風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章1「街に現れたc/破壊の愚者と創造の鬼才」

 仮面ライダーサイクロンに変身したぼくは、姉さんに危害を加えようとした相手と向き合う。

「君、だれ?」

「まさか……! あんた、ここで何を……⁉︎」

 突然の乱入者に二人が困惑しているところを構わず、マキシマムスロットにメモリを押し込む。

「サイクロン・マキシマムドライブ!」

 最大出力を発揮したことを知らせるガイダンスボイスを響かせ、ぼくは身体から噴射した気流で一気に距離を詰める。

 エネルギーが(みなぎ)る風をまとった手刀がタブー・Cの肩を(かす)めた。

「痛いっ⁉」

 マキシマムの影響かタブーメモリが吹き飛び、クリエイトが元に戻る。

 だが特殊な形態のせいか、マキシマムの威力が足りなかったのか、メモリブレイクには至らなかったようだ。

「いたた……! ちょっと、君! だれ⁉︎」

 憤慨しているクリエイトから地面に倒れている姉さんを庇うように立つ。

「……来人……ここで何を……⁉」

「えっ、『来人』君……?」

 姉さんの言葉にクリエイトは驚きを見せた。

「うわぁ〜! 久しぶり〜! 覚えてる? 『妙子お姉ちゃん』だよ。昔よく遊んだよね〜」

 すると、こっちに向かって親しげに手を振ってきた。

 本当に喜んでいるように見える。

 しかし、残念だが、今のぼくにはさっぱりだ。

「あれ、覚えてない? って、この格好だとお互いわかんないか」

「……記憶を消したから覚えてないわよ」

「あっ、そうだったね。で、ここで何してるの?」

 世間話をするように話しかけてくるが、ぼくは答えずに戦闘姿勢を崩さない。

 相手の思考がまったく読めないのが不気味だった。

「そんなに警戒しなくてもいいのに。あっ、ロストドライバー!」

「何?」

 これには思わずぼくも声が出た。

 ロストドライバーを知っているということは、組織(ミュージアム)の中でも高い立場の人物だったに違いない。

 

「なるほど……来人君が噂の仮面ライダーだったわけね〜」

 ぼくの直感がこれ以上、彼女に情報を与えるのは危険だと訴えた。

「あっ、私いいこと考えちゃった! 来人君もついてこない?」

「……ちょっと! 本気……?」

「当然!」

 クリエイトは鞭を描くとそれを握り、ぼくに振るってきた。

 すると機械音と獣の咆哮(ほうこう)が混じったような鳴き声が聞こえ、全長二十センチほどの機械の恐竜が現れて尻尾の部分で鞭の攻撃を防ぐ。

「あっ。ファングメモリだ」

 ファングのことまで……!

 ファングメモリはシュラウドがぼくの用心棒として作った存在だ。

 これ自体がガイアメモリであり機械恐竜としてライブモードで動き、かなりの戦闘力を持っている。

 彼女はいったいどこまで知っている……?

 ともかく対処するのが優先だろう。

 ファングとともにクリエイトを追い詰めていく。

「あぁ、もう! 二対一なんてズルい!」

 子供のように地団駄(じだんだ)を踏む。

「それならこっちは『二対ゼロ』にさせてもらうから!』

 何?

 いらだった様子で操作端末に触り、液晶に「Z」の文字が浮かんだ。

「ゼロ!」

 ⁉︎ マズイ!

 ぼくは急いで距離をとった。

 ベルトにメモリを刺したクリエイトがゼロ・Cに変わる。

 赤い目と胸部の円形以外はとくにディテールがない、真っ黒な体をしたシンプルなデザインだが、厄介なのはその能力だ。

「あれ? もしかして見たことあるの? そう。サイクロンは風を取り込んでエネルギーに変えるから、触れた相手のエネルギーを一気に『無』にするゼロとは相性が悪いんだよね〜」

 指摘どおり、ぼくはサイクロンで一度このドーパントと戦ったことがあったが、ほとんど負け越していた。

 恐ろしい相手だ。ぼくの「検索」以上に、彼女は「知識」としてメモリの能力を把握している。

 彼女の危険度が加速度的に上がっていく。

 不意にゼロ・Cが両手を広げてぼくに飛びかかってきた。それを防ぐためにファングが前に躍り出る。

 ぼくから脅威を排除するためだが、今はそれが裏目に出た。

「ファングよせ!」

 止めたがプログラム上、「ぼくを守るため」にファングが飛びかかった。

「おっと」

 つかまったファングはあっという間に脱力して動かなくなる。

「危ない、危ない。まあ、狙いどおりだけど」

 彼女の口ぶりからして、攻撃するフリをしてファングからの反撃を誘ったのだ。

 やはりゼロは相手が悪すぎる。

 ぼくでは相手にならない! 逃げるしかない!

「もしかして……逃げる気?」

 姉さんを(かつ)いで逃げようと考えたが、相手には筒抜けだったらしい。

「だ〜め。逃さないよ」

 ゼロ・Cが右腕をぼくに向けた。

 まずい。あそこには遠距離用のチェーンが仕込まれていたはずだ。

 

「ふふ。君に撃つと思った? 残念、狙いはこっち」

 ゼロ・Cはぼくではなく姉さんへチェーンを放つ。

 しまった!

 冷静さを欠いたぼくはここで悪手を打ってしまう。

 最善策はゼロ・Cにマキシマムを打つべきだったのだが、反射的に姉さんを庇ってしまったのだ。

「家族想いの子だったもんね〜。狙いどおり」

 チェーンが姉さんごとベルトに巻きつく。

 ゼロ・Cはぼくたちをひっぱり上げ、ぼくの身体に掌を当てた。

 出力が切れてぼくの変身が解ける。その上、ぼくの意識が一気に遠のく。

 意識が切れる瞬間、「地球(ほし)の本棚」にいるわけでもないのに、身体から数字の羅列が浮かんで消えていくのが見えた気がした。

 

 気絶したぼくを見てゼロ・Cは「あっ」と言った。

「そう言えば『ガイアゲート』に落ちたときに死んじゃって、身体はデータでできてるんだっけ。やりすぎると消滅しちゃうね」

 このときは知らなかった、事情を知っているゼロ・Cはぼくを解放すると、姉さん側の締めつけを強める。

「だけど、さっちゃんは遠慮しないよ?」

「……来人……あんた……ほんと、ばかね……!」

 姉さんも痛みに耐えきれずに意識を失って倒れた。

「『福徳の三年目』。私、ラッキ〜!」

 人の姿に戻った千歳は嬉しそうに言った。

 

「……ハッ⁉︎」

 ぼくは薄暗がりの中で意識が戻った。

 動いただけで埃が立つため廃墟のようだが、周りには見覚えのある機材が置かれている。

「ガイアメモリの製造装置……?」

「……やっと目を覚ましたのね」

「姉さん⁉︎ ここは?」

 身動きが取れない。見ればぼくは柱に、姉さんは地べたで、毛糸を編み込んだような綱で身体を縛られていた。

「知らないわ」

「あっ、おはよう〜。二人とも目が覚めた?」

 そこで、エプロンを付けたクリエイトの女が呑気に挨拶をしながら、コーヒメーカーからサーバーを取り出すと実験用のビーカーに(そそ)ぐ。

「眠気覚ましのコーヒーいる? 暑いからアイスコーヒーだけど」

「……いらないわ」

「来人君は?」

 無言で返す。

「そっか」、と彼女は氷を入れてなんの躊躇(ためら)いもなく飲んだ。

「そんなことより、ここはどこだ」

 女は口をエプロンで拭う。

「ここ? 元ガイアタワーの二百メートルくらい地下」

 なんだって?

 ガイアタワー。ぼくと翔太郎はここで初めてWに変身した。

 ここは因縁の場所の地下だというのか。

「捨てられてから私が地下の空間を活用して秘密基地として使ってるんだ~。資材とか機械も残ってたから勿体ないし」

「……あれからどのくらい経った?」

「一時間ってとこかな〜」

 彼女の言葉を信用していいのならば、翔太郎たちが異変に思うにはまだ早いだろう。

「それより。ねぇ、見て見て〜」

 そう声をかけてくる彼女を見た。

 暗くて気づかなかったが、よく見ればぼくのロストドライバーを腰に巻いている。

「⁉ 何をする気だ!」

「私も一回変身してみたかったんだよね〜」

「サイクロン!」

 ぼくのメモリを起動し、スロットに押し込む。

「やめろ!」

 女はスロットを倒した。だが、なんの反応もない。

「動かないな〜。『ゼロ』を使ったせいかな」

 作業台にベルトを置くと、工具を使ってなんの躊躇いもなくベルトの外装を開いた。

「うわ〜……何これ」

「何するんだ!」

 壊されたらたまらないと思ったが、思いがけない返事が返ってきた。

「ねぇ、来人君。もしかして、これ使ったとき、全力を出し切れてないって思わなかった?」

「えっ……」

 そう指摘されて気づいた。

 初めてサイクロンに変身したときよりスピードやパワー……とくに全身に刻まれたラインの隙間からの空気の吸収によるスタミナ回復が鈍かったような気がする。

「なぜそんなことがわかるんだ……! 君はいったい⁉︎」

「千歳妙子。……ああ見えて機械工学のエキスパートよ」

 ぼくの問いに姉さんが答えた。

「そう! なんてったって私は」

 千歳は椅子に座りながらクルクルと回る。

「『文音おばさんの一番弟子』だから~」

「なんだって……!」

 シュラウドの一番弟子⁉

「パパとママが研究者でね、文音おばさんの友達でもあり部下だったの。そんな両親の血を継いだからか私も昔から機械いじりが好きでね。おもちゃの解体とか、組み立てとかが私にとっての遊びだったんだ。文音おばさんはそんな私を気に入って機械工学について教えてくれたの」

 慣れたように作業をしながら身の上話を語りはじめた。

「だけど文音おばさんが失踪して、両親は秘密保持のために十年前に消されちゃった」

 ぼくはその境遇に驚いたが、当の本人はとくに気にする様子はない。

「その代わりに園咲のおじさんが重役までじゃないけど、文音おばさんの代理に立ててくれたんだ。そこでみんなの分のガイアドライバーの作成を手伝ったし、ロストドライバーのことも知ってたってわけ」

 どおりでガイアメモリやドライバー関連に詳しかったわけか。

「ところで来人君。制御装置が働いてて、百パーセントの出力で止まってるよ」

「……それの何が悪いんだ」

「来人君、自分で限界は作っちゃ駄目だよ。全開にしなきゃ全力は出せないよ」

「⁉ そんなことをすれば、メモリかベルトが自壊する!」

「大丈夫だって、そうならないように作ってあるんだから。天才のお母さんの作った物を信じなきゃ」

 そのままドライバーに手をつけていく千歳を見ていることしかできなかった。

 

「……妙子。あの日から姿を見せなかったから、死んだと思ってたけど……何してたの?」

「えっとね~、たくさんの人のお手伝い。いろんなドライバーを作ったり、財団Xに直したロストドライバーを横流ししたり」

 そのとき、千歳の瞳に両側面からメモリを差し込める形状のドライバーの設計図が映った、気がした。

「なんですって? 設計図ごとなくなったのにどこから……」

「タワーの物陰に落ちてたの。ボロボロだったけどね」

 曰く始まりの夜(ビギンズナイト)の日、彼女もこの場にいたらしいのだ。

 けたたましく警報音が鳴り警護の人間たちがあわただしく横切る中を、気分転換に建物をスキップしながら散歩していたという。

『あれ?』

 気ままに歩いていた彼女は通路の陰である物を見つけた。

『なくなってたロストドライバー見~っけ』

 それは、おそらく鳴海荘吉が使っていた物であろう、破損したロストドライバーだった。

「で、最近やっとお金が溜まって、子供のころからの夢だったペットショップを開いたの! すごいでしょ!」

 椅子ごとぼくたちに向き直ると嬉しそうに言う。

「……そのついでに不良品のメモリを売ってたのね」

 不良品のメモリだって?

「だ~か~ら、『オーダーメイド品』。それに、使って死ぬのは私のせいじゃないでしょ? 悪いのはちゃんと理解してなかった相手。ほら、よく言うでしょ。『馬鹿は死ななきゃ治らない』って」

 そう悪びれることなく言い切る。

 

 彼女はまるで昔の「悪魔」のようだったぼくに見えた。

『拳銃を作っている工場の人間は犯罪者か?』

 かつてここで翔太郎と初めて会ったときに問いかけた言葉を思い出す。

 今ではその子供の屁理屈のような言葉に嫌悪感が湧く。

「……どうして悪意を持つ連中に手を貸す?」

「変なことを聞くんだね。強いて言えば好奇心かな」

「好奇心?」

「そう。興味を刺激されれば、だれでも飛びついちゃう。人間の好奇心に抵抗するものを、人間は持ってない。でしょ?」

 心当たりしかないぼくはその問いに反論できなかった。

「よし。完了! これで全力を発揮できるはず!」

 工具を戻すと千歳はドライバーを巻き、再びぼくのメモリを試していく。

「やめろ!」

「サイクロン!」

 スロットを倒すが反応がない。

「駄目だ」

「ヒート!」

 入れ替えるが反応なし。

「これも駄目」

「ルナ!」

 なんと反応を示した。彼女の顔に基盤の様な模様が浮かぶ。

 まさか⁉

「おっ! どうかな!」

「……ルナ……ル、ル、ルナ、ルーナ……」

 調子が悪そうにガイダンスボイスを繰り返すと、黄色い光が数度(またた)いただけで、すぐに消えてしまった。

「……あちゃ〜。もう、こうなると使用者側の問題かな〜。さすが文音おばさん」

 残念そうにベルトとメモリを置き、代わりにクリエイトメモリを取り出す。

「私にはこれがお似合いってことか。残念」

 

「時間だッ!」

 息つく暇なく、一人の老年のスーツの男が研究室に入ってきた。

「田名後長市……」

 姉さんが男を見て名前をつぶやいたことで、世間知らずのぼくもその存在を思い出した。

 現在のこの街の市長……。

 田名後は姉さんの前まで歩いてくる。

「なるほど? 私を誘拐しろって言ったのは、あんただったのね」

「そのとおり。君は人質だ。悪く思わんでくれ」

「どうせ、父に見限られたんでしょ」

 姉さんは見通したように言った。

「そうだ! あいつに恩を(あだ)で返すとどうなるか教えてやるッ! しかも、身内だ。動揺しないはずがない!」

 その言葉に姉さんは鼻を鳴らす。嘲笑しているように見えた。

「……好きにしたら」

「? 思ったより素直だな」

 田名後は姉さんを立ちあがらせると、胸ポケットから、銃・戦車・戦闘機・戦艦でデザインされた「W」の文字の金縁のメモリを取り出す。

 ゴールドメモリ⁉

 ぼくはできる限り顔には出さなかったものの驚いていた。

 園咲家以外でそのメモリ使用者は見たことがなかったからだ。

 

「……それ、妙子から貰ったの?」

「そうだ」

「使わないほうが良いと思うけど」

「今さら引き下がれるかッ!」

 姉さんの忠告に田名後は聞く耳を持たなかった。

「どうぞ、ご勝手に」

「じゃあ、田名後さん、これどうぞ」

 千歳は田名後にガイアドライバーを渡す。

「スイッチを押して、それに刺してください」

 田名後は不慣れな様子でベルトを腰に巻き、メモリを起動した。

「ウェポン!」

「兵器」の記憶か……。

 碌なメモリじゃないことはすぐに想像できた。

 田名後がドライバーにメモリを刺し込む。

 大量のミニチュアサイズの戦車や戦闘機、戦艦が身体に集まる。迷彩柄の身体に大量の兵器が合体した。

 頭がコックピットのキャノピーで胸には船首と小さいが艦砲が十門ほどあった。

 右肩にはレーダー、左肩にはミサイル発射機。(こぶし)には機関砲、両腕におそらく飛行用のウィング、足には意味があるのか悪路用のキャタピラー。背中には戦車砲を背負っている。

 だれが見ても「ザ・兵器」といういでたちだ。

 自分の姿を見たウェポンは笑い出す。

「さあ、園咲琉兵衛に宣戦布告だッ!」

 その宣言にぼくは焦燥し、千歳は無関心で、姉さんはあきれていた。

「来いッ!」

「彼女をどこに連れていく気だ!」

「交渉用の人質に決まっている。……おまえはだれだ?」

 ようやくぼくの存在に気づいたのか、当然の疑問を投げかけてくる。

「彼は『らい』……」

「『フィリップ』。探偵だ。……園咲冴子さんの捜索をしに来た」

 千歳がぼくの本名を言う前に、でまかせを言い放つ。

 ウェポンに正体を明かすのはまずい気がした。

「えっ、そうだったの?」

「……そうよ」

 なぜか姉さんが合わせてくれたが……嘘に決まっている。

 ぼくは偶然、巻き込まれただけに過ぎない。

「ふん。まあ良い。自分の不運を恨むんだな。探偵」

 急いでいるのか、それ以上追求することなくウェポンは別室に姉さんを引きずっていった。

「あっ、そっち(冴子)よりこっち(来人)を連れてったほうが……って行っちゃった。『()いては事を仕損じる』。目の前しか見えない人って嫌だね〜」

 千歳は(あわれ)みの目をしながらコーヒーを(すす)る。

 ぼくは何も言わなかった。「人の振り見て我が振り直せ」だ。

 

「失礼します」

 一方そのころ、加頭が園咲邸の庭に足を踏み入れた。

 そこでは園咲親子が優雅に午後のティータイムを楽しんでいる。

「またあなた? いい加減、しつこいわよ」

「……まあ、待ちなさい」

 若菜が追い出そうとするのを琉兵衛が止めた。

「どうかしたかね?」

「園咲さん。メモリ関連のトラブルは私の耳に入ってくるのですが。念のためにお耳に入れておいたほうがいいかと思う事案が発生しまして」

「ふむ。聞いておこうか」

「どうやら風都市長の田名後長市氏が、園咲家に反旗をひるがえそうと考えている模様です」

「なんですって? お父様! あの男、支援を打ち切ったことで逆恨みを!」

「それは……本当かね?」

 琉兵衛の鋭い眼光が加頭を刺す。

「『信用できる情報筋』からなので間違いないかと」

 信用できるだろう。仕向けた本人からのタレコミだ。

 

 するとタイミングを合わせたように一機のドローンが三人の前に現れた。

「噂をすれば、かな?」

 ドローンの上部分が開き、液晶画面が映る。

 そこには一体のドーパントの姿があった。

「園咲琉兵衛」

「やあ、田名後君かな。元気かね」

「ああ、おかげ様でな。今日はおまえに交渉する機会を与えに来た」

「それはそれは。随分と……見くびられたものだ」

「余裕があるのも今の内だぞ。これを見ても、そんなことが言えるのか?」

 画面外から冴子をひっぱり出し頭に機関砲を突きつける。

 ガタン!

 それを見た加頭がアタッシュケースを落とす。

(冴子さん? まさか……)

 千歳に頼んでいたことを思い出した。

『千歳さん。田名後氏のアフターサービスもよろしくお願いします』

『え~、それもですか?』

『私からのお願いです』

『それなら、わかりました!』

 それ以降はノータッチだったのだが、さすがに冴子の誘拐は想定外だったらしい。

「園咲琉兵衛! 三十分待ってやる、その間に……!」

「好きにしたまえ」

(何?)

「は?」

 想定外の返答に加頭は無表情のまま困惑し、ウェポンは唖然とした。

「その女は最早、園咲家とは無関係だ」

「えぇ、そちらで片付けてくださるのなら、手間が(はぶ)けます」

 本気でそう思っているのか、二人はなんでもないように言い切る。

「お、おまえたち、正気か?」

 脅す側だったはずが、たった数秒で立場が逆転しウェポンがたじろぐ。

放蕩(ほうとう)娘だ。煮るなり焼くなり好きにしてくれたまえ」

 その言葉を聞いた冴子は笑いだす。心の底からおかしいと言わんばかりだった。

「さすがは園咲家の当主様方、ね」

「な、なんなんだ……おまえたちは……⁉」

 ウェポンは(いびつ)すぎる家族に恐怖を抱いた。

「どうしたんだ? 何を躊躇うのだ? その大砲で私と勝負する気ではなかったのかね?」

「……私を舐めるのもいい加減にしろッ! 今から風都を跡形もなく吹き飛ばしてくれるわァッ‼」

 そこで一方的に通話を切った。

「……彼のアホ(づら)には心底うんざりさせられる……」

「どうしましょう。お父様?」

「わざわざこちらに来てくれるというのだ。お迎えしようではないか」

「……私も事態の収拾に力を貸しましょう」

 加頭がいつにも増して冷めた顔で言った。

「良いのかね? 君と我々は……」

「締結はまだ切れていませんので」

 言葉では冷静そうに見せながら、心の底では怒りが湧きあがっていた。

 

 別室に移動していたウェポンが姉さんを引き戻してくる。

「……娘は娘でも、若菜を(さら)うんだったわね」

「うるさい!」

 姉さんを怒りのままに床に突き飛ばす。

「あら? 何かありました?」

「あいつらはイカレてるッ!」

「いまさらですか? どうするんです?」

「私が直々に正義の鉄槌を下してくれるッ!」

 ウェポンの演説を聞きながら、千歳は呑気にビーカーに注いだアイスコーヒーに口を付ける。

 それにいらついたようにウェポンが手で払う。

 ビーカーが地面で砕け、中身が飛び散った。

「あっ!」

「飲んどる場合かッ‼」

「最後の一杯だったのに~。買いに行かなくちゃ……」

「この女を始末しておけェッ‼」

「えっ、それも私がやるんですか〜? 冗談でしょ〜」

「本気だッ! もう、その女に用はない! 私は街を破壊してやるッ!」

「『リーサル・ウェポン』になるなら隣の格納庫で。シャッターが開けば船着き場まで続くエレベーターがありますから」

 千歳が不吉なことを言うと、ウェポンは足を踏みしめて隣の部屋へ消えた。

「……あのメモリを使うと暴力的になるんだよね〜。まあ、そのためのメモリだから仕方ないけど」

「『リーサル・ウェポン』とはなんだ!」

「ウェポンメモリは強烈な感情に反応すると、街一つを焦土(しょうど)にできるくらいの破壊力を持った空中戦艦・『リーサル・ウェポン』になれるんだ」

「なんだって⁉」

「せっかくお店作ったのにな~。まあ、いいか。お店は作り直せばいいし。加頭さんを狙う恋敵(こいがたき)も減るし」

 千歳は姉さんを見てそう言った。

「は?」

「クリエイト!」

 姉さんが疑問に思う中、千歳がクリエイトになる。

「まさか、あの男もかんでるの?」

「探してる、って言っててさ~。嫉妬しちゃった」

「あんな男のどこがいいのよ……」

「クールじゃない! それより、さっちゃん、何で処刑して欲しい? 焼死(マグマ)? 凍死(アイスエイジ)? 撲殺(バイオレンス)?」

 購入するアクセサリーの意見を聞くように左腕の操作パネルを姉さんに見せる。

「……相手に処刑方法を聞くなんて、いい趣味してるわね」

「えっ、本当?」

「……冗談に決まってるでしょ……」

「そっか……じゃあ記念に『タブー』にしよっか」

 画面をタブーに合わせ、押そうとした。

 ピピピピピピ……!

 場違いなアラーム音が鳴った。

「あっ、お店に『最後のお客さん』が来たみたい」

「ゾーン!」

 画面を別のメモリ、ゾーンに変えると作り出したメモリをベルトに刺し込む。

「処刑はまたあとでね~」

 ピラミッドに碁盤の脚が付いたようなゾーンになると一瞬にして姿を消した。

「……なんてマイペースなんだ……」

「それでしばらく命拾いしたのはたしかだけど」

 

 ぼくは縄を(ほど)こうともがく。

「何してるのよ」

「このままだと街が破壊されてしまう!」

 クリエイトも気にかかるが、優先すべきはウェポンだ。

「どうする気? 仮面ライダーになるの?」

「ああ。最悪、ぼく一人ででも止めてやるさ……!」

 幸運にも千歳は作業台にベルトとメモリを置いていった。あれを使えば……。

「どういうこと? あの冴えない探偵は?」

「ギックリ腰だ……!」

「肝心なときに役に立たない男……」

「……そんなことない。彼は、最高の相棒、だよ……! 駄目だ、ほどけない……」

 時間がない。「奥の手」を使うか。

 

 瞬時に店に戻った千歳は身なりを整えるとカウンターに出る。

「いらっしゃいませ~。……あれ?」

 店内にはだれもいなかった。

「帰っちゃったかな~?」

 念のための確認で店の外に出た。

「やっと見つけたぜ。『マッドレディ』?」

 亜樹ちゃんとともに死角に隠れていた翔太郎が杖をつきながら千歳に指鉄砲をつきつけた。

 千歳は首を傾げる。

「あなたたちがお客様?」

「いいや、違う。探偵さ。街の涙を(ぬぐ)う、な」

「何それ?」

 翔太郎の肩書を嘲笑う千歳の背後を塞ぐように照井竜が立った。

「千歳妙子。おまえにはガイアメモリ不法所持と販売の容疑で逮捕状が出ている」

「……冗談でしょう?」

「生憎、マジだ」

「どうして私の場所がわかったの?」

「探偵舐めんなよ? この街は俺の庭だ」

 

 翔太郎は事務所のベッドで楽な態勢になりながら、暇潰しを兼ねて照井竜から渡された資料を見ていた。

「翔太郎君、熱心だねー」

「……ジッとしてんのは(しょう)に合わねーんだよ」

 そこである文面が目に入った。

(ん? メモリを使った連中……)

「照井。最後の被害者、どっからメモリを出したって?」

「犬のリードの手持ち部分だ」

 それを聞いた翔太郎が笑みを浮かべる。

「素人がそんなところにメモリを隠すなんて普通考えつくかよ。それに、そんなとこに仕込める奴なんざ、そういないだろ」

「……ペットショップの人間か」

「見てみな」

 資料によると、被害者たちは死亡する前に必ずあるペットショップを通っていた。

「あたってみるか。左、協力感謝する」

「……待ってくれ、照井! 俺も連れてってくれ!」

「えっ?」「何?」

「……フィリップは、あいつは今、俺の代わりに街の笑顔のために走り回ってる。……探偵として黙って見てられねーんだ。頼む照井! ドーパントはまかせるから、店は俺が探させてくれ!」

 翔太郎の支離滅裂な願いに、照井竜はあきれた顔をした。

「……悪化しても知らんぞ」

 やれやれと照井竜が承諾すると、翔太郎は薄ら笑いを浮かべて、老人になったときに使っていた杖をひっぱり出した。

「上等だ」

 

 さすがは翔太郎だ。そこから数十分と経たずに店舗の特定を成功させた。

「ここが最近できたっていう、ペットショップか……」

「そう。人懐っこくて美人な店長さんだからあっという間に評判になってさ」

 店長……このころはサンタちゃんと呼ばれていた、翔太郎の支援者である情報屋集団・風都イレギュラーズの一人だ。

 その名のとおり、一年中、サンタクロースの恰好をしており、さらにスキンヘッドにサングラスという知らない人が見たら通報間違いなし。

 だが彼は街で働く人たちの裏事情にとくに詳しい。今回の件にはうってつけの人材だ。

「……でも、たまーに小さな紙袋を大事そーうに抱えた人がいるんだって」

「なるほどな。わりーな、サンタちゃん。入院中で電話で良かったのにわざわざ来てくれてよ」

 そう。サンタちゃんは今、包帯でグルグル巻きになっていた。

 彼はエターナルの事件で新型メモリの被害に遭い、ドーパントとして暴走したところをぼくたちが撃破し、その後遺症で入院中だったにもかかわらず、怪我を押して来てくれたのだ。

「いいのいいの。他でもない翔ちゃんの頼みだから! だけど、あの店長さんがガイアメモリに関わってるかもしれないなんて、人は見かけによらないね。あのペットたちも可哀そうだなー……アイタタタ!」

 サンタちゃんが派手な動きで身体の痛みを訴える。

「あー、あとは俺たちにまかせてくれ! ありがとうな。サンタちゃん。ウォッチャマンにもよろしく伝えてくれ」

「わかったよ、じゃあね。アイタタタ……」

 サンタちゃんは痛みをこらえつつ、名残惜しそうに病院へと戻っていった。

「さて、頼むぞ亜樹子」

「了解!」

 亜樹ちゃんがペットショップに入っていくと呼び出しベルを押し、素早く外に出てくる。

 そして、店長の千歳が出たところを三人が取り囲んだ。

 

 一方、ガイアタワーの地下格納庫。

「見ていろ園咲琉兵衛ッ! 街を徹底的に破壊してやる!」

 エレベーターの上で意気込んでいるウェポン。

 機嫌良さそうに高笑いしているところ、悪いが。

「そうはさせない」

 ぼくは陰から姿を現す。後ろには姉さんもいる。

「なっ⁉ おまえたち、どうやって縄から抜けた⁉」

「ちょっとした手品さ。インチキとも言えるけどね」

 タネは簡単だ。飛来した鳥型のエクストリームメモリがぼくを吸収した。ただそれだけ。

 エクストリームはファング同様、ライブモードを持つ自立行動型ガイアメモリだ。

 これを使うことでぼくらは「究極」の姿、W・サイクロンジョーカーエクストリームになれる。

 その他に重要な特殊機能として、ぼくの肉体をデータ化して取り込める。

 それを利用して、あっさりと縄を抜け出して姉さんも救出した。

「おまえを絶対に街には向かわせない」

「私の邪魔をする気かッ!」

「当然だ」

 ぼくは愛する街を守るために。

 

 千歳は翔太郎の能力に舌を巻いた。

「へ~。思ったよりすごいんだね。探偵って」

 翔太郎は帽子をなでながら鼻を鳴らす。

「美女からのお褒めの言葉はありがたく頂戴するが……あんたがガイアメモリのコピーをばら撒いたのは、間違いねーな?」

「『オーダーメイド品』。欲しい人にあげて何が悪いの?」

「たしかに使ったのは本人の責任だが……。(そそのか)した、あんたの罪は消えねぇぞ」

 翔太郎は街を傷つける悪意に。

 

「愛する街を破壊するなど許さない」「これ以上街の人間を泣かさせねぇ」

「「おまえの計画はここで砕く!」」

「田名後長市!」「千歳妙子!」

 ぼくは右人差し指を真っ直ぐに伸ばし。

 翔太郎は左手首のスナップを合わせ、指鉄砲の形にして。

 

「「さあ」」

 

 相手を指し、この言葉を突きつける。

 

「「おまえの罪を数えろ!」」

 

 風都のまったく別々の場所で「ぼくたち」の決め台詞が響いた。

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