風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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前章4「Jに贈る言葉/街に巣食う者」

「し、ししょーが仮面ライダー⁉︎」

 仮面ライダーになるところを見てヒロが驚きの声をあげた。

 手を振って応えると蜂男と向き合う。

 弟子が身体張ったんだ。俺も師匠らしいところ見せねぇとな。

「ダチを愛するヒロにこれ以上、涙は流させねぇ。覚悟しな」

「か、仮面ライダーがなんだぁ!」

 蜂男の針攻撃を蹴りで跳ね返したり、飛ばしてくる毒をかわしながら奴を高速の下に誘い込んだ。

 相手は空を飛べれば有利だと思ってるだろうが、天井が低ければ同じ土俵にひっぱれる。

 ただ蜂なだけはある、変身したことで強くなった動体視力でかろうじて動きが追えるぐらいだ。

 別の事件で一瞬で倒したWサイクロンジョーカーエクストリームが規格外だったことを痛感する。

 次第に防戦一方になり、ついに地面を転がる。

(あのとき、ほとんど能力を見なかったことが少し仇になったね)

「どうだぁ!」

「……はん。この程度、(かゆ)いくらいだぜ。蚊の坊や」

 口元を拭って挑発する。

「ふざけんなっ! 俺は蚊じゃねえ! 覚悟しろ!」

 蜂男は素早く羽ばたきながら針の武器を突き刺す形で構えた。

(一直線に勢いをつけて仕留める気だ)

「上等だ。俺が早いか……あいつが早いか」

「死ねぇ‼」

 奴が一気に迫ってくるのを見ながら、マキシマムスロットにメモリを入れる。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

 右足に力を入れると紫の炎がまとう。

「うおぉぉぉぉぉッ!」

「……ライダーキック!」

 一瞬、きっと一秒もなかった。

「どりゃあッ!」

 奴の突きを避けて、顔面を回し蹴りで蹴り抜く。

「ブゥッ……ウワァァァァッ!」

 蜂男が爆発して中から職員が出てきた。

 タトゥーの位置からメモリが飛び出して砕ける。

「ししょー!」

「おっと」

 ヒロが喜びながら抱きついてきた。

「カッコよかったっすー!」

「おう」

 小恥ずかしさを誤魔化すために頭の角を左手でなでた。

(おめでとう。よくやったね)

 あぁ、大事なもんを守れたぜ。

 

「了解した。すぐに向かう」

 俺からの連絡を受けた照井が現場に向かおうとして、ある人物と出くわした。

「お疲れ様です。照井警視」

 穏やかに声をかけてきたスーツを着た男。

 その後ろには数人の部下を引き連れている。

嶺本(みねもと)管理官」

 嶺本管理官。警視庁の刑事部捜査第一課で照井と同じ階級の「警視」だ。

 照井とは何度か事件をともにしたらしく、市民を守るという(こころざし)を同じくして、前から提案していたガイアメモリの研究組織・G研の設立にも力を貸した人物ということだ。

 今回は別件で風都署に来ていたみたいだが、照井を見かけて声をかけたらしい。

「例の件、進捗(しんちょく)如何(いかが)ですか?」

「容疑者と(もく)される一人を確保しました。じきに連中の所在もわかるかと思います」

「それは僥倖(ぎょうこう)ですね。良い報告をお待ちしています」

「はい。では、失礼します」

 短い会話を交わして去っていく後ろ姿を見送ると、部下の一人が言った。

「管理官。彼に一任していいのですか?」

 その発言に他の部下も同調しはじめる。

「たしかに。ガイアメモリ犯罪において九割以上の検挙率を挙げていますが。実態は何をしているかわからない上、他部署との連携も密に取っていません」

「警察組織としては秘密主義は改めさせるべきではないかと」

 事件を解決する仮面ライダーの正体が照井であることを知らず、またその活躍ぶりが気に食わないんだろう。

 年配の人間であれば若くして警視になった照井、つまりキャリア組に嫉妬するのもわかる。

「そうかもしれませんね」

 嶺本管理官はそう前置きして。

「ですが、何かあれば責任は私が持ちます。……ですから」

 一転、声に威圧感を含んで振り返る。

「俺に質問しないでいただきたい」

 照井にも負けず劣らずの正義感に燃えた目で言い放たれれば、部下たちは押し黙るしかなかった。

 

 数十分後、照井の部下・ジンさん(刃野刑事)マッキー(真倉刑事)に職員が連行されていく。

 詳細を説明すると照井はチラッとヒロを見た。

「……良いんだな?」

 その言葉の前には「仮面ライダーのことを教えて」って付くんだろうが。

「もう決めたんだ」

「なら、何も言わん。引き続き頼む」

「おう。また連絡する」

 パトカーに乗り込む照井と別れて、連行されるところを見届けたヒロの肩を叩く。

「……残念、だったな。でも、そういうこともある。歯を食いしばるしかねえんだ」

 知人が犯罪者。俺も幼馴染がそうだったからつらさが少しはわかる。

 ヒロはスカジャンの袖で目を擦ると無理に笑った。

「……師匠はハードボイルドっすね……」

 そう言われて思わず苦笑いする。

 よく意味がわからないまま、俺のことを言ってるんだろうな。

「じゃあ、一旦帰るぞ」

「……はい。でも、驚きました! ししょーが仮面ライダーだったなんて!」

 切り替え早えな……。

(無理に明るくしているのかもしれないよ?)

「その話は追々な」

 弟子になる前以上の尊敬の眼差しを向けられて、それぞれのバイクにまたがって事務所に戻った。

 

「おかえり!」

「ただいまっす!」

 亜樹子の出迎えにヒロは笑顔で返事するなり俺の活躍を語りはじめた。

 それを亜樹子はチラチラこっちを見ながら聞いてる。

 文句ならあとで聞くからよ……。

「……まあ、これで樹里ちゃんも本当の意味で仲間になれた、でいいのね?」

「ああ、まあな……」

 肯定すると、亜樹子は手を合わせて頭を下げる。

「ごめんね! 樹里ちゃんに隠しちゃって!」

「全然です! むしろ教えてもらえて嬉しいくらいっす!」

 亜樹子は嬉しそうにヒロを抱きしめた。

「えっ! しょ、しょちょーさん?」

「あーっ! ええ子! こんな子、今時めったに見いひんで! 大事にしいや!」

 抱きしめるヒロには見えないようににらみを利かせてくる。

(すっかり亜樹ちゃんのお気に入りだね)

「わかってますよ……」

「く、苦しいっす……!」

「あっ。ごめんね! そうだ、翔太郎君! せっかくだし記念品か何か渡してあげたら?」

 突然、亜樹子から意味不明な提案をされた。

「はあ?」

「事件解決への貢献に金一封じゃないけど」

「えっ、良いんですか⁉」

「今は無償で働いてくれてるんだし。いつも、とは言わないけど、そういうのでモチベが上がるんじゃない? どう?」

「欲しいっす!」

 さっきとはまた違う期待の眼差しで見てくる。

(ふむ……一理ある、のか? ぼくにはほとんど経験がないからわからないが)

「えぇ……。じゃあ、花でも買ってやるよ」

 濃密だったから勘違いしそうになるが、こいつとの付き合いは数日しかない。

 だからそれ以外、好きな物を知らない。

「花……。花も良いですけど。もっと形が残る物が欲しいです!」

「おまえ、結構わがままだなあ……」

「!」

 ちょっとした小言のつもりだったが、想像以上にショックを受けた顔をした。

「えっ、悪い……。そんな顔すんなよ。なんかあるかぁ?」

 あわててジャケットのあっちこっちを叩くと胸ポケットに何かあった。

 取り出してみれば、それは「ふうとくん」のキーホルダー。

 

『この街を……。よろしく頼む』

 園咲霧彦(きりひこ)。ミュージアムの幹部でありながらこの街を愛し、マスコットキャラクター・ふうとくんのデザインを考えた男。

 一介のビジネスマンから園咲家に婿入りして幹部に上りつめたときこそ従順だったが、最後にはミュージアムを裏切った結果、妻・冴子(さえこ)に処刑された。

 

 このキーホルダーは奴曰く、「限定生産五十個の超激レアモノ」。

 ……駄目だ、これは霧彦から託された宝物だ。さすがにヒロにも渡せねえ。

 他にないかとそれを胸ポケットからひっぱり出すと、くっついていた何かが床に落ちた。

 それはすっかり色褪せた、ふうとくんのアクリルキーホルダーだった。

 こいつは……。

『幸運のお守り代わりだと思ってさ! そんなレアなキーホルダーを当てられるなんて、きっとサツキさんを守ってくれるぜ!』

『ふふ、ありがとう。翔ちゃん』

 これも「事故で亡くなった」大切な人から託された宝物。

「……サツキさん……」

 おやっさんの行きつけのスナックのママで、母親代わりだった人の名前をつぶやく。

「えっ?」

「……これ持っとけ。お守りだ。よく効くぜ?」

 経年劣化でかなり色が落ちて見栄えは良くないから、突き返されると思ったが。

「やったあ! 嬉しいっす! 大切にするっす!」

 考えに反してヒロは表情を明るくして、大事そうにバイクのキーに付けた。

 ……サツキさん。こいつのこと守ってやってくれ。

「じゃあ、そろそろ帰れよ」

 はしゃぐヒロに帰るように促した。

「え~、ししょー……」

 あからさまに不満そうな声を出すが。

「施設の人が心配するし、今頃、大変かもしれないからな……」

 そう言ったら一瞬、悲しそうな目を浮かべて、コクリとうなずいて事務所を出ていった。

「翔太郎君……」

 おそらくヒロの今後について口を開こうとした亜樹子を手で制する。

「仮面ライダーのことを知ったからって、メモリ関連のヤバイ案件に引き合わせる気はねぇ」

(それについては同感だ)

「それよりも今晩、繁華街のほうへ行ってくる。ネストの連中と接触できるかもしれねえからな」

 

 夜まで準備をしていると事務所の固定電話が鳴り、亜樹子が取った。

「はーい、鳴海探偵事務所です。はい……はい。少しお待ちください。……翔太郎君」

 頭を上げたら亜樹子が不安そうにしている。

「どうした?」

「……樹里ちゃんの施設の人から電話……」

 すぐに電話を替わる。

「はい。所員の左ですが」

「すいません。夜分遅くに失礼いたします」

 高齢の男性の声が聞こえてきた。

「何かご依頼でしょうか?」

「いえ……そうではないんですが。最近、日色さんがお世話になっているとお伺いしました」

「はい、そうですね」

「あの。日色さんがまだ帰っていないのです」

「えっ、ヒロ……樹里さんが帰ってない?」

 亜樹子が驚いて口に手を当てる。

「じつはこちらで、その、騒動がありまして……。すぐに帰ってくるように連絡したのですが。いつまでも帰らずバイクもなく、まだそちらにいるのではないかと思ったのですが」

「……昼過ぎには帰しましたが……」

 まさか、あいつ……。

「わかりました。こちらでも探してみます」

「すみませんが、お願いいたします」

 受話器を置くと亜樹子を見る。顔色が悪い。

「翔太郎君……」

「ネストの件は……ヒロも聞いてた」

(もし君の役に立ちたいなどと考えたとしたら)

 俺があいつなら、そこに行く。

(急いだほうがいい)

 すぐに事務所を飛び出して繁華街へ向かった。

 

 ところが事実は少し違った。

 ヒロとしては、いろいろあったせいで心の整理がつかず帰る気になれなくて、なんとなく「引き寄せられる」ように例の繁華街をウロウロしていたらしい。

「ししょー……」

 俺が送ったキーホルダーを見る。

(少しは認めてもらえたのかなあ? ううん、もっと頑張ろう!)

 笑みを浮かべてキーを宙に投げてキャッチしポケットにつっこむ。何気なく前を見た。

「!」

 目に入ったのはあの写真の男・イツキの姿だ。

「ねえ、君、俺たちのチームに入らない?」

 イツキは噂通り、誰彼構わず声をかけまくっていた。

 大半が気味悪がって避ける中、ヒロは携帯を取り出し……逡巡する。

(ししょーに連絡……いや。ここで連中のアジトを見つけられたら……「師匠」も見直してくれるさ)

 フィリップに対抗意識を燃やしたのか、ゆっくりと歩み寄る。

「……あの、すいません」

 ヒロは気弱なフリをしてイツキに声をかけた。

「ん? 何?」

「あの……ボク、チームに入れて欲しいんですけど」

 イツキは「ほう」と眉をひそめた。

「本当に?」

「……家に居場所がなくて……それで、興味があって……」

 イツキはヒロを舐めるように見たあと、うなずいた。

「なら、今から行く?」

「……はい、お願いします」

 そう言ったとたん、イツキに腕をつかまれひっぱられていく。

 そのとき、チラチラと袖から蜘蛛のタトゥーが見えた。

「っ……どこに行くんですか?」

 ヒロは頭を抑えながら尋ねる。

「えっとねぇ」

 油断しているのかあっさりと場所を吐いた。

(その辺りなら……)

 空いてるほうの手を素早くポケットに入れる。

 ビリビリ、ビリッ……。

 紙を破く小さな音は繁華街の音にかき消される。

 二人はある裏路地に入ると、偶然放置されていた工事用の金網の横を通った瞬間。

(ここだ)

「っ!」

 ヒロは胸を抑えて金網に向かって倒れ込む。

「君、大丈夫?」

「……は、はい……昔から身体が弱くて……」

「そっか、大丈夫だよ。俺たちのチームに入ればそんなことは気にならなくなるから」

「……はい」

 ヒロは金網に手をついて立ちあがると、再び遠慮なしにひっぱられていく。

 二人が立ち去る……金網の穴にさっきまでなかったはずの折り畳まれたキャップが詰められていた。

 

「ヒロ! ヒロッ!」

 繁華街で必死に名前を呼びながら探す。

 傍の駐車場にはあいつのオフロードバイクが置いてあった。

(間違いない。この周辺にいたはずだ)

「……どこ行った……⁉」

 ますます嫌な予感が過る。

 そして、ある裏路地に差しかかって、金網に風都ブルーゲイルのキャップがつっこんであるのを見つけた。

「これは……!」

(彼女がかぶってた物と同一のキャップだ)

 取り出して広げてみると、破かれたページが入っていた。

 ある花について書かれている。

『ボク、こう見えて花が好きで、街のどこに花が咲いてるかは頭に入ってるっす』

 会ったころのヒロの言葉を思い出す。

(これは彼女からのメッセージだ)

 力を借りようと照井にも電話をして事情を話した……が返事は予想外のものだった。

「動けない⁉︎」

「……すまんが、メモリ関係だと確証がなければ俺たちは下手に動けん」

「はあ⁉︎」

「もちろん状況証拠からして可能性は高いだろう。だが誘拐は捜査一課の担当だ。別部署の俺たちが動けば越権行為になる。ガイアメモリが落ちていれば別だが……」

 照井が心苦しそうに言う。

「今はおまえが捕らえた職員から情報を聞き出しているところだ。もう少し待ってほしい」

 奴が置かれている立場と組織の面倒さを思い知らされる。

 だけど、あっさりアジトを吐くとも思えなかった。

「そんなの待ってられっか! もういい、俺一人でなんとかする!」

「待て、左……!」

 埒があかないので電話を切り、キャップとメモを見た。

 もし、これがあいつからのメッセージなら!

 確実な情報を得るためにある所に急いだ。

 

 深夜近く。風都の郊外の廃倉庫にヒロとイツキはいた。

 手術台のような椅子に座らされると、腕を大きく広げられ拘束具をかけられる。

 するとどこからともなく二人の男と女が現れた。

 全員、身体に蜘蛛のタトゥーが入っている。

「っ……この人たちは……?」

 ヒロは顔をしかめながら尋ねた。

「俺たちの仲間だよ。彫り師の有田(ありた)先生に、甲児(こうじ)とマキ。みんな俺たちの考えに賛同してくれた同士さ」

「……そうなんですか……」

「有田先生には、君に作るコネクタの上に蜘蛛のタトゥーを入れてもらうからね」

 イツキの手にはコネクタ手術用の拳銃型装置が握られていた。

「君にピッタリのメモリがあるんだ」

「バタフライ!」

 それにメモリを入れると、ヒロの左腕に近づける。

 恐怖から喉を鳴らす。

(いやだ……! ドーパントになんかなりたくない!)

 己の浅はかさを呪うが遅かった。

(ししょー……!)

 目をギュッと閉じた。肌に鉄を押し付けられたような冷たい感触がする。

 

「俺の弟子をイジメるのはそこまでにしてもらおうか。やっと芽吹いてきたところなんでな」

「誰だ!」

 寸でのところで声をかけると全員がギラギラとした目でこっちを見た。

「まったく、無茶するぜ」

「ししょー!」

 頭を上げたヒロの喜ぶ声に応えるように例のページを見せた。

「こいつが役に立ったぜ。おかげでここがアジトだって突きとめられた」

「なんだと?」

 悪党どもがおののくのを感じた。

「……気づいてくれたんですね……!」

「これの意味は『この花が咲いている所がアジトだ』って意味だったんだろ?」

 答えは合っていたらしく、ヒロは涙ながらに嬉しそうにうなずく。

 このメモを持って花屋へ行き、この花が咲いている場所を探し回ったらドンピシャだった。

「なんなんだ。おまえは!」

「俺か? 探偵さ」

「探偵だと? 探偵(ごと)きがここを探し出したのか?」

(今のは、聞き捨てならないね)

「舐めんなよ。この街は俺の庭だ。おてんば娘一人くらい簡単に探せるんだよ」

 あわてた様子でイツキはヒロを椅子から解放すると首筋に拳銃型装置を突きつける。

「ふん。だが、飛んで火に入る夏の虫だ。俺たちの恐ろしさを知らないおまえはここで死ぬんだよ!」

 たしかに向こうからは状況的には何も変わっていないように見えるだろうな。

「……俺の師匠が言った。『男の仕事の八割は決断だ。そっから先はおまけみたいなもん』ってな。俺は例え無茶でも、おまえを探し出すって決めた」

 余裕からか下衆(げす)な笑みを浮かべる悪党どもに近づきながら言う。

「ししょー……」

「だから身体がボロボロになったって悔いはねえんだ」

 そう、弟子を守るのが師匠の役目だ。そして。

「おまえは……俺が見込んだ、大事な弟子だからな」

 フィリップの面影が見えるヒロをこれ以上傷つけさせない。

「さすが……ししょーっす……!」

「強がりやがって! おまえたち相手をしてやれ!」

 イツキはヒロを奥に引きずっていく。

「ししょー!」

「おい待てこらァ!」

「おまえはここで死んでおけ!」

 イツキは笑いながら建物の奥に消えた。

 

 目の前に三人が立ち塞がり、メモリを取り出す。

「ビートル!」「マンティス!」「アント!」

 茶色くなった工事現場の作業服を着た、若いリーゼント頭の男は額に。

 緑色のドレスを纏うホステス風の女は手袋で隠していた手の甲に。

 蜘蛛だけじゃなく、ほぼ全身に刺青を入れているおっさんは顎に。

 メモリを刺す。

 全員の身体を繭やら虫やらが包み、ドーパントになった。

(三対一か。厳しいね)

 んなこたねぇ。上等だ。

 ロストドライバーを取り出したところで、あることに気づく。

 バイクのエンジン音だ。それも長いこといっしょにいたから、ただのバイクじゃないことはすぐにわかった。

 そして、一台のバイクが廃倉庫の壁を突き破ると俺の隣で「人に戻った」。

 誰かは知ってる。照井・仮面ライダーアクセルだ。

「……一人でなんとかする、つったろ」

 照井の顔を見ずに言った。

「俺の仕事は『ネスト』の壊滅。目的地が同じだっただけだ」

(互いに素直じゃないね)

「へいへい……」

 ベルトを腰に巻き、ジョーカーメモリを鳴らした。

「ジョーカー!」

「変身……!」

 スロットに入れて倒す。

「ジョーカー!」

 仮面ライダージョーカーに変身する。

「さあ、行くぜ」

 気合いを入れると俺たちに驚いて動けずにいたドーパント連中につっこむ。

 

 俺がステゴロ戦法で、照井は剣・エンジンブレードを振り回す。

 こっちがカブトムシとカマキリ。照井がアリを相手取ることになった。

(翔太郎。照井竜が手こずっている)

「あん?」

 カブトムシの角とカマキリの鎌をかわしてそっちを見る。

 照井の周りの地面から十基近い巣が現れると無数の小アリが出てきて、辺りの廃材が手当たり次第に解体されていく。

 さらに本体から吹き付けられる酸をブレードで振り払っていた。

 照井がバラバラにされるのは時間の問題に見えた。

(この二体よりかは手練(てだ)れらしい)

「ったく、手間かけさせやがって……!」

 だが接近戦のジョーカーじゃ焼け石に水だ。

 そこでふと思いつきで俺が別に持つメタルとトリガーのメモリを出す。

 Wとアクセルのメモリに互換性があるのは、照井がフィリップのサイクロンメモリを扱えたことで証明している。

「照井、これ使え!」

 メモリを投げ渡すと、一瞬眺めてトリガーメモリをブレードに押し込む。

「トリガー・マキシマムドライブ!」

 ブレードを構えて引き金を引けば、一撃で地面ごとすべての巣を吹き飛ばした。

「あ、アリ得ねえ……⁉︎」

 ザン!

 ブレードを地面に落とすと次にメタルメモリをドライバーに装填。

「メタル・マキシマムドライブ!」

 バイクになった照井がアントマンにつっこむ。

 やけくそになって酸をばら撒くが鋼の装甲が弾いた。

 ガツン!

 体当たりされたアントマンは派手な音を立てて打ち上げられる。

「アリゃぁぁぁぁぁー⁉︎」

 照井はUターンするとブレードをつかんでまた反転、アントマンの所まで戻る。

 そしてブレードとドライバーのメモリを素早く入れ替えた。

「エンジン・マキシマムドライブ!」

 落ちてくる所をブレードで左右に大きく二本の斜め線を引く。

「アクセル・マキシマムドライブ!」

 最後に回し蹴りで横の一本を描けば、巨大な「A」の字の完成だ。

 

「絶望がおまえのゴールだ」

 

「メモリを何本も使うなんて……そんなのアリかよぉぉぉぉっ!」

 アントマンは断末魔を上げ爆散した。

 

 俺も右腰のマキシマムスロットにジョーカーメモリを叩き込んだ。

「時間がねえ。とっとと倒すぜ」 

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

 まずはカッターガールからだ。

「はぁっ!」

 鎌の衝撃波をかわし、周りの錆びた鉄骨を使って素早く頭上に立つ。

「ライダーキック!」

 右足を突き出し、鎌攻撃を弾きながら頭に蹴りをくれてやる。

「イヤァァァッ!」

「マキィィィィッ!」

 カッターガールが爆発したのを見て、リーゼントボーイがこっちを見た。

 その手が怒りで震えているのがわかる。

「ガールフレンドの次はおまえの番だぜ? リーゼントボーイ」

 手でクイクイと挑発すれば自慢の頭を突き出してきた。

「コノヤロォォォッ!」

 もう一度マキシマムスロットを叩いて右手を握る。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

「ライダーパンチ!」

 角を避けて無防備な腹にボディーブローを打ち込んだ。

「ゴハッ……⁉」

 息を詰まらせたリーゼントボーイは静かに崩れ落ちて爆発した。

(思ったより時間がかかってしまった)

「照井。急ぐぞ!」

「あぁ」

 合流した俺たちは廃倉庫の奥へ進む。

 

(随分と悪趣味だね)

 そこには玉座みたいに回転椅子が置かれていた。

 その後ろにはドーパントの巨大な絵が飾られてる。

 スパイダー・ドーパント。風都で本格的に暴れはじめた最初のドーパントらしい。小学生だった俺もこの目で見た。

 詳細は知らないが、風都全域で爆発事件が起きてからは音沙汰がないから、おそらくおやっさんが倒したんだろう。

 ともかく、その下で気を失ったヒロが粘液で壁に磔にされていた。

「ヒロ!」

「待て、左」

 照井が俺を止めると、椅子から拍手が聞こえた。

「思ったよりやるじゃないか。良いだろう。俺が相手してやる」

 俺たちは身構えた。

 どんな奴が相手なんだ……。

 回転椅子が動き出し、そこにはイツキが変身した……ゴキブリがふんぞり返っていた。

「って、おまえかーい!」

 思わずつっこんじまった。

 えっ。よりにもよってこいつ? こいつがボスなの?

「俺こそ虫に置いて頂点に立つ存在だ!」

 ゴキブリは大口を開けて笑ってる。

「……俺たち、こいつを怖がってたのか……?」

 まさかの正体につぶやくと、照井も頭を抱えてる。

 それからゴキブリは聞いてもいないことをベラベラと話しはじめた。

 最強だの、なんだの。口が回るというか、口が減らない奴だ。

(自己陶酔しきっている……)

 頭の中のフィリップもあきれてる。

 すると照井が黙ってベルトのブレーキ部分を握った。

「アクセル・マキシマムドライブ!」

 そうだな。もう聞くことなんざねえ。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

 俺たちは息を合わせてキックした。

「ライダーツインマキシマム!」

「で、って。ウワアアアアッ!」

 赤と紫の二本の軌跡がゴキブリの身体に浮かぶ。

 

「口は災いの元だぜ」

「絶望がお前のゴールだ」

 

 爆炎から出てきたイツキに、変身を解いた照井が手錠をかけた。

五木(ごき)風利王(ふりお)。未成年者誘拐及びガイアメモリの不法所持で逮捕する」

「……お、俺は四天王の中でも、最弱なんだぁ……! いずれおまえの下に現れ……!」

「はいはい……」

 倒れるヒロを抱えながらその戯言(たわごと)を聞き流した。

 

 応援の警官によって次々とメンバーが逮捕された。

「左、あとは俺たちにまかせろ。その子は頼む」

「言われるまでもねえ」

「……ししょー……?」

 抱えていたヒロがゆっくりと目を開けた。

「起きたか?」

「……いろいろ、あって、疲れちゃいました……」

「だろうな。補導されたくなかったらとっとと帰るぞ」

「……はい……」

 ぐったりしてるヒロをハードボイルダーのタンデムに乗せる。

「しっかりつかまってろよ」

 バイクにまたがり、ヒロの腕をしっかりと腰に回して、まだ寒い夜空の中を走る。

 施設に向かう間、背中に頭を預けるヒロが話しかけてきた。

「ししょー……」

「どうした?」

「……もし、ボクが悪さをしたら、止めてくださいね」

「何言ってんだよ。……そんときは拳骨付きで説教してやるよ。師匠だからな」

「さすが、ししょー……。約束ですよ……」

「ああ」

 よくわからない約束だったがそんなことはさせないと心にとめて、ヒロを施設に送り届けた。

 

 朝。事務所で寝ているとコーヒーの匂いで目を覚ます。

「う、う……ん?」

 目の前にはマグカップを持つ元気そうなヒロがいた。

「ヒロ……?」

「目が覚めました?」

 ニコニコと笑顔を浮かべている。

「もう大丈夫なのか?」

「はい。まあ、さっきまで先生からこってり絞られてたっす」

「だろうな……」

 背伸びをしながらそのマグカップを受け取る。

 それに口を付けて何気なく周りを見た……。

 ブーッ!

「なんじゃあこりゃああ!」

 事務所が花のカゴや花器やら、ブーケやリースで華やかになっていた。

「何って、フラワーアレンジメントです!」

「いや、だからってこの量は……パチンコ屋じゃねえんだぞ⁉」

「いいじゃん。雰囲気明るくなったんじゃない?」

 亜樹子の言葉にうつむくと、震えが止まらなくなってきた。

「ししょー?」

「……おまえ、『自分が悪さしたら止めろ』つったな?」

「えっ? はい……?」

「今がそのときだぁっ‼︎」

「ええっ⁉」

 拳を振りあげヒロを追いかける。

(やれやれ……)

 その光景を見てフィリップは苦笑していた。

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