覚えていた。

 

 数時間後。話題に上がっていた園咲冴子は街をあてもなく彷徨(さまよ)った結果、祭りで賑わう神社に辿りついた。

 人の賑わいに引き寄せられたのかはわからないが、疲れた様子で縁石(えんせき)に座ると何をするでもなく露店を眺めている。

 彼女は風都を震撼させた殺人鬼・井坂(いさか)深紅郎(しんくろう)に恋愛感情を持った結果、園咲家にクーデターを起こした。

 だが、井坂は家族の仇として照井竜に倒されてしまう。

 後ろ盾がいなくなったことで裏切り者として組織(ミュージアム)から追われる身となった彼女は、危ういところで加頭に(かくま)われていた。

(私の生きている意味って……?)

 彼女は今、生きる理由を求めていた。

 見返すべき父や妹への復讐心も、名家の長女としてのプライドと誇りも鳴りを潜めている。

 

 どこからともなく女性の声で「サッちゃん」という童謡(どうよう)の一番を冴子の名前に変えた歌詞が聞こえてきた。

 冴子はハッとした表情を浮かべる。

「……妙子……?」

「久しぶり~。さっちゃん」

 千歳は遠慮なく冴子の隣に座った。

「あんた……これまで、何を?」

「いろいろ。そんなことより聞いてよ、私の新しい雇い主がさ~。『さっちゃんを連れて来い』って言うんだよ。どこにいるのかわからないのにひどくない?」

 世間話のように話す千歳に冴子は警戒する。

「……それでよく見つけたわね」

「直感でここにいると思ったんだ。昔はよくこのお祭りに来てたでしょ?」

『まって! ちぃちゃん!』

『さっちゃん! こっちこっち!』

 二人の浴衣姿の少女が屋台を見て回る記憶が浮かぶ。

「そうね……。妙子……今、私とても気分が悪いの。さっさと消えてくれない?」

 過去を懐かしむ千歳に対し、冴子は活気がない様子で言った。

「そうはいかないよ。さっちゃんを連れて帰らなきゃ。ほ~ら、いっしょに来て」

 冴子はひっぱり上げようとする千歳の手を払った。

「……断るわ」

「それ冗談?」

「……相変わらず、本心と冗談の区別がつかないのね」

 冴子はゴールドメモリのナスカメモリを突きつけた。

「あっ、旦那さんのメモリ!」

「……『元』よ」

 

「姉さん」はあそこで何を? もう一人は?

 ぼくが実姉・園咲冴子を見つけたのが丁度このタイミングだった。

 これまでの話からわかると思うが、ぼくは園咲家の長男・園咲来人(らいと)だ。

 ある事故で「地球の記憶」に触れたぼくは記憶を消されてガイアメモリ製造機となっていたが、鳴海荘吉と翔太郎に救助された結果、今は「フィリップ」と名前を変えて組織(ミュージアム)から隠れる日々を送っている。

 つまり彼女とは姉弟(きょうだい)ではあるが、敵同士なのだ。

「えっ、本気で私とやるの?」

 メモリを突きつけられた女は臆することなく姉さんに問う。

「冗談だと思う?」

「……そっか。じゃあ、仕方ないね」

 女が虹色の、鉛筆や工具・パソコン類などさまざまな創作する物でデザインされた「C」の文字が描かれたメモリを取り出す。

 虹色は見たことのない配色だ。

「! 妙子、まさか、メモリを改造したの?」

「改造なんかしてないよ。ただ色を塗り替えただけ。白だけって地味だもん」

 妙子と呼ばれた女は襟首(えりくび)をひっぱる。

 首の半分を覆うほどの太いチョーカーが覗いた。

 中央部分を横にスライドすると、そこにはメモリの挿入口があった。

「まさか、それガイアドライバー……⁉」

 それを聞いたぼくは衝撃を受けた。

 なんだって⁉ あれがドライバー⁉

「そう。時間かかっちゃったけど。やっとここまでできたんだよ。ただ、配線と基盤がつまってて……首が苦しいのが難点だけどね~」

 簡単に言ってのけるが、彼女が持つ技術力がずば抜けていることが窺えた。

「……最近、ガイアメモリの不良品が広まってるって聞いたけど、もしかしてあんたの仕業?」

「不良品なんてひどいな〜。まあ、どっちでもいいでしょ。どうせ素人(しろうと)に」

「クリエイト!」

 妙子はチョーカーの位置を調節しながらメモリを鳴らす。

「偽物と本物の違いなんてわからないんだからさ」

「創造」の記憶……。

「ナスカ!」

 姉さんは苦い顔をしながらメモリを起動すると左首筋のコネクターに。妙子はチョーカー型ドライバーにメモリを刺す。

 

 姉さんは体色や羽根の色が赤で、ナスカの地上絵のような模様が刻まれた騎士のような姿のナスカ・ドーパントに。

 妙子は身体が樹脂のような物が包むと、レーザー光線が樹脂を切削し身体を形成していく。

 白い素体に、顔には円形の液晶が取り付けられ、頭からは筆のような髪先のみが黒の白い長髪が伸びた。

 右手の指先は五色の色鉛筆を模しており、唯一異様なのが胸から左腕すべてが機械で前腕には端末が付いている。

 最後に純白の身体を色付けるように、絵の具が飛び散ったような模様が(ほどこ)されたエプロンをまとう。

 例えるとするならば「エプロンを着た一部が機械の白の木製人形」だ。

 クリエイトはエプロンの(すそ)をパンパンと払う。

「じゃあ、やろっか」

 ぼくが見ていることに気づくことなく、突如として二体のドーパントの戦いがはじまった。

 

 ナスカが剣で切りつけるのを避けながら、クリエイトは色鉛筆型の指先を動かす。

 空中に剣の絵を描くとそれが具現化した。それで剣筋を受け止める。

「そんな落書きで私の剣が防がれるなんて……!」

「よく言うでしょ? 『ペンは剣よりも強し』って」

「ふざけないで! 不良品を売るなんて何を(たくら)んでるの!」

「『企む』だなんて。ただのお小遣い稼ぎ。だって欲しい物たくさんあるんだもん。コスメとか服とか、いろいろ」

「そんなことのために……!」

「だって~みんな『メモリ欲しい』って言うから。でも、本物は勿体ないから『オーダーメイド品』を売ったの」

「勝手は許さないわ。ガイアメモリは園咲の物よ!」

「あれ? さっちゃん、そんなに家族想いだったっけ?」

「黙りなさい!」

 ナスカは背中の羽根で飛翔する。

 クリエイトはミサイルを描くと発射した。

 絵は簡潔だが、完成した物は本物なのかすさまじい勢いでナスカに迫る。

 だが、ナスカも負けてはいない。

 超加速し一瞬でミサイルをバラバラにすると、続けざまにクリエイトを切り裂いていく。

 クリエイトはそのスピードに対応できずに地面に倒れる。

「いてて。……強いねそれ。私もそれ使ってみよ〜っと」

 なんだって?

 奇妙なことを言ったと思うと、クリエイトはドーム型の絵を描いた。

 それで攻撃を防ぎながら、ナスカに対し頭の部分から光線を出す。

 ぼくにはそれがナスカをスキャンしたように見えた。

「よし、データは充分~」

 どこか嬉しそうにクリエイトが左前腕の端末を触る。

「ナスカ!」

 顔の液晶画面にガイアメモリのラベルが浮かんだ。

 まさか⁉︎

 クリエイトは着ていたエプロンの縦型のファスナーを胸元まで開く。

 そこには3Dプリンターのような機械が埋め込まれており、それが動き出しガイアメモリを形作っていく。

「よし、完成〜」

 ガイアメモリを、作った……⁉︎

 プリンターから作成したメモリを取り出すと、今度は腹部のファスナーを開ける。

 USB用のコンセントのようなベルトがあり、そこに刺し込む。

「作った物は、使わないとね~」

 するとクリエイトの姿が青いナスカに変化した。

 差別化のために「ナスカ・(クリエイト)」と呼称しようか。

「……レベル2のナスカで私にかなうとでも?」

「戦えばわかるよ」

 赤いナスカと青いナスカ・Cが衝突する。

 本来なら性能差で一方的になるはず……だが超加速に対応できているようだった。

「どうして……⁉」

「私がスキャンしたメモリは、能力が据え置きになるんだ~」

「……インチキも大概ね!」

 その後も両者は激しくぶつかり合った。

 

 しばらく経ったが、互いに決め手に欠けている様に見えた。

「……なんか、決着つかないね」

「……同じ性能なら、相打ちがせいぜいでしょ……」

「あっ、そうか! さっちゃん頭良い〜。じゃあ『こっち』ならどうかな」

 ナスカ・Cはベルトからメモリを外し手で握り潰す。元のクリエイトに戻った。

 再び左腕の端末を操作すると液晶に「T」の文字が浮かぶ。

「! そのメモリは⁉」

「タブー!」

 完成したメモリをベルトに刺し、クリエイトがタブーの姿に変わる。

「……あれ? さっちゃんのタブーとは違うな〜?」

 その言葉のとおり、今までぼくらが戦ってきたタブーとは姿が違った。

 姉さんのタブーは、金髪で顔には目に当たる部分がなく裂けた口を持ち、赤い女性の上半身と拘束されたような下半身の先に目があり、浮遊しているのが特徴だ。

 対して妙子のタブー・Cは完全に人だった。所々、造形が似通ったところはあるものの両足があり、目も片目ではあるが本来の顔の位置にある。

「そっか。さっちゃんより私のほうが適合率が高かったんだ」

「っ、冗談じゃないわ! 無色のメモリ使用者が私のゴールドメモリを容易(たやす)く扱えるわけなんてない!」

 元の持ち主としてのプライドを傷つけられたのか、ナスカの鋭い剣筋がタブー・Cに迫る。

 ……ガギン!

「なっ⁉」

 しかし、その一太刀をタブー・Cは両手で作り出した赤黒い光の剣の鍔の部分で防ぐ。

 見た目からしてタブーが放つ破壊光線を剣の形に形成したようだ。

「さっちゃん、そんなことに(こだわ)ってたの? 『金だから強いとか白だから弱いとか』……私から言わせればナンセンスだよ」

 真面目な口調でタブー・Cは鍔迫り合いをしつつ刃先をナスカに向けた。

 突如、それが伸びてナスカの身体を吹き飛ばす。

「アァァァァッ⁉」

 破壊光線を圧縮しているのだ、よほどの威力だったのだろう姉さんが人の姿に戻る。

 勝負が終わりタブー・Cは剣をひっくり返すと杖にしてもたれかかった。

「サッちゃん」の二番の歌詞を、メモリの性能を半分しか使いこなせていないと意味を変えて揶揄(やゆ)した。

「大事なのはさ。個性とか、相性じゃない?」

「うぅっ……!」

 姉さんは悔しそうに身体から排出されたメモリをつかむ前にタブー・Cがそれを取りあげる。

「いっしょに来て?」

「……嫌よ……!」

「冗談でしょ?」

「うるさい‼︎」

「しょうがないな~。じゃあ、気絶するまで痛めつけるしかないか~」

 パシン!

 タブー・Cは長剣を鞭のようにしならせると姉さんににじり寄る。

 

 マズイ! 翔太郎に連絡を……!

 目の前の状況から我に戻ったぼくはスタッグフォンを取り出して……思いとどまった。

 いや、駄目だ。今の翔太郎は肉体的に動けない!

 Wは二人がバランスを合わせてこそ実力を発揮できる。

 これまでの経験からここで無茶をさせれば、本当にしばらく動けなくなるだろうことが予測できた。

 しかし、ぼくにはじつの姉が痛めつけられるのを眺める選択肢もない。

 どうすれば……⁉

 何かないかとロングベストのポケットに手を突っ込んだとき、硬い物が入っていることに気づいた。

「……これは……!」

 今朝、修復したばかりのロストドライバーだ。

 どうやら翔太郎が叫んだとき、無意識にポケットに突っ込んでいたらしい。

 やるしかない!

「やめろ!」

 なりふり構っていられず、ぼくは建物の影から飛び出す。

「えっ?」

 タブー・Cがこっちを見て素っ頓狂(とんきょう)な声を出した。

「サイクロン!」

 ベルトを巻いてスロットにメモリを押し込むと、二人の間に割って入る。

「変身!」

 かけ声とともにスロットを倒す。

「サイクロン!」

 ぼくの身体を緑色の光があふれ、突風に包まれながら強化皮膚に覆われていく。

 風がやんだとき、首から一本のマフラーがふわりと垂れ下がった。

 まさかこうなるとは想定していなかったが……。

 ぼくは全身緑一色の仮面ライダーサイクロンに変身した。

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