風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章2「街に現れたc/風の戦士再び」

 千歳は取り囲む三人を見て合点がいったようにうなずく。

「なるほど。あなたたち『仮面ライダー』ね。でも、簡単には捕まってあげないよ」

「クリエイト!」

 素早くチョーカー型のドライバーにメモリを刺してドーパントになった。

 それを見た照井竜が変身ベルト・アクセルドライバーを装着する。

「左、所長、下がっていろ。約束どおり……ここからは俺の仕事だ」

「頼むぜ……照井!」

「頑張って竜くん!」

「アクセル!」

 照井竜は顔の前にメモリを掲げ、叫ぶ。

「変ッ……身!」

 ベルトにメモリを押し込み、スロットルをひねる。

 照井竜の身体をエンジンの駆動音とともに赤い閃光が走った。

「アクセル!」

 メカニカルな全身の装甲、バイクのヘッドライトに似た頭部が単眼として青く輝いた。

 深紅の鎧を身にまとった戦士・仮面ライダーアクセル。

 アクセルは巨大な剣・エンジンブレードを引き抜くと言い放つ。

「さあ、振り切るぜ」

 

 ぼくはロストドライバーを腰に巻く。

「サイクロン!」

 メモリを鳴らす。

「変身!」

 そのままスロットに装填。顎に右手を当てるとその手でスロットを開く。

「サイクロン!」

 緑色の光とともに突風が吹き荒れる。

 ウェポンがその風圧をなんとかこらえていた。

 風がやめば、ぼくの身体は仮面ライダーサイクロンに変わる。

「仮面ライダー⁉ ……貴様、何者だッ⁉」

「風都を守る風さ。だが悪事を働く相手には、嵐にもなるけどね!」

「『風都を守る風』……。あの半人前に影響受け過ぎじゃない……」

「冴子さんは隠れててくれ」

「指図しないで。言われなくてもわかってるわよ」

 姉さんを避難させると、ウェポンと向き合う。

「おまえのような青二才(あおにさい)に邪魔されてたまるかッ!」

 ウェポンが肩に付けたレーダーをぼくに向けると、ミサイル発射機から十発近いミサイルが発射された。いっせいに迫ってくる。

 だが、むしろありがたい。今のぼくなら。

 ミサイルの風も力に変えられる!

 

 ゼロが「力を無」にして相性が悪いなら、ウェポンは攻撃一つひとつが「力を与える」ため相性が良すぎる。

 ボディーに刻まれたラインから風を吸い込むと、全身を包むように緑色のオーラを作って防御する。

 それでミサイルの軌道を変え、見当違いの壁に着弾させた。

 ぼくは風を切り裂くように距離を詰めて一撃を与える。

 ガードは硬いが……たしかな手応えを感じた。

「なんだと⁉」

 そこまで広くない空間だ。重量タイプのウェポンは動きづらくて仕方ないだろう。

 対して身軽なぼくは動いて風を取り込み、それを力に換えて相手を攻撃し続ける。

 千歳は言動・思想が難ありだが、腕はたしかだったようだ。

「ええい! ここでは満足に戦えん!」

 地の利の不利を悟ったのか、エレベーターの起動スイッチを叩きつぶす勢いで押した。

 斜行(しゃこう)エレベーターが動き出す。

「外に出さえすれば、私の勝ちだッ!」

「させるか!」

 風をまとった両手の手刀で奴の装甲を切り刻んでいく。

 重装甲ゆえにぼくのスピードに対応できていない。

 ワンサイドゲームだ。

「や、やめろッ!」

「そっちが諦めるならやめるさ!」

「グウウウッ……! 舐めるなァッ! ウラアアアアアッ‼」

「な、なんだ……⁉」

 ウェポンは(うずくま)ると身体から激しい駆動音が聞こえはじめた。

 全長十メートルほどのキャタピラーを四足歩行にした戦車のような姿に代わる。

 いくつかの形態変化を持っているのか……!

 兵器の名は伊達ではないようだ。

 ギュルルルルル!

 ウェポンはキャタピラーを腕や足のように使い、エレベーターの壁や床の斜面に沿わせると駆けあがっていく。

「待て!」

 追いかけようとするぼくに向かって、無茶苦茶に砲弾やミサイルを連発してきた。

 くそっ! 弾幕で近づけない!

 ドドドン‼

 空中で無数のミサイルが炸裂した。

「うっ、あぁぁぁぁ⁉」

 その衝撃で壊れたエレベーターごと、ぼくはなすすべなく下まで落とされてしまった。

 

 一方のアクセル対クリエイト。

 意外にも戦況はアクセルに傾いていた。

 クリエイトがアクセルの能力や、エンジンブレードによって振り回されていたのだ。

 作り出した物はブレードの重量を合わせた叩き切りで砕かれ。

 生身のぼくたちでは手も足も出なかった編み込みの糸で拘束しても、バイクのエンジンをふかす要領でドライバーのスロットルを回し、エネルギー充填しボディーを加熱させて引きちぎる。

「技」に対して、「力」で押し切っていた。

「私が作った物を壊すなんて……君、無茶苦茶だね!」

「俺につまらん小細工が通用すると思うな」

「ふ~ん。じゃあ、これならどう?」

「ウェザー!」

 クリエイトはウェザーメモリを作り出すと、エプロンの横開きのファスナーを開き、ベルトに刺し込む。

 体色は白を主体に黒や金が配置され、後頭部に(まげ)、肩と首回りにかけて風神の風袋のようなものに、腰には龍、胸には太陽、額には雲、肩には三日月意匠(いしょう)があり、まさしく天気が手足を付けて歩いているような姿、ウェザーに代わった。

「違うドーパントになった⁉ 私、聞いてない!」

 亜樹ちゃんがいつもの口癖を叫ぶ。

「それが中毒死した連中が使ってたメモリのカラクリか……!」

「多彩な攻撃を持つ、このドーパントに勝てるかな?」

 偶然にも照井竜にとっては家族を殺害した(かたき)・井坂深紅郎が変身していた宿敵だ。

「……俺に、質問するな……!」

 手から吹き出す冷気にアクセルは怯むことなくつっこんだ。

 

 エレベーターから落とされたぼくは空中で体勢を直す。

 ドスン‼

 エレベーターが派手な音を立てて止まったところで静かに降り立つ。

 見上げれば、ウェポンが小さく見える。

「追いかけなければ……!」

 だが、サイクロンの風の推力で追いつけるかどうか……。

「待ちなさい!」

 するとヘルメットをかぶった姉さんがミサイルによって開いた壁の向こうから、ハードボイルダーそっくりのバイクに乗って飛び出してきた。

「これは……!」

 駆け寄ってみると、純白でフロントカウルの角がない代わりに赤いミュージアムのロゴがあり、前部分には赤いラインが入れられ、後部に小型の六発のダッシュブーストユニットが装着してある。

 それ以外はハードボイルダーそのものだ。

「向こうにあったわ」

「ハードボイルダーの原型機か……!」

 おそらくシュラウドが組織(ミュージアム)の構成員の移動手段として作成していたが、離反した際に知られずに放置されていたのだろう。

「失礼!」

「えっ、ちょっと⁉」

 ぼくは姉さんを後部に移すと前にまたがり、エンジンを吹かす。

「よし。姉さん、つかまって!」

 渋々といった様子で姉さんはぼくの腰に腕を回した。

「……来人。あんた、いつの間に免許を取ったのよ?」

「秘密さ!」

 

 ぼくはハードボイルダーの原型機……翔太郎にあやかり「ハーフサイクロン」と名づけようか。スロットルをひねって斜面を駆けあがる。

 ポタッ、ポタッ……。

 空から水が落ちてくる。

 天井のシャッターが少しずつ開き、海水がなだれ込みはじめていた。

 水の勢いでバイクのスピードが落ちる。

「まずい、追いつけるか……⁉︎」

「……来人! アクセルを戻して、クラッチを握りなさい!」

「えっ?」

「いいから!」

 言われたとおりにすると、姉さんがペダルの下につま先を入れて蹴りあげるようにしてチェンジペダルを上げた。

 ギアチェンジし、スピードがさらに上がる。

 バイクの周りを水が盛大に跳ねる。

「姉さん……?」

「……社長になる前はツーリングが趣味だったの。悪い?」

 ぼくは姉さんの意外な趣味に驚きつつも、ウェポンのあとを追いかけた。

「しつこい奴らがァッ‼」

 気配に気づいたのかウェポンがぼくたちに向かって弾幕を放ってくる。

 ぼくは迫るミサイルを速度まかせにかわし……遂にウェポンの横側面につけた。

「ええい! かくなる上は! 限界突破ダァァァッ!」

 ウェポンの戦車形態の身体が肥大化し、戦艦と戦闘機を合わせたような巨大な姿に変化していくのを見た。

 これがリーサル・ウェポン……⁉

 その巨体がエレベーターの広さに収まらず、ぼくらを壁に押しつぶさんばかりに迫ってくる。

 まずい! もっと、もっと速く!

 するとぼくの想いにメモリが反応したのか、ハーフサイクロンから受ける向かい風をぼくの身体のラインが吸収しエネルギーに換えて、スピードメーターがオーバーフロー起こした。

 途方もないエネルギーの循環でベルトから電撃が走り、つぶされる前にリーサル・ウェポンより先に外に出られた。

 

 少し間を置いて、壁を擦りながらリーサルウェポンの船体が徐々に地上に現れる。

 だが、数門の艦砲がぼくたちに向けられていた。

 仕方ない!

「姉さん、このまま飛ぶよ!」

「はぁ⁉ 待ちなさい……!」

 姉さんの静止を振り切って、ぼくはハーフサイクロンを走らせる。

 ところが、飛び乗ろうとした瞬間。

 バツン‼

 タイヤがバーストした⁉︎

 異常な回転と経年劣化で耐えられなかったのか、タイヤが破裂した。

 ……いや! まだだッ!

 ドォン!

 ぼくはとっさにダッシュブースターを起動して、少しでも距離を稼ぐ。

 その間にも、ぼくたちに砲門から何発も砲弾が発射されたが、ぼくが発生させた風に(はば)まれ直撃することはなかった。

「飛ぶよっ!」

 ドガァン!

 バイクが砲門の一つに突き刺さる直前に、ぼくは姉さんの身体を引き寄せて受け身を取る。ぼくの変身が解けながら艦橋に投げ出された。

 さすがに過剰な出力に耐えられずベルトの安全装置が働いたらしい。

「……大丈夫かい?」

「……なんとかね……」

 ぼくたちが立ちあがるとリーサル・ウェポンに取り付けられたウィングのエンジンが起動し、垂直離陸をはじめた。

 バキバキ……!

「あっ……!」

 ハーフサイクロンが振動で振り落とされる。

 ……ドォーン……!

 地面に叩きつけられて爆発を起こした。

「……降りられなくなったわね」

「どちらにせよ、この巨大兵器を破壊しないと帰れない」

「これを破壊する? 本気?」

 姉さんは「まさか」という顔だ。

「どんなに巨大な敵であっても、探偵として、仮面ライダーとして街を守る。それがぼくの使命さ」

「……感情すらなかったあんたが『生きてる』私より『生きる理由』を持っているなんてね……。諦めが悪いのは血筋かしら……」

「?」

 このときはまだ真実を知らなかったぼくは、その言葉に何か引っかかりを感じたが……今の状況に集中した。

 一方で姉さんはどこか吹っ切れた様子だ。目には活力というのか……野心が戻ったように見えた。

(がら)じゃないけど。世界を救ってあげる」

 姉さんは服の中からタブーメモリを取り出す。

「えっ?」

「あんたが妙子から吹っ飛ばしたときに、取っておいたのよ」

「使って……大丈夫なのかい?」

「さあ?」

 まともな製造方法ではないため、危険だと思うが。

 

 そこで艦橋にスピーカーの起動を知らせる甲高い音が鳴り響いた。

「貴様ら! なぜ私の邪魔をする!」

 スピーカー越しに田名後の声がした。

「おまえにぼくが愛する街を破壊させないためだ!」

「超えるべき父をあんたなんかに倒させないためよ」

「愚かな奴らだ! そこまで死に急ぎたいのならば、まず貴様らを血祭りにあげてくれるわッ!」

 すると至る所にあった格納庫が開き、ぼくたちをミニチュアサイズの戦闘機が取り囲む。

「まさか、仮面ライダーと仲良しこよしする日が来るなんてね……。行くわよ来人」

「わかったよ。ね……冴子さん」

「タブー!」「サイクロン!」

 ぼくたちは同時にメモリを鳴らす。

 姉さんは首筋のコネクターに刺す。

 ぼくはベルトのスロットにメモリを押し込んで倒した。

「変身!」

「サイクロン!」

 巨大な空中戦艦の上に緑の風が渦を巻く。

 風がやんだとき、そこには一人の仮面ライダーと一人の怪人。

 これまで幾度となく死闘を繰り広げてきた者同士が背中を預けていた。

 

(所詮は格下の相手であり、有利なのは変わらないはず……!)

 そう思っていたウェザー・Cだったのだが。

 多彩で強烈な攻撃は(ことごと)く通用せず、逆に翻弄(ほんろう)されてしまっていた。

「嘘でしょ……! アクセルがウェザーに勝ったことなんてないはず……! どうして勝てないの⁉」

 自身のデータが通用しないことに焦っていた。

「……過ぎた情報だな。俺はどこまでも加速している」

 アクセルはベルトのマキシマム発動用のクラッチレバーを握り、スロットルをひねる。

「アクセル・マキシマムドライブ!」

「だが、特別に貴様の質問を一つだけ答えてやろう」

 ウェザー・Cへ向かって跳び、後ろ回し蹴りで吹き飛ばした。

「キャアッ⁉」

「井坂ではないウェザーなど、恐るるに足りん」

 じつのところアクセルは直近でウェザーを撃破していた。

 相手は新型メモリ(T2)を使った格下だったが。

 

 ウェザーメモリが粉々になりクリエイトに戻る。

「これで終わらせる」

 アクセルはストップウォッチ付きの青いメモリを取り出す。

「トライアル!」

 タイマー部分を回転させると三色のシグナルが付いた形態へと変化する。

「トライアル!」

 アクセルメモリと入れ替えるとF1のスタート音を鳴り響かせながらシグナルが切り替わる。

 アクセルの装甲が赤から黄、そして青へと姿を変化した。

 装甲が一気に削られ、スマートな形態になり、モトクロスヘルメットに似た頭部にオレンジの単眼が輝く。

 アクセルの強化形態・アクセルトライアルだ。

 

「すべて、振り切るぜ!」

 

「……『トライアル』……『挑戦』の記憶……。面白そう……!」

「トライアル!」

 強がりかクリエイトはトライアルをスキャンし、メモリを生成して刺し込む。

 ベルト以外はアクセルトライアルそのままの姿・トライアル・Cになった。

「嘘! 向こうも竜くんと同じ姿に⁉︎」

「……いや、奴相手に『焼き直しの力』なんか通用しないさ」

 驚く亜樹ちゃんに対して、翔太郎が照井竜への信頼から自信を持って言う。

「『焼き直し』かどうかためしてみる?」

「構わん。『十秒以内』に貴様を倒す」

「……面白い冗談だね……!」

「本心だ」

 両者、トライアルメモリをストップウォッチに戻し、ボタンに指をかけた。

 

 ぼくとタブーは竜巻や破壊光線で艦橋の上を荒らし回った。

 だが、小型戦闘機を叩き落とせても、守りは強固なのか小さなヒビが入る程度だ。

「このままだとジリ貧ね……! 来人! こいつの弱点は!」

「今、推測中だ!」

地球(ほし)の本棚」に入りたいところだが、無数の小型戦闘機がその隙を与えてくれない。

 いつもならぼくが頭脳担当でいることが多いのだが、一人では負担が分散できない。

 やはりWがどれだけバランスが良いのか思い知らされる。

 こんな時に翔太郎がいてくれたら……!

 そこでふと思った。翔太郎ならこんなときどうする?

 彼はペット探しも犯人探しも相手の気持ちになって考えることが多い。

 もし、ぼくがウェポンなら……命であるエンジンの駆動部分に陣取る。

「……おそらくエンジン部分だろう!」

「『おそらく』⁉」

「! させるかァ‼」

 すると中央部分の格納シャッターが開き、巨大な二連砲がせり上がってきた。

 当て推量だったが、どうやら核心をついたらしい。

「しょうがないわね。『おそらく』で我慢してあげる! 場所は!」

「戦艦をモチーフにしているのならば、中央から後部分だと思うが……!」

「……ああ、もうまどろっこしいわね!」

 じれったくなったのかタブーは両手を合わせると赤黒い破壊光弾を作りはじめた。

 意図を悟ったぼくはタブーのアシストに回る。

「なっ、何をする気だ⁉︎」

 ウェポンがあわててタブーに照準を合わせた。

「妙子には馬鹿にされたけど……すべてのエネルギーを一点に圧縮した攻撃でアンタの防御を破る! あとはまかせたわよ、来人!」

「だけど、冴子さん! そんなことしたら……!」

「来人! 街を守りたいなら! その覚悟を見せてみなさい!」

「……姉さん……。わかった!」

 極限まで圧縮しているのだろう、野球ボール程度の大きさにまで縮小している。

「や、やめろォッ⁉」

「圧縮完了ッ‼ 見てなさい! 園咲家の人間の意地を!」

「やめろおおおおおおおおおーッ‼」

 片側の砲門から砲弾がタブーに向かって放たれる。

 それが直撃する前にぼくが蹴り飛ばす。

「あら、中を見せてくれるなんて親切、ねッ‼」

 タブーが放った光弾が空いた砲台から中に入った。

 ヒュン……ドシュゥゥゥゥゥゥゥウッ‼

 小さな音がしたあと、船体に爆音が轟く。

 

 船を両断せんばかりの巨大な焦げ跡ができ、そこからエンジン部分と配線が接続されたウェポンが剥き出しになる。

 奴自身が操縦席そのものなのだろう。

「見えた!」

 ぼくはすかさずメモリをマキシマムスロットに押し込む。

「サイクロン・マキシマムドライブ!」

 メモリの全パワーを使い切って人の姿に戻りながら倒れる姉さんの後ろで、ぼくは垂直にジャンプする。

「お、俺の所に来るなぁぁーッ‼」

 刹那、かろうじて形が残っていたもう一方の砲門から発射される砲弾。

 それを前宙してかわし、右足を伸ばす。

 発射の風圧を取り込んだぼくは、風を置き去りにする勢いでウェポンにキックを決めた。

「ウッ、ブルアアアアアアアアッ……‼」

 断末魔を上げてウェポンは自ら戦艦の残った部分を破壊しながら外へと弾き出され、海に落ちる。

 ……ドボォォォン!

 少しの間を置いて、激しい水柱が立った。

 

 アクセルトライアルとトライアル・Cは同時にスイッチを押して(ちゅう)へ投げた。

 一秒目。二人はまったく同じ動きをした。

 二秒目……突然、一陣の風が吹き渡る。

 たった今、ぼくが放ったマキシマムが風都に流れる風に影響を与えたのだろう。

 向かい風となったトライアル・Cの動きが一瞬鈍った。

 相手に向かい風が吹いたということは、アクセルトライアルには追い風だ。

 バランスを崩した相手へ連続キックを決めていく。

 トライアル・Cに「T」字状の軌跡が浮かぶ。

 そして、十秒を切る前にアクセルトライアルは手に落ちてきたカウンターを止めた。 

「トライアル・マキシマムドライブ!」

 

「九・六秒。それがおまえの絶望までのタイムだ」

 

 パキッ!

 トライアル・C側のメモリが十秒を越えタイムオーバーしたことで耐えられず自壊し、姿がクリエイトに戻る。

「……それ、冗談? 本心?」

「わかりきったことで、俺に質問するな」

「あはは……本心か。アァァッ!」

 クリエイトに対して発動したマキシマムによって身体が爆散する。

 爆炎の中から現れた千歳は膝から崩れ落ちると、手に握る黒焦げの砕けたメモリを名残(なごり)惜しそうに見た。

「……同じ、メモリを、使ってるのに……負ける、なんて、ね……」

「当然だ。俺がこのメモリを使いこなすのに、どれだけ時間をかけたと思っている」

 変身を解いた照井竜が言い切る。

「……『学問なき経験は、経験なき学問に(まさ)る』か~……」

「意識はあるようだな。さあ、話を聞かせてもらうぞ」

「……ごめんなさい。捕まってあげられないかな~……」

「ゾーン!」

 千歳は隠し持っていたゾーンメモリを右こめかみに刺す。

「! 待て!」

「さようなら」

 千歳はゾーンになると、一瞬にして姿がかき消えた。

 

 本体を失い制御不能になったリーサル・ウェポンが部品をボロボロと落としながら、至る所から火柱を上げてバランスを崩しはじめた。

 ぼくは目に隈を作った姉さんに駆け寄る。

「動けるかい?」

「……動けるわけ、ないでしょう……」

 薄ら笑いを浮かべて倒れている姉さんを横抱きする。

「……ちょ、ちょっと……来人……⁉︎」

「暴れないでくれ姉さん。しっかり捕まって」

 ぼくは爆発するリーサル・ウェポンから飛び降り、落下の風を利用して地面に静かに降り立つ。

 その背後で空中戦艦が海に墜落すると、そのまま海中へと沈んでいった。

 おそらくあの様子では田名後は……。

「……もういいわよ、降ろしなさい……!」

 姉さんが顔や胸を殴りつけて抵抗するので、地面に下ろす。

「……なんで、助けたのよ……?」

「家族を助けるのは当然さ。それじゃあ不満かい?」

「まさか……今も家族だと思ってるの?」

「当たり前だ! ぼくは……!」

「諦めなさい。私たちはもう、そんなちんけな言葉で元に戻れないわ。家族を救うなんて不可能よ」

 ぼくの言葉を遮って、姉さんは吐き捨てた。

 残念だが……本心のように聞こえた。

「父さんや若菜姉さんが死にかけていてもかい……?」

 すがるように尋ねた。

「……あり得ないけど。死んでもお断りよ……」

 振り返りもせず、身体を引きずってガイアタワーの跡地へと入っていこうとする。

「姉さん! どこに行くんだ?」

「……あんたは勝手に帰れるでしょ? 私は……そのうち迎えが来ると思うから……」

「姉さん……」

「今日のことは『お互いに何も見なかった』。良いわね?」

 姉さんはそれだけ言って廃墟へ戻っていく。

 ぼくはその姿をただ見ていることしかできなかった。

 

 十分ほどして、妙子はゾーンの力でなんとか秘密基地まで戻ってきた。

 だが、そこで力を使い果たしたのか人間に戻った瞬間にメモリが砕ける。

「まずいな~……クリエイトのメモリが壊れたから……うっ……」

 一瞬頭を抑える……ハッとしたように辺りを見渡す。

 ウェポンのミサイルの影響で彼女の基地は火の手が上がっていた。

「千歳さん。お待ちしていました」

 いつの間に待ち構えていたのか、物陰から加頭が現れる。

「冴子さんを誘拐するなんて、私、驚いています。詳しく聞かせていただきましょうか」

 加頭の苦言に、千歳は振り返ると不思議そうな顔をして言った。

「千歳……って私の名前なの?」

 ガタン!

 加頭はアタッシュケースを落とす。

「まさか」

 加頭はそこで思い出した。機密保持のため旧組織(ミュージアム)の中核に近いメモリほど、記憶の破壊性が強くプログラムされていることを。

「千歳さん……」

「ここは、どこなの? あなたはだ~れ?」

 彼女からはもうこれ以上情報は引き出せない。思いだしようがないのだ。

「私は別件があるので。……あとは『二人』で話されるといいでしょう」

 それ以上、加頭は何も言うことなくアタッシュケースを拾いあげるとその場をあとにした。

「『二人』って?」

 不思議がる千歳の背後で人影が動いた。

「ナスカ!」

 加頭が確保していたナスカメモリを受け取っていた冴子がメモリを鳴らす。

「えっ?」

 その音に反応して振り返る。

 ズバッ!

 ナスカが振り落とした剣によって、千歳の身体から鮮血が吹き出る。

「……あれ? 私、切られ、ちゃった?」

 ズルズルと壁にもたれて座り込む。床に血が流れていく。

「……だれ、だっけ?」

「……あなたに殺されそうになった女よ」

「そう……なの……?」

「私、自分を殺そうとした相手を許せるほど優しくないの」

「……そっか。そうなんだ。……覚えてないけど、ごめんね」

 よくわからず謝罪する妙子に対して、ナスカの剣を持つ手に力が入る。

「……目が、見えなく、なってきた……死にたく……ないな〜」

 ぐったりとしていく。

「……ねぇ、そこの人……。最後に一つだけ……。覚えてないけど……私には、大事な友達がいた、気がするんだ……。しばらく、会えてなかった、んだけど……その人に……『いつまでも親友だよ』って、伝えて……くれる……?」

 そして、今わの際に千歳はあの童謡の三番を口ずさみ、自分が親友を忘れてしまったことを惜しんだ。

「……地獄で会いましょう……ちぃちゃん……」

「……さっちゃん……! それ、冗談? 本心?」

 声が聞こえたほうへ、とびっきりの笑顔を浮かべる親友。

 その首筋に向けてナスカはひと思いに剣を振るった。

 せめて痛みは一瞬であったことを祈って。

 

 ぼくにメモリブレイクされた田名後は悪運が強かったのか、なんとか海岸まで這いあがった。

「こ、こんなことが……! なぜ、俺ばかりが、貧乏くじを……!」

 必死に這う田名後の目の前に二本の白いズボンを履いた足が立ち塞がる。加頭だ。

「……き、貴様ッ……! ウェポンは、最強格のメモリじゃなかったのかッ⁉︎」

「いいえ。たしかに強いですが……あれは、ただの『金の縁』のメモリです」

 田名後にはゴールドメモリだと誤魔化していたのだ。

「ゴールドメモリは園咲家以外では数本しか現存しません。まあ、そのうちの一本がこれですが」

「ユートピア!」

 加頭は千歳が作ったガイアドライバーに、スポンサー特権で手に入れたメモリを刺す。

 片目しか開いていない金色の仮面、マントと軽鎧風の王様のような雰囲気のユートピアになった。

 杖を持った手を後ろに組み、凛々しい立ち姿を見せる。

「う、裏切ったのかァッ⁉︎」

「『裏切った』? とんでもない。最初からあなたは私の操り人形です。あわよくばテラーを倒してくれれば、なお良かったのですが……。それでも(かたき)役として十分な活躍をしてくれました。あとは『暴走したあなたの後始末をした』と園咲氏には伝えておきます」

「こっ、こん……こん、ちくしょうがァァッ‼︎」

 口から泡を吹きながら田名後がやぶれかぶれの特攻を仕掛ける。 

「さようなら。私の理想郷には……大事な人に手を出したあなたの居場所はありません」

 ユートピアは嬉しそうな口調で田名後の顔に手を伸ばした。

 

 加頭の目の前で「だれかわからない」身体が燃えているところに、冴子が建物から出てきた。

「冴子さん。無事でよかったです。大好きなあなたがいなかった間、私、怖かったです」

 それから滾々(こんこん)と心配だったという言葉が連ねられる。

「あっそう」

 そっけなく返すと、加頭には背中を向けていつの間にか傾いていた夕陽に目を向ける。

 こぼれる涙を見せないように。自分がそんな慈悲深い人間ではないと見せないように。思わないように。

「……長い、一日だったわ」

「そうですね」

 失った物はすくなくないが、親友や弟の生き様を見て冴子は生きる理由を取り戻せた気がした。

 

 夜。加頭は問題の解決の報告に園咲邸へ向かった。

「今回の件、手間をかけたようだね」

 微笑む琉兵衛とにらむような若菜。

「お得意様ですから」

 得意げに言うが、大半がぼくたちの功績だ。加頭は手柄を横取りしたに過ぎない。

「契約の件だが……もう少し延長を考えることにしたよ」

「それはそれは。私、嬉しいです」

「そうだ、ついでにこれを放蕩娘(冴子)に渡してくれるかね?」

(かくま)っていることは機密事項のはずだが……)

 渡されたその封筒には「招待状」と書かれていた。

「たしかに」

(やはり帝王にはWをぶつけたほうが良さそうだ)

 首の皮がつながったのもあるが、自身の計画が進むことに加頭は内心でほくそ笑んでいた。

 

 ぼくは何事もなかったように(よそお)って探偵事務所へ戻ってきた。

「やあ、みんな」

「フィリップ! 大丈夫だったのか?」

「あぁ、問題ない。少々、手間取ったけどね」

 そして、最後の迷子の一匹を翔太郎たちに見せる。

 それを仲間たちは自分のことのように喜んでくれた。

 不思議なことに腰を痛めていたはずの翔太郎は歩けるまでに回復していた。

「翔太郎。腰は大丈夫なのかい?」

「お、おう! すっかり治ったぜ!」

 彼自身も驚いている様子だ。

 ……やはり、ジョーカーがなんらかの影響を与えているのか?

 そんなことを考える片隅で、ぼくは姉さんの言葉について悩んだ。

『家族を救うなんて、不可能よ』

 本当に家族が救えるのか……?

 この悩みはぼくの中で(くすぶ)ることになる。

 あの……家族がそろった「最後の晩餐」の日まで……。

 

 事件のまとめに移ろう。

 ウェポンの件はぼくと姉さんとの秘密だ。不用意にみんなを心配させる必要もないと思ったからだ。

 傷もほとんど負わなかったから、翔太郎たちが気づくこともなかった。

 クリエイトの件は話を聞けば、知らず知らずの内に彼らが解決してくれたらしい。

 犯人を取り逃がしてしまったことだけは、照井竜は歯がゆい思いをしたようだが。

 そして、翌日、風都市長が消息不明とのニュースが出た。

 こちらは新聞とともに疑問符ばかりだ。

 園咲邸に向かって以降、足取りがつかめていないことになっている。

 念のために「地球(ほし)の本棚」で検索したところ、千歳・田名後両氏が死亡と記載されていた。

 ぼくと照井竜はメモリブレイクをしたので、それが原因で死亡した可能性はないと言える。

 おそらく裏で組織が手を回した、と考えるべきだろう。

 他に付け加えることと言えば……サンタちゃんがやけに千歳が残したペットショップを気にかけていると翔太郎から聞いた。

「ようやく、手に職をつける気になったのかもな」

 とは翔太郎の(げん)だ。

 あぁ、そうだ。今回、思いがけず強化され活躍したロストドライバーだが。機会があれば、翔太郎に渡すつもりでいる。

 ぼくの愛する街を守ってくれるように、と想いを込めて……。

 

 今となっては懐かしい。仮面ライダーサイクロンに思いがけず変身した一件。

 ぼくとしてはあの件をとおして、冴子姉さんの考えを変えられたと思いたい。

 加頭によって起こされそうになったガイアインパクトのときに、土壇場で若菜姉さんを助けたことがその証左(しょうさ)だと信じて。

「ところで翔太郎! 君は『年越しそば』という食べ物を知っているかい? 年末に食べる食べ物らしいのだが!」

 亜樹ちゃんから大掃除を中断している間に聞いた。

「正確には年末じゃなくて大晦日(おおみそか)だ。もう少し先だよ」

「そ、そうなのか……」

 大掃除が終わったら食べたかったものだから、残念だ。

「でも、そうだなぁ。いつもは風麺(ふうめん)の出前にしてたけど、今年は本格的に蕎麦(そば)にするか?」

「おっ、いいね!」

「私も食べてみたい!」

「年越しそば。じつに楽しみだ。ゾクゾクするね!」

 こうしていつものように、ぼくの興味は瞬く間に過ぎ去りし事件からなくなると、年越しそばなる食べ物に想いを()せるのだった。

 

 ~街に現れたC・c~

《完》




おまけ

創造(つく)って遊ぼ〜

「みなさんはじめまして〜。『創造(つく)って遊ぼ〜』の担当をする『ソウゾウおねーさん』だよ〜。で、この子はおねーさんが造った兵器(おもちゃ)『ウェポリ』だよ〜」
「……ウェポリだァ……。よろしく頼むゥ……」
「ウェポリはちょっと恥ずかしがり屋さんなんだ〜」
「……ところで、おねーさん……今日は何を造るんだァ?」
「ゴム鉄砲だよ〜」
「『ゴム鉄砲』?」
「そう、割り箸と輪ゴムで造れちゃうんだ〜。はい、造ったから使ってみて~」
「ふぅむ……」
 パチン……! パチン……!
「うまい、うまい! 手応えはどう?」
「……威力がなくて物足りん……」
「え〜。仕方ないな〜ウェポリは~。どうしよ〜……そうだ! 困ったときはこれ!」
「クリエイト!」
「おねーさん、その姿は……?」
「この姿になれば、なんでも造れちゃうんだよ! だから、これを、こうして、こうすれば……完成!」
「おねーさん、これは……!」
「『ガトリング砲』だよ!」
「素晴らしいじゃないかァ!」
 ド……ド、ドドッ! ドドドドッ‼︎
「ガトリング砲は一八六一年にアメリカのお医者さん、リチャード・ジョーダン・ガトリングが造ったんだよ〜」
「威力も申し分なしだァ‼︎」
 ドドドドドドドドッ‼︎
「あはは。ウェポリも喜んでるみたい! みんなも機会があるなら造ってみてね〜」
「ブルァァァァァァァァッ‼︎」
 ドドドドドドドドッ‼︎
「次回もまた見てね〜!」

 ……ドドドドドドドドッ……‼︎
「造れない……って言うか、子供に見せられないわよ。こんな教育番組……」

おしまい
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