風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章2「jに贈る言葉/正義と犠牲」

 アナザーWと遭遇したその日。

 状況を重く見た照井はリストの容疑者全員を確保すると決断した。

 先に捕まえないと……奴がメモリ使用者を殺す。

 宣言したからには、やるはずだ。

 なんとか阻止するために、俺と照井は昼夜問わず街中を走り回った。

 ところがなぜか行く先々で奴と顔を合わせたんだ。

 そうなれば競争だ。リストの半分を終えたころには、逮捕してるのか、救助してるのかわからなくなった。

 先回りできれば良かったが、手遅れだったときは……それはもうひどい有様だった。

 まるで竜巻に切り刻まれたような遺体や、だれか判別できないほど燃えて炭化した遺体……。

 奴の仕業であることは明らかで、俺たち・仮面ライダーにとって見覚えのある能力だった……が。

「なんのメモリなんだ……?」

 一つ言えるとするなら「仮面ライダーWの記憶」を持ったメモリ……そうとしか言えなかった。

 

 気づけばリストに残った名前はわずかになり、もう一刻の猶予(ゆうよ)もないと思った。

 なら俺たちがやるべきことは、可能な限り犠牲を減らすこと。

 先手を打つために事務所に戻ってくると、珍しく亜樹子だけだった。

「あっ? ヒロは?」

「えっ。まだ来てないよ?」

「……そうか……」

 最近はヒロが目に見えて体調を崩していることはわかっていたから、それ以上は追及しなかった。

 それより、メモリガジェットを使って容疑者の居場所を探ろうとした。

 ……おかしい。

「どうしたの、翔太郎君?」

「……俺のスタッグフォン以外の連中が見つからねえ……」

「えっ、嘘。ホンマ?」

 おかしい。どこ行った?

 亜樹子と手分けして探すが、どこをひっくり返しても影も形もない。

(妙だ。普段は待機状態にしているはずだが……)

 必要なときに見当たらないなんて。どうなってる?

 

 ……ニャー。

 するとミックが声をあげた。こいつが鳴くのは珍しい。普段は態度で意思を示すだけなもんだ。

「? 悪いが今は忙しいんだよ。飯ならあとだ」

 追い払おうとしたが、しつこくスラックスの裾を咥えてひっぱってくる。

(翔太郎。少しミックの様子が異常だ)

「……仕方ねえな……。なんだよ、どうしたんだ?」

 手を止めると、ミックはガレージに続くドアをひっかきはじめた。

(ガレージに誘導したいようだ)

「なんだよ。そこならもう探したぜ」

 ドアを開けるなり、ミックは素早い身のこなしでフィリップの作業台まで辿りつくと立ち止まる。

「おいおい。だから、そこもさっき探したけど何も……」

 ハッとして、駆け寄るとテーブルを見渡す。

「……ない」

 フィリップが遺した分のスタッグフォンがない。

 嘘だろ。まさか……。

(あれをここから持ち出せるのは……)

 一瞬過った嫌な考えをかき消すように頭を振るとスタッグフォンが鳴った。

「っ⁉」

 照井からの連絡かと画面を見て背筋が凍った。

 宛名に「フィリップ」とある、メールが届いていたんだ。

 驚きながらも恐る恐る開いてさらに戦慄した。

「これは……⁉」

 たった今撮られたらしい写真だ。

 そこには妙な画角(がかく)でSPや警備員たちに囲まれた中で、演説する恰幅(かっぷく)の良い男が写っていた。

「こいつは……!」

 続けて写真が送られてくる。

 男の背後に掲げられた旗には「威風堂党」とあった。

 俺は政治に無頓着だが、それでも風都で発足した政党の名前くらいは把握してる。

 なら演説している男は立木淳二か……。

 少し前に新市長の立候補のため選挙演説をする、とラジオで流れていたことを思い出す。

 ……今日だったのか。

 つまり今、立木はアナザーWに狙われてる。

(なぜだ? リストには名前はなかったはずだ……)

 わからねえが……狙われてるのは間違いねえ!

 すぐに照井に電話して状況を端的に説明した。

「立木だと? 容疑者には上げていないぞ」

「でも、間違いねえ! 奴は立木を狙ってる! 俺は今すぐ演説会場に向かうからな!」

「おい! 待て左……!」

 急いでガレージのドアを開ける。

「おわっ⁉ えっ、何? 見つかったの?」

「出てくる!」

「はい?」

 キョトンとする亜樹子をよそにハードボイルダーにまたがり、フルスロットルで演説会場まで飛ばした。

 

 スピーカーから立木の野太い声が聞こえてくる。

 それを頼りに場所を割り出せば、立木は高台のだだっ広い広場で支持者に囲まれながら演説をしていた。

(あれでは狙いたい放題だ)

 なら奴も見える範囲にいるはずだ……。

 バイクから降りて、急いで周辺を見渡す。

「! あれは……!」

 高台から見える高層ビルの屋上の一つに不自然な人影を見つけた。

 スタッグフォンのカメラのズーム機能でピントを合わせる。

 いた……!

 アナザーWは左手を指鉄砲にして高台に狙いを定めていた。

(翔太郎……ぼくの勘が正しければ……!)

「おいおい……! 嘘だろッ⁉」

 あわてて人が少ない所を回り込み……演説場所に飛び出した。

「⁉ な、なんだ……君は⁉」

「伏せろッ‼」

 俺の登場であわてふためく立木を押し倒す。

 襲撃が起こったと思った民衆がパニックを起こした。

「貴様何してる⁉」

 SPやスタッフ、警備員が立木から俺を必死に引き剥がそうとする。

「離れろっ‼」

 俺への怒声が飛び交い、ついに大人数に担ぎ上げられたとき……それは見えた。

 アナザーWの左腕が真横に伸びている。

 ……あいつどこ狙って……?

 そして、撃つような仕草をした。

 トシュン……! ダン……ダン、ダン! バキッ!

 甲高い音とともにいくつか物を貫通したかと思うと、最後に何かが砕けたような音がした。

「……ぐうっ⁉」

 背後からうめき声が聞こえ、俺をつかむ手の一つが離れた。

「おい、どうした⁉」

 数人が心配の声をあげ、見れば俺を抱えていた警備員の一人が左胸を抑えてる。

 そこから赤いしみが広がっていき……白目を剥き仰向けに倒れた。

 その拍子に穴が開いた左胸ポケットからメモリが何本か飛び出す。

 そこですべてを悟った。

 まさか、狙いは……こっちだったのか?

 振り返れば、高台にあったいくつもの壁や木に妙な軌道で穴が開いていた。

(……今の滅茶苦茶な弾道はルナとトリガーの力を発現したものに違いない……)

 奴がいた高層ビルを見るが姿は消えていた。

 その場にいた全員が唖然とする中、ただ一人冷静だった俺はスタッグフォンの画像を確認する。

 よく見るとたしかに立木を中心に捉えつつも端々にこの警備員が写っていた。

 着信音とともに新たな写真が届く。

 今撃ち殺された警備員の顔に赤いバツ印が付いていた。

 それはつまり……情報が漏れていたという意味だ。

 

「……この写真はどういうことだ……」

 照井が鬼のような形相で見下ろしてくる。

 あとから到着した照井たちが、俺が暗殺事案を未然に防いだ結果、警備員に流れ弾が当たった……なんて適当な理由で場を治めてくれたが、その目は冷たい。

 当然だ。完全に情報が流れていたことがわかったからな。

「……警察の人間から……」

「このリストの存在を認知しているのは超常犯罪捜査課(ウチ)と特殊研のみだ」

 俺の反論を打ち消すように言い切る。

 照井としては有り得ない、ってことだろう。

 なら、情報が漏れた可能性があるのは警察外部……鳴海探偵事務所だけだ。

「おまえと所長はこれまでの犯行状況から見て、有り得ん」

 ……なら、容疑者は一人しかいない。

「左、日色樹里はどこだ?」

「待てよ……。ヒロがこんなことをするはずが……」

 言い切る前に照井が胸倉をつかんできた。

「リストの人間は、残り一人だ!」

 そう怒鳴ると苦々しい顔をしながらその手を離す。

「……俺は日色樹里を逮捕する。それですべてわかるはずだ」

「……まだ、ヒロがやったって証拠は……」

「いい加減にしろ……! 今のおまえのそれは『優しさ』ではない! 『逃げ』だ! 都合の悪いことから目を背けているだけだ!」

(ぼくは照井竜の言葉を全面的に支持するよ)

 二人からそう言われ、打ちのめされた気持ちで地面に座り込む。

「……日色樹里を最重要容疑者として手配する」

 ハッと顔を上げて見えた照井の表情は、強い覚悟を持って言ったってわかった。

 

 そしてトドメの一言を告げられる。

「……左。彼女をフィリップと重ねるのはやめろ」

 心臓をギュッとつかまれたような感覚がした。

「俺とて彼女がメモリ犯罪者だった、などとは考えたくはない。会ったころの純真無垢で天真爛漫な姿は気のせいではないと思っている。……だが、度々気にはなっていた。最近の彼女の瞳が、時折、犯罪者特有の目に見えることに」

 気のせいだと言い返したかった。状況証拠だけでヒロを捕まえる気か、ってかみつきたかった。

 ……でも、探偵としての勘がヒロに疑いを向けている。

「おまえは最後の一人を保護をしろ。俺は日色樹里を……逮捕する」

 ガンッ!

 握りしめた手をアスファルトの地面に力の限り叩きつける。

 手に血が滲むがそんなことを気にする余裕はなかった。

「……なんで……なんでだよッ……‼ あいつはドーパントに親を殺されたんだぞ……⁉︎ なのになんでメモリに手を出すんだよッ……‼」

 ヒロが犯人じゃないという感情と、ヒロが犯人だという論理で板挟みになって、無茶苦茶になった俺はこらえきれずに叫んだ。

「……俺も家族を皆殺しにされた。気持ちはわかる。一歩間違えれば……俺がドーパントだったかもしれん。だが、仮面ライダーとドーパントは違う」

 照井は背中を向けると静かに言った。

「……まだ、信じねぇぞ……! おまえがヒロを疑うなら‼ 俺はヒロを徹底的に信じる‼」

 照井に捨て台詞を叫んで、逃げるようにその場をあとにした。

 俺があいつの無実を証明してやる!

「……ままならんものだな。こと、奴に関しては……」

 俺を見送る照井の寂しそうなつぶやきが届くことはなかった。

 

 それからヒロを探し回って気づけば春休み最終日。明日からは新学期がはじまる。

 まだヒロは見つからなかったが、無事にそれを迎えてほしいと願って、最後の一人を探した。

 最後の一人は風都の配達会社・はるかぜ運輸のトラック配送員。

 照井の権限で会社から輸送ルートを聞き出し、バイクで追いかけてついに見つけた。

 なんとかアナザーWより先を越せる……そう思った矢先。

 っ! ……まただ、また違和感が……。

 この何かはわからないが、当たり前のことが当たり前でなくなったような感覚……。

 あいつが……来る!

 会う必要があるはずなのに、今は絶対に会いたくなかった。

 ブォン! ……ゼツ、ブォーン!

 聞いたことがないエンジン音が耳に届く。

 その瞬間、真横を真紅のバイクが猛烈なスピードで追い抜いていった。

 まるで廃車寸前のハーレーダビットソンのようなバイク。

 そのシルエットにはどこか見覚えがあった。

「おい、まさか⁉︎」

(アクセル……⁉︎)

 照井のそれより禍々しくなっているものの……アクセルのバイクにしか見えない。

 そのバイク……「アナザーアクセル」のハンドルを握るのはアナザーWだ。

 俺も必死にアクセルをひねるが生身だと危険なスピードまで上がりそうになった。

 もたついてる内にアナザーWはトラックの左側面につくと右腕を挙げた。

 何する気だ⁉︎

 ギンッ!

 音を立てて右腕から白く輝く鋭い刃が生えた。

(まさか……ファングの力か⁉)

 ザク! ザクザクザクザクッ‼

 Wファングジョーカーの武装・アームファングそっくりなそれでトラックの荷台を横一文字に切り裂く。

 そしてついに運転席部分まで到達した瞬間……トラックが爆発した。

 すると爆炎の中から青い野獣のようなビースト・ドーパントが転がり落ちるように現れる。

 トラックが吹っ飛ぶ前にメモリを使ったらしい。

 パニックになった野獣を前にしてアナザーWはアナザーアクセルから飛び降りると目の前に立つ。

「な、なんなんだぁ⁉」

 アナザーWはフンと鼻を鳴らすといつものポーズを取った。

《さあ、おまえの罪の重さを知れ……》

 そう告げたとたん右腕の刃で野獣を滅多切りにした。

 野獣は痛みにうめくが、その傷はすぐに治る。

 俺たちもエクストリームに到達するまで苦戦した、自然治癒能力だ。

(……さすがにあの能力には手こずるだろう)

 だとしても、このままだとただ痛めつけられるだけだぞ……!

 ある意味、下手に元に戻れないだけ生き地獄だ。

 

 やっと追いついてバイクから降りる。

「……厄介なメモリに手ぇ出しやがって……!」

 ベルトを腰に巻いてメモリを出す……がスイッチを押そうとする指が躊躇する。

 怖かった。もし奴の中からヒロが出てきたら……。

(翔太郎! まさか見逃す気かい⁉︎ 彼女を止めるんだ!)

 ヒロだと決めつけんな!

(……翔太郎……)

 わかってる。わかってるよ!

「……ウオォォォォッ‼」

 もしそうなら……ヒロのためにはならねぇ!

「ジョーカー!」

「変身ッ‼」

 がむしゃらに変身し、止めに入ろうとした。

 ゼツ、ブォン!

「くっ⁉」

 するとアナザーアクセルが俺の周りをグルグルと回る。

「邪魔だ! どけ!」

 まるで近づけさせないように牽制(けんせい)しているように見えた。

 それに手間取っている間も野獣はアナザーWに痛めつけられてる。

 だが、相手の治癒能力のほうが高いのかまだ致命傷にはなっていない様子だ。

 

 するとアナザーWが自分のベルトに手を置き不思議そうに眺めはじめた。

《……なるほど》

 そうつぶやいて両手でベルトを抱えるように持ち、百八十度回転させた。

 それによって銀色に輝くベルトのカバーが四分割し、漆黒の「X」にも四枚羽根の風車のようにも見える形状に変わる。

 そして、アナザーWの全身にWがエクストリームに強化するときのように英数字の羅列が現れる。

 それが身体に吸収されると、メタルクリアの光沢がある姿に、マフラーが先端が赤・黄・銀・青の着色が施された白銀の四枚に増え、左右の足のかかとには棘がある「C」と「J」の飾りが付いていた。

 最後に仮面が触覚が生えたバタフライマスクのようになり、目の部分に黒と緑の複眼が灯る。

 恰好は全然違うが、雰囲気は最強形態・Wサイクロンジョーカーエクストリームに似ているように感じた。

(まったく異なる姿。新たな能力の発現に、使役(しえき)可能なドーパントの創造……。加速度的に進化し極限(エクストリーム)へ至ったとしか言いようがない……!)

 頭の中でフィリップがおののく中、アナザーW・エクストリーム(AW・X)が左手を伸ばすと数字の羅列が浮かび、そこからナスカが持っていた剣に似た七色の刀身の一振りが現れた。

 逆手に握り今度はそれで野獣を素早く切り裂く。

「ウギャァァァッ! 傷が、傷が治らないぃぃっ⁉」

 その理由はすぐにわかった。

(間違いない! あの剣にはプリズムソードのマキシマムと同等の力がある!)

《……おまえの能力はとっくに閲覧を終えた》

 フィリップの台詞だ……!

「……なんで、なんで俺がこんな目にぃ……⁉」

《自分の罪を忘れたのか? 私腹を肥やすために街の人間にメモリを売っただろうが》

「そ、それは……!」

《おまえはこれまでに売ったメモリの数を覚えているか?》

 AW・Xの追及を言い返せず、野獣は地面を這いつくばるだけだ。

《覚えてもいないくせに偉そうな口を叩くな。おまえのような奴を見るといつも思う。真っ二つに割ってやりたいってな》

 今度は霧彦かよ! ってまさか……!

 AW・Xは野獣を無理やり立たせると、左手の剣と右腕の刃を構える。

 腕の形が「W」の字に見えた。

「た、助けてくれぇぇぇっ!」

 野獣が俺に向かって叫ぶ。

「! やめろぉぉぉッ‼︎」

 我に返った俺はアナザーアクセルの妨害をどうにか潜り抜け、二体の所まで走るが。

 ズバッ! ドサッ……。

 つくより早く奴の二刀が交差して野獣の身体に閃光が走る……姿が配送員に戻る。

 顔は恐怖で歪んだまま固まっていた。

 そして……上半身がズルリと地面に落ち、遅れたように下半身が膝を折って倒れた。

 あまりに残虐な光景に足が止まり呆然と立ち尽くす。

 

 すぐに駆け寄ったが手遅れなのは明らかだった。

「……なんで、なんで殺したんだ……!」

《当然の報いだ。それともこいつが暴れてからのほうが良かったのか? 一人死ぬ代わりに数百人が無事に過ごせるんだぞ。少ない犠牲を選ぶほうが合理的で、街を守るべきヒーローのあるべき姿だろう?》

 犠牲を待って正義をなすのではなく、正義のために犠牲を出す……。

 おまえはそう言いたいのか。

(言い換えれば、トロッコ問題だね……)

 街の人間が悪事を働かないことを前提に、百人が傷つくのを待ってから動くか。

 ガイアメモリを手にした以上、犯罪を犯すことを前提に、その一人を殺すか。

 たしかにどちらを取っても犠牲が出る。少なくとも俺たちは前者だ。

 ……だが、それでも犯人を殺すのは違う。断じて違うはずだ!

「違う! ヒーローってのはそんなもんじゃねぇだろ‼」

《……言ったはずだ。そんな甘い考えをしていると、いずれつらい目に遭うとな。探偵》

 不思議なことに俺は目の前にいる相手に深い失望を覚えていた。

 一度だが力を貸してくれて、街を託してくれた霧彦のことを思い出すが……それがこいつの考えなのかと思うとやりきれなかった。

「……やり方さえ違えば、仲間になれるかと思ったが、やっぱりおまえはドーパントなんだな……」

 敵前であるにも関わらず、思わず本音がこぼれた。

 そして拳を握る。俺たちの意見が合うことは二度とないだろう。

 ……なら、殴ってでも止めるだけだ。

《!》

 AW・Xは戦う気になった俺に少し動揺した様子だった。

《……いいだろう。オレの邪魔をするなら仮面ライダーでも容赦しない》

「行くぜ……!」

 左手首をスナップさせて、AW・Xに殴りかかった。

 

 挨拶代わりに数発ボディーに打ち込むが攻撃が通っている気がしねえ。

 お返しとばかりにAW・Xの斬撃が迫るが、それをバク転でかわす。

(翔太郎。わかっているだろうが、あのプリズムソードに似た剣は危険だ。斬撃が当たればメモリを無力化されるだろう)

 ……なら、短期決着しかねえ!

(まさか! 待つんだ翔太郎! 危険すぎる!)

 忠告も構わずジョーカーメモリをマキシマムスロットに叩き込む。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

「! はぁっ!」

 ヤバいと思ったらしいAW・Xが剣で突きを繰り出してくる。

「どりゃあッ!」

 俺も被弾覚悟で紫の炎をまとった右足を突き出す。

「……ぐぅっ!」

 AW・Xの剣先が胸に浅く刺さった感覚がした。

《……ちっ……! 悪運が強い奴だ……!》

 だが、俺のキックも奴の左腕を掠めたらしく、あとずさるとAW・Xの身体から数字の羅列が浮かんで消えると、アナザーWに戻った。

(マキシマムの効果で弱体化させたようだが……)

 わかってる。メモリブレイクできなかった上に、こっちのほうが被害甚大だった。

「……ジョーカー……!」

 紫色のビリビリが全身を走ると次の瞬間には変身が解けた。

 メモリを起動するが鳴らない。

(奴が弱体化したのなら、おそらく効力は一時的な物だと思うが……)

《……ふん、仕切り直しだな》

「待て! おまえ……おまえは、ヒロなのか……?」

 左腕を抑えて去ろうとするその背中に思わず尋ねた。

 否定して欲しいと願った。

《知りたければ調べろ。探偵だろ?》

 奴は……否定も肯定もしなかった。

 そのまま呼び出したアナザーアクセルにまたがり、どこかへ去った。

 

 傷心のまま事務所に戻ってくると、待っていたのは笑顔でコーヒーを用意するヒロ……ではなく険しい顔の照井と亜樹子だった。

 心の中では落胆を隠せなかったが、照井に黙ったまま話を促され、さっきの件について話した。

「……そして、みすみす容疑者を逃したのか」

 照井の鋭い視線が刺さる。

「竜くん……」

「所長。日色樹里は最重要容疑者だ。そうでなくとも重要参考人だ。今回の一連の事件に何がしかの形で関わっているとしか考えられんのだからな」

「……樹里ちゃんがドーパントなんて……。私、聞いてない……」

 亜樹子が見るからに落ち込んでいる。

「現在、捜査員を投入して探索中だ」

 俺の態度への喝か、それとも非難か、あからさまに言ってくる。

「……俺もさっきイレギュラーズにヒロを探すように頼んだ……」

 もちろんヒロがドーパントかもしれないなんてことは伝えてない。

 行方をくらまして、もしかしたら……ドーパントを追いかけているかもしれない。

 またそんなバレるかもしれない嘘をついた。

 俺の嘘の返事は四者四様。

『嘘ぉ! ヒロちゃんが⁉ 今すぐ探すからねェ!』

『繁華街とかで見かけてないか聞いてくるよ!』

『ジュリエットが⁉ 私たちもすぐに探すから! 行こうクイーン!』

『……そうだね。絶対に見つけないと』

 みんなの心配の声が胸を締めつける。

 とくに……クイーンとは目を合わせられなかった。

 どんな目をしているのか見るのが怖かったんだ……。

「……成果は?」

 照井はあくまでも事務的に尋ねてくる。

「まだだ……」

「……おまえは、探しに行かないのか」

「ヒロが……ここに戻ってくる気がするんだ」

 もちろんなんの根拠もない。

 口から出まかせもいいとこだ。

「……勝手にしろ」

「あっ。待って、竜くん!」

 付き合ってられないとばかりにかぶりを振った照井が出ると、心配した亜樹子がついて行った。

 

 俺は力なく事務デスクの椅子に深く腰かけ、天井を見上げた。

「ヒロ……」

 ヒロとの二週間にも満たない日々の思い出が頭の中でグルグルと回る。

 数分、数十分……。だれかがドアを開けて事務所に入ってきた。

 目線を向けて……すぐに立ちあがる。

 ドアに背中を預けた、アナザーWがそこにいた。

「おまえ……⁉」

 思わずアナザーWに向かって駆け寄る。

《まあ、そんなに驚かなくても良いだろう? そっちが探しに来ないから、こっちから来てやったんだ》

 アナザーWは俺の横を通り過ぎキッチンに向かうと、手慣れたようにコーヒーを淹れはじめる。

「……何しに来た……」

《最後の挨拶と宣言。そして、最後くらい『弟子らしいこと』をしたかったのさ》

 依頼人用のテーブルにコーヒーが置かれる。

《どうぞ》

 出されたカップをゆっくりと手に取り口をつける。

 毒が入っているかもしれないのに、まったく警戒心はなかった。

 味は……ヒロが淹れたものとそっくりだった。

「……でも、それでも……おまえは……」

《おいおい。いまさら自分に嘘をつくなよ。もうとっくにわかってるだろ?》

 唇をかみ締める。それを言わせるのか。

《さあ、名探偵の答えを聞こう。『オレの正体は?』》

 

「……ヒロ……日色、樹里……だ」

 アナザーWはフッと笑うとベルトの上部についているスイッチを押した。

 ベルトのカバーが閉まり、腰から外す。

 事務所の中で風が渦巻いて……治まると中からその姿が現れて、俺は息を呑む。

 そいつは目にかけたオレンジ色のゴーグルを外しながら、右目を隠すように垂らしていた髪をかきあげて、風都ブルーゲイルのキャップを後ろかぶりして髪を納めた。

 そして、首元の緑色の機械のスイッチを切る。

「……やっぱり、そうだったのか……」

「……いやぁ。惜しい。正解したのは『半分』だよ。師匠」

 ヒロと同じ顔をしたそいつは、いつもとまったく違う不気味な笑みを浮かべた。

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