風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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後章4「jに贈る言葉/My dear HERO」

 だれかに頭を優しくなでられる感触がした。

 目を開けると、見覚えのあるグレーのキャペリン帽。

 ……サツキ、さん……?

「おはよう。翔ちゃん。目が覚めた?」

 そこにはサツキさんが記憶どおりの姿で微笑んでいた。

「……サツキさん⁉ 亡くなったんじゃ⁉」

 あわてて起きあがると俺はガキの姿になっていた。

「……夢、か……」

「そうね……あら」

 思わずサツキさんに抱きつく。懐かしい匂いがする。

「それでも、会いたかった……!」

「……ごめんね、翔ちゃん」

「なぁ……サツキさん。これまでの俺の話……聞いてほしいんだけど良いかな?」

 サツキさんにならすべてを吐き出せると思った。

「えぇ。もちろん」

 それからサツキさんに頭をなでてもらいながら、これまでの人生を話した。

 最後まで静かに聞いてくれた。

「そう。大変だったのね」

「でも、今回は……俺はもう、ダメだと思う……。約束を何度も破る、情けない奴なんだ……」

「……そうかしら? 私は翔ちゃんがそんな子だとは思わないけれど」

 見上げるといつも見せてくれた、あの笑顔があった。

「私はみんなの笑顔のために頑張る翔ちゃんが大好きよ」

「サツキさん……」

「なんてったって、あなたはあの荘ちゃんの一番の助手なんだから。ね、そうでしょう?」

 サツキさんがどこかに視線を向ける。

 それを追うとそこには白いスーツと帽子の男……。

「! おやっさん……!」

 あわてて起きあがる。気づけばガキから今の俺に戻っていたがそんなことは気にならない。

「……翔太郎、俺から引き継いだ依頼はどうした」

 今となっては懐かしい厳しい口調に夢の中とは言え背筋が伸びた。

「……守れ、なかった……。すまねぇ、おやっさん……。俺が不甲斐ないばっかりに……」

 申しわけなくて、怖くて、目が見れなかった。

「なら、こんなとこで腐ってねぇで……あの嬢ちゃんを救ってやれ」

 おやっさんは帽子を抑えて静かに言う。

「俺は知ってるぜ。『我慢』はねぇが、おまえには夢をつかむ勇気と力があることをな」

「おやっさん……!」

「それを自覚するために」

 俺に向かっておやっさんは指鉄砲を突きつけた。

 

「おまえの罪を数えろ」

 

 俺の『罪』……!

 そうだ。もうこれ以上、罪を重ねるわけにはいかねぇ……。

 おやっさんのためにも。フィリップのためにも……ヒロのためにも。

 心の変化に気づいたのかおやっさんはフッと笑う。

「……男の目になったな……」

「相変わらず荘ちゃんは厳しいんだから。でも、たしかにいつものカッコいい翔ちゃんが戻ったわね」

 親のような暖かい目線をくれる二人に、俺は覚悟を決めた。

「……おやっさん、サツキさん。俺、行ってくる」

 おやっさんは黙ってうなずき、サツキさんの暖かい指先が頬に触れた。

「頑張ってね。私の可愛いヒーローさん」

 そこで目が覚めた。

 握っていたアクリルキーホルダーを見る。

「ありがとう……。おやっさん、サツキさん……」

 

 突然の来訪者に亜樹子は目を丸くした。

「ク、クイーン⁉ どうしたの⁉」

「ジュリエットから『ししょーをお願いします』ってメールが来たの。何か知ってる?」

 失踪したヒロからメールが届いて、すぐにウチに来たらしい。

「あの、その……」

 亜樹子が口ごもるとガレージのドアを見た。

 察しのいいクイーンはすぐにドアを叩く。

「翔ちゃん……左翔太郎! あの子を泣かさないって言ったでしょうが!」

 ドア越しにクイーンの涙交じりの怒鳴り声が響く。

 そこでドアを開けた。

「っ⁉」「うわっ⁉︎」

「わりぃ。目が覚めた」

 振り向いてドアにかかった愛用の帽子に手を伸ばした。

『帽子が様になるのは一人前の証拠だ』

 ある年のクリスマス間近の日に「別のおやっさん」から言われた言葉を思い出す。

 

「あいつが……ヒロが泣いてる。行ってやらねえと」

「……本気だね?」

 何かを察したのかクイーンがそう言った。

「……俺がその涙を拭わないといけねえんだ……」

 だが、まだ迷いがあるのか帽子を取る手が震える……頬に温かいものが触れた。

「うぇ⁉︎」

「おまえ……?」

「……JKからのキスなんてそうそう貰えないよ。ありがたく頂戴しな!」

 クイーンからの激励を受けて、やっと帽子を取れた。

「……なあ。クイーン」

「何?」

「今日は一段と可愛いぜ。行ってくる」

 一瞬、クイーンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をすると、苦しそうな笑みを浮かべた。

「行ってきなっ!」

 事務所を飛び出した俺はハードボイルダーに飛び乗り、スロットルを回した。

 

 ヒーロー・Xの猛攻で照井は追いつめられていた。

《もらったッ!》

 ついに七色の剣先がガツンと照井の胸に当たる、が。

《……っ⁉》

「……いや、ギリギリセーフだ」

《ブレードを盾に⁉︎》

 隙間にブレードを挟んだことで、直撃はまぬがれたらしい。

「……読めたか? この考えが」

《テッメェ……!》

「覚えておけ。人間ほど予測できない行動をする生き物もいない」

「アクセル・マキシマムドライブ!」

 照井の手元からマキシマムを発動したビートルフォンがすさまじい勢いでヒーローに体当たりして、照井から距離を離す。

「エンジン・マキシマムドライブ!」

 その隙に素早くブレードにメモリを入れて振るう。

 斜めに小さな「t」の字の青い軌跡が走る。

《グッ⁉︎》

 ヒーロー・Xがそれを剣とセイバーで弾く。

《くっ、あぶねぇ……! ……でも、惜しかったな?》

「……いや。一矢報いさせてもらった」

《何? ……来た》

 俺の接近を感じ取ったヒーローは武器を下げる。

《警視との勝負はここで終わりだ。オレは師匠とケリをつける》

 そう言ってどこかへ跳び去る。直後に俺が照井の前を通り過ぎる。

「……左……」

 それを見送るとビートルフォンが鳴り、画面を見る。

「……奴め」

 文面を見た照井は苦笑すると、すぐにある目的を果たしに向かった。

 

 楓橋にヒーロー・Xはいた。

 バイクを止めると、欄干に腰を預けながらこっちを見てきた。

《来たな》

 バイクから降りて、俺は腰のハットホルダーから帽子を外してかぶる。

 俺は今から愛するものを守るために立ち向かう。

 ベストからジョーカーメモリを出す。

「ジョーカー!」

「変身」

 スロットにメモリを入れ、Wのときと同じように腕をクロスしてベルトを開く。

「ジョーカー!」

 風とともに粒子が全身を覆い、ジョーカーに変身した。

 だが、まだ調子が悪いのか身体にバチバチと電流が走る。

《よくここがわかったな》

「風を追ってきた」

《……はぁ?》

 誇張じゃない。奴はベルトの力で風は止まってると勘違いしたみたいだが……それは違う。

 中心から離れれば若干だが風が吸い込まれる感覚はある。それを追った。

《ヒーローメモリがオレたちを引き合わせたのか……? まあいい……」

「ジェスター、最後にもう一度聞く。やめる気はねえな?」

 ヒーロー・Xは鼻を鳴らす。

《答えは、わかってんだろ?》

「そうか。じゃあ……」

 仮面の下で目を閉じて……開く。

 目を背けていた自分の罪に向き合うときだ。

 

「一つ、俺は勝手な行動をして、師匠を殺した」

『似合う男になれ』

「二つ、俺は命を賭けた相棒との約束を破った」

『ぼくが好きだった街をよろしく』

「三つ、戦うことを躊躇(ためら)ったことで大事なものをたくさん泣かせた」

『風で花が流れるところを見るのが好きっす!』

 

《あんたいったい、何を言って……?》

 罪を数えた俺にヒーロー・Xが困惑する。

「大切な物を守るために……『おまえの罪を数えろ』ってある人に言われた。だから……俺は自分の罪を数えたぜ」

《はぁ? そんなことしたところで、あんた一人に何ができる?》

 嘲笑うヒーロー・X。

「……だったら、仕留めてみろ」

 ……カラカラ。カラカラ。カラカラ!

 俺の言葉に反応するように周囲の風車が回りはじめる。

 そう、少しずつ街に風が吹きはじめたんだ。

《⁉︎ なんで風が⁉︎》

 動揺する奴に対して俺には心当たりがあった。

 もしかして俺の覚悟に街が応えてくれたのか……?

(もちろんさ。君は忘れているよ。強くなければこの街では生きられない。だが、優しくなければこの街を守る資格はない。両方を持つのは君だ。それがもし、弱さだとしてもこの街は受け入れる)

 ……ありがとな……相棒……。

《なんで風が吹く⁉︎ オレが限界まで吸い込んでるはずだ⁉》

「……当たり前だろ。おまえだけが独り占めしてんじゃねぇよ」

《な、何……⁉》

「風はいつだってこの街を守ってんだよ」

 俺たちを繋いでくれた、この街に吹き(すさ)ぶ風を止められるもんかよ。

(そのとおりだ)

 隣にフィリップの幻影が立つのが見える……風に変わって俺の身体と一体化する。

「『俺たち』二人の身体と魂が一つになれば、奇跡くらい起こせるんだぜ?」

 ビリビリは収まった。どんどん調子が良くなる。

《俺たち、だと……?》

(覚悟は、いいかい?)

 ああ、俺はできてる! 行くぜ……フィリップ!

(ああ、翔太郎!)

「……ウオラァァッ‼」

 拳を握ってヒーロー・Xに殴りかかった。

 

 俺たちの戦いをモニター越しに見ている連中がいた。

「万灯さん。お呼びですか?」

「ああ。だがその前に秀夫くん、君も見るかい? 面白い見せ物がはじまるところだ」

「へぇ?」

「少々変則的だが、W対ジョーカーのドリームマッチだよ」

 千葉が隣に立つ。

「なるほど。彼女が?」

「彼女は逸材だよ。普通、数年かかるところを、たった数回でハイドープになった。街の用心棒として是非とも向かい入れたい……が、どうなるかな?」

 万灯はほくそ笑んだ。

 

 一方、バイクになった照井は歯がみしていた。

(左の奴。俺を人間だと思っていないのか? よりにもよって、こいつの相手をしろなど……!)

 ギャッギャッギャッ‼

 目の前ではリボルギャリーが人や車を無視して道路を暴走している。

『リボルギャリーをなんとかして止めてくれ』

(こんな短いメールで頼んでくるとは。よほど奴を怒らせたか、俺を信用しているか、だな)

 するとリボルギャリーの前にアクセルのメカ・ガンナーAが降ってきて立ち塞がる、があっさりと跳ね飛ばされた。

 照井は飛び上がって後輪部分を海老反りにしてガンナーAと合体・アクセルガンナーになった。

 リボルギャリーめがけて砲撃するが傷一つない。

「さすがの装甲だ。これの砲撃を物ともせんとは。……むっ」

 偶然近くにキャリアカーが停まっていた。

「使えるかもしれん」

 アクセルガンナーは先回りすると荷台部分を駆け上がってリボルギャリーに飛び乗る。

「動きを止めるためにこじ開ける!」

 照井はベルトのスロットルを回しながら手を入れて、ガンナーAのアームと合わせてハッチをこじ開けにかかる。

「ハアァァッ!」

 バキッ! バキバキッ!

 嫌な音を立てると人一人が入れる隙間が空く。

「よし。……奴は」

 ブォン! ブォン! ゼツ、ブォン!

 中ではアナザーアクセルがエンジンを吹かしていた。

「なるほど、理屈はわかった」

 照井はその隙間から降りて、アナザーアクセルの上に乗るとブレーキを握る。

「まさかこの姿でバイクに乗るとはな……!」

 ブォン⁉︎ ゼツ、ブォン!

「ここに貴様の場所はない! どけ!」

 照井の邪魔に耐えられなくなったのか、アナザーアクセルは自分から外に出るとリボルギャリーは動かなくなった。

 

 ブォン! ブォン! ゼツ、ブォーン‼︎

 アナザーアクセルはUターンすると照井に対して、怒りを表すようにエンジンを吹かす。

「……邪魔した俺が憎いか? 丁度いい。俺もこの怒りをだれにぶつければいいか考えていたところだ……!」

 照井はエンジンメモリをベルトに装填した。

「エンジン・マキシマムドライブ!」

「貴様が俺自身なら……己をも、振り切るぜ!」

 マキシマムを発動した照井は、全速力のアナザーアクセルと正面衝突する。

 ゼツ、ブォン! ゼツ、ブォン‼

「絶望、絶望、うるさい奴だ。ならば望みどおりにしてやる!」

 ドライバーのスロットルを思いっきりひねると、足のスラスターの炎が大きくなり加速が増して……アナザーアクセルを貫いた。

 

「絶望がおまえのゴールだ」

 

 照井が人型に戻るのに合わせてアナザーアクセルは爆散した。

 中からバラバラになったオフロードバイクが現れる。

「俺の模造品が中古のバイクとは……舐められたものだ」

 こうして照井はリボルギャリーを止めてみせた。

 

 俺はヒーロー・Xに対してインファイトで攻める。

《ふん。全然効かねぇぞ》

 おちょくられるが気にせず殴り続ける。

「ジェスター! ヒーローの名を(かた)る悪党が! この街を泣かせる奴は俺たちが許さねえ!」

《悪党だと? ふざけんな! オレは街を守るヒーローだ!》

「それだよ。自分が街を泣かせる『悪』だと気づいてねえ。それがおまえの『罪』だ!」

《能書き垂れてんじゃねぇッ! 街を守るのに愛だの優しさだのは意味ねーんだよ!》

「ぐっ!」

 反論交じりに重い一撃を受けて地面に倒れる。

「……たしかに愛や優しさによって、苦しむこともあるかもなッ!」

 口を拭ってすぐにつっこむ。

「でも苦しんで! 傷つくから! 人は強く! 優しくなれるんじゃねぇのか!」

 攻撃をかわしてボディーにストレートを打ち込む。

《ちぃ……! いい加減、鬱陶しいんだよ!》

「おやっさん……俺の師匠ならきっとそういうはずだ! 『苦しみは優しさを死なせやしない』……てな!」

 ヒーロー・Xの斬撃をバク転で避ける。

《なんでさっきより動きが良くなって……⁉ なんだ……あの紫の炎は⁉︎》

 このとき、奴には俺の身体がオーラをまとっているように見えたらしい。

 それに驚いて動きが一瞬鈍ったところを、頭の触覚の一本を殴ってへし折った。

《グゥッ⁉》

「さっきからそこがビリビリしてるのが気になってた」

 指摘するとヒーロー・Xは心当たりがあったらしい。

『一矢報いさせてもらった』

《さっきの言葉はそう言う……! なあっ⁉︎》

『目が覚めました! 目が覚めました!』

 フロッグポッドが記録してたヒロの録音とともに、すべてのメモリガジェットが身体から飛び出して戻ってくる。

(どうやらあの触覚部分が操っていたようだ)

「じゃあ……あとはヒロだけだな」

 ヒーロー・Xは焦ったように自分の胸に手を当てた。

《この身体は、渡せるかよッ!》

 繰り出してくる剣とセイバーの斬撃を紙一重でかわす。

《なんで、当たらねぇ⁉︎》

(ヒーローメモリ。つまりWの記憶が中心なら、少なからず動きも似る)

 そう。Wの動きは……全部、頭の中に入ってる!

「おまえは俺が倒せないから躊躇したと思ったみたいだが、そうじゃねえ。……倒せるから躊躇したんだよ!」

《なんなんだ……なんなんだよ、おまえは⁉》

 尋ねられたからには、答えてやるさ。

「俺は左翔太郎。師匠・鳴海荘吉と相棒・フィリップの忘れ形見。この愛する街を守る探偵で、仮面ライダー……ジョーカーだ!」

《探偵なんかに……ヒーローであるオレが負けるわけがあるかぁ‼》

(翔太郎。『プリズムブレイク』の動きだ)

 見覚えのある突き攻撃を避けて剣を奪い取る。

《なっ⁉》

 その勢いで一回転しながら奴のベルトに突き刺した。

《!》

 ヒーロー・Xは手でベルトを抑える。

《あっ、ぁぁ……!》

 手を広げれば見事にタービンが壊れていた。

 ベルトが火花を散らして錆びついたような動きで元に戻ると、ヒーロー・Xは最初の姿になり、俺が持っていた剣も消えた。

(メモリの無力化に成功した)

《嘘だろっ⁉︎ タービンが止まったら本当に……!》

 その隙を見逃さずメモリをマキシマムスロットに入れた。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

 右拳を硬く握る。

《! ちくしょう!》

 悪態をついたヒーローは風と熱と光が混じった右腕のパンチで迎え撃ってきた。

「……ライダーパンチ!」

 パンチ同士がぶつかる……奴の腕がへし折れる感覚がした。

《ガァァァッ⁉︎ 腕があぁぁ⁉︎》

 火花が散る右腕を抑えた奴に近づくと俺から距離をとりはじめた。

「どうした?」

《に、逃げるんだよ! ここで終われるか……!》

「……いや」

 左側の複眼が光るとヒーローの動きを止めた。

《か、身体が……⁉︎》

「これで終わりだよJ……いや、ジェスター」

「! ヒロ……」

《な、なんで樹里が⁉ いや、そんなことより、わかってるだろ⁉ この状態でやられたら死ぬぞ⁉》

「もう手遅れだ。メモリを使いはじめたころから毒素は回ってた」

 だから調子が悪そうだったのか……。

「ベルトが壊れた以上、もって、あと数分。それに、ボクは『ヒーローの(うつわ)』じゃない」

《っ!》

 自分自身の否定がトドメになったのか完全に動きが止まる。

 

「ヒロ……」

「ししょー、覚えてるっすか? ボクとの約束」

 ヒロの口調で話しかけてきた。

『ししょー……もし、ボクが悪さをしたら、止めてくださいね』

『何言ってんだよ。……そんときは拳骨付きで説教してやるよ。師匠だからな』

『さすが、ししょーっす……。約束っすよ……』

 一呼吸置いて……うなずく。

「あぁ、もちろんだ。だれでもない……おまえの、依頼であり約束だ」

 もう、約束は破らない……。約束は、絶対に守るもんだ!

(……翔太郎。何をすべきかはわかってるね?)

「もちろん……メモリブレイクだッ!」

(ああ……。もう、ぼくがいなくても大丈夫だね……)

 その寂しそうな嬉しそうな言葉を最後に……フィリップの声は聞こえなくなった。

 マキシマムスロットを叩く。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

《や、やめろぉっ‼》

 土壇場で身体を取り戻したヒーローが飛ぶのに合わせて、左手首をスナップして俺も飛ぶ。

 

 奴がWのように腕を構えて両足を突き出すのに対し、俺は紫の業火をまとう片足を突き出す。

《ウオォォォーッ‼》

「ライダーキック!」

 俺たちのキックが激しい音と衝撃を起こして空中でぶつかる。

 感覚で俺が有利なのがわかった。

《くっ! オレのメモリはすべてのドーパントを凌駕するメモリなんだぁぁぁッ‼》

 必死になったヒーローの周りに俺たちのメモリ六本のロゴを歪めたような物が浮かぶと両足に吸収される。たしかに力が増したのを感じた。だが。

「付け焼き刃の力で、街を守る俺の覚悟が……負けるかよッ‼」

 俺の背中を風都の風がひと押しした。

《⁉ う、嘘だ! オレの全力の……キックが、や、破られ……あっ》

 押し勝った俺のキックがヒーローの胸に直撃した。

 爆発が起きて傷だらけのベルトが空に舞うと、中からヒビが入った金色のメモリが飛び出す。

《い、嫌だ……!》

 ドカァーン‼︎

 ベルトに取り込まれていたらしいジェスターの人格が断末魔をあげるが、ベルトの爆発に巻き込まれかき消された。

 

 一部始終を見終えた万灯は手を叩く。

「素晴らしいショーだった」

「格上にも思えたヒーローを倒すとは……」

「……やはり、ジョーカーの力は未知数……」

 喜びと困惑が混ざったような表情を浮かべた万灯はモニターを消すと千葉を見た。

「さて、秀夫くん。ときめを呼んできてくれないか? 今ならシャワーを浴びているだろう」

 その言葉に千葉はニヤリと笑うと、仰々しく頭を下げてその場を去る。

「さあ、そろそろ我々も動き出そう」

 これからの計画の開幕を示すように万灯は大きく腕を広げた。

 

 俺は解放されたヒロを抱きかかえる。

「ヒロ、大丈夫か⁉」

 外傷こそ少ないが息も絶え絶えだった。

「……ししょー……とめて、くれて、ありがとう……ございました……」

「んなこと言ってる場合か! 今すぐ、病院に……!」

「いえ……病院より、花壇に……」

「何言って……!」

 ヒロが小さく笑う。すべてを悟ったような表情だった。

「おね、がい……します……」

「……わかった。もう少しだけ我慢しろよっ!」

 歯を食いしばりヒロを抱え直して楓橋から降りると、色とりどりの花壇に入って中央辺りで下ろす。

「ヒロ、どうだ見えるか!」

「はい……みえるっす……」

 抱き起こして二人で眺める。

 たしかに花が風に流れる風景は綺麗だった。

「よかった……。さいごに、ししょーと……ここに……これた……」

「最後なんて言うなよ……。明日から新学期だってのに……」

 本当なら友達と新しい日々がはじまるはずだったんだ……。

「そう、いえば……。それもボクの、ばつ、っすね……」

 肩が、震えた。頬を熱いものが流れるのを感じる。

「ししょー……ない……てる、っす、か?」

「馬鹿っ……! 男が、女の前で泣くかよ……!」

「……えへへ。やっぱり、ししょーは……ボクのさいこう、のししょー。ハード、ボイルド、っす……」

「……俺は……ただ……痩せ我慢してるだけだ……」

「なら……それが……ししょーらしい、ハードボイルド……っす。ぼうし、かぶってるとこ……はじめて、みたっすけど……にあって……ます……」

「……こんなときに何言ってんだよっ……!」

 ヒロは苦しそうに息をしながら微笑む。

 そして、身体がきらきらと淡く輝きはじめた。

「ヒロ……? ヒロ!」

 身体が花びらに似た粒子に変わり、風に乗って少しずつ消えていく。

「……じ、ぶんの、つみを、かぞえる、ときが、きた……みたい、っす……」

「くっ……!」

 その身体をグッと胸に抱き締める。体温や感触がなくなっていくのを感じた。

「ししょー……ボク、ししょーと、あえて……よかった」

「ヒロ……!」

「まちも……ボクもすくって、くれたから……」

「……おまえもだ」

「……えっ……?」

「おまえも、俺を救ってくれた‼」

 叫ぶように言って目を合わせた最期のとき、顔だけになったヒロは咲き誇る花のような笑顔を見せてくれた。

「これからも……このまちを……」

「守る。必ず……!」

「……よかった……。このまち、には……かぜ、と、かめんらいだーが、いなきゃ……」

 そう満足そうに言い残し目を閉じる……風がヒロのすべてを空へ舞きあげた。

「ヒロ……。ヒロぉッ……‼」

 遺った物を抱きしめて俺は一人で泣いた。

 そのあとのことはどうしたのかは覚えていない。

 また胸にぽっかりと穴が開いた感覚がありつつも……「街を守る」。

 それだけは忘れずに戦い続けた。

 

「……そんなことが、あったんだね」

 話を終えて、ときめは寂しそうに言った。

 俺はヒロが遺したノートの裏表紙を開く。

 そこにはハナミズキの栞とともに、こう(つづ)られていた。

『いつの日かこの花の花言葉のように師匠の想いが……風を伝って師匠の大切な人に届きますように。師匠の自慢の弟子! 日色樹里』

 目頭が熱くなる。

「大丈夫?」

「……泣くわけにはいかねぇよ。あいつのことを思い出すときは『ハードボイルド』でいる。それがヒロとの、約束だ」

 涙をこらえつつ橋の欄干からハーデンベルギアの花束を投げた。

 花言葉は「出会えて良かった」。

 一つ何か違えば出会わなかったかもしれない。

 でも会ってしまった以上、ヒロとの出会いは大切な思い出だ。

「『俺の愛するヒーロー(My dear HERO)』に花束を」

 花束は色鮮やかな絨毯の中へと消えていく。

 ……おまえはいつまでも俺の大事な弟子だぜ。

 

 これで今年もあいつへの墓参りは終わった。

「……そろそろ帰るか」

 どこか沈んだ気持ちのまま帰ろうとした、そのとき。

「アハハハ!」

 橋の下からガラが悪い笑い声と人々の悲鳴が聞こえた。

「……あん?」

 そっちを見れば三体のドーパントが好き放題に暴れてる。

「泣け、(わめ)け、(ひざまず)け! この街は俺たちのもんだぁ!」

 頭の悪い言葉に思わず頭を抱える。

「たぁく……仮面ライダーに休みなしだな」

「ちょっと待って!」

 向おうとした俺をときめが止めた。

「翔太郎、これ」

 帽子を渡してくる。

「……ありがとな」

 それを受け取ってかぶった。

 やっぱり俺にはこいつがないとな。

 そして、腰に「W」の形のベルト・ダブルドライバーを巻く。

 

禅空寺(ぜんくうじ)義蔵(ぎぞう)の遺産の一つ。海上の楽園……『風流島(ふりゅうとう)』か。じつに興味深い。是非行ってみたいよ。香澄(かすみ)さん」

「えぇ。機会があったら、皆さんで」

 ミックをなでながら通話をしていたフィリップの腰にベルトが現れる。

「ん。すまない。出番のようだ」

「……気をつけてね。フィリップ君」

「ああ」

《? 大丈夫か?》

 ベルト越しに意識がつながってるから、何か邪魔をしたのかと思った。

「問題ない」

 フィリップがサイクロンメモリを取り出す。

 

「なら、フィリップ。半分、力貸してくれ」

《もちろん。それにしてもこの日になんてツイてない相手だ。その不運にゾクゾクするね》

「まったくだぜ。よっと」

 橋の下へ飛び降りながら一体を蹴飛ばす。

「オラァッ!」

「いてぇ⁉︎ な、なんだおめーは⁉︎」

「……その台詞、そっくりそのまま返すぜ」

 着地した俺は帽子をなでて聞き返す。

「はっ! なら、聞いて驚け! 俺たちはかつて風都を恐怖に(おとしい)れた『ネストの四天王』の残りの三人よ!」

 四天王……たしかにあのゴキブリがそんなこと言ってたな。

「てか、三人なら四天王じゃねえだろ」

 そう言ったら「えっ」と声をあげて三体が考えはじめる。

「たしかにそうだよな」

「三、三……なんかねーか?」

「そうだ! 『三人囃子(ばやし)』とかどう?」

「ひな祭りかよ……」

「それで、俺たち『三人囃子』に喧嘩を売る命知らずの野郎はいったいだれだ?」

 ドーパントのしょぼい挑発を鼻で笑う。

 答える代わりにジョーカーメモリを鳴らした。

《サイクロン!》「ジョーカー!」

「《変身!》」

 息の合ったかけ声とともに俺たちの腕が「W」の字を作るのをベルトを通してわかった。

 

 サイクロンメモリが俺のベルトに転送されてくる。

 それを押し込み、手の中でジョーカーメモリを回転させてもう片方のスロットに押し込む。

 腕をクロスさせてベルトを開き、「W」の形に腕を広げる。

「サイクロンジョーカー!」

 身体を粒子と風が包むのに合わせて、風都タワーの回転が速くなる。

 それがやんだとき、黒と緑の左右二色の身体、頭には赤い瞳に鋭い二本の触覚、そして肩からマフラーを流した戦士が現れる。

 待たせたな。仮面ライダーWの登場だぜ。

「か、仮面ライダー⁉」

 俺たちが変身したことで連中は驚いている。

《『クインビー』に『メガネウラ』、『ホッパー』とは虫系ドーパントのオンパレードだね》

「せっかく人がハァードボイルドに思い出に浸ってたってのによ」

「俺たち」はあきれて肩をすくめる。

「ど、どうすんのよっ」

「ひ、怯むな! こっちの数が多いんだ! やっちまえ!」

 つっこんでくる連中に、Wは左手首をスナップした。

「行くぜ。害虫退治だ」

 

 バッタ怪人はステゴロ、トンボの坊やはとげを使った斬撃、蜂女からは無数の毒が飛んでくる。

 だが、その程度は俺たちの相手じゃない。右手を地面に突いてブレイクダンスのような回転でそれを弾く。

《ぼくが考案した、『ヘブンズトルネード』の改良版だ》

 体勢を戻すと跳んで蜂女の肩にまたがった。

「よっと、失礼」

「ちょ、ちょっと、何すんのよ⁉ ……あぎゃっ⁉」

 肩を蹴って空に舞いあがる。

「ルナ!」「トリガー!」

 メモリを黄と青に素早く入れ替える。

「ルナトリガー!」

 胸に現れた銃・トリガーマグナムにメモリを装填。

「トリガー・マキシマムドライブ!」

 身体を上下反転させて落ちながらマグナムを構える。

「《トリガーフルバースト!》」

「イヤァッッッ⁉」

 無数のビーム弾が蜂女を包み爆発した。

 地面に転がるように着地する。すかさず残りの二体からの追撃がきた。

 Wは側転するように華麗に避けながらメモリチェンジ。今度は赤と銀だ。

「ヒート!」「メタル!」「ヒートメタル!」

 背中に現れた鉄棒・メタルシャフトでバッタを突き飛ばし、トンボの坊やと殺陣(たて)を繰り広げる。

「おっと、おっと、よっと!」

「ちぃっ!」

 互いに距離をとるとトンボの坊やは「X」字にトゲを構える。

《あのときと同じ技だ。今度は食らわないでくれたまえよ?》

「はん。そう何度もトンボの坊やに遅れを取るかよ」

 軽口を叩きながらシャフトにメモリを入れる。

「メタル・マキシマムドライブ!」

 シャフトの両端に業火が灯る。動き出すタイミングは同時だった。

「《メタルブランディング!》」

 お互いが交差する……少し間があって。

「……今度は俺たちが早かったな」

「ウギャァァァッ‼」

 トンボの坊やが爆発したのを尻目に、シャフトでバッタ怪人を指す。

「さてと。残りはおまえだけだぜ? バッタ怪人」

「くそがぁぁ!」

 やけくその足技をメタルの装甲で防ぎ、お返しにヒートの拳で殴り飛ばす。

「ぐぅ……うぉぉっ! 野郎ぉっ!」

 バッタ怪人は跳ね起きると片足を下げて構えを取る。

「キックで勝負か。……受けて立つぜ」

「サイクロン!」「ジョーカー!」

 Wをお馴染みの姿に戻す。

「サイクロンジョーカー!」

「俺」は右手でジョーカーメモリを抜いて腰のマキシマムスロットに叩き込む。

「ジョーカー・マキシマムドライブ!」

 緑色の風に巻き上げられたWは下にいるバッタ怪人を見た。

《君。地の利はこちらにある。やめたほうが利口だ》

「そういうこった。どうする?」

「……うおぉぉぉーッ‼」

 警告も(むな)しくバッタ怪人はキックを放ってくる。

 スロットを叩くとWの身体が左右二つに割れた。

「《ジョーカーエクストリーム!》」

 俺が考案した必殺技を叫んで、左足が奴の足に当てて威力を弱め、続けて右足がトドメを刺した。

「アガァァァァァァッ‼︎」

 バッタ怪人を地面に叩きつけ、Wは花壇の傍に着地するとそこに目を向ける。

 街の大切な花壇だ。虫に荒らされなくて良かったぜ。 

《それじゃあ、『いつもの』やっておくかい? 翔太郎》

「……もちろんだ、フィリップ! この街の風が運ぶどこまでも、高らかに響かせてやろうぜ!」

 ヒロがいる天国まで届くぐらいにな!

 Wは左手首をスナップし、地面に倒れる悪党どもを指鉄砲で指す。

 

 風の街・風都。

 この街にはたくさんの人がいる。

「藍沢あざみさん、僕と結婚してください!」

「っ! ……はい! 蒼助さん……!」

 いい奴もいれば、悪い奴も。

(はるか)はぁ、あいつら絶対に許さないんだからぁ……!」

「あの女……覚えてろよ、必ずこの俺様の手で……!」

 過去の記憶から続いて。

『荘ちゃん。店の裏のこの丘、素敵でしょう? 翔ちゃんにもいつか見せてあげたいわ』

『そうだな。サツキ』

 未来の風へとつながっていく。

「お嬢様。風流島へ向かうヘリの準備ができました」

「わかりました。行きましょうか伏水(ふしみ)さん」

 例え目には見えなくても。

(行くわよ……ちぃちゃん)

(あっ、さっちゃん待ってよ~!)

(相変わらず、面白い風を吹かせるじゃないか)

 今日は今日の風が吹く。

(あきら)! はい、お弁当」

「ありがとう。ぼく一人じゃなんにもできないから」

「真倉ぁ、昆布茶!」

「またっすか? 刃野さん」

「ようこそ」

「いらっしゃいませ。カフェ白銀(しろがね)へ!」

「いいどぅえすねぇ! ボキの写真!」

「いらっしゃい。えっ、レジェンドデリシャスゴールデン缶をお探し?」

「でね。エリザベスがこういうわけよ」

(キィー! 最近、クイーン、プリンスくんとの仕事ばっかりぃ!)

 もしも困ったことがあったら、この街には探偵がいる。

「鳴海探偵事務所にようこそ! お困りごとですか?」

「悪党ども覚悟しろ。振り切るぜ!」

(頑張って、二人とも!)

 どんな依頼もハァードボイルドに解決する。

 二人で一人の探偵で……仮面ライダーが。

『ししょー! ボク、この街が大好きっす!』

 そうだ。この街はだれか一人だけのものじゃない。

 俺たちみんなの街だ。覚えといてくれよ?

 

「《さあ、おまえの罪を数えろ!》」

 

 決め台詞とともにWのマフラーと花びらが風で揺蕩(たゆた)う。

 今日も良い風が吹いている。

 街を眺める風都タワーがそう言った。

 

 ~J・jに贈る言葉~

《完》




《「仮面ライダーW」シリーズを愛する者として》

 この拙作を「仮面ライダーW」と『風都探偵』の物語の一部として、みなさまの「地球(ほし)の本棚」に寄贈いたします。
 これからも末永く閲覧していただければ幸いです。
 また、ここまでお付き合いくださったことに御礼申し上げます。

筆者 竜・M・美日


 この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

この作品のどの点が面白い・魅力的だと思われましたか?(筆者の今後の執筆活動の活力・参考になればと考えております)

  • サブタイトル
  • 登場人物
  • ストーリー
  • 台詞回し
  • メモリチェンジ
  • 必殺技(マキシマムドライブ)
  • 敵の姿・能力
  • その他(感想に記入いただけると幸いです)
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