風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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前章3「怒れるAたち/この腹立たしい悪党に天罰を!」

 バサッバサッ。

 私が地面に落ちていくところで見えたのは……青いコウモリ。

 こんな所にも出るんだ、とか呑気に思ってた。

「って、えっ?」

 違う、これバットショット⁉

 私たちが使うメカの一つでコウモリ型のカメラ。

「ジョーカー!」

 聞き覚えがある音が鳴った。

「!」

 見れば、すごい勢いで黒と緑のバイクが走ってくる。

「ジョーカー!」「ジョーカー!」「ジョーカー!」「ジョーカー!」「ジョーカー!」「ジョーカー!」「ジョーカー!」「ジョーカー!」

「フィリップゥゥゥッ‼︎」

 翔太郎君⁉︎

「いいから急げッ‼ ルナで来い‼」

 そう叫ぶと翔太郎君の身体を光が包む。

「変身‼」

「ルナジョーカー!」

 あっという間に翔太郎君はこの街のもう一人の仮面ライダー・(ダブル)に変身した。

 いつもと違って黄色と黒だけど。

 

 Wは私が地面にぶつかる寸前に伸びる腕で巻き取ると、バイクを急停止させた。 

「あっぶねぇ……! ったく、おまえはなんで、時々、高い所から落ちてくるんだよ!」

「わ、私も知らないっ!」

 あきれたように言われたから、いつもの調子で言い返す。

「いつもこれだ。俺がいねえと滅茶苦茶じゃねぇか!」

「それは……ごめん」

《すまない。翔太郎》

「それより早く屋上に……何あれ?」

 上から何かが降ってきたから、それをキャッチする。

「おっと……ってこれ!」

 それは竜くんの青いメモリだった。

《アクセルのトライアルメモリだ……!》

「それが落ちてきたってことは……照井がやべぇ!」

「ちょっとこのまま行くの⁉ 私、降ろしてからにしてえぇぇぇぇ……!」

 私の叫びも虚しく、Wは屋上の手すりに手をかけるとものすごいスピードで登っていった。

 

 翔太郎君の予感は合ってたみたいで、竜くんはめった打ちにされてた。

 メモリブレイクの邪魔をされてメモリを落として、今は浅井先生をひっぱるあざみさんをどうにか守るので精一杯だった。

「ぐっ……!」

(なぜこいつはトライアルの瞬発力を超えて、的確に死角が取れる⁉︎)

「どうかな不意打ちで攻撃されるのは!」

「……大嫌いだ……! だが、それは……お互い様だろう」

「は……?」

「メタル!」「ルナメタル!」

 Wが黄と銀になると鉄棒を伸ばして幽霊の頭を殴り飛ばす。

「あだぁ⁉」

 幽霊がぶっ飛んでった。

「左、フィリップ……!」

「亜樹子行け!」

「ふぅふぅ……ラジャー!」

 私は急いであざみさんを手伝う。

「照井! ここは俺たちにまかせろ!」

「……頼んだ」

 竜くんも手伝ってくれたおかげで浅井先生を一気に引きあげられた。

「ヒート!」

「何がどうなってんだか知らねぇが、一気に決めるぜ!」

《了解した》

「ヒートメタル!」

 Wは赤と銀になると鉄棒にメモリを入れる。

「メタル・マキシマムドライブ!」

 鉄棒の両端から炎が噴き出す。

「《メタルブランディング!》」

 飛行機のエンジンが噴射する感じで幽霊に向かっていってぶん殴った。

 ……けど、爆炎は上がらなかった。

「……当たったか?」

《いや、手応えがなかった》

「か、仮面ライダーが二人……。今日は、まずいかな……」

 幽霊が屋上のまったく違う所から現れると、あざみさんの姿をしたままユラユラと揺れてる。

 ……なんか怯えてる? もしかして、ヤバいと思ったから逃げる気?

「仕方ない。私、明後日また会いましょう!」

「『明後日』だと……?」

「じゃっ」と、よくわからないまま幽霊は消えた。

「いったい何がどうなってんだ……?」

 何も知らない翔太郎君は周囲を見渡しながら、そうつぶやく。

 

「大丈夫ですか? 先生?」

「あっ、ああ……。君、藍沢さんだったね?」

「はい……」

「そのペンダント……」

「あっ、すいません。勤務中なのに……!」

「それもそうだけど……見せてもらえないかな」

「えっ? ええ……」

 あざみさんは不思議そうにペンダントを見せる。

「……やはり、僕が碧にプレゼントした物と似てる……」

「もしかして先生があのとき、私を助けてくださった……?」

 浅井先生はハッとした顔であざみさんを見る。

「じゃあ、君はあのときの……?」

「はっ、はい! 私、先生にお礼を言いたくて看護師の勉強をして風都に来ました!」

「……そうだったのか。ありがとう助けてくれて」

「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございました!」

 そういって笑う二人。

 それを見守る私たち。

「なんかいい雰囲気じゃない?」

「所長、それはあとにしよう」

「あっ、うん」

 いけない。また悪い癖が。

「だぁかぁら! だれか俺に状況を説明しろっ!」

 屋上でWの翔太郎君側が叫んだ。

 

 とりあえずあざみさんと浅井先生は警察に保護してもらって、私たちは事務所まで戻ってきた。

「たっく、だれも電話に出ねぇし。嫌な予感がしてバットショットに追跡させたら知らねぇ間に危機一髪じゃねぇか!」

「……すまん。病院だったものでな。電源を切っていた」

「ありがとう。でも、あの幽霊めぇ! ヤバくなったと思ったら逃げよってえ! あんの臆病もんがあ! 次会ったら私がギッタンギッタンにしたる! って、その前にフィリップ君よ! 今日という今日はガツンと言わなアカン!」

 さすがに頭に来て、愛用のスリッパをブンブンと振りながらガレージに入る。

 カランカラン!

「フィリップく……! えぇっ……?」

 ガレージ中に空き缶の鳴子(なるこ)やらピラミッド、アルミ缶の上にミカンが乗ってた。

「やあ、みんな……」

「もしかして、あれ全部飲んで作ったの……?」

「食事の用意の仕方がわからなかったからね……。飲み物で食いつないでいた。食べてはいないが……」

「そういえば、事件にかかりっきりでフィリップ君のことを忘れてたね……」

「あとで何か作ろう」

「それよりも見たまえよ! アルミ缶は磁石にくっつかないが、スチール缶はくっつくんだ!」

 フィリップ君はどこか調子が悪そうに磁石でスチール缶をくっつけてる。

「いや、それどころじゃ……!」

「待った。……フィリップ、おまえ大丈夫か?」

「えっ……」

「なんか、らしくねえぞ」

 図星だったのかフィリップ君はショックを受けた様子で椅子に座る。

「……すまない。心配させまいと以前のように振る舞っているつもりだったんだが……」

「どれだけ相棒やってると思ってんだ。無理してるようにしか見えねえぞ」

「……今、『地球(ほし)の本棚』には入りたくなくてね、つい……」

「……もしかして若菜(わかな)姫が襲ってくるかもしれないから?」

 じつはフィリップ君は風都のお金持ちの園咲(そのざき)家の長男で、いろいろとあって「地球(ほし)の本棚」に入れるようになったお姉さん・若菜姫に襲われたことがある。

「あぁ。対処法は確立したが、また現れるかもしれないと思うとね。だが、それで危うく命を危険に……。すまない亜樹ちゃん」

「……ううん。こっちこそ。ごめんね。フィリップ君に頼りすぎてたのかも」

「俺もだ。所長、フィリップすまん……」

 気まずい雰囲気が流れる。

 そこで開いてない缶ジュースが目に入った。

「……こんなときは!」

 私は缶ジュースをみんなに渡す。

「はい! はい! はい!」

「亜樹ちゃん?」

「仲直りの乾杯!」

「『仲直りの乾杯』?」

「おう」

「そうだな」

「……殴られたとき以外にもそんな儀式があるとは。じつに興味深い」

 プルタブを開けてみんなで乾杯する。

「鳴海探偵事務所の再出発に!」

 それで四人で中身を飲んで、形だけでも仲直りした。

 やっぱり湿っぽいのはらしくないよね。

 

 そこから依頼に集中することになって私と竜くんで二人に事件の説明をした。

「で、私が落とされたあとは大体二人が見てたとおりかな」

「芦田遥は刃野刑事と真倉刑事が保護した。何かしら事情を抱えているようだが、精神的ショックで話ができる状態ではないようだ」

「話を総合して、やはり幽霊など存在しない。今回の件はドーパント絡みと見て間違いない」

「なら、やることはメモリの絞り込みだな。フィリップ」

「ああ、検索をはじめよう」

 フィリップ君は厚手の本を持ってきて両手を広げるとライトアップされた。

 これも慣れたけど、本当に不思議。

地球(ほし)の本棚」がどんな感じなのかはわからないけど、周りが本棚でいっぱいでキーワードをいうと本が出てくるみたい。

「若菜姉さんは……いないようだ。今の内だ」

 フィリップ君はキーワードを言っていく。

「どうだ?」

「オカルト・心霊話が多数ヒットした」

「じゃあ、そういう噂を外してみてくれ」

「メモリがいくつか出てきた。『ドッペル』、『ゴースト』……」

「『ゴースト』なんてまさにそれじゃないの?」

 フィリップ君は白紙のページを見る。

 私たちには見えないけど、文字が書いてあるように見えるみたい。

「ふむ……特定の人物以外に干渉ができないらしい。それは、霊感の有無だ。見えるなら接触できるが、見えない相手には()れることもかなわない。体色が黒という記述もない上……四ノ森愛子の襲撃状況と矛盾(むじゅん)する」

「たしかに彼女はまったく気にかける素振りがなかった」

「別のキーワードに変えたほうが良いかもしれない」

 うーん。なんかあったっけ?

 考えながら持ってた缶を握ると、ペコッとへこんだ。

「そういえば。捕まったとき、幽霊の腕が柔らかかったり固くなったりしたような……」

「なんだそりゃ? 勘違いじゃねーのか?」

「いや、本当だって! あの感触は、そう! 砂とか粘土っぽかった!」

「『砂』?」

 私の言葉でフィリップ君は少し考えこむ。

「……『透過』を『分離』にキーワードを変更」

 しばらくしてフィリップ君がニヤリと笑った。目を開けて白紙のページを見る。

「亜樹ちゃん、ビンゴだ。メモリの特定ができた。名前は」

 メモリがわかったから四人でドーパントの対策を考えた。

「あとは、メモリ使用者の正体と動機だね」

 すると竜くんが背中を向けた。

「おい、照井。どこ行く気だ」

「俺に質問するな。……心配するな、時間までには必ず戻る」

 竜くんは珍しくフッと笑ってガレージから出ていった。

「……照井の奴、急に恰好つけやがって……」

「まあ、竜くんにも考えがあるんでしょ。私たちもやることをやらなきゃ」

「そうだね」

 それからはそれぞれドーパント退治の準備に取りかかった。

 

 予告の日の夜、あざみさんには無理を言って仕事に出てもらった。

 夕日が沈んで辺りが暗くなったころ、仕事が終わって一人で帰るところで、背後から街灯に照らされてドーパントが出てきた。

「仮面ライダーも案外、不用心だね」

 ドーパントは拳を握り締めて振りあげる。

「……まあ、そんなことはどうでもいいや。やっと『わたし』の物になるねぇ。私!」 

「いや、そうはならない」

 声を聞いてドーパントがあわてて振り向くと、そこには竜くんが立っていた。

秋山(あきやま)(あくと)、だな?」

 本名を呼ばれたドーパントがたじろぐ。

「な、なんのことかな……⁉」

「しらばっくれても無駄だ」

 竜くんは独自の捜査からたどりついた推理を話しはじめた。

 

 私たちの準備中、フィリップ君に電話がかかってきた。

「もしもし」

「照井だ。フィリップ、ひっかかっていたことがある。なぜ奴は『明後日』という具体的だが中途半端な日を指定したと思う?」

「ドーパントの行動から推測するに藍沢あざみに関係ある可能性が高い。検索しよう。……ふむ。なるほど」

「何かわかったか?」

「当日は藍沢あざみの誕生日だ」

「……どうやら奴は随分と彼女に執着しているようだな」

「彼女に嫌がらせをしていた三人組に物理的な排除をこころみたことを考えれば妥当だろう」

「誕生日を知っているとなれば近い人間だな」

「家族か、友人か」

「そういえば、所長の話では学生時代に自ら命を絶とうとしたらしい」

「待ってくれ。……どうやら、彼女はストーカー被害に遭っていたようだ。不幸にも捕まらなかったが、容疑者の名前は」

「貴様だ、秋山。まだあるぞ」

 竜くんの推理は続く。

「そいつは今、何をしている?」

「現在は……風都中央病院の清掃員のアルバイトだ。今年の五月に採用された」

「藍沢あざみの勤務開始時期と重なる。バイト時間なら比較的自由に病院への出入りが可能か」

「あぁ。メモリの能力を考えれば、トイレでも更衣室でもプライベートな情報は筒抜けだろうね」

 

「そして、もう一点。貴様がストーカーになってまで彼女に執着した理由だ」

 これはあとから刑事二人から聞いたことだけど。

 竜くんは仕事場にある物を持ってきたんだって。

「課長。どうしたんですか、このDVD?」

「『キューティークルセイダーズ・ストレート』? 課長、駄目ですよ職場にこんなの持ち込んじゃあ」

「いや。今回の件で何か手がかりがあるのでは、と思ってな」

「はぁ……」

 もちろん急に見たくなったわけじゃなくて、前もってあざみさんからあることを聞いたから。

「一つ聞いておきたいことがある。君は奴が言っていた言葉を気にしていたようだが」

「あっ、はい……」

「手がかりなるかもしれん。聞かせてほしい」

「……じつはあの幽霊が話していたのは、あるキャラの台詞なんです。昔、大好きだったアニメの……」

 それはフィリップ君にも伝えてた。

「フィリップ。奴は奇妙な言い回しをしていた。『頂点で会おう』、『悪党は地面で反省してなさい』など。藍沢あざみは子供のころに見ていたアニメに出てくると言っていたが」

「今の台詞をキーワードに検索を完了した。たしかに『キューティークルセイダーズ』というアニメシリーズの登場人物の台詞だ。執拗(しつよう)に発言したのならば、藍沢あざみになんらかの意図を伝えたいと考えるべきだが……共通点が不明だ」

 竜くんはそれを踏まえてDVDを見はじめた。

「時々、何考えてるかわかんねえ人だな」

「前にラブロマンスの映画を見たときも酷かったっすよね……」

「んあぁ。今の内に、退散だ」

 で、なんにも知らない二人はそそくさと出て行く。

 たしかに映画のときはいろいろと振り切っちゃったもんね……。

 

『頂点に伸びるエース! キューティクル・エース!』

『やっと頂点で会えたね!』

『悪者は地面で反省してなさい!』

(……これは)

 熱心に見ていた竜くんはある場面でDVDを止めた。

「これに見覚えは?」

 ある一巻のパッケージを見せる。

「そ、それは……! 『キューティークルセイダーズ・ストレート』の第九巻!」

「やはりつながったな。貴様の言い回しは『キューティークルセイダーズ・ストレート』の登場人物の一人、キューティクル・エースのものだ。被害者に残された『A』の痣も敵に必殺技を放ったあとの状況を似せたものだな」

 事務所を出ていって聞き込みを終えてからは、ずっと見てたみたい。

「ある話を視聴していると、オマケコーナーで子供たちがキャラクターに仮装するものがあった」

『ちょうてんにのびるえーす! きゅーてぃくる・えーす!』

 そのテロップには「東京都・藍沢あざみ」って書いてあったそう。

「この九巻ではまだ園児の藍沢あざみの仮装が採用された。そこで当時、エースがお気に入りで、偶然、同級生だった貴様は彼女と重ね合わせた」

「初恋の相手がアニメのキャラクター、という話は珍しいことではない」

 ってフィリップ君が言ってた。

「結果、貴様はストーカーになった挙句、彼女の命を危険に晒した。それはエスカレートし、ついにはガイアメモリに手を出した」

 竜くんはベルトを腰に巻く。

「当時はうまく逃げたようだが……今回はそうはいかんぞ」

「お、俺とエースはいっしょになる、う、運命なんだよ! なあ!」

 パコン!

「あいた⁉」

 急にどもりはじめたドーパントに『いい加減にせい!』のスリッパをお見舞いする。

「黙って聞いてれば……勝手なやっちゃな……!」

「……エ、エース?」

「だれがエースや! 私の目が黒い内は依頼人(あざみさん)には二度と指一本触れさせへん!」

 私は啖呵(たんか)を切った。

 

(おとり)ぃ?」

 翔太郎君があからさまに嫌そうな顔をする。

「あざみさんを危ない目には遭わせられない。でも、ドーパントがどこから来るかはわからない。だったら私が囮になっておびき出す!」

「でも、危険だぞ。なんだったら前みたいにフィリップに女装させて……」

「翔太郎。ぼくにそんな趣味はない」

「いや、フィリップと藍沢あざみでは身長が違い過ぎる。さらに夏場では服でも体格を隠し切れん。感づかれる可能性がある」

 そう、あざみさんと私はあまり恰好が変わらない。だからうってつけと思った。

「だが容認できん。こちらで女性警官を用意する」

「お願い私にやらせて! これ以上、あんな下衆野郎にあざみさんを傷つけさせたくないの!」

「! 所長……」

「……どうする?」

 翔太郎君は諦めた様子で最後は竜くんに判断を(ゆだ)ねた。

 竜くんは一度目を閉じると、うなずいてくれた。

「警察としては容認しかねるが……わかった」

「本当⁉」

「ただ一つだけ条件がある。危なくなったら逃げろ。無理な場合は……俺が君を絶対に守る」

「へっ……? あ、ありがとう……」

 それで帰るタイミングであざみさんと入れ替わった。

 犯人は院長経由でバイトのシフトを変えて帰宅時間をズラしてもらったけど、こいつは襲うのに丁度いいと思ったのか不審に思わなかったみたい。

 

「それにまんまとひっかかったってわけや! この憶病もん!」

 さらに何発かスリッパをお見舞いして、急いで広場がある方向へ逃げ出す。

「イテテ! ふ、ふざけやがって! 許さねぇぞ! 待てえ!」

「このアホ!」

 ドーパントは地面を滑るように動いて広場に来ると、私の声がするほうを見る。

 そこで私はつっ立って煽った。

「み、見つけたぞ!」

「このアホ!」

「う、うるせえ! よ、よくもコケにしてくれたな、このちんちくりん! くらえっ、『エースマッシュ』!」

 必殺技を叫びながら思いっきり殴ってくる。

 大の大人が恥ずかしくないんか……ん?

『《ジョーカーエクストリーム!》』

 ……あれは、二人が息を合わせるためだから例外!

 バコォン! ……ガラガラガラン!

 ともかくそこから人からは絶対鳴らない音が鳴った。

「……へっ? な、なんだ、これ……空き缶……?」

 そう。これも作戦の内。とっさの思いつきだけど。

 

「あとで良いんだけど、これの処分も考えないとねえ」

「亜樹子の身長くらいなら空き缶を立てられそうだな」

 って鳴子を外して持ってたら、翔太郎君にいじられた。

「それどういう意味よ!」

「えっ、いや、別に他意はねえよ⁉ ガキのころやったろ、空き缶立て!」

「ホンマにそれだけかぁ?」

「ホントだって!」

 二人で言い合うのを見ていたフィリップ君がつぶやく。

「そのアイデア……悪くないかもしれない」

「「へっ?」」

 それでできたのが、空き缶を磁石でくっつけて、私の服とカツラを着させたカカシ。

 声が私で、頭に血が上ってたのと暗いからか気づかずに見事にひっかかった。

 

 私はクワガタの携帯・スタッグフォンがカエル型の録音機・フロッグポットを回収して手元に来たところで、スタッグフォンのコマンドを押す。

「ええか。性根の腐った悪党にはなあ……!」

「な、なんだ……?」

 唖然としてるところでハッチを閉める。

「……リボルギャリー大明神(だいみょうじん)からの天罰やあ‼︎」

 広場にリボルギャリーのエンジンが響いた。

「どりゃどりゃどりゃどりゃあ!」

『リボルギャリーを激しく動かせば内部で缶が動き、ドーパントは無数の缶の雨に晒されまともに動けないだろう』

 フィリップ君のアドバイスのとおりにリボルギャリーを無茶苦茶に走らせる。

 狙いどおり大量の空き缶がドーパントを襲う。

「ギヤアアアアアアア!」

 中から空き缶のぶつかり合う音と悲鳴が聞こえた。

 そのまま操作してると仮面ライダーに変身してバイクになった竜くんが来た。

「乗れ、所長」

「う、うん」

 言われるがままに乗る。

「行くぞ」

「あの、ゆっくりで……お願いしますぅぅぅ!」

 猛スピードでリボルギャリーを追いかけた。しかもノーヘル。

 だれも私の話を聞かんのかぁ!

 

 予定していた目的地、事務所傍の廃線に辿りつくと、ハッチを開いてドーパントを線路の中に放り込む。

「うへえ……。ひ、ひでぇ目に、あった……! だが、まだ終わって……!」

「いや、貴様の悪事はここで終わりだ」

 竜くんが中に入ったところでリボルギャリーで入り口を塞げば、中は光一つない暗闇になる。

 私は中には入らなかったけど、カタツムリのゴーグル・デンデンセンサーで中を確認する。

「は、はっ! 強がるなよ! こんなに暗かったら俺の独壇場だ!」

 ドーパントはあっちこっちから竜くんを殴る。

「み、見えねーだろ!」

「……そうか?」

 竜くんはドーパントの腕をつかんだ。

「俺にはおまえの姿がはっきりと見えるぞ」

「えっ、なんでつかめて……ってなんだこのキラキラ⁉︎」

 ドーパントの身体はラメを振りかけたみたいにキラキラ光ってた。

「警察は何も追いかけるばかりが脳じゃない。待ち構えることも必要だ」

 

 ところで肝心のメモリの正体だけど。

「名前は『シャドウ』だ」

「えっ。『影』ってこと?」

「いかにも。姿は不定形で決まったものはない。また、名前に対して能力はかなりピーキーだ。光がある所でこそ全力を発揮できる。暗闇をゼロ、太陽の光を百として数値化すると、電灯に照らされている五十パーセントのときがいちばん力を使いこなせる」

「なんや、めんどくさいメモリやな……」

「故に光源がない暗闇では影ができず力を発揮できないが、目には見えないため影になる必要はない。そこでドーパント特有の筋力は持っているから、殴られれば生身では致命傷だろう」

「攻撃がすり抜けたのは影になったからか」

「半分正解かな。それでは向こうからの物理的な接触が説明できない。正解は『影とは言いつつ奴の身体は粒子でできている』だ」

 フィリップ君の説明は時々難しい。

「えっと、つまり?」

「小さな粒が集まったり、分かれたりすることで実体化と非実体化を可能にしているということか」

 竜くんがわかりやすく言い換えてくれて、やっと理解できた。

「あぁ。奴は消えたのではなく粒子化したんだ。本体は影の上に色を塗るように隠れた。人の姿を形作れたのもそれが理由だ」

「だから砂っぽかったんか!」

「だけどよ。それならこっちから攻撃しようがねえんじゃねえか?」

 翔太郎君の質問にフィリップ君は不敵に笑う。

「いや。ぼくの推測が正しければ、攻略法は思いついている」

 

「今回のトドメはアクセルに譲ろう。ぼくたちはアシストに回る」

「OK!」

「ルナ!」「トリガー!」

「「変身!」」

「ルナトリガー!」

 準備のために二人がWの黄と青に変身する。

「いつの間にか直接、変身できるようになってたな」

《エクストリームに到達した結果だろう。それはともかく良い機会だ。いくつかためしたいことがある》

 黄色のメモリを右腰の箱に入れる。

「ルナ・マキシマムドライブ!」

「《トリガーシャインフィールド!》」

 掌に光の球が現れる。

《これは探知能力を備えた素粒子の塊だ》

 それを握ったら光の粉が舞った。

《ここに連れてくればWのセンサーで感じ取れる上に、だれにでも奴の姿が見えるはずだ》

 

「か、身体が。き、煌めいてるうぅ⁉︎」

「気は済んだか? 今度は俺の……いや、『俺たち』の番だ!」

 竜くんの言葉に応えるように待ち構えていたWは青い銃に黄色のメモリを入れる。

「ルナ・マキシマムドライブ!」

 銃口に光が集まって大きな玉になる。

「《トリガーフラッシュバン!》」

 ドシュウ!

 撃った光の玉が廃線を駆け抜けた。

 バァン‼︎

 目も開けられないくらいの光が中で(はじ)ける。

「ま、眩しいぃ‼」

《殺傷能力はないがドーパントにも効果がある閃光弾。ルナトリガーの裏技の一つだ》

 フィリップ君がスタッグフォン越しに説明してくれた。

《シャドウは光があることで粒子を操り能力を発揮するとともに弱点でもある。強力な光を浴びると粒子が過剰反応を起こし強制的に実体化するんだ。さらにルナの特殊な粒子が、奴を構成する粒子の結合を強固にする》

「? もうちょいわかりやすく説明してくれ」

《つまり奴はもう影には戻れない》

 

「な、なんで……。俺は正義の味方だぞ。エースをあいつらから守ったんだぞぉ! 悪党に天罰を下したんだぁ!」

「傲慢だな。貴様がやったことは天罰ではない。ただの殺傷だ。その罪の重さを刑務所で考えろ」

 そして竜くんはドーパントを宙にぶん投げる。

「貴様ならこの状況が理解できるはずだ」

「へっ? あっ、こ、これは! 第三十八話でカゲ魔人の力で影の異空間へ仲間が捕まったことで、エースが一人で解決しなければならなくなったから、影のない所に打ち上げて技を使えないように……ハッ!」

「そうだ。俺も粋なことをするだろう」

 アニメを見て対策が思いついた竜くんの足のタイヤが合体し、壁を駆け上がる。

「言いたいことがあるなら陰からではなく、堂々と言え。まず、俺からは」

 ドーパントの頭の上まで来たところでベルトのブレーキを握る。

「アクセル・マキシマムドライブ!」

『悪者は地面で反省してなさい!』

「そ、それはそのときに編み出したキューティクル・エースの新必殺技! 『エーストライク』……デュフッ⁉」

 言い終わる前に竜くんがドーパントの頭に向かってオーバーヘッドキックを決めた。

「オウフッ!」

 ドーパントは地面に叩きつけられて爆発が起きた。

 

「絶望がおまえのゴールだ」

 

 爆炎の中から眼鏡をかけて髪がボサボサで肥満体系の、言っちゃ悪いけど「オタク」な人が出てきた。

 フラフラと倒れると胸から焼け焦げた写真を取り出す。

 チラッと見たけど、それには竜くんが言ってたコスプレをしたあざみさんが写ってた。

「……エ、エースぅ……」

 左腕から、人から影が伸びるようなデザインで「S」の文字のガイアメモリが出てくる。

「シャ……シャドウ……!」

 ちゃんと壊れているように見えなかった。

「……エースが……お、俺を、待ってるんだぁ……!」

 手を伸ばしてメモリを取る。

 カシャン!

 その前に私が踏み潰した。

「もう、終わりっ!」

「あ、あぁ……かはっ……」

 絶望した顔をして気絶した。

 これで一連の幽霊騒動は終わったの。

 

 犯人の秋山芥は逮捕された。

 看護師長の四ノ森さんはあの時点で亡くなった。

 副看護師長の植山さんは下半身不随で一生車椅子生活のため退職して、実家に。

 芦田さんは精神的ショックで仕事を続けられなくなり自主退職し、精神病院に通院してる。

 被害者に同情よりも因果応報という感情のほうが強かったのは、私だけの秘密。

 ともかく、あざみさんを無事に守れたことは誇っても良いかな。

 まだいくつか気になることがあるけど……ひとまず。

「『以上で、調査を終了とする』っと」

 私はワープロで打って印刷した報告書をあざみさんに渡した。

「はい。今回の報告書です」

「ありがとうございました。亜樹子さん」

 会ったときよりすっかり表情が明るくなったあざみさん。

 あれから職場の雰囲気も変わったみたい。

「お世話になりました。被害を受けた三人には申しわけないですが、みなさんのおかげで彼女が無事で済みました」

 隣には浅井先生がいて、二人とも良い感じに見える。

「あ、あの亜樹子さん」

「ん、何?」

 あざみさんはちょっともじもじすると。

「友達に……なってくれますか?」

「……もちろん!」

 私たちは風都で初めての親友になった。

 

 それから私はある目的があって竜くんを連れ出した。

「どうしたんだ?」

「えっ、えっとね……! ちょ、ちょっと待って」

 不意にバイブしたガラケーを見て……勇気を出す。

『頑張って、亜樹子さん』

「ね、ねぇ、竜くん」

「ん?」

 えーい! 駄目で元々! 言ってまえ!

「その……お付き合いしてください!」

「……所長」

 困惑した声が聞こえてきた。

 やっぱ、私なんかじゃアカンよなぁ……。

「喜んで」

 竜くんにはもっといい人が……って。

「へ?」

「俺も所長のことが気になっていた」

 そのまま竜くんは抱きしめてくれた。

「い、い、良いの?」

「この前の件で命懸けで(まも)りたいと思った。むしろ、俺なんかで良いのか?」

「はっ、はひ! お願いしまっす!」

 こうして私たちはお付き合いをはじめることになった。

 

「ってことがあったのよお!」

「素敵!」

「せやろ! せやろ!」

 話してる内にあのころのことを思い出して嬉しくなって、拗ねてるのが馬鹿馬鹿しくなった。

(これで、所長さんの機嫌も直ったかな)

「おうおう。見せつけてくれるじゃねえか、旦那さん?」

「じつに興味深い」

「当然のことだ」

 ピリピリしていた事務所の雰囲気が(なご)やかになる。

 ドォーン……! バリバリ‼︎

 そこで突然、激しい雷が落ちた。

「びっくりした……!」

「えらくデカかったな」

「いや、雷鳴に混じって何か爆発音が聞こえた気がするが……」

「はっ!」ってときめちゃんがあわてて外を見る。

 晴れ空がいつの間にか曇り空になってた。

「どうした、ときめ?」

「今、空間が歪んだ気が……」

「なんだって⁉︎ まさか!」

「裏風都の連中が動いたのか⁉︎」

 私たちがあわてる中、旦那の携帯が鳴った。

「照井だ……なんだと⁉︎」

 みんなが旦那を見る。

「秋山が警察病院から消えた……⁉」

 旦那の口からとんでもない言葉が聞こえた。

「嘘。私、聞いてない……」

 そういうしかなかった。

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