風都探偵 The ANOTHER CASE 作:竜・M・美日
腕はまだまだ鈍っていなかったらしい。
迷子探しは一日で終わらせた。
「さすがっす。ししょー!」
「……まあな……」
こいつに褒められるとフィリップに言われたような気分になる。
(得意げになるんじゃないよ……)
頭の中のフィリップのつっこみを無視し、そんな迷子探しの中で考えていたことがあった。
もし本当に探偵の仕事をしたいなら重要なことがある。
それは人脈だ。
だから風都イレギュラーズの面々に見習いを紹介することにした。
早速、依頼終わりにイレギュラーズを事務所に召集をかけた。
まずこの前のことを謝罪すると、「そんなときもある」ってあっさりと流してくれた。
こういう切り替えが早いところが嬉しかった。
話の流れで見習いをみんなの前に出す。
「日色樹里っす。パイセンのみなさん! よろしくお願いしまっす!」
「よろしくね!」
「いやあ、翔ちゃんに弟子ができるなんてネ。ボキ、ビックリ!」
「まだ認めてねえけどな」
見習いが泣きそうな顔で見てくる。
「……あのな。俺に泣き落としは通用しねえぞ」
そう言ったらみんなが驚いた顔をした。
えっ。なんで?
(君が女性に弱いことは共通認識だろう。少なくとも無下にはしないからね)
「いや……待てよっ。昨日の今日だぜ? なんもかんも経験不足なんだよ」
「なんだぁ、翔ちゃん、もうお師匠様気取りじゃーん!」
「まあ、頑張ろうね。樹里ちゃん!」
「はい!」
それから見習いがイレギュラーズたちからチヤホヤされるのを見ていると、クイーンに腕をひっぱられた。
「翔ちゃん。ちょっと……」
「なんだよ。クイーン?」
「どういうつもり?」
見れば神妙な顔をしてる。
「『どういうつもり』って、どういう意味だ」
「ジュリエットを弟子にするって話」
「あのな……俺が言ったんじゃねえ。あいつが『なる』ってしつこかったんだよ」
「で、折れたわけ?」
「たしかになし崩し的に……だけどな」
「あの子、育った環境が環境だから……。時々、人のためなら周りが見えなくなるし。アンタみたいに」
ギロリとにらみを利かせてくる。
「うっ……わかった、わかった。仕事のときは目を離さないようにする」
「本当にわかってんの? あの子、泣かせたら承知しないよ」
「わーってるよ、女王様。少しは信頼してくれよ」
(可愛くないね)
「ほんと、可愛くねえ……あっ」
「……今、なんて?」
フィリップに釣られて禁句を言っちまった……。
「いやあ、そのぉ……ノオォォォォォォォーッ!」
気づいたときにはそれはもう見事なフロントチョークが俺の首に決まる。
見習いを含む全員が俺たちの応酬を笑って見ていた。
いや、誰か止めろよ!
その後、帰っていくイレギュラーズと入れ替わりで照井が事務所に入ってきた。
「どうやら威勢を取り戻したようだな。左」
「まあな」
「……あのときはすまなかった……」
頭を下げてくる照井。
「やめろよ。気味悪ぃ。調子狂うだろ」
「俺も大人だ。分別くらいある」
「なら、こいつに挨拶でもしといてくれ」
照井は頭を上げると見習いを見た。
「彼女が例の?」
「うん! 翔太郎君の弟子になる日色樹里ちゃん! 樹里ちゃん! 私の彼氏で風都署刑事の照井竜くん!」
「照井だ。よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いしますっす!」
照井が挨拶すると見習いがビシッと直立不動になる。
俺や亜樹子は仕事柄とっくに慣れてるが、一般人が警察官と言われたらだれだって緊張するもんだな。
「で、なんか用があったんだろ?」
「あぁ。だが……」
見習いを横目に言い
なるほど。メモリ関係の話か。
まだ部外者の域を出ない見習いに話を聞かせて良いのか迷ってるんだろう。
でもなぁ。こいつは女版俺みたいな奴だ……。
言わなかったら言わなかったで、無茶しそうだし。言ったら言ったで、無茶しそうだ。
……あれ、俺ってめんどくさい奴?
(今になって気づいたのかい?)
「あの……お邪魔なら出て行くっす!」
気を使いつつも見習いはテンパったのか、ガレージのドアを開けようとした。
『いつも言ってるよな、翔太郎。その扉には触れるな。幽霊が出る』
「! 入るなッ!」
とっさに大声を張りあげると見習いは肩を震わせる。
あの照井さえ驚いた様子で俺を見た。
「えっ、あっ……」
周りの反応を見てまずったと思った。
ガレージは今じゃ誰も使っていないが、一応Wの秘密基地だし、入れる必要はない。
「……そのドアには触んな。幽霊が出る」
「えっ、ええっ⁉ ここ事故物件なんすか⁉」
おやっさんの注意を使って止めたら、見習いがパニックになる。
「……とにかく帰れ」
「は、はい。お疲れ様でした!」
見習いはドタバタと事務所から出ていった。
「……良かったのか?」
「まだ仮面ライダーのことは知らねえんだ。今はな……」
照井が目線をよこしてくる。
わかってる。これはバレることが前提の言葉だ。
「それについて考えるのはあとにして……。どうしたんだ?」
話を促すと照井は封筒から書類を取りだした。
「二件ある」
一つは事件資料。一つは顔写真付きの名前のリストだった。
「最近、メモリ使用者同士の小競り合いが増えている」
(ドーパントの抗争か。珍しい)
「まるでヤーさんの喧嘩だな」
「人間同士ならまだ可愛いものだ。捜査の結果、現状最も危険な勢力が判明した」
「どこだ?」
「『ネスト』と呼ばれている」
「ネスト?」
「ミュージアムの壊滅後、パワーバランスが崩れた風都で一、二を争うほどの暴力集団らしい。『
「虫ぃ? 趣味悪ぅ……」
亜樹子が身震いした。
「また、連中はあるドーパントを崇拝の対象としているらしい」
「崇拝? 物好きな奴らだな……」
ドーパントを崇拝してるなんざ、ヤバい連中には違いねえ。
「警察としては、一般人に被害が拡大する前に叩いておきたい」
「了解。最優先で気にかけとく」
「頼む」
もう一方のリストを見た。
「で、こっちは?」
「主だったメモリ密売の疑いがある連中だ」
照井の言葉に思わず、ため息を漏らす。
「カルト集団に、密売人……。仮面ライダーに休む暇はねえな」
「ガイアメモリがある限りはな」
やれやれとリストを封筒に仕舞い、報告書のファイルが入った棚の奥に隠す。
「……機密書類だ。君たちには特別に
「ああ。気をつけるよ。見習いも出入りしはじめたしな。……亜樹子も余計なこというなよ」
「わかってます!」
口を尖らせる亜樹子に釘を刺しデスクに座ると、次に事件資料に目を通す。
だが、被害報告以外ほとんど何も書かれていなかった。
「噂の範囲だが。メンバーは身体のどこかに虫型の
「虫の形のタトゥー?」
「そうだ。かつてのそのドーパントの犯罪状況を模倣して、だそうだが」
(よほど入れ込んでいるようだ)
熱を入れすぎるのは怖い、と思いながら立ちあがる。
情報がないなら、探偵がやることは一つ。
地道な聞き込みだ。
早速、その日から調査を開始した……が。
(翔太郎)
……わかってるよ……。
後ろには勝手に見習いがついてきていた。
なんだかフィリップに尾行されてるみたいで変な感じだ。
だよな。来るよな……。
ため息を吐きながら街の聞き込みに回る。
「ししょー……」
しばらくすると見習いが声をかけてきた。
「どうした見習い。もう
そっちのほうがありがたいんだが。
「いや、そうじゃなくて……いつになったら名前で呼んでもらえるっすか?」
「あん?」
「ずっと『見習い』じゃないっすか。ボクには日色樹里って名前があるっす。そっちで呼んで欲しいっす」
たしかにおやっさんも俺のことをその日の内に「翔太郎」って呼んでたから、別に呼ばない理由もないんだが。
そう思って、昔のことを思い出す。
『
俺たちは亜樹子が来たときよりも全然、息が合わなかった。
Wに変身するのも相棒関係も、何もかもが手探り状態。
探偵業がなんとか俺の人脈でつながってた感じで、何かあったら二人で口喧嘩だ。
互いに名前で呼んだことなんてなかった気がする。
たださすがにドーパント退治のときは妥協して力を合わせてた。
あるとき、また二人でつまらないことで言い合いになったところにドーパント騒ぎが起きて、頭に来た俺は変身せずに一人で立ち向かった。
今考えれば本当に無鉄砲だよな。
『マグマ!』
そいつが建築家気取りの短気な奴で、気に入らない建物があると燃やすっていう悪質な放火魔だった。
『止めてやるよ! 俺が!』
そのときはやっと犯人を見つけられたこともあって、功を焦った上にメモリを使わせてしまった責任感から一人で向かってった。
案の定、危なくなったところで……フィリップがリボルギャリーで駆け付けてくれた。
『……なんの用だよ……』
『……左翔太郎。君の甘い考えに付き合うつもりはないが、勝手に死なれても困る。Wになれるのは、現状、君だけなんだからね』
リボルギャリーから下りながら、フィリップはそう言ってきた。
『それに訂正したいことがある。君は『俺が』と言ったが、正確には『俺たちが』のはずだ』
当時のフィリップにとっては最大限の
『……オーライ。行くぞ、悪魔野郎』
『フィリップ』
『あん?』
『ぼくの名前はフィリップだ。左翔太郎』
『……わあーったよ。じゃあ俺のことは『翔太郎さん』って呼べ』
フィリップは顎に手を置くと、うなずく。
『承知した。翔太郎』
『いや、だから。翔太郎さんって呼べよ』
『なぜ君が敬称付けで、ぼくが呼び捨てなんだい? 不合理だ』
『はあ? 年上は敬うもんだろ!』
『君のどこに尊敬する要素があるんだ?』
『んだと!』
『おい! 無視するな!』
放火魔が痺れを切らして喚く。
『ったく、仕方ねえ。その話は後回しだ。行くぜ……フィリップ』
腰にベルトを巻く。
『了解だ。翔太郎』
『ジョーカー!』
『サイクロン!』
俺たちはそれぞれメモリを鳴らし、ベルトに入れた。
『変身!』
『変身』
かけ声がズレたままWに変身する。
『さあ、おまえの……』
いつもの口上を言おうとした。
《早く倒すよ。翔太郎》
フィリップが面倒くさそうにいう。
『……相変わらず、息合わねぇな! 行くぜ!』
その後も息が合わないながらも仕事はこなした。
思えば、名前を呼ぶのは俺にとって相手を認めたことになるのかもしれない。
「……駄目だ。俺が認めるまでは『見習い』だ」
「そんなあ……」
見習いはがっくりと肩を落とす。
(相変わらず、変な意地だね)
そのほうが俺らしい、だろ?
(……まあね)
よほどショックだったのか見習いはついてくることはなかった。
一方、亜樹子も珍しく聞き込みに外に出ていた。
まあ聞き込みっていうより、事件で知り合った親友に会うため、が正しいな。
ある店に入れば、手を振る待ち人がいた。
亜樹子も笑顔で振り返す。
「お久しぶりです。亜樹子さん。お元気ですか」
「あざみさん、久しぶり! ごめんね急に!」
「いいえ。私と亜樹子さんの仲じゃないですか」
以前は暗い性格だったが、今では普通に笑えるくらいには元気になったらしい。
ちなみに同じ病院に勤める医師・
亜樹子は今回の件について、心当たりがないか尋ねてみようと考えたらしい。
たしかにタトゥーを入れた相手を自然と見れるのは医療関係者だろう。的外れでもない。
「こんにちは」
隣に座っていた、亜樹子に雰囲気が似た女性が挨拶してくる。
「こんにちは。えっと、こちらの彼女は?」
「
「へえぇ。じゃあ、あざみさんの後輩さんだ!」
「そうです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
それから亜樹子の事情説明が終わるまで、藍沢さんはニコニコと二人を見ていた。
「どうかしたの?」
「私、いつか二人を会わせたいと考えてたんです」
「えっ。どうしてですか?」
「じつは……二人とも、大阪出身なんですよ」
「「嘘! 私、聞いてない!」」
二人が同時に叫んだ。それでますます藍沢さんは笑みを深める。
「やっぱり。山村さんが心細いかなと思って、紹介したかったんです」
それからは地元トークで意気投合すると、三人で雑談に花を咲かせたらしい。
だが残念ながら、目ぼしい情報は得られなかったみたいだ。
そのころ、見習いは途方に暮れた結果、先輩のクイーンとエリザベスを頼っていた。
「翔ちゃんに認めてもらえない?」
「そうなんっすよ……。のらりくらりって感じで……。ボクもハードボイルドな探偵になりたいっす」
見習いは三人のパフェが置かれたテーブルに頭を乗せながらぼやく。
「『ハードボイルド』って、翔ちゃんみたいな感じだったっけ?」
「……それはともかく。探偵なんてそんなもんじゃない? 秘密を探す仕事だし。にしてはアイツも随分と心開くのが遅いね」
「……そうなんっすか?」
「アイツ誰とでも仲良くなるタイプだけど……」
「たしかになーんか、一歩引いてるみたいだよねぇ」
「……フィリップくんのことがあるからかもね……」
クイーンのつぶやきに見習いが頭を上げる。
「『フィリップくん』?」
「えっ! 知らないの⁉ 翔ちゃんの相棒!」
フィリップに気があったエリザベスが嬉々として話すことを、一字一句聞き逃さないようにする見習い。
「で、今は海外留学してるみたいだけど。元気にしてるかなぁ?」
「……さあね……」
クイーンは視線をそらす。
「ししょーにそんな人が……」
「それが原因かもね。アイツがジュリエットを
クイーンの推理に二人は「えっ」と声をあげる。
「相棒がいるのに、弟子は取れないって……変な意地」
「だったらさ、フィリップくんに負けないくらい頑張れば、認めてくれるってことじゃない?」
エリザベスの思いつきに、見習いはパッと明るくなった。
「そうか! そうっすよね! 頑張ってみるっす! 目指せハードボイルド!」
見習いはパフェをかっこみ二人に礼を言うと意気揚々とその場をあとにした。
「なんだかんだうまくいきそうだよね!」
「たしかに……少し前に比べたら、アイツも元気になったしね」
エリザベスがニヤリと笑った。
「ねえクイーン、いつになったら翔ちゃんと付き合うの?」
「言ってんでしょ、そんなんじゃないよ」
言い飽きたとばかりにヒラヒラと手を振る。
「ごめん。お待たせ」
そこでタブレットを脇に抱えた好青年が現れた。
「おっ。やっと来たね」
「『まさっきー』! 私たちの『知識の本棚』!」
そのあだ名のとおり、高校の中では秀才らしい。
「高校きっての情報通の二人が、僕に何か頼み事があるとか?」
「そう! 私たちを大学合格できるように勉強教えて!」
「私は別にいいんだけど。エリザベスがね」
「はぁーっ⁉ クイーンもどっこいどっこいでしょ!」
二人が成績について言い合う中、好青年は顎に手を当てる。
「なるほど。二人同時に大学合格か……」
「……まさっきーでも難しい……?」
「……いや、面白そうだ。ワクワクするね」
パン、と音を立ててタブレットのカバーを閉じると、秀才は二人に不敵な笑みを浮かべた。
夜になっても俺はまだ聞き込みを続けていたが、結果は
ガイアメモリ犯罪の大半は現行犯だ。
今回は一般人に被害が出てないから尻尾すら見えない。
改めてフィリップの存在が探偵業を支えていたことを痛感する。
「
(頼ってくれるのは嬉しいが。ないものねだりをされても困るよ)
「……でもよ。おまえがいないなら……」
「ボクがいるっすよ!」
「おわぁっ⁉」
背後から声をかけられて思わず大声をあげる。
振り返れば笑顔の見習いが立っていた。
「み、見習い⁉」
「やっと見つけましたよ!」
「ど、どうやって⁉」
「ししょーのバイクは目立つっすからね。『黒と緑のバイクを見なかったか』って聞いたら、あっちこっちから情報を貰って場所を絞れたっす」
(ローラー作戦か。悪くない。あのバイクに乗るのは君とWだけだ)
「もちろん、ここも使って」
見習いは足を叩いた。
「正確にはバイクっすけどね」
親指で後ろを指すと、ハードボイルダーの隣に年季の入ったモスグリーンのオフロードバイクが駐輪してあった。
「……免許、持ってたのか?」
「高校入ってすぐにバイトして、夏休みの間に合宿で免許を取って、中古を買ったっす!」
(探偵をするためではなかっただろうが、すごい行動力だ)
まったくだ。その力の入れようにはため息が出るぜ。
「まだ聞き込みっすか?」
「……昔なじみにな。おっと出てきたぜ」
あるホストクラブからダークブルーのスーツを着たホストが出てくる。
「よう」
「おっ、翔太郎。久しぶりだなぁ。……その子は?」
「最近、入ったばかりの見習いだ」
「……ししょー、この人が……?」
見習いは疑惑の目を奴に向けた。
「人を見た目で判断するなよ。こいつは夜の街ではかなり顔が利くんだ」
「ホストクラブ『ジャックポット』。ナンバーワンホスト・
蓮がキザったらしく名刺を出すと、見習いは苦笑しながらそれを受け取る。
「……どうも……」
「『自称・ナンバーワン』だけどな」
「余計なこと言うな」
蓮に事情を説明し心当たりがないか尋ねた。
「ふーん。虫のタトゥーを入れた連中ねぇ。今時、タトゥーを入れる奴なんて珍しくない。蝶のタトゥーを入れたレディなら探せばいくらでもいる」
「たしかにな」
「……だが、逆を言えば珍しいタトゥーを入れてたら目立つ」
「……心当たりがあるっすか?」
蓮は人差し指を立てた。
「一人。そいつは別の店の元ホストで口がうまかった。
「チーム……」
「そして、そいつのここには」
スーツの袖を指で叩く。
「おまえがいう、虫っぽいタトゥーがあった、そうだ」
「顔写真か何かあるか?」
「たしか、クラブの付き合いでそいつを入れて飲んだときの写真が……あった」
ガラケーを取り出し写真を探し当てると、俺たちに見せてきた。
スラッとした体形だが、顔はホストにしては少々冴えなく見える。
「……この人……」
すると見習いが首を傾げた。
「どうした?」
「どこかで……?」
腕を組んで必死に思い出そうとしているが、結局何も出てこなかった。
(この様子ではすぐに思い出せなさそうだ)
「……そうだな。とにかく次はこいつをあたってみるか」
「翔太郎。そいつの『客引き』が習慣になってるなら明日の夜あたり、ここら辺りに来るはずだ」
「了解。ありがとな。手がかりをつかめたかもしれねえ」
「なら良かった。この街の
「……よく恥ずかしくねえな。そんな台詞」
「それが、俺の仕事」
俺たちが礼を言ってその場を離れると、蓮の傍を女性二人組が通る。
「やあ、そこのレディたち。今夜はいい風向きだ。ここで楽しい夜を……過ごさないかい?」
早速、キザな誘い文句をいうと、二人は顔を見合わせた。
「「結構です」」
きっぱりと断られた。
「あっ、はい……」
今日は風当たりが強かったらしい。
次の日、夜のための準備をしていると見習いから電話がかかってきた。
「もしもし。どうした?」
「ししょー! 写真の人についてわかったっす!」
「えっ、マジかよ⁉」
興奮した様子で矢継ぎ早に話しはじめる。
「あの人。ウチの施設にいた人だったんです!」
「なんだって……⁉」
「しかも、さっき職員と何か話して帰っていくのを見ました! そこで施設のアルバムを見返したらドンピシャっす!」
だとしたらその職員は……。
(メモリ使用者の可能性が高い)
「下手に動くなよ! 今から行く!」
急いでハードボイルダーを駆けて孤児院に向かうと、見習いがその職員に適当な話題を振って足止めをしていた。
バイクの音で気づいたんだろう、俺を見るなり手を振ってくる。
「あっ、どうも!」
突然の乱入者に職員はどこか不安そうな顔を浮かべた。
「樹里、この人は……?」
「ボクがお世話になってる、鳴海探偵事務所の左探偵」
「鳴海探偵事務所……」
職員の顔色がサッと変わり、挙動不審な動きを見せる。
(気づいたかい? 左腕を背中に回す仕草。それが意味することは?)
「ちょっと探し事がありまして、ご協力お願いできませんか?」
「いやぁ。お役に立てるかどうか……」
「一つだけ答えてもらえれば。ネスト、この言葉に心当たりは?」
謙遜する素振りの相手に単刀直入に話を振った。
「知りませんね」
……かかった。
見習いに目を向けて、さりげなく左腕を擦る。
意図が伝わるといいが。
「なるほど。その意味は知ってるわけだ」
「えっ?」
「普通、わからないなら言葉の意味を聞くはずだ。なのにあんたは『知らない』と答えた。意味を理解してるからだ」
「は、はぁ? ただの言いがかりです! な、なんなんですか!」
「なら……左腕見せてもらっても構わないよな? 見習い!」
「はいっ!」
その一言で見習いといっしょに組み付き、二人がかりで上着の袖をまくる。
腕の内側には虫……蜘蛛のタトゥーが入っていた。
「あった……っ⁉」
それを見た見習いが目を見開くと、あとずさって地面に座り込んだ。
「えっ、おい、見習い⁉︎」
あわててその身体を抱える。
頭を抑え身体を震わせて顔面が真っ青だ。
(この様子、ただごとじゃない……。いや、それよりも!)
その隙を突かれて例の職員が逃げ出した。
入り口から出ていって……なんと駐輪していたハードボイルダーに乗りやがった。
あっさりとエンジンがかかる。
(キーを挿しっぱなしだ!)
見習いを置いて、とっさにハードボイルダーにスパイダーショックの発信機を放つ……直後、あっという間に走り去る。
「手がかり逃がした上に盗まれちまった……!」
どうするべきか焦っていると目の前にオフロードバイクが止まった。
「ししょー! 乗ってください!」
見習いが予備のヘルメットを投げてよこす。
「おまえ、大丈夫なのか⁉」
「……大丈夫です! こうなったのはボクが原因です! 責任はボクが取ります!」
まだ顔色が悪かったが、決意の顔で言った。
言い合いしてる時間も惜しい。見習いとタンデムをする。
「飛ばせ! 見習い!」
「はい!」
さすが仮面ライダー用にチューンされたバイクだ。かろうじて後ろ姿は見えるが追いつけそうにない。
「速い……!」
「出そうと思えば五百キロは出るからな!」
「はいっ⁉︎」
スパイダーショックの反応を見ながら、頭の中で街の地図を描く。
どこに行く気だ? 仲間のところか? でも、こっちに隠れるような建物は……待てよ。
「! 高速か!」
あくまでも憶測だが、もし高速に乗られたら手が出せなくなる!
(翔太郎、スタッグフォンだ! ハードボイルダーを自動操縦にして、操縦権をこっちに戻すんだ!)
「そうか! それがあったな!」
「えっ?」
スタッグフォンを取り出して、タイミングを見計らってコマンドを押す。
「……うわぁぁっ⁉︎」
バイクが急転回したことで職員が悲鳴をあげながら柔らかい芝生の上に投げ出される。
服がボロボロになった職員は立ちあがるとメモリを出す。
「ビー!」
蜘蛛のタトゥーに浮かぶ生体コネクタにメモリを刺した。
蜂らしいストライプの禍々しい容姿と針の形状をした武器を持っている。
一度、やりあったことがある相手だ。でも、あのときは一瞬で倒したから気づかなかったが、その針からは毒液が垂れている。
それを俺たちめがけて飛ばしてきた。
「うわあっ!?」
焦った見習いが急ブレーキをかけたことでバイクが横滑りして俺たちも投げ出された。
「いてて……っ⁉」
「死ねぇ!」
背中の羽で素早く接近され刺されそうになる。
「やめろ!」
だが、俺より先に立ちあがった見習いが蜂男の前で腕を広げる。
「邪魔するな! 樹里!」
「嫌だ! 知り合いにこれ以上、罪を重ねさせるわけにはいかない! それにこの人は……ボクの大切な師匠だ!」
見習い……。
その言葉に嬉しく思いつつ、身を
「ジョーカー・マキシマムドライブ!」
「メタル・マキシマムドライブ!」
「トリガー・マキシマムドライブ!」
スタッグフォン・バットショット・スパイダーショックにそれぞれメモリを差し込んだ。
「! 何これ……?」
「な、なんだ⁉ 痛っ!」
動き出したメモリガジェットに驚く見習いから蜂男を引き剥がし、庇うように立つ。
「ししょー……!」
「やっと、おまえの覚悟が伝わったぜ。……『ヒロ』」
「!」
「弟子としてはまだなんにも足りねえが。半人前くらいには認めてやるよ」
「ししょー……ありがとうございます……!」
はにかんで笑うヒロを見て、この愛らしい弟子を守る覚悟が決まる。
ジャケットからベルトを取り出すと、ヒロが目を丸くした。
「……ししょー、それは?」
「ヒロ。今から俺がすること……亜樹子と照井以外には話すなよ」
「えっ?」
「約束だぜ」
キョトンとしながら、それでもうなずいたのを見て、手に飛んできたスタッグフォンからジョーカーメモリを抜く。
「えっ。ガイアメモリ⁉」
再三驚くヒロの声を背中に受けてメモリを構える。
(やるんだね?)
ああ、行くぜ。
「ジョーカー!」
ジョーカーメモリを鳴らす……いつもの反応が返ってこない。
(……ぼくはいないよ)
あっ。そう、だったな……。
相棒がいない寂しさと自分へのあきれを誤魔化すようにメモリを宙に投げると、いつもと逆で左手に持つ。
スロットにメモリを装填して、右拳を力強く握り締め左頬まで近づける。
「変身」
スロットを左手で倒し、指と腕のポーズで「J」の字を作る。
「ジョーカー!」
俺の身体を黒い粒子が包み、仮面ライダージョーカーに変身した。