風都探偵 The ANOTHER CASE 作:竜・M・美日
朝。聞き覚えのない目覚ましの音で目を覚ました。
「……あれ……?」
動いてない頭で隣を見ればあざみさんが寝てる。
あっ、そうだった……。依頼であざみさんの家に泊まってるんだった……。
あざみさんを起こす。
「おはよぉう。あざみさん。朝ですよお」
「ううん……」
あざみさんが目を擦りながら起きた。
「……おはよう、ございます……」
「朝だよ。起きて」
「……今、何時ですか?」
「えっと、七時半」
時計を見て言ったら、あざみさんの顔から血の気が引いていく。
「? どうかし……」
「日勤に遅刻する‼」
あざみさんはあわてて朝の準備をはじめるのを、私はびっくりしながら見ていることしかできなかった。
「嘘でしょ⁉ 目覚ましかけてたのに⁉」
そう叫ぶあざみさん。
たしかに目覚ましの音がした気がするけど。すぐに止まったような……。
多分、あざみさんが止めて、二度寝したんだと思う。
「どうしよう⁉ どうしよう⁉」
「お、落ち着いてあざみさん! とりあえず顔洗って着替えして必要な物を持って出勤! OK?」
「は、はいっ!」
私が指示を出すとやっと支度をはじめられたあざみさん。
そういえば今日はゴミの日だったよね。
「ゴミ出しとか、私にまかせてくれる?」
「そ、そんなことお願いしていいんですか⁉」
「大丈夫! 終わり次第、病院に向かうね!」
「すいません! ありがとうございます!」
嵐のように支度を終えたあざみさん。
「亜樹子さん! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい! 気をつけてね!」
見送った私は散らかった部屋を見る。
頬を叩いて気合いを入れて、
「よっしゃあ! やったるでぇ!」
それから私はアパートとゴミ捨て場を何度も往復した。
「おらおらおらおらー‼」
それが終われば、今度は部屋、トイレ、お風呂の掃除。
「ゴシゴシゴシゴシイ‼」
遠慮したい仕事だけど、やってみれば案外、汚れが気になって夢中でやってたら結構見違えるくらいになった。
「ふぅ……。やるやん、私」
我ながら良い仕事をしたと思いつつ一息ついて、時計を見る。
もうすぐ針が十二時を指そうとしてた。
「って、昼前になっとるう⁉」
私は昨日の晩に預かった合鍵でドアを閉めると、あわてて病院へと向かった。
病院の前には既に竜くんが待ってて、手を振ると振り返してくれた。
こういうところが竜くんの良いところだよね。
「ごめん! 竜くぅん、待ったあ⁉」
「いや、今来たところだ。所長とともに入ったほうがいいと思ってな」
私は嫌な予感がして、そのときはまだ現役のガラケーを見ると二時間くらい前に着信が入ってた。
背中に冷汗が流れる。
「ごめんなさあい!」
「いや、構わん」
竜くんは何か言いたげだったけど、すぐに仕事の顔になった。
「それはともかく。藍沢あざみから何か聞けたか?」
「うん。聞いたのは聞いたんだけど……」
いびりについて言おうとして……思いとどまる。
私を信用して話してくれたのに、勝手に言っちゃって良いのかな……。
「いや……話さないって約束しちゃったから……」
って、馬鹿正直に言っちゃった。
「……そうか。なら無理には聞かない」
「えっ。良いの?」
「守秘義務があるからな。理解している。行こう」
さすが竜くん。でも、それっぽいことは言っておいたほうがいい気がした。
「じゃあさ、私のひとりごと! えっと……お医者さんや看護師さんだからって、いい人ばかりじゃ、ないのかも……」
竜くんは足を止めて振り返ると、私のことをジッと見てくる。
伝わったかな。私の言いたいこと。
「所長。それは身を
言われて、ハッとした。
頭に浮かんだのは、あの白い天気のドーパント……。
私、またいらんこと言ったかも……。
「……だが、全員じゃない。命を救おうと奮闘している者もいる。それも事実だ」
それだけ言って、中に入っていった。
駄目だなぁ。私……。
私が依頼を受けたから気合いが入りすぎてるのか、空回りしているような自分を情けなく思いつつ、病院のゲートを潜った。
あざみさんを見つけることはできたけど仕事で余裕がなさそうで、邪魔するわけにもいかないから、仕事が終わるまで見守ってた。
その間に竜くんが病院の院長さんに事情を説明してくれたおかげで、日勤終了後、あざみさんを含めた上司と先輩にラウンジへ集まってもらえた。
「看護師長の
「……副看護師長の
「藍沢さんの一年先輩の
看護師さん用のユニフォームに身を包んだ三人。
胸のネームプレートにはそれぞれ、「四ノ森
私の第一印象。
看護師長さんは中肉中背で四、五十代の見るからに「お
副看護師長さんは三十代で眼鏡をかけて、三人の中で一番背が高い。名乗ってからはずっと眼鏡を拭くだけで黙ったまま。感情を出さないタイプなのか
芦田さんは私たちと身長も年齢もそんなに変わらないくらい。この中ではいちばん愛想が良さそうだけど、なんとなく猫をかぶってるように見える。口調からは、ギャルというか、ぶりっ子っぽい。
看護師さんは「白衣の天使」なんて言われることが多いけど、私からするとこの三人については「白衣を着た悪魔」みたいに見える。
気弱そうなあざみさんが苦労しそうな人たちだと思った。
「刑事さんと探偵さんだそうで」
四ノ森さんは私たちのことを不審者みたいな目で見てくる。
たしかに私はTシャツと短パンで竜くんは赤ジャケットだから、格好からは働いてるようには見えないかもしれないけど……感じ
「で、新人が何か?」
すると私たちがいるのも構わず、四ノ森さんはあざみさんをにらむように見た。
あざみさんがうつむいて身体を小さくしてる。
あっ、嫌いや。この人。
毎日のようにこんな風に威圧されながら仕事してたら、気が滅入るし、仕事に身が入らないと思う。
もちろん、そんなことを言ったりしないけど、私の「風都の悪女ランキング」の上位に入選した。
「あざみさんから話は聞かれましたか?」
「いえ、遅刻してきたので、注意してから勤務に入ってもらいました」
うわっ。聞いてもないのに、遅刻したって言ってきた。
「そうですか。じゃあ、私が代わりに……」
「本人が話したほうが良いんじゃないですか? 子供じゃないんですから」
私の説明を
「何があったの? 話したら?」
四ノ森さんは渋々、聞いてやろうという上から目線の口調。
後ろにいる植山さんはまったく興味なさそうだし、芦田さんは竜くんのほうをチラチラと見てる。
多分、この様子だとこの二人は取り巻きやな。
「……あの……ゆ……が」
「はい? 聞こえない。はっきり言いなさい」
そんな言い方したら、どんどんあざみさんが話しづらくなるじゃん……!
「き、昨日……夜、帰り道で……幽霊に、襲われました……!」
勇気を振り絞って声をあげるあざみさん。
「幽霊? 何言ってんのよ。そんなことで警察に頼って、私たちの時間を取ってるの」
四ノ森さんは怒り交じりに本気であきれてる。
「……遅刻の言い訳にしても、子供のほうがよっぽどマシなことを言えます……」
植山さんも信用してない感じ。
「そうなの? 怖い。私も夜勤とか気を付けないと」
芦田さんは笑ってるのを手で隠しながら、小馬鹿にしてた。
腹立つう!
「ちょ……!」
さすがにあざみさんが気の毒で言い返しそうになるのを、竜くんが肩を抑えてくれた。
でも、その険しい顔から、怒ってるのが伝わってくる。
「何者かが彼女に危害を加えようとしているところは我々も見た」
えっ、という顔をする三人。
「はい、そうです!」
すかさず私も援護する。
「そうなの?」
「……はい……。お二人に助けていただきました」
そこで三人は一転、気まずそうにしはじめた。
なんや。私らが言わんかったら、そのまま馬鹿にするつもりやったんか。
「彼女が幽霊に襲われたとは言わんが、暴漢の可能性も考えられる。しばらく彼女の様子を見させてもらいたい。もちろん仕事の邪魔をしない範囲でだ。院長からも許可を得ているが、改めて了承してもらえないだろうか」
口調は優しいけど、有無を言わさない雰囲気。
「……院長の許可が出てるなら、どうぞ」
すごく嫌々そうに、了解してくれた。
なるほど。自分より上にはかみつかないタイプね。
「それで、話は終わりでいいんですか?」
「あぁ、こちらからは以上だ」
「ともかく、そんなことを気にするくらいなら遅刻について考えてほしいわ。じゃあ、今日は上がります。植山さん、芦田さん、夜勤お願いします」
「……はい……」
「お疲れ様です」
捨て台詞みたいにいうと、三人はまるであざみさんがいないみたいに解散した。
「……気分の良い人たちじゃあなかったね。あざみさん大丈夫?」
その後ろ姿を見ながら、この場で言える精一杯の嫌味を言った。
「……大丈夫で……」
すると、あざみさんは緊張から一気に力が抜けたのか、フラッと倒れそうになった。
あっ、と思った瞬間。素早く男の人が抱きかかえてベンチの上に寝かせた。
「大丈夫?」
その人がお医者さんなのは白衣を着ているからすぐにわかった。
「……すい……ません……」
「軽い貧血かな。家に帰ってゆっくり休んだほうが良いね」
「……ありが、とう……ござい、ます……」
「あっ、あの」
私が声をかけると先生が振り返る。
これがまた笑顔が爽やかなイケメン。
危うくなびきそうになったけど、竜くんの手前、グッとこらえた。
「ありがとうございます」
「助かった。我々……」
「風都警察署の照井竜警視と鳴海探偵事務所の鳴海亜樹子所長、ですよね」
「えっ。どうして?」
驚く私たちに先生は目を閉じると額に指を置く仕草をする。
「超能力」
「へっ?」
「……って、冗談です。照井さんは以前から噂を聞いていましたし、弁当を食べていたらお二人の自己紹介が聞こえただけです」
ニコニコと笑う先生は、一つ咳ばらいをすると改めて自己紹介をしてくれた。
「失礼しました。
すると浅井先生はあざみさんを見て、ホッとしたような表情をした。
「……お知り合いですか?」
「いいえ。新人の顔合わせで名前を知ってる程度です。話が聞こえたときは部外者なので離れようと思ったんですが……。『襲われた』、『暴漢』という言葉が少し聞き捨てならなかったので」
そう、どこか遠い目をして言った。
なんとなくだけど、あざみさんのことを心配している気がした。
「それでは、これから夜勤なので失礼します」
「失礼します」「失礼する」
私たちが頭を下げると浅井先生はお弁当を片付けて仕事に戻っていった。
「彼、何かあったのだろうな」
「竜くんもそう思う?」
「……ともかく、動けるようになったら彼女を自宅に運ぼう」
「了解」
それからなんとか動けるようになったあざみさんを竜くんにおぶってもらって私たちは病院をあとにした。
「にしても、あの幽霊、何が目的なんだろう?」
「わからん。悔しいが……相手が動かん限り、捜査もできん」
一抹の不安がありつつ、私たちの帰り道は何も起きなかったけど……。
事件は病院で起きた。
深夜。夜勤担当の植山さんと芦田さん。
「……芦田さん。見回りの時間よ……」
「うわぁ。もう? ……副師長、見回りいっしょに行きませんかぁ」
「……今日はあなたの担当でしょ……」
「一人じゃ怖くて無理ですぅ。あの子が来てからはずっとまかせてたんですよぉ。今度、あたしがお願いして、
猫なで声でごねられた植山さんは大きくため息をついた。
「……わかったわよ。もう、仕方ないわね……」
「さすがぁ、副師長。頼りになるぅ」
芦田さんは懐中電灯を取り出すと手の中で遊ばせる。
「……調子良いわね。ちょっと待って、眼鏡に汚れが……」
「副師長ぉ。眼鏡なんて拭いてないでぇ、早く行きましょうよぉ」
「……私は眼鏡がないとカルテも読めないのよ……」
二人は非常灯以外ほとんど明りのない院内を見て回る。
「……ナースコールが鳴ったときに、ナースセンターが空いてたらまずいのに……」
「パッと見てパッと帰りましょ」
雑談をしながら見回りをする二人、残りは地下フロアだけ。
「ほんと地下は最悪ですぅ」
「……いい加減慣れなさいよ……」
「霊安室とかあるんですよぉ。じつは私、昔から霊感があってぇ……」
「……はいはい……」
二人はエレベーターから地下フロアに降りていく。
ドアが開くとそこは地上階より真っ暗の廊下。
「うわぁ、相変わらず雰囲気あるぅ」
「……早く見て回るわよ……」
二人の見回りはとくに異常もなく終わった。
「……ほら、何もなかったじゃない……」
「そうですねぇ。ありがとうございましたぁ」
「……ところで芦田さん、さっきの件、忘れないでよ……」
「まかせてくださ……」
エレベーターを待っていた二人はそこで黙った。
「……何か言った……?」
「……え、えっ……? な、何も言ってませんよぉ。やめてくださいよぉ」
「『あ~あ』」
一気に二人の顔色が悪くなる。
なぜなら廊下の奥から、植山さんの声が聞こえてきたから。
でも、本人が何も言ってないのは二人ともわかってる。
「えっ、嘘でしょ。植山さんの声じゃないですか!」
「……し、知らない……」
「『……あのぶりっ子の相手するのもめんどくさいわ……』」
「へっ、あっ、えっ、それって、あたしのこと……?」
「……い、いや……」
「『……あのお
「……そ、それ、どこで……⁉」
身に覚えがあるのか、顔色が青ざめるのを通り越して白くなった。
「ふ、副師長そんなこと思ってたんですか……」
芦田さんが
「……ち、
「『あの子がいなくなって清々したぁ。おかげでここで働けたからぁ』」
今度は芦田さんの声が聞こえてきた。
「嘘……でしょ……」
「……な、なんの話……?」
「『早く浅井先生と付き合って
芦田さんは歯をガチガチと音を立てて怯えだす。
「な、なんで知ってるのよ⁉ つぶやいただけのこと……!」
「『あたし』はなんでも知ってるよ。だってぇ、『あたし』はあたしだから」
芦田さんが声が聞こえたほうへ懐中電灯を向けると……そこには嫌な笑顔を浮かべる真っ黒な「芦田さん」がいた。
「イヤアアアアアッ⁉」
「……ま、まさか、嘘で……痛っ⁉」
芦田さんが植山さんを突き飛ばす。弾みでかけていた眼鏡が外れた。
そのまま芦田さんは一人でエレベーターに乗り込むと、
「ちょ、ちょっと、待って! 待ちなさい! 芦田さん! め、眼鏡はどこ⁉」
目が悪い植山さんはあわてて眼鏡を探すけど、懐中電灯を持っていたのは芦田さんだからドアが閉まったとたんに辺りが暗闇になる。
「……め、眼鏡は⁉」
バキッ!
「へっ……?」
音がしたほうに手を伸ばすと、そこにはレンズが粉々になってひしゃげた眼鏡があった。
それはつまり、ここには何かいる、っていうこと。
そして、背中に足を乗せられた感覚がして……。
「ギイャアアアアアッ‼︎」
骨が砕ける音といっしょに植山さんの絶叫が深夜の病院に響いた。
「ということらしいんですが……」
夕方ごろ、事件が起きたと夜勤明けの浅井先生から連絡が来た。
念のために私たちにも伝えておいたほうがいいと思ったみたい。
浅井先生がトイレに行こうとしたところで腰を抜かした芦田さんを見つけて話をなんとか聞き出して、すぐに警備員さんを連れて地下に降りると、背中が汚れたまま横たわる植山さんが見つかった。
ちなみにその汚れと
検査の結果、強い力で背骨が押し潰されたみたいになって……今も意識不明のままだって。
ただ、意識が戻っても
「ゆ、幽霊が襲ってきた……?」
あざみさんは自分が襲われたことが夢じゃなかったことがわかって顔色を悪くしてる。
「馬鹿馬鹿しい。幽霊なんているわけないでしょ」
「師長……ほ、ほんと、なんです……」
芦田さんは毛布に包まって震えている。
「私も本当だと思います。現に植山さんが襲われてますし……」
私が擁護したら四ノ森さんは鼻で笑った。
ほんま、感じ悪ぅ。
「それが幽霊の仕業だっていうの? 植山さんには悪いけど、何かで滑って階段から落ちたんじゃないの?」
部下の一人が大怪我を負ったのにまったく気にしてない。
結局、自分以外はどうでもいいみたい。
「ち、違います……!」
「……警察としてはどういう見解なの?」
四ノ森さんは話にならないと思ったのか竜くんに尋ねる。
ちなみに竜くんの後ろには部下の
話を聞いて連れてきたみたい。
「我々としては、
「は? ちょっと警察が何言ってんのよ。私も聞くけど、所詮は噂よ。噂。そんなことを真に受けるなんて……」
竜くんにも嫌味ったらしい四ノ森さんの話の途中で、部屋のライトがいきなり消えた。
「おわっ⁉ 電気が消えた⁉」
「じ、
「
「なんで電気が消えたの⁉」
みんながいっせいにパニックになる。
「だれの
「『あの、新人まったく使えないわ。邪魔なだけだし、さっさと辞めてくれないかしら』」
えっ、とそこにいた全員が困惑した声をあげた。
今の……四ノ森さんの声だよね?
ブン!
私の近くで風が鳴る。
「えっ?」
ガツン。
何か硬くて鈍い音がした。
「グッウ……⁉」
「今の音、何⁉」
またみんながパニックになる。
「全員落ち着け! 電灯のスイッチは!」
竜くんが一喝して場をまとめる。
「待ってください! 僕の傍に……!」
浅井先生の言葉から、ちょっとして会議室のライトがついた。
「明るくなったあ……よか……」
「「キャアァァァアッ⁉」」
真っ先に異変に気づいたあざみさんと芦田さんが椅子から転げ落ちるように、そこから離れる。
「えっ……? 嘘……!」
「何⁉」
そこには椅子にダラリともたれて……頭にできた「A」の形に見える痣から四ノ森さんが血を流していた。
助からないことはすぐにわかった。
「いつの間に……⁉」
「あはは。『わたし』だよっ!」
本人とはまったく別の場所からあざみさんの声が聞こえて、そっちを見ればあの夜に会った黒い幽霊がいた。
あのときは暗くてよくわからなかったけど、下半身は長いスカートを引きずるみたいに地面と一体化してるように見える。
やっぱりドーパント⁉
「で、出たぁ! 幽霊!」
「貴様の仕業か……!」
竜くんが身構えた。
「そう! そのおばさん、ずっと私の悪口ばっかり言ってたから、天罰下しちゃった!」
「天罰だと? ふざけるな!」
幽霊は笑いながら四ノ森さんの遺体を指す。
「なんでよ。悪いことばっかり言ってた悪者だよ? 『悪者は地面で反省してなさい!』ってね!」
「! その台詞……」
あざみさんが何かひっかかったのか、その言葉を気にしてた。
そこでサッと幽霊の姿が消える。
「き、消えた⁉」
「キャア⁉ 離して⁉」
見れば、どこから出てきたのか幽霊があざみさんに抱きついていた。
つまり人質にされてしまったということ。
「やっと会えたのにひどいよ、私!」
「貴様! 何が目的だ!」
竜くんは慎重に様子を見ながら、幽霊と対峙してる。
「『わたし』は私の味方! あいつらは嫌いな奴だったから『わたし』が天罰を下しただけ!」
その動機にちょっと共感しちゃったのは、私がまだ人間ができてないからかな……。
すると幽霊は床を滑るように移動しながら出口に向かっていく。
「じゃあ、『わたし』は私と話したいからバイバーイ!」
「か、彼女を離せ!」
そこでたまたま死角にいた浅井先生が飛びかかった。でも。
「うぐっ……!」
身体をすり抜けたと思ったら、片手で先生の首を締めあげた。
「邪魔しないでよ。うざい。あんたも
前言撤回! こいつ、自分が気に入らない相手は全員嫌いなんや!
「は、遥は関係ないでしょ⁉ そ、その子が……」
「そこの『あたし』もちょこちょこ
幽霊が今度は芦田さんの姿になって声を変えると、よくわからないことを言った。
「……貴様、なんの話だ!」
「……な、なんでそのこと……⁉︎ ま、まさか……あんたは……⁉」
芦田さんは震えながら幽霊の正体に気づいたような素振りを見せる。
「『あたし』はあたしだって言ったでしょう!」
「! ま、まさか……君が、あのストーカーに……
先生も何かに気づいたのか、だれかの名前を出すと芦田さんの顔色がもっと悪くなった。
「……えっ、ち、ちがう……違うの! あの男が聞いてきたから答えただけで……。襲ったのはあの男だし……! 遥の……遥のせいじゃないいいっ!」
芦田さんはヒステリックに叫びながら部屋から出ていった。
「刃野刑事! 真倉刑事! 彼女を保護しろ!」
「りょ、了解!」
「あわわわ! 刃野さん、待ってくださいぃ!」
竜くんの指示で二人は慌てて芦田さんを追いかけた。
「二人を離せ」
「嫌だよ! 追いかけてくるなら、頂点で会おうよ!」
「……やっぱり……」
まただ。あざみさんは何か知ってる?
「屋上にでも行く気か」
「ふふっ。とりあえず、この男に天罰を下すから! じゃあね」
あかん! 依頼人に手を出された挙句、これ以上被害を出してたまるかあ‼
って、気づいたら身体が動いてた。
「うおりゃあああっ!」
私は幽霊の下半身に抱きつく。実体がある。
「な、何を⁉」
「所長!」
「私の、私の依頼人を離せえぇ!」
「亜樹子さん!」「……鳴、海さん……!」
「どきなさいよ!」
「離すかぁ! ……うひゃ!」
するとつかんでた部分がすり抜けた。例えるなら砂みたいな感覚だった。
そのまま床に倒れたけど、とっさにあざみさんと浅井先生の足をつかむ。
「あざみさん! 絶対に守るからね!」
「亜樹子さん……!」
「ちっ! 仕方ねぇ、おまえも道連れだ!」
……あれ? 今、男口調になった?
「ありゃああああああっ⁉」
幽霊が床を滑るのに合わせて、私はズルズルと引きずられる。
短パンだったから病院の廊下がツルツルで良かった。
気づけば薄暗い電灯に照らされる屋上に出た私たち。
「さあ、天罰の時間だよ!」
そして、幽霊があざみさんを解放すると代わりに私をつかんで、柵に向かってひっぱっていく。
このままだと落とされる!
「さあ、悪者は地面で反省してな……!」
「待て!」
そこで竜くんが追いついた。
「りゅ、竜くん!」
「何よ? 邪魔するなら、あんたもあとで……」
幽霊が黙った。腰にベルトを巻いてることに気づいたからだと思う。
「アクセル!」
竜くんは顔の前にメモリを掲げて、叫んだ。
「変ッ……身!」
ベルトにメモリを押し込んで、スロットルをひねる。
「アクセル!」
身体をエンジンの駆動音とともに赤い閃光が包んで、消えると竜くんは仮面ライダーになった。
「か、仮面ライダー⁉」
「気になることばかりだが……。貴様が幽霊だろうが、ドーパントだろうが」
剣を取り出して構える。
「今は、振り切るぜ!」
「う、嘘だろ。く、来るな!」
焦ったのか幽霊が浅井先生を柵から投げ捨てた。
「駄目!」
「いかん!」
最悪の展開が頭を
「うっ……! ん……君……!」
「つかみ、ました……!」
見れば、あざみさんが柵越しに浅井先生の手をつかんでいた。
「あ、あざみさん……!」
「うぅうううっ‼」
でも、体重が軽いからか、身体が柵から半分以上落ちかけてる。
「……駄目だ! 君、離すんだ……! 二人とも落ちる!」
「離さないっ! 私は……命を救ってもらったから看護師になったの! 今度は私が命を救う番!」
「君……! まさか、そのペンダント……」
このとき浅井先生からあざみさんのペンダントが見えたみたいで驚いた様子だった。
それはともかく、このままだと落ちることには変わらない。
「く、来るな、こいつを落とすぞ!」
そして、まだ捕まってた私は屋上の柵から身体を出される。
ひっ、とあまりの高さに声が出た。
「所長!」
「りゅ、竜くん! 私より二人を先に……!」
そうは言うけど地面まで二十メートル以上あって、落ちたらまず助からない。
「そうだ! どっちを助ける! 赤の他人の二人か、知り合いの一人か!」
「……俺に……俺に質問をするなッ‼」
キレた竜くんがストップウォッチが付いた青いメモリを取り出す。
「トライアル!」
タイマー部分を回して信号機みたいな形にする。
「トライアル!」
ベルトのメモリを入れ替えるとF1のスタート音を鳴り響かせながら身体が赤から黄、青に色が変わって、ゴツゴツした感じからスマートな身体になって、頭がモトクロスヘルメットみたいになる。
そのまま竜くんが物凄い速さで私の腕をつかもうとした……けど。
「何⁉︎」
その前に、私をつかむ腕が消えた。身体が宙に浮かぶ感覚がする。
「所ちょ……ぐっ⁉」
それでもなんとかつかもうとしてくれた竜くんの頭に黒い塊がぶつかるのが見えた。
あっ。死んじゃう。
自分でもびっくりするくらい冷静に、そんなことを考えてた。