風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章1「怒れるaたち/命の守護者たち」

 風都警察署所属刑事の俺・照井竜は、日々、この街で起こるガイアメモリ犯罪と戦い続けている。

 そのため自分が管轄する部署・超常現象捜査課の部下から以前の事件の犯人が脱獄したという電話連絡を受け、嫌な予感が頭を()ぎった。

「わかった。今すぐに向かう。……俺は一度警察病院へ向かう」

 電話を切り、鳴海探偵事務所の所員に伝えるとうなずいてくれた……一人を除いて。

「OK。俺も気になるから街を見回ってくる! みんな何かあったら連絡しろ!」

「翔太郎、念のためドライバーをつけていってくれ。ぼくが出なければならないかもしれない」

「……了解!」と所員の左翔太郎が黒のハットをかぶり外に飛び出す。

 直後に左の相棒・フィリップの腰に「W」字のベルト・ダブルドライバーが現れる。

「照井竜。過去のメモリ犯罪者が脱獄した例は少ない。くれぐれも用心してくれ」

「ああ。君たちもな」

 病院に向かおうとして、ジャケットの袖をつかまれた。

 妻・所長(亜樹子)の手だ。

「竜くん。行かないで……」

 先ほどは落ち着いたと思ったが、再び不安になったのだろう。

 どこか諦めと心配が入り混じった顔で、俺を止められないことはわかっているが、それでも止めずにはいられないことがわかった。

「所長……許してくれ。これが俺の役目なんだ」

 外に飛び出す。

「……竜くんの……竜くんの馬鹿ぁっ!」

 背中に所長の罵倒を受けたが足を止めず振り切る。

 俺は事務所前に止めていた自前のバイク・ディアブロッサで風都警察病院に急いだ。

 

 到着すると部下二人が乗ってきたのであろうパトカーが前後で両断されていた。

「刃野刑事! 真倉刑事! 無事か!」

 俺の呼びかけに両刑事はあっさりと姿を見せた。

 伊達(だて)に死地は潜っていないか。

「課長!」

「いやぁびっくらこきましたよ! 秋山の退院許可が出て連行しようとしたら突然、壁が吹っ飛んで、驚いてるところにドーン! と雷が落ちたもんで。死んだかと思いましたよ!」

「ドーパントっすよ! ドーパント! 口の中に目があって、長い指の女みたいな奴!」

「なんだと……!」

 背中に冷たい物が流れた。

 真倉刑事の言葉を信用するなら、病院を襲撃したのは快楽殺人鬼・スクリーム・ドーパント・五条(ごじょう)一葉(かずは)

 これで俺たちと敵対する組織・「裏風都」が関わっていることがはっきりした。

 だが、なぜ秋山を狙った?

「いや、もう一体いたよ! あれはなんつーか……『雷様』か? 雷みたいな二本角にデカい刀を持った……」

 刃野刑事が愛用のツボ押し器を持ちながら、指で頭の上に角を作る。

 ドーパントがもう一体?

 裏風都の新手……。いや、この状況でいちばん高い可能性は。

「秋山が連中とつながった、と考えるべきか……」

 バリバリッ……‼︎

 その不安を暗示するかのように頭上で雷鳴が(とどろ)く。

 たった一つの雨雲が街全体に広がっているように見えた。

「異様な雲だ……」

 嫌でも不吉な予感を助長させる。

 もし秋山がドーパントになったとして、その動機は。

「復讐か……」

 シャドウ事件の被害者たちの顔が浮かぶ。

 とくに二人の身が危険かもしれん。

「課長?」

「……秋山はかつての事件から浅井・藍沢、両氏に強い怨恨(えんこん)を抱いている可能性がある。俺はその二人を、君たちは他の生存者である植山・芦田の保護だ」

「了解しました」「了解です!」

「もし、ドーパントに接触した場合は安全を確保しつつ適宜連絡だ。どうにか仮面ライダーと連絡を取れるよう取り計らってみる」

 刃野・真倉刑事は俺が仮面ライダーであることは知らない。

 これまでうまく気づかないでいてくれた。

 これからもそうであることを祈るばかりだ。

 

 二人に指示を出し散会すると俺は風都中央病院に向かった。

 受付で二人について尋ねるが、間が悪いことに今日は両人とも休暇とのことだった。

 どこにいる? 誰か二人の動向を知り得る人物は……。

 手をこまねいていると、あることを思いつき連絡を取る。

 この街で「探しもの」をするときにはうってつけの人材に。

「左」

「照井。大丈夫か?」

「手短に」と現状を話し、左と情報を共有した。

「早く見つけないとやべぇかもな……」

「そこでおまえに頼みがある。二人を見つけ出せるか?」

 一瞬の間があったあと、電話越しに左がフッと笑うのがわかった。

「だれに聞いてんだ照井。風都イレギュラーズ全員に招集をかける! 大船に乗ったつもりで待ってな!」

 そう言うなり返事を待たずに通話を切った。思わず苦笑する。

「頼もしい限りだ……」

 言葉どおり、十分も経たない内に連絡が来た。

「ウォッチャマンからだ。最近、SNSで二人のプライベートを上げてる野郎がいるらしい」

「なんだと?」

 つくづくストーキングに縁がある二人だ。

「だが、今の俺たちには情報だ。少し前、風都タワー近くにいたらしい」

「向かってみる。左、感謝する」

「気にすんな。俺も行く……」

 左の声にかぶせるように受話器越しでもわかる悲鳴が聞こえた。

「……何かあったのかもしれねぇ。悪いがそっちは頼むぜ!」

「用心しろ」

「大怪我が多い、おまえに言われたかねーよ」

「そうだな」

 軽口を叩き合いながら通話を切る。

 すぐさまバイクにまたがり、ヘルメットをかぶる。

「振り切るぜ……!」

 スロットルを握り、アクセルを全開にした。

 

 街のシンボルである巨大風車・風都タワーからほど近い公園。

 浅井は市外からやってきた藍沢のために、デートでは風都の観光スポットを巡るのが決まりのルートだったらしい。

 その二人も既に街の異変に気づいていた。 

「大丈夫でしょうか?」

「……病院に行ったほうが良いかもしれない。タクシーを拾おう」

「はい。あれ……? 蒼助さん」

「なんだい?」

「あれって、青い……カブトムシ?」

 俺のカブトムシ型メモリガジェット・ビートルフォンが二人を発見した。

 

 風都タワーにはいなかったため、俺が自立型のライブモードにして放ち、あとを追えば二人を発見できた。

「「照井さん?」」

 俺の姿を見て驚いた顔をしている。

 このとき、二人の左手の薬指に婚約指輪が光っているのが目についた。

「……無事だったか」

「えっ? えぇ……どうやってここを?」

「すまない。それを説明する暇がない。警察病院がドーパントに襲撃された。相手は危険な殺人鬼だ」

「なんだって……」「本当ですか……⁉︎」

「さらに悪いことに、秋山がいなくなった」

 その一言で驚愕していた二人の顔色が一層悪くなる。

 とくに藍沢は過去のことを思い出したのか身体を震わせて(うずくま)る。

 浅井が寄り添うが、当人の顔色も悪い。

 この状況で伝えるのは気の毒だが……言わないわけにもいかん。

「憶測になるが。奴が君たちを襲撃する可能性がある」

 藍沢がさらに身体を強張(こわば)らせた。

「……道理でしょうね」

「ここは見晴らしがきく。安全な所に移動しよう」

「警察署ですか?」

 首を横に振る。警察官だが警察署は安全面では信用できん。

「鳴海探偵事務所だ」

 俺にとって最も信頼における場所だ。

 

 俺たちが事態の把握に努めている間、所長は窓から曇り空を眺めていた。

「……竜くん」

「心配だね……」

「今は報告を待つしかない」

 ときめが桃色のスタッグフォンを開くが、何かを我慢するように閉じた。

「……翔太郎は?」

「付近で起きた騒ぎの確認中だ」

 普段、冷静沈着なフィリップだが意識をつなぐベルト越しに左の影響を受けているのか、いくらか落ち着きがないようだった。

 

 ゴロゴロ……ズドォン‼

「うひゃあ⁉ ち、近っ!」

 バチン!

「あっ、電気がっ!」

 どうやら事務所に落雷し、建物全体が揺さぶられると同時に停電したようだ。

「……ブレーカーが飛んだらしい。二人はここに。ぼくが復旧してくる」

 フィリップがブレーカーの確認のために離れる。

「……今、事務所に雷が落ちた感じだったよね……」

「うーん。周りにはもっと高い建物もあるはずなんだけどねえ……」

 二人が雷に異変に感じる一方でブレーカーの確認に入ったフィリップ。

(見事にヒューズが飛んでるな……)

 だが、電気工学に精通するフィリップは苦もなく、ブレーカーを復旧する。

「……よし。これで問題ない」

 

《フィリップ!》

 そこでベルトから左の意識が届いた。

「何かあったかい?」

《ドーパントだ! しかも大勢いやがる!》

「パニックに(じょう)じて、フラストレーションが溜まった連中でも暴れはじめたか……」

 フィリップが慣れたように風のサイクロンメモリを起動する。

「サイクロン!」《ジョーカー!》

「《変身!》」

「V」の字に腕を曲げたフィリップがメモリをベルトに装填した……瞬間にときめがあわてた様子で姿を見せた。

「フィリップ! 所長さんが……!」

 だが、その言葉は寸でのところで届かなかった。

 既にメモリを通してフィリップの意識は左のベルトに転送されていたからだ。

 

 俺はタクシーの手配をすると周囲の警戒に戻る。

「タクシーを呼んだ。もう少し待ってくれ」

「病院には行かせてもらえません、よね……?」

「駄目だ。気持ちはわかるが、今は君たちの安全が優先だ」

「そう、ですね……」

「……すまん……」

 どことなくぎこちない俺と浅井の会話。

 じつは少し理由がある。

 

 数年前のシャドウ事件のあと、警察として報告に行ったときのことだ。

「……ということだ。捜査協力、感謝する」

「いえ。改めてありがとうございました」

 ふと、目を移すと所長と藍沢が談笑している。

「? 二人がどうかしましたか?」

「……いや」

 その様子を見て俺は(がら)にもなく、心の内を明かしてみたくなった。

「俺は……医者が好きになれん」

『ウェザー!』

『哀れな家族の生き残りくん』

『いくら素晴らしいメモリでも使う奴が虫けらでは意味がない!』

『先に地獄で待ってるぞァァァァァァァァ……‼︎』

 一(くく)りにするのはもちろん違うが、医者と聞くと家族の憎き仇だった男の顔とおぞましい最期の姿が目に浮かぶ。

「は、はあ。そうなんですか……」

 浅井にしてみれば突拍子もない話題を出したため困惑している。

「……井坂(いさか)深紅郎(しんくろう)という名前に覚えは?」

「井坂、先生……。風都では有名な町医者で、かなり腕が立つ人物だった、と。少し前に亡くなったと聞いていますが」

「……奴はドーパントになり、自身の能力をためすために、と大量殺人を犯した」

「!」

「……俺は奴に家族を皆殺しにされた。だから、医者が好きになれん。……君にそれを告げるのは違うとは思うが」

「……そうなんですか。それなら……じつは、僕も警察が大嫌いなんです」

 浅井は手すりに腕をかけると苦笑した。

「理由を聞いても?」

「僕には妹がいました」

 知っている。シャドウの件で念の為、彼の身辺調査をさせてもらった。

「浅井碧。藍沢さんと同じように看護師を目指し、僕と同じように命を救う仕事をしたかったみたいですが……ある時期からストーカーにつきまとわれるようになりました。しかし、僕は実家を離れて風都にいて、帰るほどの余裕もありませんでした」

「今となっては言い訳ですが」と自嘲気味に笑う。

「家族も警察に相談したそうですが、『実害がないから動けない』と言われ、数回のパトロールだけで終わってしまった、と」

 同じ警察官として、そんな対応を聞くと申しわけなく思ってしまう。

 だが、警察のできることに限界があることもまた事実だ。

 

「そして、風都の看護学校への入試日。駅でストーカーに襲われ無理心中のような形で電車に……」

 秋山が芦田に言っていたのはその件か。

「ところがそれで死なずに重体で済んだストーカーはこの病院に運ばれました。そして、なんの因果か僕が手術を担当しました。事情を知らず、手術を終えたあと……家族から連絡を聞いて愕然としましたよ」

 浅井は拳を顔に押しつけるようにして、怒りに震えていた。

「知らなかったとは言え……妹を殺したストーカーを助けたんです」

 握っている手に力が入っていくのがわかった。

「……苦しかっただろうな」

「仕事として、割り切れませんでした……助けたことに後悔すらしました」

「だが、察するにそいつはのちに法の裁きを受けたはずだ。君は気高い行動をした。少なくとも俺はそう思う」

「……そうでしょうか? あの男がいた間、捕まっても良いからと僕は何度も仇を……」

『家族の仇を討てるなら俺はどうなってもいい……。死んでも構わん‼︎』

「やめろ」

 俺は思わず強い口調で浅井の発言を遮った。

「照井さん……?」

「……君は、その言葉を口にするな。それは自分の悪意を正当化する、耳(ざわ)りの良いだけの言い訳だ」

 愚かな自分と同じ人間に()としたくはなかった。

「君は少なくとも仇討ちを成した俺より、素晴らしい人間だ」

「ずるいですね……」

 俺たちの間に沈黙が流れる。

 すると、浅井は藍沢を見る。どこか愛おしさを感じる目だった。

「……彼女に渡したペンダントは、僕が碧に合格祈願として渡したプレゼントでした。唯一、無傷だったあいつの形見です」

「それをなぜ彼女に?」

「あのとき、絶望した顔で電車に飛び込もうとしていた彼女が、碧と重なって……。いや、そんな崇高(すうこう)なものじゃない。ただ持っているとつらかったから。(てい)よく押し付けた、というのが真意ですかね……」

「だが、それで彼女は救われ、結果として君の命も救った」

「……縁とは不思議ですね」

 浅井はそう笑みを浮かべ、最後に。

「ただ、今でもあのとき、警察が動いてくれたら……妹は死なずに済んだ。そう思わずにはいられない。だから警察は嫌いです」

「そうか……」

 それから所長と藍沢の気が済むまで、俺たちはただ青空を見ていた。

 

 浅井が藍沢を抱きしめている。

 俺も結婚した身として、妻のことを考えれば、傍にいるべきだったのだろうか?

 そもそも俺は所長に相応(ふさわ)しい男なのか?

 そんなことを考えているとビートルフォンの着信音が鳴る。

 画面には所長の名前が表示されている。心配でかけてきたのだろうか。

「もしもし。所長どうし……」

「あんた、嫁さんのこと『所長』って呼んでんのかよ」

 この声は。

「……秋山か」

「ご明察」

 おそらく俺たちが離れた隙に事務所を襲撃して所長を誘拐したのだろう。

「妻は?」

「今は眠ってる。まあ数十分後には黒焦げになってるだろうがな」

 秋山はおどけた口調で言ってきた。

 ……挑発に乗るな。冷静になれ。

「シャドウのころと比べると随分と大胆になったな」

「あんな()えなかった俺様とは違う! あんたに言われたとおりに影に隠れんのはやめたんだよ!」

 メモリブレイクすると時折、メモリに内包された「記憶」と似通った後遺症が残ることがあるが、こいつの場合は陰湿さが取り除かれ、度胸がついてしまったようだ。

「何が目的だ」

「聞く必要あんのか?」

「質問を質問で返すな。……あのときの復讐か」

「当然」

「浅井・藍沢両名はすでに保護している」

「エースか……。懐かしいが、もう興味ないね。いつまでも子供じゃねーんだ。あのとき、卒業したんだよ。それに俺様の狙いはそいつらじゃなくてあんたたちだ」

 先入観から、ものの見事に分断されたか。

「わかったか? あんたの女は人質じゃねえぞ。こっちが俺様たちの本命だ」

 俺様「たち」?

「どちらにせよ妻を救助し、貴様は逮捕する」

「できるかな? あんたには俺様以上に執着してる奴が行ったぜ」

 

「そういうことぉ!」

「!」

 甲高い聞き覚えがある声にすぐさま振り向く。

「キャアッ⁉」

「な、なんだ、彼女は……⁉」

 近くの街路樹の枝に、日傘を持ったストレートの長髪に、右目を見開くゴスロリファッションの女がぶら下がっていた。

 俺はこの女を知っている。

「五条一葉……!」

「お久しぶりぃ! 相変わらずカッコいいぃぃぃ!」

 名前を呼ぶと五条は口が裂けんばかりにニヤリと笑う。

 こいつはなぜか俺のことを殺すために付け狙っている。

「じゃあ、あとは頼んだぜ。用心棒さん」

「ちょーと違うけどぉ。りょーかーい!」

 そこで秋山との通話が切れた。

 五条は地面に降り立つと、身を(よじ)らせて両手の指を絡ませる。

「秋山に脱出の手引きをしたのは貴様だな」

「どうかしらぁっ?」

「今回の騒動は俺を誘い出すための陽動か?」

「ああぁん、もうっ! 質問ばっかりして、()らさないでよぉぉっ!」

 五条は身(もだ)えながら鼻息を荒くしている。

「本当はダメなんだけどぉ……。ちょぉっとだけズタボロにするくらいなら良いよねぇぇっ!」

「スクリーム!」

 五条はメモリを起動し腰のベルト・ガイアドライバーrex(レクス)に装填した。

「くっ!」

 所長のことが気がかりだが、こいつを野放しにすることもできなくなった。

 

「サイクロンジョーカー!」

 一方、左とフィリップは左右で緑と黒の二色に分かれた仮面ライダーWに変身した。

 フィリップの意識を持つ右手がドーパントたちを指していく。

《アームズ、アノマロカリス、アンモナイト、それからエイプか》

「どんな組み合わせだ?」

()いて言えば、すべてのイニシャルが『A』かな》

「だったら照井の所にでも行ってほしいとこだが……仕方ねえ。俺たちが代わりに片付けてやるか」

《ああ》

 Wは指を立て、暴れ回っている悪党どもを指すと、二人が尊敬する師・鳴海荘吉から引き継いだ文言を言い放つ。

 

「《さあ、おまえたちの罪を数えろ!》」

 

 Wはドーパントたちに向かっていく。

 風を操り、高い身体能力を使った素早い身のこなしで相手を圧倒する。

 近接・遠距離に対応できるアームズの武器をかわし。

 アノマロカリスが放つ歯を軽々と叩き落とし。

 上半身に硬い装甲を持つアンモナイトを足払いし。

 飛び上がったエイプを空に舞って蹴り落とした。

 四対一でまったく遅れを取っていない。

 だが、そこで目の前を赤い何かが横切る。

「あぶねっ! なんだぁ今のは⁉」

《あれは……おそらく『アップル』だ》

「アップルぅ⁉ おっと!」

 見ればたしかにリンゴのような赤い球体が車や建物を破壊しながら、Wの周囲を飛び回っている。

「あんな宙に浮く鉄球みたいなリンゴがあってたまるかよ!」

《自身の引力を操れるんだ。物理学者のアイザック・ニュートンが『木から落下したリンゴから万有引力を発見した』という誤解が広まったのは有名……》

「悪ぃが、蘊蓄(うんちく)は後回しだ!」

《リンゴに見えるが中身は果肉ではなくドーパント体だ。当たれば、ただでは済まないだろう》

「ちくしょう、邪魔だな……いてぇ!」

 アップルに気を取られた隙を突かれ、いっせいに攻撃を受ける。

《それなら》

 Wはスタッグフォンを取り出し、熱のヒートメモリを差し込む。

「ヒート・マキシマムドライブ!」

「なるほど。小物相手には小物か! 焼きリンゴにしてやれ!」

 熱を帯びたスタッグフォンがアップルを追いかけ、体当たりを仕掛け攻撃を防ぐ。

《これで集中できる》

「よし、さっさと決めるぜ!」

 Wは左手首をスナップするとベルトから切り札のジョーカーメモリを抜き、右腰のマキシマムスロットに装填した。

 そのまま両手でアノマロカリスとアンモナイトを羽交い締めにする。

「左右一体ずつだ! いけるよな?」

《了解した。ゾクゾクするね》

 右ひじでスロットを叩く。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

 メモリの最大出力を知らせるガイダンスボイスを鳴らしながら、二体のドーパントごとWの身体が緑色の竜巻で舞い上がっていく。

「《ジョーカーエクストリーム!》」

 左右に分かれた両足が二体を同時にメモリブレイクした。

 地面に戻る間に、元に戻ったWは今度はサイクロンメモリを引き抜く。

「さぁて。特別に幻の技を見せてやるぜ」

 スロットのメモリを入れ替える。

「サイクロン・マキシマムドライブ!」

「《ジョーカートルネード!》」

 Wは全身に旋風をまとうとエイプに蹴りを一発見舞い、その反動で回転しつつ風で「C」の軌跡を描きながらアームズに蹴りを放った。

「これで」

 最後に、Wの背後にアップルが迫る……が、それが直撃する寸前で捕らえたスタッグフォンに合わせ後ろ回し蹴りでメモリブレイクした。

「片付け完了だ」

《……翔太郎。勢いで合わせたが、今のマキシマムはどこで打ったんだい?》

「えっ? えーと、どっかで」

 釈然としないままだったが、結果、メモリ使用者たちが大量に倒れていた。

「こいつらは警察にまかせて……っと」

 そこでときめから着信が入る。

「? どうしたときめ……」

「所長さんがドーパントに攫われた!」

「何⁉」

《敵の狙いは……亜樹ちゃんだったのか》

 シュキィィィィィィン……!

 Wが驚く中、聞き覚えがある大音量の衝撃波を感じたという。

「おいおい、今のはまさか……!」

 

 五条がドーパントに変化する最中、俺は二人の前に立つ。

 その身体が、口の中に目玉があり、人の皮を被っているかに見える女性のような上半身に、蜘蛛を思わせる足を生やした、見る者に生理的に嫌悪感を抱かせるようなおぞましい姿、スクリームに変わった。

「アナタ……」

「! ()けろっ‼」

 スクリームは叫び声を超高周波に変換・放出し、対象や周囲をズタズタに引き裂く。

 それで()られた遺体を何体も見てきた。

(シュ)キィィィィィィンッッッ‼︎」

 俺は攻撃の前段階だと知っていて避けられた。

「あっ……!」

 だが、後ろにいた浅井は反応し切れず超高周波が迫る。

 しまった……!

「……先生!」

 ズバババッ……!

 だが、そこでとっさに浅井を庇った藍沢の身体を超高周波が掠めると、余波で地面に叩きつけられる。

「あざみっ‼」

「大丈夫か⁉︎」

 藍沢の身体から血が流れていく。このままでは失血死する量だ。

「……せん……せい。……よかった、ぶじで……」

「あざみ! しっかりしろ、あざみ! 死ぬな!」

 必死に呼びかけるが、藍沢は気を失ってしまった。

「ああん。もう仮面ライダー()り損ねちゃったあ。関係ない奴だと()えないじゃなあい」

 スクリームは愛用のスマホを取り出しつつ落胆した様子を見せる。

「……なんだと?」

「まあ、アナタも悪いんだからねえ」

「……何を言ってるんだ……?」

 浅井はただただ唖然としている。

「だって、苦しむよりぃ。ひと想いに死んだほうがぁ、楽だったじゃない?」

「……貴様ァッ!」

 やはり殺人に快楽を感じる異常者の心理は理解できんし相容(あいい)れん!

 俺が怒りのままにアクセルドライバーを取り出しアクセルに変身しようとした。

 

 バキッ!

「……えっ?」

 スクリームが素っ頓狂な声をあげる。

 浅井がその顔を殴ったのだ。拳から血が(したた)っていく。

「……おまえ、命をなんだと思ってる……!」

 俺でも止められないほどの鬼気迫るものを感じた。

「何って、ボロボロにしてえ、ズタズタにできる……あたしを最高にイカせる物!」

 殴られたことを意にも返さず、まるで子供のように答えるスクリーム。

「……ふざけるな。……命はおまえみたいな奴が(もてあそ)ぶためにあるわけじゃない!」

「何よお。アナタには、あの子だって赤の他人でしょお?」

「僕は医者だ! その赤の他人を助けるためにいる!」

「カッコいいこと言ってるつもりなの?」

「……正しいことを言ってるつもりか? 彼女は……あざみは必ず僕が救う。命の大切さがわからない、おまえが間違っていると証明してみせる……!」

「ふーん。なんかそんなことを言われると頭に……」

 ザン!

「!」

 俺はスクリームの足元めがけてアクセルの剣・エンジンブレードを投げ飛ばす。

「前に言ったはずだ。『風都の人間に手をかけるくらいなら俺を狙え』と。そもそもおまえが興味があるのは俺だろう」

「……そうそう! そう来なくっちゃあ!」

 挑発するとノってくる、単純な奴だ。

 

「彼女を早く病院に。ここはまかせろ。君にドーパントは倒せないが、仮面ライダーの俺にはできないことがあるだろう」

「……はい!」

 浅井は藍沢の身体を羽織っていた服で強く縛ると抱えあげ、すれ違う。そのとき。

「浅井先生」「照井警視」

「命を救ってくれ」「命を護ってください」

「約束だ」「約束です」

 俺たちは互いになすべきことをなす。

「やっぱり(シュ)キィィィ! アタシを楽しませてぇ!」

「良いだろう。今の俺は、振り切る……どころか、ブチギレている!」

 俺はベルトを腰に押し当て、加速のアクセルメモリを鳴らす。

「アクセル!」

「変ッ……身ッ‼︎」

 いつも以上に気合いを入れ、メーターの上部分のスロットにメモリを押し込み、スロットルをひねる。

「アクセル!」

 俺の身体をエンジンの駆動部分を模したオーラがまとうと、閃光とともに赤い装甲の戦士・アクセルに変身した。

「仮面ライダーのアナタが、(シュ)キィィィィィィンッッッ‼︎」

「トライアル!」

 変身したもののアクセルではスクリームのスピードに対応できないため、すぐにメモリを入れ替える。

「トライアル!」

 スピード特化の青いアクセルトライアルになり、インファイトに入る。

 しかし、アクセルと比べて装甲が薄い分、こっちもこっちで一撃貰えば、危険だがな。

 だが、この形態でも打つ手があまりない。

 奴はこう見えて裏風都の幹部。トライアルの超加速にも対応できるほど身体能力が高い。

「ん」

 だが、スクリームが一瞬、手に持つスマホに気を取られた。

 今だ!

「あっ!」

 俺はスクリームの手からスマホを弾き飛し奪い取る。

「『ながらスマホ』は命取りだぞ。……むっ」

 そのとき、スマホの画面が切り替わりある画面が映った。

 これは……。

「何するのよお!」

 俺はスクリームの攻撃をいなしつつ、トライアルの瞬発力でビートルフォンからメールを素早く打ち込んだ。

「返してよ! アタシのスマホォ!」

 スマホは取り返されてしまった。

 そのまま戦闘を続けるが、俺は猫がネズミをいたぶるように遊ばれている感覚がした。

「……そう言えばぁ。アタシに構いっぱなしで良いのお?」

「何?」

「あのチンチクリンの奥さん、そろそろ死んじゃうんじゃない? 秋山サンに」

 そうだ、所長……!

 今度は俺がその言葉で一瞬、動きが鈍った。

 スクリームに足払いをかけられ地面に抑えつけられる。

「くっ、貴様ッ……!」

「それじゃあ、とりあえずアタシ好みのズタボロの姿になってねえっ!」

 目の前の空気が大きく歪むのがわかった。

「……(シュ)キィィィィン!!」

 いかん! 避けられん!

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