風都探偵 The ANOTHER CASE   作:竜・M・美日

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前章5「Fの決断/悪意ある水の中から」

 ぼくが風のメモリ・サイクロンをダブルドライバーに装填すると、それが翔太郎のドライバーの右スロットに転送される。ぼくの身体が砂浜に倒れた。

 ぼくの意識はすでにサイクロンの中に入っている。

 翔太郎はそれを押し込み、すかさず自分のジョーカーも左スロットに押し込むと、ベルトを左右に開いた。

 照井竜もベルトにメモリを押し込み、スロットルをひねる。

 翔太郎の身体を中心に風が渦巻き、Wの肉体を形成していく。

 照井竜の身体にはエンジンの駆動音とともに赤い閃光が走る。

「サイクロンジョーカー!」「アクセル!」

 Wサイクロンジョーカーがその二色の身体を完成させて、スッと立つ。

 その隣に現れたのは深紅の鎧を身にまとった戦士。

 メカニカルな全身の装甲、そしてバイクのヘッドライトのような頭部が単眼として青く輝く。

 仮面ライダーアクセル。

 風都の二人の仮面ライダーが並び立った。

 

 アクセルは巨大な剣・エンジンブレードを引き抜き、いつものように冷徹に言い放つ。

「さあ、振り切るぜ」

 ぼくたちは一直線に液状のヒトデに向かうと、Wはキック、アクセルはエンジンブレードの一撃を食らわせた。

 バシャッ!

「……えっ?」

「何?」

 ヒトデは攻撃を受けた瞬間にあっさりと霧散した。身体を構成していた水の飛沫(しぶき)がWとアクセルにかかる。

「どうなってんだ……。倒したのか?」

《いや、手応えがなかった》

(おとり)か……?」

 状況の把握に困惑していると、アクセルの背後にヒトデが現れた。

《危ない!》

 すかさずWが蹴り飛ばすが、同じように霧散する。

「またかよ!」

《これは……》

「むっ!」 

 アクセルがWの後ろに立ったヒトデを斬りつけた。あっさりと消え去る。

「そこだ!」

「はっ!」

 その後も、ヒトデはどこからか現れてはWとアクセルの攻撃を受けては消え、受けては消えを繰り返した。

「なあ、相棒。嫌な予感がするんだけどよ……!」

 何度も倒す内に翔太郎も異変に気づいたようだ。

《……ぼくも同じ気持ちだ》

「こいつら、まさか……」

《あぁ。おそらくこの一帯の海水や水たまりから生成されている分身体だろう》

「おいおい! それじゃあキリがねぇじゃねーか!」

「俺たちを消耗させるのが目的か?」

《おそらく。どこかに本体がいるはずだ》

 ドガン‼ ガゴン‼

 本体を探すことにしたぼくたちの背後で激しい音がした。

 見れば、布川のクルーザーが船着き場を乗り上げて横倒しになっている。

「おい、何があった⁉」

《波でクルーザーが乗りあげたのか……⁉》

 満ち潮でもないのに、どれだけの海面が動いたんだ……。

「うわああああっ⁉」

「助けてくれえええっ⁉」

 ぼくたちが敵の能力に戦慄(せんりつ)している中、突然の悲鳴に視線を移す。

 海から五メートルはある液状の触腕(しょくわん)が現れ、次々に布川の部下を捕縛して海に引きずり込んでいく。

「おいおい! 今度は触手かよ⁉」

《同じく分身体だろう! アクセル、君は彼らを安全な場所に! ぼくたちが本体を探す!》

「わかった!」

 アクセルはストップウォッチが付いた青いメモリを取り出す。

「トライアル!」

 タイマー部分を回転させると三色のシグナルが付いた形態へと変化する。

 アクセルメモリの代わりにベルトに装填しスロットルをひねった。

「トライアル!」

 F1のスタート音を鳴り響かせながらシグナルが切り替わっていく。

 それに合わせてアクセルの装甲が赤から黄、そして青へと姿を変化させた。

 装甲のほとんどが削られ、一転スマートなシルエットになり、モトクロスヘルメットのような頭部にはオレンジの単眼が輝く。

 仮面ライダーアクセルの強化形態・アクセルトライアル。

 速度特化のアクセルトライアルはブレードを振るいながら、無事だった布川の部下たちをすさまじいスピードで救助していった。

 

「よし! 俺たちは親玉を探すぞ!」

 すると森の中に他の個体より一回り大きいヒトデの姿が見えた。

《翔太郎、あれだけ他の個体よりも大きい!》

「あいつが本体か! 一網打尽にしてやる!」

 Wは黄と青のメモリを取り出す。

「ルナ!」「トリガー!」

 サイクロンとジョーカーと素早く入れ替える。

「ルナトリガー!」

 Wの両半身が緑と黒から、黄と青の神秘と銃撃手の戦士・ルナトリガーになった。

 ルナトリガーは左胸に形成された専用武器である銃器・トリガーマグナムを構える。

「これでもくらいな!」

 マグナムの引き金を引いた。銃口から一発のビーム弾が放たれる。

 それが数発の光弾に分裂すると、変幻自在な軌道を描いてヒトデに迫り、直撃することなくUターンした。

「えっ?」

 追尾弾は呆然とするWの横をとおり過ぎて、そのまま海中に潜っていった。

「お、おい! どこ行くんだよ⁉」

《ルナトリガーの追尾弾がそれた……⁉》

 ……まさか、海に……?

 結果的にこの攻撃が予期せぬ事態を引き起こしてしまった。

 

 一方で観測ユニットにいた香澄さんたちは、おぞましい光景を目撃することになった。

「キャァッ⁉」

「……こ、これは……⁉」

 (あわ)れにも触腕に捕縛された男たちが海中でもがき苦しみながら次々に絶命していく。

 香澄さんは悲鳴を上げ、伏水はパニックになったのか震える手で水筒に口を付けようとしている。

「こ、こんなときに、飲んでる場合⁉」

「も、申しわけありません……!」

 香澄さんが叱った直後に水中エレベーターのドアが開いた。

「あっ! フィリップ君……あなた……」

 ぼくが来たと勘違いした香澄さんはエレベーターから降りてきたときめを見て、苦い顔をする。

「何、これ……?」

 さすがのときめも外に広がる惨劇に驚愕しつつも、香澄さんの腕をつかむ。

「……ちょ、ちょっと! 何よ⁉」

「今、Wが戦ってる」

「なんですって⁉」

「フィリップにあんたを逃がせって言われた」

「……やっぱり、思ってたとおりのことが……」

 香澄さんは嫌な予感が当たったことで、悔しさからか唇をかむ。

「でも、安心しな。布川は死んだ」

「……えっ?」

「あとは三人がドーパントを倒せば、全部済むはずだよ。とにかく安全な場所へ……」

 香澄さんをエレベーターに避難させようとして、ときめは異変に気づいた。

「あれは……!」

 複数の光弾が無茶苦茶な軌道を描きながら、香澄さんたちに迫っていたのだ。

「Wのビーム弾⁉」

 気づいたときには追尾弾が観測ユニットの至る所に着弾した。先ほどの比ではないくらい何度も大きく揺れる。

「キャアァッ⁉」

「くっ⁉」

 ときめはとっさに香澄さんに覆いかぶさるようにして床に伏せた。

「う、うわぁっ⁉」

 しかし伏水は体勢を崩すと、手すりを越えてガラスの上に落下してしまった。

 バリッ! ガシャン! ザボォン!

 いくら水圧に強いとはいえ、異常なパワーには耐えられなかったのだろう、伏水が落下した(はず)みでガラスが割れ海中に飛び込んでしまった。

 開いた穴から大量の海水がなだれ込んでくる。

「緊急事態発生。緊急事態発生。第二ユニットを封鎖します」

 緊急アナウンスとともにユニット全体を防水シャッターが取り囲んでいく。

「駄目! 待って!」

 香澄さんがあわてて叫ぶがもう遅い。

「ガバッ! ゴバッ!」

 ガラスの向こうで伏水が溺れながら香澄さんたちに助けを求めていたが、無常にもその目の前で防水シャッターが閉まった。

「……ぅそ……」

 香澄さんはショックのあまりにへたり込む。

「……わたしの、せいで……」

「……とにかく立って」

 ときめも動揺していただろうが、なんとか香澄さんをエレベーターに引き込めた。

 

 一方でサーバールームにいるウォルターも焦っていた。

「おいおい! 何がどうなってやがる!」

 まったくの想定外の衝撃が香澄さんたちのユニットを襲い、防水シャッターが閉まり二人はエレベーターに乗り込む。

 予定していた状況だが、予想外のことが起こりすぎていた。

「おい! 乗っちまったぞ! 停めていいのかよ⁉」

 何度もスマホで若山に連絡を取るが、肝心の相手とつながらなかった。

「よ、よせえええぇ⁉」

 先ほど、そう叫んだ若山の声で通話が切れていたのだ。

「ああ、もう! 知らねぇぞ!」

 この機会を逃せば、次はいつ乗るのかわからない。

 自棄(やけ)になったウォルターはエレベーターの停止コマンドを起動した。

 

 ときめは一番上のボタンを連打していた。

「早く。早く……!」

「……ふしみ、さん……」

 立て続けにショックを受けて茫然自失している香澄さんを気まずそうに見つつ、ときめはひたすらボタンを連打する。

 ギギィ……ガタン!

 すると封鎖され鉄の塊と化した観測ユニットから十メートルほど上がった所で、エレベーターが大きな音を立てた。

「えっ……?」

 その衝撃で我に返ったのか香澄さんも頭を上げる。

「……停まった……?」

 乗り場ではない所でエレベーターが停まったのだ。

 ときめはわけがわからず、とりあえずガンガンとエレベーターを叩く。

 香澄さんもよろよろと立ちあがりすべてのボタンを押していくがなんの反応もない。

「……どうなってるの?」

 

 閉じ込められた二人を見ながら、ウォルターは苦笑いする。

「ツイてねぇな。お嬢さん……!」

 ときめに対して若干の同情を浮かべつつも、素早く操作を再開した。

 ……ピトッ。

「それにしても、誰だよ! 手間増やしやがって!」

 いらだちながらも急いでシステムの全消去にかかる。

 ピトッ。

 肩に水滴が落ちる。

「これが終わったら迷惑代で、成功報酬を倍に引き上げてやる!」

 全消去完了の確認のためのパスワードを打ち込んでいく。

 ピトッ!

 今度は頭に水滴が落ちた。

「あぁ! もうなんだよ! 水漏れか……⁉」

 パスワードの打ち込みが終わったところでウォルターは頭を触る。

 ヌチャリ……。

 指先に粘着性のある嫌な感触があった。

「えっ……」

 見れば、指先に糸が引いている。天井を見上げてみれば、そこには異形の怪物が張り付くようにしてウォルターを見ていた。

「……ぁっ、あ、あぁ……」

 固まって動けないウォルターに、怪物は口の辺りに付いた「蛇口」から水を噴射した。

 ベチャッ!

 それがウォルターの顔面にかかる。

「うぎゃああああっ⁉ なっ、なん、なんだこりゃぁっ⁉」

 必死に剥がそうとするが、剥がれない。

 それどころかどんどんと顔全体を覆っていく。

「た、たすけ……ん! んー‼」

 苦しさのあまり机をバンバンと叩いた。その弾みでエンターキーを押してしまい、システムの全消去がはじまる。

「ガバッ、ゴボゴボゴボ! ……コポッ……」

 顔にできた水泡に酸素の泡を出していき、最後には完全に息が止まった。

 怪物……ドーパントはパチンとフィンガースナップをする。

 パンッ!

 顔を覆っていた水泡が弾けると同時にウォルターが床に倒れた。

 その身体は二度と動くことはなかった。

 

 Wは予想外の苦戦を()いられていた。

 今のところ攻撃が通用しているとは思えなかったからだ。

「フィリップ! メモリの予想はついたか!」

《能力がシンプルであるが故に候補が多くて、逆に絞り込めていない……。だが、特性からしておそらく『ウォーター』だと思う》

「『ウォーター』⁉ 水かよ⁉」

《だが少々自信がない。水場にいるならまだしも、水たまりから分身体を繰り出し、さらには物理的な攻撃を加えてくるとは……『ウォーター』の範疇(はんちゅう)()えているようにも思える。おそらくメモリの使い手は『ハイドープ』だろう》

 

 ハイドープ。ガイアメモリを長く使用した結果、一種の超能力に目覚めたドーパントの総称だ。

 ハイドープになった者が変身するとメモリの力を限界以上に引き出せるようになるだけではなく、新たな能力を覚醒させる。

 そうなって得られる能力は千差万別で、その中にはメモリの能力とは関連性のない能力が追加されることも多く、使用者の悪意や欲望、性質を反映して、使用者に最適化された能力が追加されたりもする。

 そのため百戦錬磨のWやアクセルでさえ、予想を超えた能力に苦戦させられることがあった。

 今回もその(たぐい)の実力者なのだろう。

 

「ちっ。相手が水ならヒートで蒸発させてやる!」

 Wが熱のヒートメモリを取り出すのをあわてて止めた。

《ま、待ってくれ翔太郎! この辺りは湿度が高いとはいえ、ヒートの熱は普通の物とは違う! 森林にまでダメージを与える可能性がある!》

 そう言って思った。なぜ、今ぼくは不合理なことを言ったんだ?

 被害を抑えるなら、そんなことを言っている場合ではないのに……。

「……わかったよ、相棒。なら『風』で乾かしてやるか!」

 だが、翔太郎はすんなりと意見を飲んでくれた。

《ああ……それなら構わない……》

「サイクロン!」

 ルナをサイクロンに入れ替える。

「サイクロントリガー!」

 右半身が緑に変わり、風と銃撃手の戦士・サイクロントリガーになる。

 再びヒトデに銃口を向けると、少々コミカルな動きで森の奥へと走っていった。

《逃げた?》

「待ちやがれ!」

 

 Wは木々をかき分けて森を抜けた。そこは屋敷の裏手だった。

 目標のヒトデは湖の傍でWを挑発するように身体をくねらせている。

「なんだこのヒトデ野郎……! 人をおちょくりやがって、これでもくらえ!」

 トリガーマグナムから放たれた風の弾丸がヒトデに風穴を開ける。他の個体と同じように水に戻った。

「おい嘘だろ! こいつも囮か⁉」

《だとすると、やはり海に本体が……?》

「マジかよ! かなり離れちまったぞ!」

《すぐに……! いや、あれは……》

 そう遠くない湖の(ほとり)にだれか立っている。

 だが人ではない。一言で表すならば「潜水服」だろう。

 その身体が水でできているのを除けば、だが。

 身体こそ潜水服を模しているが、頭が金魚鉢のようで目の部分にはシュノーケル、口の辺りには蛇口が取り付けられている。

 給水用のホースが付いた貯水タンクを背負い、バルブやレバー、パイプなど「水」に関連する部品が潜水服の至る所にあった。

《あれが本体……。やはりウォーター・ドーパントで間違いないだろう》

「ようやく親玉のお目見えか! こいつをくらえ!」

 Wはマグナムをウォーターめがけて放った。

 するとウォーターは両手を大きく広げ、前に突き出した。

 それに合わせて湖の水がウォーターの前に集まり水の壁が形成された。

「何⁉」

《水の壁……?》

 サイクロントリガーが放った風の弾はそれをとおり抜けると見るからに勢いが落ちる。

 パシャン。パシャン。

 なんとか数発がウォーターの身体に当たったものの、軽い音を立てるだけだ。

「嘘だろ⁉ 一番威力がデカいトリガーだぞ⁉」

《……水中で発砲された弾丸は抵抗でほとんど進まない。それと同様のことだろう》

 ぼくが能力を推測している間に、ウォーターは水の盾を解き両手を指鉄砲の形にした。

「おいおい、まさか……!」

 バッバッバッ!

 またもや翔太郎の直感が的中した。指から細かい水の塊がWめがけて発射されたのだ。

 Wは急いでマグナムで撃ち落とそうとするが追いつかず、一旦近場の木に身体を隠した。

 その木に次々と傷が入っていく。

《木を削るほどの威力を持った水の弾丸か……》

「野郎……! とんでもねぇ水鉄砲使いやがって!」

《このままだと被害が拡大しかねない……。翔太郎! 「究極」でいこう!》

「OK! 一発で決めてやるぜ!」

 Wは木から飛び出すと素早くメモリを変える。

「ジョーカー!」「サイクロンジョーカー!」

 W最強の形態・Wサイクロンジョーカーエクストリームになるには、ぼくたちと最も適合率が高い、この姿になる必要がある。

 

《来い! エクストリ……!》

 ぼくがエクストリームメモリを呼び出した瞬間、ウォーターがWに左腕を向けた。

 ……何をする気だ……?

 するとウォーターの左腕に付いている分離していた何かが合体する。それは、まるで噴水のようだった。

 ……まさか⁉

 エクストリームがWの目の前に来ていたが、ぼくは直感で叫んだ。

()けろ! 翔太郎!》

「は? ……うおっ⁉」

 Wがエクストリームをつかもうとした瞬間、ぼくはなんとか右半身をひねった。

 バシューン‼

 刹那、Wの目の前を猛烈な勢いの水流がとおり過ぎ、目前にいたエクストリームを吹き飛ばす。

 攻撃は数秒でやんだが、背後を見れば何本もの木に見事な丸い穴が空いていた。

「おい……なんだよ今の……?」

《エクストリームは……⁉》

 見ればそう遠くない所にエクストリームが落下していたが、体にはヒビが入っており機能不全に陥っているように見えた。

《なんという威力だ……! エクストリームの装甲に傷を付けるとは……!》

「いや、どういうことだよ⁉ 水がレーザーを使うなんて聞いてねぇぞ!」

《あれはレーザーではない! ウォータージェットだ! 圧縮した水を細い管から一気に放出する加工技術……その威力は鉄板をも切断する!》

「じゃあ、もし今の受けてたら……」

《無事では済まなかっただろう……!》

 血の気が引いていく感覚がしつつ、Wは次の一発に身構えた。

 だが、ウォーターの左腕の噴水は分割して元の位置に収まった。

《……どうやら、そう連続して使える技ではないようだ》

 だが、背中のタンクに付いた給水用のホースが湖へと伸びると、再び指鉄砲の形にして水の弾丸を発射してきた。

「でも、水鉄砲は使えるみてぇだぞ! いてぇ!」

 たえまない攻撃。これでは作戦を練る時間もない。

 だが、相手が水に力を依存(いぞん)しているならば……。

《翔太郎! 森だ! 水がない所へ退避するんだ!》

「ちっ!」

「ルナ!」「ルナジョーカー!」

 右半身がまた黄に変わり、神秘の格闘戦士・ルナジョーカーになると、右腕を伸ばし木の枝をつかんで森の中へ移動した。

 

 ある程度森の奥まで入ったところで、Wは地面に降り立った。

()けたか……?」

《おそらくは。早急(さっきゅう)に対抗策を考えよう》

「そうだな……いてぇ⁉」

 Wの背中に激痛が走る。振り返れば、ウォーターが足元に水流を作りながら木々の間を()って、さらに水の弾丸まで撃ち出していた。

「おい、どうなってんだよ⁉ バンバン攻撃してくるじゃねぇか!」

《明らかに『ウォーター』の範疇を超えている!》

 Wはまたもや枝や木に腕を絡めながらの逃げの一手を選ばされてしまった。

 バキッ!

 その内につかんだ枝が折れて、身体が宙に投げ出される。

「うおっ⁉」

 Wは砂浜に放り出されて転がった。

 

 立ち上がりつつ握っていた枝に力を入れてみた。

 軽い音を立てて簡単に折れる。水分が抜けて乾ききっていたのだ。

《まさか木から水を……?》

 ぼくはウォーターは恐ろしい能力だと改めて実感した。

 海岸まで出てきたウォーターの攻撃はやむことはない、依然として指から水の弾丸を放ってくる。

 それをルナジョーカーの腕で弾くが、もし木からも水が引けるのならば際限がない。

「くそっ。守り一辺倒じゃねーか!」

《ここは完全にウォーターのホームグラウンドだ。奴には絶好の狩場だろう》

「ああもう! これでもくらえ!」

 被弾覚悟でWは右足を鞭のようにしならせて、ウォーターの身体に何度も叩きつけるが水面を蹴ったような感覚があるだけで、(ひる)む様子を見せない。

「ちくしょう! 全然効いてる気がしねー!」

《奴の身体の水が膜を張っていて、それが衝撃を吸収しているんだ。ルナジョーカーではパワー不足だろう》

「じゃあ、どうすんだよ!」

 遠隔攻撃のトリガーでは威力を軽減され、肉弾戦のジョーカーでは近寄ることが難しい。

 接近することなく、より直接的な衝撃を与えるならば……。

《今の最適解は、おそらくこれだ》

「メタル!」「ルナメタル!」

 銀色のメモリに変えると、左半身が銀色に輝き神秘と鉄鋼の戦士・ルナメタルに変化した。

「おお、いくらか痛みがマシになった!」

 メタルの装甲は強固だ。

 今まで強力だった水の弾丸も、今では土砂降りの雨粒を受けている程度の衝撃しか感じない。

 ルナメタルは背中の特殊金属棒・メタルシャフトを取り外し先端をしならせて縦横無尽にウォーターを叩きつける。

 メタルシャフトから硬い衝撃が手に響く。

「よっしゃ! 少しだが手応えがあったぜ!」

 勝機を見出したWは攻撃の手を止めることなく、今度はウォーターが防戦一方になった。

《だが、今一歩足りない。より強力な一撃を叩き込むことができれば……》

「マキシマムで行くか?」

 ぼくたちが相談していると、そこに救助を済ませたらしいアクセルトライアルが戻ってきた。

「俺の力が必要か?」

《是非、お願いしよう》

「それなら、久々に『ライダーツインマキシマム』で行くか!」

 そう意気込んでいると、不意に海岸からあの触腕が現れアクセルトライアルをとらえた。

「何⁉ ぐわああああっ‼」

「照井!」《照井竜!》

 アクセルトライアルの装甲は薄い。次第に金属がへし折れるような音が聞こえはじめた。

 水圧で押し潰そうとしているのだろう。

《まずい、どうすれば……!》

「強力な一撃が必要なんだよな……! 待てよ……そうだ! 相棒、リアクターのときのことを思い出せ!」

《……そうか! ビートルフォンの角にはエネルギーの収束装置が付いている!》

 メタルシャフトにエネルギーを一点集中させて、叩きつければ効き目があるかもしれない!

「おい照井! ビートルフォン貸せ!」

「ぐうっ……! 人使いが、荒い、奴らだ……!」

「ビートル!」

 アクセルトライアルはなんとか水色の携帯を取り出し、そこにギジメモリと呼ばれるガイアメモリタイプの思考型AIを押し込んだ。

 自立行動が可能なライブモードに変形したビートルフォンがWめがけて飛んでくる。

「ぐわあぁ⁉」

 直後、アクセルトライアルが海中に引きずり込まれた。

「やべぇ! さっさと決めるぞ!」

 メタルシャフトにビートルフォンを組み合わせて、さらにメタルメモリを装填した。

「メタル・マキシマムドライブ!」

《技名は!》

「……『メタルビートルスマッシュ』!」

《了解した!》

 相変わらず翔太郎は簡潔で息を合わせやすい技名を付けてくれる。

「《メタルビートルスマッシュ!》」

 Wはビートルフォンによってできた黄色の「W」字の角を振り回しながら、ウォーターめがけてメタルシャフトを突き出し身体を持ちあげる。

 その衝撃は水の装甲を貫通してたしかな手応えを感じた。

 そのまま身体が宙に浮いたところを、すかさず背中に向かってトドメの一撃を叩き込んだ。

 ウォーターが空高く打ち上げられていった。

 辺りを彷徨(さまよ)っていたヒトデや触腕が水に戻っていく。

「やった……か?」

《おそらくは。だが、勢い余ってかなり高く打ち上げてしまった……》

「気にすんな。落ちてきたら、ルナでつかまえてやりゃあいい」

《……そうだね》

 

 しばらく待ったが落ちてくる気配がなかった。

《落ちてこない?》

「どこまで行ったんだ?」

 Wは左手をダブルドライバーの左スロットに置き、右手にメタルシャフトを杖にして待っていると、突如液状の細長い触手がWの身体を締め付けた。

《こ、これは! 水の触手⁉》

「嘘だろ! メモリブレイクできてなかったのかよ⁉」

 そのとき、太陽に隠れていたウォーターが落ちてくるのが見えた。

 落下しながら両手を上に挙げている。

 すると海水や水溜まりがウォーターの手に向かっていき、それが大きな水の球体を形作っていく。

「ぐうっ……! なんだよ、あのデカい水のボールは……⁉」

《あの技に似た攻撃を見たことが……!》

 だが、大きさがあのときと比にならない。

 

 そこで湿度が高い場所にも関わらず、空気が乾燥していく感覚がした。

 見ればWのボディーに付いていた小さな水滴も水のボールに吸い込まれていく。

《まさかあらゆる所から水分を⁉》

 五メートルほどの大きさになったところでウォーターはWに投げつける。

 明らかに直撃すれば、ただでは済まない威力だとわかった。

《避けるんだ! 翔太郎!》

「だ、だめだ……! う、うごけ、ねぇ……!」

 Wを逃すまいと触手はさらに締め付けを強める。

 そして……水のボールはWに直撃した。

「うわああああああっ‼」

《翔太郎‼》

 Wは海中へ弾き飛ばされた。

 その強固な肉体が第二ユニットの防水シャッターを貫通すると、第三ユニットのガラスを突き破ったところでWの変身が解けた。

「ぐわぁっ!」

 翔太郎が手すりに身体を叩きつけられた。

 もちろんWが砕いたガラスから大量に水が入ってくる。

「えっ……。やべ、やべ、やべぇ!」

 翔太郎に海水が迫る。

「緊急事態発生。緊急事態発生。第三ユニットを封鎖します」

 だが、すぐにシステムが作動して防水シャッターが閉められたことで、観察ユニットの下半分が浸水しただけでなんとか溺死は(まぬが)れた。

「……助かったか?」

 

 ぼくはエクストリームから身体を放出すると、胸の上のエクストリームをどかし、ダブルドライバー越しに翔太郎に声をかける。

「翔太郎! 無事かい⁉」

《……危機一髪だったけどな……。香澄さんが言ってたとおり、シャッターが閉まって助かった》

 とりあえず無事なようで安心した。

 だが、と翔太郎は続ける。

《溺れなくて済んだけどよ……。代わりに辺り一面が鉄で囲まれちまった》

「エレベーターは? 呼び出せないかい?」

 少しして向こうからカチカチと音がした。

《……駄目だ。反応がねーな》

「想定以上のダメージでシステムが一時的に落ちたのかもしれない」

《どうする? Wになってぶち壊すか?》

 翔太郎が冗談めかして言った。

「それは最後の手段にしよう」

 ぼくはクスっと笑う。

《なんだよ。随分と余裕そうじゃねーか》

「敵はマキシマムを受けながら、あれだけの技を放ったんだ。しばらく立て直しのために行動は起こさないだろう。エレベーターを復旧すれば問題は解決する。待っていたまえ。サーバールームに行って頼んでくる……なっ⁉」

 屋敷に戻ろうとしたぼくの前に、ウォーターが身体を抑えながらこちらに歩いてきたのだ。

《フィリップ、どうした⁉》

「ウォーターが現れた!」

《何⁉》

 ウォーターが左手で薙ぎ払うように動かすと、水流がぼくに迫る。

 すると機械音と獣の咆哮(ほうこう)が混じったような鳴き声が聞こえ、付近の木から全長二十センチほどの機械の恐竜が現れて、尻尾の部分で水流をいくつにも断ち切る。

 ……ベシャッ。

 とっさに(かば)った左腕と腰に少々水をかぶってしまったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「翔太郎! ファングジョーカーで行けるかい!」

《あぁ! 問題ねえ!》

「来い、ファング!」

 ぼくの声に応えて、機械恐竜が手に収まる。

 そのまま素早くファングを直線状に変形させ、隠れていたガイアメモリの先端部分を出す。

 機械恐竜からやや大型のガイアメモリになった。それの先端部分のボタンを押した。

「ファング!」

 ガイダンスボイスが響く。

 そこでドライバーに普段のWとは逆でジョーカーが転送されてきた。

 じつはWには基本の九形態以外に、ぼくをメインボディーにして変身する姿がある。

「変身!」

 ジョーカーを押し込み、続けてファングも押し込んだ……入らない。

「……えっ?」

 何度もためすが入らない。

「どうして……な、なんだこれは……?」

 一旦、メモリを外してみるとスロットからメモリの端子部分に糸が引いていた。

 触ってみると指にヌメリとした気持ちの悪い感触を感じ、ドライバーを見ると右半分が液体でベトベトになっていた。

 それがメモリの装填を阻害していたのだ。

《おい、どうしたんだよ! フィリップ!》

「なんらかの粘着性の液体が邪魔をして、メモリが入らない……!」

《なんだと⁉》

 無理やり押し込んでみるが、駄目だった。

 最悪の状況だ。敵前で変身不能になるとは……!

「ふっふっふ。間一髪といったところか……。どうやらWには変身できないようだな」

 加工されて、くぐもったような声でウォーターが話しかけてきた。

「くっ……! だが、おまえも無事では済まなかったはずだ!」

 背負っているタンクから水が流れているのがその証左(しょうさ)だ。

 さっきのマキシマムを受けたときに穴が開いたのだろう。

「まあな……。だが、今は私の心配より、友人の心配をしたらどうだ?」

「何……? どういう意味だ!」

 すると二台のスタッグフォンが鳴った。

 片方は意識を共有している翔太郎の物、そしてぼくが持っているほうの物だ。

「鳴っているぞ。出たらどうだ?」

 ぼくはウォーターの一挙手一投足に気をつけながら、ぼくたちはほぼ同時に出た。

「《もしもし?》」

《翔太郎?》「フィリップ君?」

 翔太郎はときめから、ぼくは香澄さんからだった。

《どうした?》「どうしたんだい?」

「《じつは……》」

 二人は一呼吸置いて。

「《……私たち水中エレベーターに閉じ込められたみたい》」

「《なんだって⁉》」

 ぼくたちの会話を聞いていたウォーターが笑い出す。

「……くくっ、あはは! Wには変身できない。恋人たちは海中に閉じ込められる。トラブル続きだな!」

「おまえの仕業か!」

「いいや、違う。人の悪意はガイアメモリだけで起こるわけじゃない」

「何? どういう意味だ!」

「調べればすぐにわかることだ。そして、宣言しよう。おまえは必ず私の力が必要になる。園咲来人(らいと)

「!」

 ぼくは驚愕した。その名前を知っている人間は少ない。

「な、なぜ、ぼくの本名を⁉」

「今は重要じゃないだろう? タイムリミットは今日の日暮れだ。それまでに海岸へ来い。()い願うのならば、仲間たちを助けよう。断るなら、施設を破壊する。よく考えることだ……」

 そう言い残してウォーターは湖に飛び込んで姿を消した。

「くっ……!」

 ぼくが今まで経験した中でも最悪の状況だ。

 ダブルドライバーは使用不可。相棒は観測ユニットに閉じ込められて、香澄さんたちは水中エレベーターに足止めされている。

 時間を見れば、日暮れまでは長く見積もっても五、六時間しかない。

 だが、行動を起こさなければ何もはじまらない。

「フィリップ君……大丈夫?」

 心配そうな香澄さんの声が耳に届いた。

「あ……あぁ! 待っていてくれ! 君たちはぼくが助ける!」

 スタッグフォンを切る。

 いくつもの問題が重なり冷静ではなかったが、ぼくはとにかく海岸へと走った。

 ひとまずはアクセルに変身できる照井竜を救わなければ!

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